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だいこんの生産・輸入等の動向に係る実態調査(その2)

宮城学院女子大学 学芸学部  教授  安部 新一



3 輸入商社などのだいこんの輸入状況と国内流通実態

 これまで中国からの輸入は、本漬たくあん原料の塩蔵白首だいこんであったが、近年、糖絞りだいこん原料となる低塩蔵の半製品青首だいこんの他に、生鮮だいこんの輸入も、ここ2~3年の間に急増している。
 そこで、中国から輸入を行っている輸入商社などにおける、輸入開始の経緯、中国での開発輸入の実態および日本での流通経路と今後の取扱などを調査結果からみてみる。


(1) D輸入専門商社の輸入状況
(1) 中国からのだいこんの輸入の経緯と輸入量
 D社における中国からのだいこんの輸入の経緯は、1993年に国内漬物メーカーから本漬たくあん原料用の塩蔵白首だいこんの取引依頼があったことが始まりである。
 当初、山東省で試験的に契約生産を行い、初年度45トンから開始した。3年目には100トン前後の輸入を行ったが、軌道に乗せるまでには至らなかった。そこで、1996年より日本からトラクターを導入し、大規模生産を図り一挙に2千トン(生鮮換算、以下同様)へと取扱いを拡大し、2004年度の輸入取扱量は、約6千トンとなった。輸入当初は、現地の仕入価格は安く、国内販売では利益商品であったが、近年、漬物だいこんの小売価格が値下がりし、利益が得られる商品ではなくなりつつある。
 一方、D社でも糖絞りだいこんの大ヒットにより、原料となる青首だいこんを、中国で栽培を開始した。2004年度の糖絞り半製品と生鮮品を含めた輸入取扱量は、約60千トンである。

(2) 中国での生産過程と出荷期間
 D社は、1996年から本格的な生産を開始したことから、委託栽培から自営農場での栽培に切り替え、白首・青首だいこんの生産を行っている。特に、糖絞りだいこんは、スーパーなどでは浅漬け(日配商品)として取り扱われるため、一定価格での周年安定供給が求められる。このため、原料を供給するD社では、表3-1のとおりに中国内の3地域で青首だいこんの生産と一次加工(半製品)を行って、周年供給体制を図っている。
 また、委託栽培では産地が分散でき、気候異変による生産量と品質のリスクが少ないメリットはあるが、生産者への十分な栽培指導を行えず、残留農薬など安全性の確保およびトレーサビリティーの確保が困難である。そこで、自営農場へ転換することで、土壌改良を含めた栽培技術指導および農薬管理による残留農薬検査を含めた品質の向上と、安全なだいこんの生産とトレーサビリティーシステムを確立することができる。

表3-1 D社における糖絞りだいこん原料(青首だいこん)の周年栽培


(注)1:福建省のほ場面積は約110haであるが、一部のほ場では1シーズン2回作付を行うため、延べ作付面積は、140~150haとなる。
   2:D社の内部資料より作成
 
図3-1 糖絞りだいこん原料の収穫から半製品加工・輸出過程


注:D社の内部資料とヒアリング調査により作成


(3) 糖絞りだいこんの流通過程
ア.日本の漬物メーカーとの取引
 糖絞りだいこんの原料となる青首だいこんの半製品の取引価格は、主たる販売先のスーパーでの年間通常小売価格が同一であることから、年間ほぼ同一価格となっている。また、取引数量は、糖絞りだいこんの不需要期と需要期とがみられることから、需要量に合わせた取引数量で年間取引が行われている。

イ.加工工程と流通過程
 中国4ヵ所の自営農場で生産された青首だいこんは、内モンゴル自治区の赤峰、山東省の青島および福建省の廈門の3ヵ所にある加工場において、糖絞りだいこんの半製品までに加工されている。
 加工の工程は、図3-1のとおりで、原料が搬入され、洗浄、カット、調整を行い、次に塩分4%前後での塩蔵後に、糖漬け作業(糖漬けには、砂糖を使用した「砂糖漬け」と異性化糖を使用した「糖漬け」とがみられるが、本稿では「糖絞りだいこん」の名称で述べる)を行う。収穫してから塩蔵、糖漬け作業期間は3日間で、その後、漬け込み、出荷前(輸出前)に最終検品を行い、輸出用の木箱にビニール袋を敷き、その中に糖絞りだいこん半製品を約千本ずつ詰め込み、日本へ輸出している。収穫から加工場出荷までは、1週間以内に一連の作業が行われる。

ウ.規格別用途
 青首だいこんの規格は、S、M、L、2L、3L、その他規格外の6区分である。糖絞りだいこん向け原料となるのは、SとMである。近年、糖絞りだいこん製品の小売価格は低下傾向にあることから、従来のM主体からSへと移行してきていると言われている。これ以外の規格は、Lは生鮮向け、2Lと3Lは水煮向け、その他の規格外品は冷凍おろしなどに仕向けられている。

エ.輸送経路と期間
 中国3ヵ所の加工場で、1コンテナに20箱(糖絞りだいこん約2万本)を詰め込み、内モンゴル自治区赤峰は天津港、山東省、江蘇省は連雲港、福建省廈門は廈門港から、東京、横浜、名古屋、神戸など向けの船便を利用している。輸送費は、20フィートのリーファ・コンテナを利用した場合、連雲港から東京まで1,300~1,400ドル/コンテナである。
 なお、加工場での加工工程3日間を含め、1週間以内には出荷され、その後、船舶輸送3~5日、通関業務に2日、翌日には漬物メーカーでリパックされた後に、スーパーへ配送される。このため、収穫後から国内の漬物メーカーの工場へ搬入されるまでに要する日数は、最短で約10日間といわれている。

(4) 糖絞りだいこんの国内流通経路
 輸入された半製品の糖絞りだいこんの販売先は、漬物メーカー95%、食品スーパー5%である(図3-2)。食品スーパー向けは、漬物メーカーへの委託加工によるリパック後のものを販売している。
 なお、糖絞りだいこん原料向け以外は、前述したようにL規格の生鮮品はだいこんサラダ向けなど、2L、3Lの水煮はおでん用などへとそれぞれ業務用向けとしての販売である。


(2) E輸入専門商社の輸入状況
(1) 中国からのだいこん輸入の経緯と輸入量
 E社は、1994年に生鮮野菜、加工品を取扱う専門商社と合併し、中国からの野菜輸入を引き継ぎ、拡大した。
 1994年に新会社となり、新たな事業展開として、だいこんの開発輸入を計画し、1996年頃に白首だいこんを天津で試験栽培を行った。翌年には、河北省の唐山で地元企業と合弁加工公司を設立した。その後、本格的な生産を開始して順次、契約生産から自営農場での生産へと転換し、1999年頃からは、糖絞りだいこん原料となる青首だいこんの生産をも開始した。
 2004年度の塩蔵白首だいこんの輸入量は13.7千トン(生鮮換算)で、内訳は、本漬け原料として1.2千トン、袋詰め製品として12.5千トンである。また、青首だいこんの輸入量は6.3千トンで、内訳は、糖絞りだいこんの半製品と袋詰め製品が、それぞれ約50%となっている。

図3-2 D社の国内流通経路


注:1---は、糖絞りだいこん向け原料以外の水煮、冷凍すりおろしなどの業務用向けの生産品などの輸入ルートである。
  2 D社におけるヒアリング調査により作成


(2) 中国での生産過程と出荷期間
 白首だいこんの収穫期間は、唐山では9月下旬~10月末、抗州では11月中旬~12月末、豊寧では8月中旬~9月中旬である(表3-2)。塩蔵白首だいこんの輸出期間は、9月上旬~翌年2~3月までであり、特に、その年に収穫・塩蔵した新漬けだいこん原料を使用した早出し本漬け製品の競争が漬物業界にみられることから、国内の漬物メーカーから、原料の早期出荷要請が強まっている。これを受けて、E社では豊寧において6月播種、8月中旬から収穫開始、塩蔵後に9月初旬から国内漬物メーカーへ原料供給が可能となる作付体系の確立を図っている。
 一方、青首だいこんは、自営農場での生産と一部契約生産により原料調達を行っている。地域別の収穫期間は、内モンゴル自治区に近い豊寧では、8月中旬~12月上旬までと長い。その理由は、標高700~1,200mまでの標高差を利用し、栽培地域を移動して長期出荷できる作付体系にある。一方、福建省廈門は11月下旬~翌年4月末までである。
 そこで、周年供給体制を確立するためには、5~8月までの出荷産地が必要となり、上海と抗州において産地を開発し、5月上旬~6月上旬まで収穫する産地を確保した。さらに、河北省の唐山ではハウス栽培により2月播種、5月上旬から収穫できる作付体系を導入し、周年供給体制の強化を図っている。

表3-2 白首・青首だいこんの地域別収穫期間


(注) 漬物メーカーにおけるヒアリング調査により作成


(3) 白首・青首だいこんの流通経路
ア.取引方法
 塩蔵白首だいこんの国内漬物メーカーとの取引数量は、取引開始(9月)の5ヶ月前にメーカーから取引数量の提示(事前発注)が行われる。これに合わせて、中国国内の産地ごとの作付面積と出荷予想数量を提出し、メーカーと調整を行っている。取引価格は、各産地の作柄と生産コストおよび取引時点での為替相場を考慮し、産地ごとにそれぞれ出荷シーズン同一価格となっている。
 一方、青首だいこん取引数量は、1年間を1~3月、4~6月、7~9月、10~12月に区分し、3ヶ月ごとに決めている。なお、糖絞りだいこん製品の末端小売段階からみた消費動向による需要期と不需要期をみると、表3-3のとおりとなる。最も需要の多い月は10~11月、次いで4~5月、最も需要の少ない月は7~8月であり、こうした需要に合わせて輸入が行われていることに注目すべきである。
 次に、取引価格は、青首だいこんの生産を開始した1999年当時からの価格を継続している。ただし、気象条件と為替相場の変動により、基準価格の1割を超えると、取引価格の微調整を行っている。

イ.規格別用途
 白首・青首だいこんの規格は、L~2Sまでの4段階に区分されている(表3-4)。青首だいこん1本入り袋詰用の規格は、日本国内での小売価格が安いことから、M中心からSさらには2S中心へと移ってきている。
 このため、作付方法も株間を狭めて栽培し、2Sサイズが生産できるようにしている。なお、Lサイズの用途は、糖絞りだいこんのハーフカット用または規格外品を含めたきざみ加工用向けである。

ウ.輸入経路と輸送期間
 各産地で生産された白首と青首だいこんは、合弁加工公司のある唐山、豊寧、天津、青島、上海、抗州、廈門の各加工場で、塩蔵、各種漬物製品・原料に加工されている。荷姿は、漬物製品は10~20本入りダンボール、漬物原料は約1,000本を詰め込んだ木箱である。そのうち、糖絞りだいこんは、20フィートのリーファ・コンテナに木箱20箱が積載され、唐山、豊寧、天津は天津港、青島は青島港、上海と抗州は上海港、廈門は廈門港から、それぞれ横浜港、大阪港など向けの船便を利用している。
 輸送費は、最も遠い廈門港から横浜港までのリーファ・コンテナで、約1,000ドル/コンテナで、塩蔵品などは常温での輸送が可能なため、約半分の500ドル/コンテナとなっている。
 なお、日本までの輸送日数をみると、最も遠い廈門港を利用したケースでは、加工場を水曜日に出荷し、積み込みなどを行って廈門港を金曜日に出航、翌週の水曜日に横浜港へ到着し、積み卸し、通関を経て、金曜日には自社倉庫へ入庫が可能であることから、10日間を要している。

表3-3 糖絞りだいこんの年間平均需要を100としてみた月別需要、不需要時期


(注)1:月別にみた需要期と不需要期の指数は、年間の平均需要を100として、各月の需要動向をみたものである。
   2:E輸入商社におけるヒアリング調査により作成
 
表3-4 E社のだいこんの規格と用途


(注) E社におけるヒアリング調査により作成



(4) 漬物原料と漬物製品の国内流通経路
 本漬けたくあんの塩蔵と製品での輸入比率をみると、漬物原料となる塩蔵白首たくあんの割合は8.8%で、全量漬物メーカーへの販売である(図3-3)。また、製品輸入のうち、国内スーパーからの委託加工によるPB商品は54.7%、E社の自社ブランド製品36.5%で、ともにスーパーへの販売である。
 一方、青首だいこんについても半製品と製品での輸入比率をみると、糖漬け半製品での輸入は約50%で、全量漬物メーカーへの販売である。また、袋詰め製品の輸入も約50%で、E社の自社ブランドで国内スーパーへの販売となっていることが注目される。

図3-3 E社の原料及び製品の国内流通経路




(3) F業務用卸会社
(1) 中国産輸入だいこんの取扱経緯と仕入量
 F社は、卸売市場の荷受会社と共同で国内野菜(キャベツ、にんじん、だいこん、たまねぎ、長ねぎ、しょうが、しいたけ、ブロッコリーなど)の契約生産を行い、食品メーカー、カット加工メーカーなどへ野菜の卸売業を行っている企業である。
 2003年から中国産青首だいこんの仕入れを開始している。仕入れ開始の背景は、国産では2~4月の端境期に必要量を調達できず、不足分を輸入品で補ったことである。また、品質なども良いことから仕入れを継続している。2004年度の生鮮青首だいこんの仕入量は約880トンであり、その内訳は、国産85%(748トン)、輸入15%(132トン)である。

(2) 国産青首だいこんの仕入方法と仕入期間
 仕入方法は、産地ごとに1~3ヶ月間の期間契約により仕入れを行っている。表3-5は、F社の産地別にみた取引期間である。秋から冬は茨城産、冬から春は千葉産、神奈川産、夏から秋にかけては青森産、群馬産、北海道産により周年仕入れを行っている。
 なお、気象条件などにより国産が不作となった場合の仕入対応として、中国からの輸入で販売対応を図っている。

表3-5 F社の産地別取扱期間


(注) F社におけるヒアリング調査により作成



(3) 中国産輸入生鮮青首だいこんの仕入方法
ア.仕入先と取引方法
 F社における中国産青首だいこんの仕入れは、日本の輸入商社を経由して行っている。その方法は、一定期間を通じての契約取引ではなく、国内の取引産地が天候異変などから不作で仕入量が確保できず、また、国内の市場価格が高騰した場合に、スポット的に仕入れている。

イ.取引規格
 中国産青首だいこんは、糖絞りだいこんの原料として生産されており、糖漬けに向けられる規格はM、S、2Sの比較的小さい規格である。F社では、糖漬け向け規格以外のLまたは2Lを生鮮で仕入れている。輸入商品の形態は、葉の一部を残し、根先端部分をカットし、長さは20cm以上、太さは8cmから10cmまでとしている。

ウ.輸入経路と輸送期間
 中国の加工場においてダンボール(20kg)詰めし、1コンテナに1,200ケース(24トン)を積載して日本へ輸出する。具体的には、金曜日に発注を行うと、翌週月曜日、火曜日に箱詰作業、水曜日にコンテナヘの積み込み、福建省廈門港を金曜日に出航し、翌々週の水曜日に東京または横浜港に到着、通関を経て金曜日には引取倉庫または一括販売先へ配送となる。こうして、中国から日本の実需者までは、約2週間で仕入・販売が可能となっている。

(4) 生鮮輸入青首だいこんの国内流通経路
 中国からの輸入商社を通じて仕入れた生鮮青首だいこんは、レストラン、惣菜業者などに納めるカット業者へ90%、残り10%はおでん用として食品メーカーへの販売となっている(図3-4)。
 カット業者における用途は、だいこんおろし、つま、生食用だいこんサラダなどである。特に、近年、健康志向の高まりを受けてサラダ用としての使用量が増大している。

図3-4 F社の生鮮青首だいこんの国内流通経路


注:F社におけるヒアリング調査により作成



(4) 輸入だいこんの国内流通経路
 本漬け白首だいこんの流通経路について、実態調査結果から概略図を図3-5に示した。
 塩蔵した白首だいこんは、輸入商社を経由して漬物メーカーへ運ばれ、そこで本漬けだいこんとして製品化され、漬物問屋を経由または漬物メーカーから直接にスーパーなどへ販売されるという販売ルートが圧倒的に多い。ただし、中国の加工公司で本漬けたくあんを製造・袋詰めした製品も、輸入商社を経由して直接、スーパーなどへ販売するルートもみられる。
 一方、青首だいこんは、糖絞り半製品と糖絞りだいこん袋詰め製品および生鮮品(一部水煮加工品を含む)と、それぞれの商品により流通ルートは異なる。主要流通経路で最も流通量が多いのは、中国で糖絞り半製品に加工し、輸入商社を経由し、漬物メーカーで糖液注入とリパックした後、スーパーなどへ販売するルートである。

図3-5 白首・青首だいこんの国内における流通経路




 また、中国で袋詰めした製品の輸入も行われ、スーパーのPB商品と輸入商社独自ブランド商品がある。PB商品は、輸入商社を経由して直接スーパーでの販売となる。また、独自ブランド商品は、輸入商社を経由してスーパーなど量販店への販売となる。ただし、漬物原料以外のL、2Lサイズなどは、主に生鮮品を輸入商社経由で、業務用卸会社または輸入商社から直接、カット加工業者、食品メーカーへ販売するルートもみられる。
 次に、輸送期間について最も遠い福建省の廈門港からの例を挙げると、加工場から出荷され、東京・横浜港到着、通関を経て国内の販売先などへ到着するまでに10日間程度を要する。
 なお、生鮮青首だいこんのCIF価格は、実態調査結果から50円/kg前後である。糖絞り半製品の漬物メーカーへの販売価格は不明であるが、1本入り袋詰めの一般的な小売価格198円を例にみると、漬物メーカーの生産コストの調査結果から、原料代を40%として計算すると、約80円前後と考えられる。


4 漬物原料供給産地の動向

(1) 契約取引産地の概況
 B社との契約産地で、最も古い基幹的原料供給産地は、関東地方のG市周辺である。この地域は、すいかと白首だいこんの産地で、白首だいこんの導入は昭和47年頃であり、導入後すぐに契約取引を開始している。青首だいこんの導入は、糖絞りだいこん製品が商品化されたのとほぼ同時期の平成元年頃に試験栽培を行ったのが始まりである。
 契約農家戸数は、平成16年で80戸であり、白首、青首、皮むきだいこん別に、それぞれ契約をすることから、栽培品目別の契約農家数は、表4-1のとおりである。そこで、12年以降の栽培別にみた契約農家数の推移は、皮むきだいこんのみ12年の12戸から16年には16戸へと増加しているが、白首と青首だいこんの契約農家は、年度により変化はあるものの、ほぼ横ばいである。

表4-1 B漬物メーカーの契約産地における取引農家戸数


(注)1:皮むきだいこんは、ベッタラ漬け用である。
   2:白首、青首、皮むきだいこん別にみた契約農家戸数である。
   3:B漬物メーカーの内部資料により作成

 次に、作付面積については、16年は、白首だいこん36ha、青首だいこん18ha、皮むきだいこん3.0haとなっており、13年と比較すると、白首だいこんは13ha増加したが、青首だいこんは3haの減少、皮むきだいこんは横ばいとなっている(表4-2)。
 契約生産農家の16年の正確な生産量は不明であるが、10a当たりの白首・青首だいこんの生産本数を5,000本として推計(1本1.2kgとして計算)すると、16年の契約産地の生産量は白首だいこん約2,160トン、青首だいこんは約1,080トン、皮むきだいこんは約180トンである。
 B社との契約取引において、G市周辺の産地では集落ごとに7つの出荷組合が組織され、調査時点での全組合校正農家数は、80戸となっている(図4-1)。これら各出荷組合は、それぞれの農家の作付面積計の画案の作成、作付面積の確認およびメーカーとの伝達事項などについて活動を行っている。

図4-1 G市地域の出荷組合組織


注:1 各出荷組合の人数は、契約農家数である。
  2 B漬物メーカーの内部資料より作成
 
表4-2 B漬物メーカーの契約産地におけるだいこんの作付面積


(注) 表4-1に同じ。

 
表4-3 調査対象先契約農家の経営状況




(2) だいこんの作付体系と収穫・選別作業
(1) 作付体系
 調査対象先の栽培作物についてI契約農家では、白首だいこん、青首だいこん、水稲、メロンおよびグラジオラス(球根)を栽培している。なお、その他の実態調査を行った契約農家の栽培作物とだいこんの作付面積は、表4-3のとおりである。輪作体系は、表作にメロンまたはすいか、ねぎを、裏作にだいこんを栽培し、さらに年により作付地を移動して連作障害を防ぐ配慮を行っている。
 具体的な収穫・出荷期間は、春だいこんの出荷終了が6月20日、その後、メロンの出荷が6月下旬から7月中旬まで、さらに白首だいこんの出荷が10月下旬から12月10日頃までに終了すると、すぐに青首だいこんの出荷が開始されるという作業(輪作)体系となっている。
 Y契約農家では、青首の春だいこんの後作に、秋にんじんが導入され、すいか、じゃがいもなどの後作に、青首の秋だいこんを栽培している。このように、B社と契約取引を行っているG市周辺の農家では、だいこんは基幹作物として位置付けられている(図4-2)。

図4-2 白首・青首だいこんの作型


注:B漬物メーカーの内部資料と契約農家でのヒアリング調査により作成


(2) だいこん栽培の作業内容
 春だいこんはトンネル栽培であり、ビニールの開閉などの換気作業が重要である。その他、秋だいこんと白首だいこんは露地栽培である。主な作業は播種作業であり、機械蒔きもみられるが、マルチを張った後に手で2粒ずつまき、土をかぶせていくのが一般的である。
 播種後の手のかかる作業は、播種後45日頃に行う間引き作業と、収穫作業である。収穫時にはまず、トラクターで土を掘り起こし、だいこんを抜きやすいようにし、手作業でだいこんを抜くという重労働を現在も行っており、1日当たり2人で1,500本程度を収穫する。

(3) 選別・出荷作業
 収穫後の青首だいこんは、自宅において、洗い・ひげとり、選別、出荷の手順で作業が行われる。選別作業では、葉を5cm残して、根は5円玉の大きさのところでカットする。また、長さは40cmと決められている。
 このように、出荷までの一連の収穫、洗い、選別作業に手間がかかり、特に、契約農家では高齢化が進み、収穫・出荷作業の過重労働は最も大きな問題である。なお、調査対象先の3つの出荷組合の構成員26人中、70歳代以上は、31%(8人)を占め、今後10年から20年継続できると考えられる50歳代は、31%(8人)に過ぎないのが実態である(表4-4)。
 今後、高齢化がさらに進むことから、いかに作業の効率化と軽減を図っていくかが、産地側とともに原料の供給を受けている漬物メーカー側にも求められている。

表4-4 契約農家の経営主の年齢構成


(注) 契約農家におけるヒアリング調査により作成



(3) 栽培技術と品質向上対策
(1) 栽培技術と指導内容
 B社では、契約農家に対する栽培技術指導として専従職員2名を配置(うち1名は産地に常駐)している。栽培指導は、白首だいこんの播種が始まる前の旧盆前に農家を集め、栽培指導会を開催し、その内容は、作型別の種子の指定、作付面積と月別、圃場別の播種時期、収穫時期、有機質肥料の提供を含めた肥培管理などである。
 栽培管理上の注意点としては、春だいこんではトンネル内が暑くなったり、また冬場に寒くなると、「抽台」の問題が発生することから、トンネル内の開閉による換気作業が重要となっている。また、だいこんは暑さに弱いため、高温障害もみられ、製品化した場合に「ス」が入る可能性が高いとも言われている。

(2) 品種選定
 B社では、青首だいこんの高温障害を防ぐために、品種を「春岬」へと変更した。春岬は、漬物にすると非常に美味しい品種であるが、青色部分が多く、色が濃いのが欠点である。秋だいこんには、これまで「武蔵三号」を使用しており、欠点のない品種であったが、平成16年から青色の薄いのが長所である「もとみや」へ品種を変更した。
 白首だいこんには、「あきまさり2号」を使用している。関東地方の気候風土に合った品種であり、関東で生産される白首だいこんの約9割を占めるとみられ、漬物にして肉質がよく、歯切れの良いのが特徴である。


(4) B社との契約取引内容
(1) 取引方法
 B社とG市周辺の契約農家との取引は、作付面積での契約となっている。その背景は、最も古くからの重要な契約産地であるとの位置づけによる。ただし、収穫したものすべてを買い上げるのではなく、一定の規格品のみを買い上げている。
 契約交渉は、7月の時点で、各出荷組合が各農家からの作付希望面積をとりまとめた後、8月の栽培検討会においてB社と各農家が行っている。そこでは、年間の作付面積契約(口頭での契約)を行っている。
 次に取引価格は、シーズンを通じて同じ価格となっている。白首だいこんは30円/本、青首だいこんは50円/本である。ただし、トンネル栽培については、資材費がかかるために60円/本となっている。ちなみに、C社での取引価格は、白首だいこんは28円/本である。また、G市周辺の契約農家に対して有機質肥料を無償で提供するという、他の産地に比べ優遇された取引が行われている。

(2) 取引規格
 B社との取引規格は、表4-5のとおりである。白首だいこん、青首だいこんとも3種類に区分した取引となっている。白首だいこんでは、長さ40cm以上と決められ、それ以外は取引対象外となっている。また、青首だいこんでは、3規格以外の外品で長さ25cm以上、太さ6cm以上のものについては、取引時点でのB社の需給状況により、原料不足であればスポットで仕入れることになっている。

表4-5 白首・青首だいこんの取引規格


(注) 契約生産農家およびB社でのヒアリング調査により作成


(3) 出荷方法と荷姿
 出荷の荷姿は、白首だいこんは10本入り袋詰めで、青首だいこんは約450~500本入りのスチールコンテナであり、各農家が、G市内にあるB社の塩蔵工場へ直接搬入している。
 工場での白首だいこんの受付は、朝8時~夕方4時までであり、青首だいこんは、随時コンテナで搬入し、工場内の倉庫へ入れ、メーカーのトラックで本社工場へ配送している。契約農家は、毎週木曜日に翌週の日曜日から木曜日までの日ごとの出荷予定数量を提出することになっている。日々の出荷予定数量の変更は電話での連絡である。


(5) 契約農家の経営状況と輸入だいこんの影響と対応策
 B社との契約取引において、白首だいこん契約面積は1農家当たりの作付面積の拡大により、拡大してきている。ただし、取引価格が1本当たり30円と安いため、将来的には作付面積は減少することが予想される。また、青首だいこんは糖絞りだいこんの製品などの輸入増により、平成11年をピークに契約面積はやや減少している。
 将来的に契約産地を維持する上での問題点は、契約農家の高齢化と後継者不足である。対応策としては、播種と収穫作業の機械化が求められているが、現在のところ、作業効率が良く性能の高い機械がないのが課題である。もう1つの問題は、収穫後の洗い・ひげとり、選別、出荷までの一連の作業が過重労働だということである。ただし、市場出荷に比べれば、箱詰め作業がない分だけ、労働力の軽減が図られており、これが契約栽培が継続されている1つの要因でもある。ただし、高齢化が進む現状において、改善すべき課題である。
 次に、近年、中国からの輸入増、漬物消費量の減少など、だいこんを取り巻く環境は厳しい。しかしながら、これまでは契約農家での特段の対応策などはなかった。この背景には、契約価格が、市場価格を基準としたものではなく、契約産地の生産費を基準にシーズン一定価格での取引が、経営的には安定するためと考えられる。さらに、現地に2名の職員を配置し、日々の栽培指導を行うなど農家が安心して栽培できる環境が要因として考えられる。
 今後、だいこん栽培を継続するうえで、現在の取引価格を維持すれば、経営の維持は可能であるとの考え方が聞かれた。しかしながら、はくさいなど市場価格が大きく変動するものに比べ、だいこんの契約取引は価格が安定しているものの、現在の取引価格は経営を継続していく最低水準であり、これ以上低下すれば、取引継続は厳しいとの考え方も聞かれた。このようなことことから、中・長期的な見通しとしては、今後の漬物だいこんの需要動向とともに、中国からのだいこん原料と製品での輸入動向が大きく影響していくことになると考えられる。


5 今後の輸入見通しと国内産だいこんへの影響

 (1) 塩蔵漬物原料と漬物製品による輸入動向と見通し
 塩蔵白首だいこんの輸入は、9月~翌年3月まで行われ、従来に比べ輸入期間は長期化してきている。この背景には、漬物メーカーの本年産の原料を使用した新本漬けだいこんへの需要の高まりがある。国内での白首だいこんの今後の生産量は、取引価格が安いことから、増加は見込めず、本漬けだいこん製品の需要動向に合わせ、一定数量がコンスタントに輸入されるものと考えられる。
 一方、漬物メーカーでは、糖絞りだいこん製品の発売当初は、国産原料を使用したが、取引価格の高騰時にスーパー側が値上げ交渉に応じなかったため、国産原料から輸入原料へと転換を図った経緯がある。
 近年の糖絞りだいこんの動向をみると、5年ほど前にブームが到来し、それに伴って、小売価格も値下がりしてきた。しかしながら、平成14年の原産国表示の義務化から、中国産原料を使用した糖絞りだいこんの小売価格は、発売当時は1本入り袋詰め498円であったが、現在はSサイズ1本入り袋詰め278円前後、2Sサイズでは198円前後で販売されている。こうした輸入原料を使用した糖絞りだいこんの小売価格の低下の影響により、国産原料を使用した製品も相対的に値下がりしたため、今日では国産原料を使用し、製造する漬け物メーカーもわずか数社となっている。
 中国からの糖絞りだいこんの半製品原料または製品での輸入している輸入専門商社側にとっても、国内での販売価格が低いため、収益の上がる魅力的な取扱商品ではなくなってきている。このため、調査対象先では、現在の輸入量が上限という見解であった。従って、これ以上輸入が増大することはないと考えられる。
 また、糖絞りだいこんは、浅漬け用の日配商品である。このため、中国から半製品と製品で周年輸入(供給)されているが、調査により、糖絞りだいこんの需要期は、第1に10~11月、次いで4~5月、不需要期は7~8月、次いで1~2月であることが判明した。周年輸入ではあっても、需要期と不需要期に合わせ、月別に輸入数量を変動させて、今後とも輸入が行われていくと考えられる。


(2) 生鮮品による輸入だいこんの動向と輸入見通し
 輸入専門商社では、原料とする青首だいこんを中国の自営農場で生産し、合弁の加工公司で半製品と製品を製造している。他方、糖絞りだいこん向け規格以外のL、2L、3Lサイズも生産され、サラダ用、おでん用(水煮)、おろし・つまなどの主に生鮮品で輸出している。
 生鮮での輸入は、主に業務用向けとして国内で販売されている。平成15年と16年の生鮮輸入は、国内における台風などの天候異変による出荷量の減少と市場価格の高騰への対処であった。このことは、F会社の原料仕入担当者の「生鮮での輸入だいこんは、輸入通関後の到着価格と国内の取引価格とほぼ同じ価格であるため、国内の市場価格が高騰しなければ、輸入青首だいこんを仕入れる必要はない」という見解から明らかとなった。
 本調査結果では、中国からの生鮮青首だいこんのCIF価格は、1kg当たり50円前後、B社の契約取引価格も1本当たり50円であり、中国からの輸入で国内価格の高騰時に仕入対応を図っている実態が裏付けられた。


(3) 国産だいこんへの影響と漬物メーカーの対応
 糖絞りだいこんは、スーパーのバイイングパワーによって、小売価格が低く押さえ込まれ、さらには、原産国表示の義務化により、間接的ではあるが小売価格をさらに低下させたとの調査先の漬物メーカーの見解が聞かれた。こうした販売環境が、国産青首だいこんを原料とした糖絞りだいこんの販売価格にも悪影響を及ぼしてきている。このため、先述のとおり、糖絞りだいこん製品の市場は、すでに限界であるとの見解もあり、漬物メーカーのA社とB社では、原産国表示義務化によって、中国産原料製品での価格競争が激しく、不利であることから、国産原料を使用したポスト糖絞りだいこんの新製品開発が必要との考えもある。この考え方に沿った動きとして、輸入半製品青首だいこんを仕入れているC社では、国産を原料とし、輸入品に対抗する差別化商品の開発と販売を始めている。
 このように、糖絞りだいこんの製品市場における国産原料を使用した製品は、厳しい販売環境にあるため、B社における青首だいこんの契約面積も平成11年以降、やや減少傾向にあり、中国からの半製品と製品での輸入増の影響を大きく受けている。
 今後の青首だいこんの輸入は、低価格商品として一定の需要が見込まれるため、輸入商社による輸入は、ある程度継続していくと考えられる。このため、輸入半製品と製品に対抗した国産青首だいこん製品に対応して、契約産地での安定供給および品質と安全性を高めた原料供給が必要となってきている。また、漬物メーカーにおける国産原料を使用した新製品開発への取り組み強化が、今後の輸入動向のカギを握っている。

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