図9 東京都中央卸売市場におけるにんじんの卸売価格
資料:図8に同じ
また、国産と海外産の関係をみると、国産の価格が100円/kgを上回る頃から海外産が増加し、国産の価格が70円/kgを下回ると海外産の入荷がみられなくなっている。つまり、卸売市場の価格水準で70円/kgが海外産に対して国産が競争力を発揮できる目安とみることができる。
4 宮崎県における産地作りと業務用対応
にんじんの収穫・出荷量の多い8道県における平成13~15年の加工・生食仕向量をみると、年間45~47万トンの出荷量のほぼ86~88%が生食用に出荷され、残りが加工用に出荷されている。ただし、これは産地出荷段階での内訳であり、生食用に出荷されたにんじんが、流通段階で業務用、加工用原料に仕向けられるケースが増加しており、農林水産省の推計でもにんじんの国内需要量の56%が加工・業務用となっている。
そこで、業務用を前提に冬にんじんの産地作りに取り組む宮崎県について、以下ではみていくこととする。
(1) にんじんの作付面積・収穫量の推移
宮崎県の栽培状況は、作付面積で786haと全国の3.8%(平成14年)、収穫量では312,200トンと同4.8%を占めるにすぎない。しかし、同県は冬期の温暖な気候を利用して冬にんじんを作付面積の81.8%、収穫量の86.9%を栽培しており、冬にんじんでは、作付面積で643haと全国の7.0%、収穫量では27,100トンで同9.4%を占めている。
宮崎県で冬にんじんが、本格的に栽培されるようになったのは平成2年以降のことで、昭和50~60年代の作付面積は100~220haの範囲に止まり、収穫量も7,000トン以下であった。
宮崎県経済農業協同組合連合会(以下「経済連」という。)の100%出資の子会社である宮崎県農協果汁(株)が、平成2年頃からにんじん加工を本格化したことから、経済連が中心となり、県内での原料にんじんの生産拡大に努めた。その結果、平成7年には作付面積371ha、収穫量14,200トン、12年には作付面積744ha、収穫量24,300トンにまで拡大し、ほぼこの水準で現在に至っている(図10参照)。
図10 宮崎県のにんじん作付面積・収穫量の推移
資料:農林水産省『野菜生産出荷統計』
(2) 町村別の作付面積・収穫量
宮崎県のにんじん産地は、宮崎市の北部に位置する児湯郡と、南に位置する都城市、小林市、えびの市とその周辺になる。このうち、児湯郡川南町が平成14年の作付面積で152ha(県全体の19.3%)、収穫量で6,030トン(同19.3%)、都城市が作付面積152ha(同19.3%)、収穫量5,890トン(同18.8%)、小林市が作付面積119ha(同15.%)、収穫量5,230トン(16.8%)と、この3地区で県の過半数を占めている。
(3) JA尾鈴農協の取り組み
JA尾鈴農協は、県内を代表する児湯郡川南町、都農町といった産地を抱え、平成14年にはにんじん部会員150名により150haを超す作付を行っていた。しかし、現在では農家の高齢化とにんじんと作期が競合する品目(レタス、スイートコーン)の普及により、部会員57名(平均年齢48才)、作付面積は89haに減少している。
同地区のにんじん栽培は、多くの農家がコメの後作として取り組むケースが多く、果汁原料用の栽培品種は、色調の関係から長崎県五寸人参育成会の「黒田五寸」が指定品種となっている。
播種は、コメの収穫が終了した8月中旬から9月中旬にかけて、反当り4万~4.5万粒を播種し(畝幅120cm、株間7cm、4条植え)、12月上旬から収穫を開始し、3月上旬までに完了するようにしている。なお、収穫量は、反当り5トン(普及センターの経営指針)の目標に対し、3.7~3.8トンが実態となっている。
収穫したにんじんは、各農協、経済連を通した系統共販により大部分が宮崎県農協果汁(株)に販売される。規格(図11)は、宮崎県園芸ブランド検査協会が定めた基準により、鮮紅色で、糖度7.5度以上、残留農薬など毒性汚染の恐れがなく、首経が3cm~8cm以下、長さが10cm~23cm以下の健全果と定めているだけで、市場出荷のような階級区分を設けてはいない2)。そのため、農家の収穫後の調整作業もかなり簡素化され、出荷も宮崎県農協果汁(株)が貸し出している1トンコンテナに土付きのまま積載する形態となっている。
図11 加工にんじん受入規格表
資料:宮崎県農協果汁(株)資料より
〈収穫前のほ場〉
このような規格、出荷調整の簡素化が、反当りの投下労働時間を、同じ冬にんじん産地である千葉県の237時間に対して、84時間程度に短縮している。このことが市場価格を下回る水準での加工原料対応を可能にしている3)。
なお、宮崎県農協果汁(株)は、にんじんの原料産地である児湯郡(本社工場)と、都城、小林地区に工場を設置しており、各農家は、収穫した原料にんじんを最寄りの工場に1トンコンテナで搬入している。
(4) 宮崎県農協果汁(株)
同社は、柑橘類の搾汁と飲料加工を目的に経済連の100%出資の子会社として、昭和48年に設立された飲料メーカーである(資本9.4億円、従業員217名、年間販売額200億円)。
にんじんの搾汁加工は、昭和62年に処理設備が導入され、平成2年頃から本格的(原料処理量2.0千トン)に稼働した。毎年6月頃に原料にんじんの調達計画を作成し、経済連の担当部署、各農協担当者と協議を重ね、作付面積を決定している。
収穫期に入ると、工場の処理能力(原料ベースで150トン)を前提に、各農協で出荷調整を行いながら農家が直接搬入する(平成14年調達量14.0千トン、15年調達量9.0千トン、16年計画数量20.0千トン)。
〈工場に搬入されたにんじん1〉
〈工場に搬入されたにんじん2〉
冬にんじんの収穫期である12~3月にかけて、原料にんじんを受け入れ、洗浄、選別、ブランチング後に精製し、「にんじんピューレ」として冷凍保管しながら必要に応じて野菜ジュースに加工したり、ピューレ状態で他の飲料メーカーに販売している。
なお、同社では調達した原料にんじんの5%を自社ブランド製品で使用し、残りはOEM(相手先ブランドによる生産)契約を結んでいる飲料メーカーのブランド製品の原料として使用している。
(5) 原料調達をめぐる課題
宮崎県の冬にんじんの産地は、一般的に生食用の市場出荷を前提に収穫量の一部を加工原料用に出荷する産地が多い中で、宮崎県農協果汁(株)、経済連、各農協などの関係主体が協働し、ユーザーである宮崎県農協果汁(株)の調達計画に基づいた作付面積の決定と、収穫物の調達を行うシステムを採用している。このように、相互に取引依存度が高く密接に連携したシステムでは、計画通りに生産されれば問題はないが、天候不順による作柄変動が発生した場合には、原料調達問題に結びつきやすいという面もある。
昨年は、事業計画では20千トンの調達を経済連、各農協と取り決めたが、播種、生育時期の台風被害により計画数量にほど遠い収穫量しか見込めず、経済連、各農協と対策を協議した結果、春にんじんの栽培を行うことで不足分を補うよう調整を進めている。
輸入にんじんの影響については、国産原料を前提条件としており、輸入増加の影響を直接的には受けていない。しかし、輸入増加により、国産にんじんの取引価格が全般的に低迷する中で、OEM契約の相手先企業との製品取引価格、生産農家との原料にんじんの契約価格に影響している可能性は否定できない。また、これまで原料にんじんの栽培を行っていた農家の中には、レタスなどの高い収益が期待できる作物に転換するところが見られるようになっており、このような現象は、輸入にんじん増加の間接的な影響とも考えられる。
このような原料価格面での対策として、経済連、各農協は、生産農家の規模拡大、さらに現在の反収3.7~3.8トンを5トンまで引上げることによる生産性の向上に努めている。
また、原料にんじんを使用した製品の95%がOEM製品であることから、OEM契約先企業の事業計画や製品政策に変更があれば、そのまま宮崎県農協果汁(株)の原料調達に影響が及ぶことになる。その意味では、宮崎県の冬にんじんの栽培は、OEM契約の相手先企業の販促活動やその成果、今後の製品政策、宮崎県産の黒田五寸にこだわった原料使用の姿勢が維持されることが重要であり、OEM契約の相手先企業との密接な連携にも努めている。
引用文献
1)川城英夫「我が国におけるニンジン生産の現状と問題点」、『平成16年にんじんの育種と栄養・機能性に関する諸問題』独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構野菜茶業研究所、社団法人日本種苗協会
p17~22
2)宮崎県児湯農業改良普及センター「平成16年栽培指針(にんじん)」
3)宮崎県児湯農業改良普及センター「平成13年経営指針(にんじん)」