[本文へジャンプ]

文字サイズ
  • 標準
  • 大きく
お問い合わせ

専門調査報告


だいこんの生産・輸入等の動向に係る実態調査(その1)

宮城学院女子大学 学芸学部  教授  安部 新一



はじめに

 だいこんは従来から日本の食卓に漬物やおでんなどの煮物、刺身のつま、さらに近年ではサラダにと多様な料理形態で提供されてきた。その中でも、漬物原料としての利用が多かったが、日本の食生活の洋風化傾向もあり、たくあんなど漬物消費量は減少傾向にある。

 このような需要状況の中で、国内生産量の減少傾向、また、ここ数年の輸入急増が注目される。そこで、本稿ではだいこんの輸入急増の実態と背景を明らかにするため、輸入専門商社と漬物メーカーへの実態調査を行った。また、輸入急増下における漬物メーカーとしての国内産原料と輸入原料の仕入状況と輸入原料使用の理由、さらに、漬物メーカーと契約取引を行っている国内だいこん産地での契約生産状況と輸入急増下における生産対応および今後の生産拡大における課題などについて実態調査を行い、調査結果から、輸入だいこんの国内流通経路と、今後の生鮮と塩蔵だいこんの輸入見通しなどについてとりまとめを行った。


1 だいこんの国内生産状況と輸入状況

(1) だいこんの作付面積と国内生産量の推移
 だいこんの作付面積は平成6年には54.8千haであったものが、年々減少し14年には42.5千ha、6年に比べ12.3千ha(22.4%)もの作付面積の減少となっている(表1-1)。

 これを出荷量でみると、平成6年には161万トンであったものが、年により増減はあるが14年には136万1千トンと、6年比24万9千トン(15.5%)の減少となっている。これを、主たる収穫と出荷期間により、春だいこん(4~6月)、夏だいこん(7~9月)および秋冬だいこん(10月~翌年3月)の3つの作型に区分し、6年から14年までの作付面積と出荷量の推移をみてみると。

 春だいこんの作付面積は、6年には6.1千haであったが14年には5.4千haと700ha(11.5%)の減少となり、同様に出荷量も6年236.7千トンが14年には225千トンと11.7千トン(4.9%)減少した。夏だいこんは、作付面積が11千haから8.7千haで2.3千ha(20.1%)減少し、出荷量も286.1千トンから261.2千トンと24.9千トン(8.7%)減少した。秋冬だいこんは、作付面積が37.7千haから28.5千haと9.2千ha(24.4%)減少し、収穫量も1,087千トンから874.8千トンと212.2千トン(19.5%)減少した。

表1-1 だいこんの作付面積と出荷量の推移


資料:農林水産省「野菜生産出荷統計」


 それぞれの収穫・出荷期間別にみても、いずれの作型とも減少している。とくに、漬物原料として使用される秋冬だいこんの作付面積の減少が最も大きく、減少の要因は、市場価格の低下や労働力不足などから他野菜などへの転換が図られたためと考えられている。

 次に、作型別にみた主要生産道県の作付面積と出荷量の推移をみてみる(表1-2)。
 春だいこんの作付面積の最も多いのは千葉県であり、平成10年は1,310haであったが、その後の年による変化はみられるが、14年は1,300haとほぼ横ばいで推移し、出荷量は、61千トンから67.6千トンへ増加した。同様の傾向が茨城県でもみられる。愛知県については、作付面積、出荷量ともに減少した。ただし、青森県だけは、作付面積は470haから年により増減はあるが508haへと32ha増加し、出荷量も19.5千トンから25.4千トンへと5,900トン(30.3%)増加した。

表1-2 だいこんの主たる収穫・出荷期間別都道府県別作付面積・出荷量の推移


資料:農林水産省「野菜生産出荷統計」


 夏だいこんについては、春だいこんで増加した青森県の作付面積は11年の1,780haをピークにその後減少傾向にあり、14年には1,700haとなっている。この期間に 夏だいこんから春だいこんへ移行がみられたことも一つの要因である。

 さらに、漬物加工原料仕向けの高い秋冬だいこんについては、最大の産地である宮崎県の作付面積は3,020haから2,470haへと10年比550ha(18.2%)の減少、出荷量も111.3千トンから107.1千トンと減少している。鹿児島県でも宮崎県と同様に、作付面積、出荷量ともに減少している。また、加工原料仕向けの高い新潟県でも作付面積は、2,000haから1,690haと310ha(15.5%)の減少となっている。その他の主要産地でも作付面積は減少傾向にあり、従来からの漬物加工原料である青首だいこん産地の作付面積は大きく減少傾向にあることが注目される。

(2) だいこんの輸入数量の推移
 生鮮だいこんの輸入量は、だいこん単品での集計はなく、「その他根菜類」の中に含まれているため、その他根菜類でだいこんの輸入量を把握する。その他根菜類の大部分を占めるとみられるだいこんの輸入量は、平成12~14年までは1~2千トン台で推移していたが、15年には4,376.2トンと前年比2.52倍と大きく増加した。また、16年にも12,316.7トンと前年比2.81倍と大幅な増加となっている。こうした、生鮮品での輸入増加の背景には、国内での卸売市場価格(取引価格)の変動が大きく影響していると考えられる(表1-3)。

表1-3 その他根菜類の輸入数量と金額(生鮮品)


資料:農林水産省「野菜生産出荷統計」


 そこで、東京都中央卸売市場の価格動向と輸入の「その他根菜類」の大部分を占める中国からの輸入量で検証してみる。平成15年1月の市場価格は、前月の1kg当たり82円から108円へと急騰し、2月111円、3月121円、4月には過去5年間で最も高い130円まで高騰した(表1-4)。

表1-4東京都中央卸売市場におけるだいこんの卸売数量と単価


資料:東京都中央卸売市場年報


 このため、中国からの輸入量は、14年12月には64トンであったものが、15年1月91トン、2月279トン、3月515トン、4月1,875トンへと急増した(表1-5)。また、16年においても市場価格は10月に167円と前月の87円に比べ2倍と急騰したため、輸入量も9月には100トンであったものが、10月500トン、11月6,687トンへと急増している。このように、生鮮だいこんの輸入量は、国内の市場価格の変動により増減することがあきらかである。

 一方、近年、糖絞りだいこんの原料として中国からの輸入量が増加している塩蔵の青首だいこんは、だいこんの塩蔵品としての輸入統計がないため、青首だいこんを輸入している専門商社などの調査結果から推計してみた。糖絞り半製品と製品および生鮮品を含めた合計では、16年には約30万トン前後(生鮮換算)が輸入されたとみられる。

表1-5 中国からのその他根菜類の年度別・月別輸入数量


資料:財務省「貿易統計」


2 漬物メーカーの原料調達方法と輸入だいこんの仕入状況と使用理由


 本調査ではだいこんを主力とする漬物メーカー3社への調査を実施した。A社は浅漬け製品のみを製造販売し、国内の青首だいこん原料のみを利用しているメーカーである。B社は、国産青首だいこん47%、白首だいこん34%、輸入塩蔵白首だいこん19%であり、C社では、国産白首だいこん86.3%、輸入塩蔵白首だいこん13.0%、輸入半製品青首だいこん0.3%の原料構成割合で、それぞれ原料調達を行っている漬物メーカーである。

(1) 国内原料の調達方法と仕入ルート

(1) 仕入ルートと産地別仕入期間
 原料だいこんの仕入先についてA社では、生産者・生産者グループ39.6%と最も多く、次いで産地業者25.3%、卸売市場でのせり取引(スポット取引)13.0%、卸売市場での予約相対取引7.5%、同業他社5.6%などの順で仕入れている。B社でも生産者・生産者グループが31.0%と最も多く、次いで産地業者30.0%、輸入品(輸入商社経由)19.2%、系統農協11.0%などとなっている(表2-1)。

表2-1 漬物メーカーの原料だいこんの仕入先別割合


(注)漬物メーカーにおけるヒアリング調査により作成


 また、C社では国産原料だいこんの仕入割合が86.7%で、仕入先は生産者グループ、系統農協および同業の漬物メーカーである協力会社からである。さらに、中国での開発輸入による塩蔵白首だいこんが13.0%、商社を経由した輸入半製品青首だいこんが0.3%となっている。

 これら3社の国産原料仕入れは、契約生産による仕入れが圧倒的に多いことが特徴である。A社では、生産者・生産者グループから卸売市場における予約相対取引までで80.2%を占めている。また、B社では、同様に76%となっている。両社ともに契約取引を基本としながら、各契約産地の気象条件などによる収穫量の増減により、契約量の確保ができない時に卸売市場でのせり取引によるスポット仕入れ、産地商人などからの仕入れで需給調整を行っていることが大きな特徴である。

 白首だいこん(本漬けたくあん原料)は、秋まきだいこんが最も品質がよいことから、10月下旬~12月に契約生産者・生産者グループなどから生原料で仕入れるルートと、産地業者の他に同業他社から塩漬けしたものを11~12月に仕入れるルートがみられる。C社では、全量10月下旬~12月下旬までに年間必要量を仕入れている。B社でも11~12月に90%前後を仕入れ、それ以外を6月に仕入れ、さらに9月に在庫量を考慮して、青森産をスポット的に仕入れている。

 一方、青首だいこんは浅漬けタイプの糖絞りだいこん向け原料であるため、周年対応が必要となっている。B社の年間仕入先は、表2-2のとおりである。このように、季節により仕入地域を変更して周年安定調達を図っている。

表2-2 漬物原料だいこんの契約取引  産地別にみた仕入期間


(注)漬物メーカーにおけるヒアリング調査により作成

 また、季節ごとに主要仕入県を決め、それ以外の県からは補完的に仕入れを行っている。具体的にB社では、冬は神奈川産、春と秋は茨城産、埼玉産、夏は青森産とこれらの地域で7割前後を占めている。

(2) 原料だいこんの契約取引方法
 漬物メーカーでは、本漬けたくあん(白首だいこんを原料)が主であった時代は、11~12月頃に年間必要量を一括に仕入れていたが、近年では浅漬製品が多くなり、販売先もスーパーなど量販店のシェアが高まったことから、原料仕入れと販売量も年間、月間、週間、さらには日々のデリバリーでの微調整を行わなければならなくなっている。

 このため、従来はだいこんの端境期や比較的市場価格の高い時期に行っていたが、浅漬製品が多くなったため、鮮度・品質、安全・安心を優先に周年・安定調達が重要になってきた。そこで、A社、B社とも周年安定供給体制を図るために、産地開発により契約取引割合を高めてきた。
 そこで、各社の産地別、仕入先別の契約取引の内容は、以下のとおりである。

A社
(1) 県内産地
① 取引方法は、契約期間と週の納入日と納入数量を決める。具体的には、毎週金曜日に、工場へ搬入した後に、翌週(月曜日から土曜日)の日ごとの出荷量を決定している。

② 規格は葉なしだいこんで3L、2L、L、M、S、Bと、形状のよいホール用途向け葉付きだいこんの2L、Lである。

③ 価格は、前年度の取引価格に本年度の作付面積および製品の生産量の増減を考慮して基準取引価格を決定している。この基準取引価格は、同じ産地でも季節により、露地栽培と資材が必要なトンネル栽培によって価格差を設けている。この基準取引価格に市場価格を加味したものを取引価格とし、月ごとに設定している。また、市場価格の変動により上下15%の幅で月間取引価格の変更を行っている。

④ 納入方法と出荷容器は、通いコンテナを利用し、各生産者が直接工場へ搬入する。

(2) 遠隔産地
① 産地から出荷計画数量が契約開始3ヶ月前に提出され、それを基に取引数量を決定している。

② 取引価格は、契約期間内は同一であり、産地から工場までの輸送費を含む価格となっている。

③ 納入方法と出荷容器については、産地により週4回(月、火、水、金曜)または毎日出荷の2通りである。出荷量については、メーカーの要望により産地で日々の数量の微調整を行う。出荷容器は、北海道はダンボール、青森県は500㎏ 入りのスチールコンテナ(鉄カゴ)である。
B社
(1) 取引数量は、最も古い取引産地では面積契約であるが、その他の産地は収穫シーズン中の月間数量である。

(2) 取引価格は、多様な道県からのルートで仕入れていることから、各地域の生産費と前年および取引時点での市場価格を考慮して決定している。各産地により取引期間同一価格、月間同一価格および半月間同一価格と3通りの取引価格がみられる。

(3) 取引規格は、2L、L、Mである。

(4) 出荷容器は近県産地からは500㎏ 入りスチールコンテナ、遠隔産地(北海道)からはダンボールである。

(5) 栽培指導などは、近県の主要産地では、原料使用時期に合わせた播種時期、有機質肥料と使用農薬の指定について指導を行い、品質の向上と安全な原料の仕入確保を図っている。
C社
(1) 契約取引は白首だいこんのみであり、すべて収穫シーズン全体(10月下旬~12月)での数量契約となっている。

(2) 取引価格は、生産者・生産者グループと最低保証価格制度を設け、一級品は23円/本としている。ただし、取引数量が多く高品質の原料を供給する農協、生産者グループとの取引では奨励金を加算し、28円/本となっている。

(3) 取引規格は、L、2Lで重量は900g~1.2kgまでで、病害虫のない一級品のみとなっている。

(4) 出荷方法と荷姿については、農協と生産者グループなどから、出荷時点で頭落とし(葉落とし)での出荷で、コンテナを利用して生産者が直接工場へ搬入する。また、協力会社(同業他社)からは一次加工(塩蔵)後に工場へ搬入される。

(5) 栽培指導などについては、種子は農家へ指定種子を提供し、播種時期を指導している。提供 した種子代は、原料代金の支払い時点で精算を行っている。


(2) 輸入原料の調達方法と仕入ルート
 B社における輸入白首だいこんの原料仕入状況は、現在、原料仕入全体の約20%を占めている。国内生産者の高齢化、後継者不足および取引価格の低下により、作付面積が減少し、国内での原料調達が年々難しくなってきたため、輸入原料の使用を開始した。

 こうした国内での生産状況から、中国での開発輸入の促進を図ってきており、当初、山東省と河北省で中国の漬物加工公司と協力して開始した。現在、生産者に対し、品種の指定と栽培技術指導を行って生産性と品質の向上を図っている。播種は8月中旬~9月初旬、収穫は10月下旬~11月中旬までで、加工場で塩漬けを行った後、日本へ輸入商社を経由して調達している。

 B社は、長期的かつ安定的に取引を続けるため、豊作の場合などは必要量以上を輸入していた。必要量以外の原料は、国内の商社を通じて同業他社へ転売することで処分をしてきたが、本漬けだいこんの消費量の減少による販売数量の伸び悩みから、平成13年に河北省からの輸入を中止した。さらに、これまでの取引方法を改め、年間の原料必要量を輸入上限量とし、12~1月の品質とB社の在庫状況を検討たうえで、最終的な輸入量を決定している。

 一方、C社でも塩蔵白首だいこんの輸入は、中国で元年頃から産地開発を行い、漬物加工公司への塩漬加工の技術指導と生産者への栽培指導を行ってきた。取引先は河北省天津近郊が中心で、内モンゴル、山東省からも輸入している。塩漬けの濃度は5~6%と低塩で輸入し、輸入期間は4月以降になるとカッペンなどの発生により、品質劣化が起こるために1~3月までとしている。輸入取扱い開始の経緯、取引方法および輸入経路などはB社とほぼ同じである。

 次に、糖絞りだいこんの原料となる輸入半製品青首だいこんの仕入先は、後述の輸入専門商社のD社からである。原料の青首だいこんは、現地で塩分4%前後に塩漬け後、糖漬けを行い半製品の状態で日本へ輸出される。C社では全量、年間通じて仕入れている。糖絞りだいこんの最も需要の多い月は10~12月、次いで3~5月で、不需要期は1~2月と6~9月であることから、月間需要量に合わせて原料輸入量を変動させている。また、輸入量は最も多い月で月間約10トン、少ない月で約5トンとなっている。


(3) だいこん漬物製品の販売ルートと取引価格
(1) 販売ルート
 A社の漬物製品全体の販売先は、スーパー・コンビニなど50%、直売店15%、食品問屋(漬物問屋など)10%、食料品小売業10%、その他学校給食などの業務用が15%である。だいこんを主力としながら多様な漬物製品を生産していることから、直接、スーパーなどへの販売割合が高い。また、地方の協力会社の製品を買い上げて販売も行っており、メーカーベンダーとしての機能も果たしている。このため、A社は漬物メーカーでありながら卸問屋であり、さらに直売店での小売業まで行っている。

 B社、C社ともだいこんを主力商品とする漬物メーカーである。販売先についてC社では、全量を全国の食品問屋(漬物問屋など)へ販売している。一方、B社では食品問屋60%、次いでスーパー30%、スーパーから委託のPB商品9%、その他外食産業などの業務用が1%となっている。両者とも漬物問屋への販売割合が高いのは、だいこん中心の製造であるため、多様な漬物製品のピッキングができず、また、配送機能が弱いためである。
 ただし、B社では本漬けだいこんは卸問屋への販売となっているが、糖絞りだいこんは浅漬けタイプに近いことから、スーパーへの直接販売となっている。このように、B社、C社とも漬物製造のみのメーカーであり、販売先を食品問屋などに依存するタイプである。

(2) 取引価格と糖絞りだいこんの小売価格
 スーパーとの取引価格は、スーパーのバイイングパワーにより、浅漬けは年間同一価格となっている。これには、スーパー側の仕入価格を下げる方向を強めているため、原料価格が高騰しても取引価格の変更に応じないケースも多いためであるが、中には、だいこん原料価格の変動によって本漬けだいこん3本入りを198円で販売していた製品が、2本入りで同一価格での販売で対応しているケースもみられる。

 糖絞りだいこんの小売価格は、L・M規格(輸入原料)を使用した1本入りで278円前後、2Sの1本入りでは198円前後である。また、安売りでは158円前後での販売例もみられ、漬物メーカーからは「小売価格198円では採算がとれない」との発言が聞かれる。ただし、原産国表示の義務化から中国産原料を使用していることで、スーパーから仕入価格を低く抑えられている。このため、C社では地元産の青首だいこんに類似する原料を使用した「葉付き糖絞りだいこん」を製品化し、平成12年から輸入品に対抗する差別化商品として、1本入り小売価格400円前後で販売を開始する新たな動きもみられる。


( 誌面の都合上、次号で「3 輸入商社などのだいこんの輸入状況と国内流通実態」、「4 漬物原料供給産地の動向」、「5 今後の輸入見通しと国内産だいこんへの影響(まとめにかえて)」について掲載させていただきます。 )

元のページへ戻る


このページのトップへ