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専門調査報告


にんじんの生産・輸入等の動向に係る実態調査

財団法人 外食産業総合調査研究センター 主任研究員 小田 勝己



はじめに 

 農畜産業振興機構では、輸入が増加している野菜について、国内主要産地の生産出荷の実態、実需者のニーズおよび輸入野菜に対応した産地強化のための方策などを、専門的・客観的な視野からとらえる調査(生産出荷動向調査)を継続的に行っている。

 本年度の調査対象品目は、「はくさい」、「だいこん」、「ねぎ」、「さといも」、「にんじん」であり、各品目ごとに学識経験者にお願いして調査を実施したので、その概要について、順次本誌に掲載していく。

 今月号においては、「1.にんじんの国内生産」、「2.にんじんの輸入動向」について、次月号においては、「3.卸売市場の市況」、「4.宮崎県における産地作りと業務用対応」を掲載する。



1 にんじんの国内生産

(1) 作付面積の推移

 にんじんの作付面積は、昭和50年の22.9千haから60年には24.9千haまで拡大したが、平成2年には23.5千ha、7年には24.4haと23千~24千ha台で推移していた。13年になると22千haも維持できなくなり、14年には20.4千ha、15年には20.3千haと、過去18年間に4.6千ha減少している。

 にんじんの作型は、秋に播種し翌年の3月から7月にかけて収穫する「春夏にんじん」、4~5月に播種し7月~10月に収穫する「秋にんじん」、7月~8月に播種し11月から翌年の3月にかけて収穫する「冬にんじん」に分けられる。

 昭和60年以降の作付面積の減少は、主に冬にんじんの作付面積の減少が大きく影響している。

1 作型別の作付面積の推移



資料:農林水産省「野菜生産出荷統計」


 

2) 収穫量の推移

 にんじんの収穫量は、昭和50年の495.1千トンが、作付面積の拡大に伴って60年には662.4千トン、平成7年には724.7千トンにまで増加した。ところがその後は、面積の減少もあり、収穫量も減少に転じ、10年には648.0千トン、15年には653.7千トンにまで減少している。

2 作型別の収穫量の推移



資料:農林水産省「野菜生産出荷統計」



 にんじんの収穫量は、作付面積の減少傾向にもかかわらず、品種改良、栽培技術の向上などによる単収の増加により、平成15年では昭和50年の総収穫量よりも158.6千トン増加したが、総収穫量がピークとなった平成7年(724.7千トン)時との比較では、71.0千トンの減少となっている。

3) 作型別、主要産地別収穫・出荷量

 平成15年における「春夏にんじん」の作付面積、収穫・出荷量の多い県をみると、徳島県が作付面積で1,020haで総作付面積に占めるシェアが23.3%となり、収穫量で49,200トン(反収4.8トン)で総収穫量の31.6%を占めてる。次いで、千葉県が作付面積で809ha(同18.5%)、収穫量で30,800トン(同19.8%)、青森県が作付面積で499ha(同11.4%)、収穫量で17,000トン(同10.9%)となっている。また、上位5県の全国に占めるシェアは、作付面積では63.9%、収穫量では73.1%になり、これらの各県での作柄が春夏にんじんの収穫量を規定することになっている。

1 春夏にんじんの主要産地別収穫・出荷量と構成比(平成15年)



資料:農林水産省「平成15年産野菜生産出荷統計」



 次に、「秋にんじん」については、北海道が作付面積で5,640haと総作付面積に占めるシェアが79.3%、収穫量でも187,600トン(反収3.3トン)と総収穫量の87.8%を占めており、そのほとんどが北海道で作付・収穫されている。

2 秋にんじんの主要産地別収穫・出荷量と構成比(平成15年)



資料:表1に同じ。



 「冬にんじん」では、冬期での気温が温暖な千葉県が作付面積で2,520haで総作付面積の28.6%のシェアを占め、収穫量では99,300トン(反収3.9トン)と総収穫量の34.3%を占めている。次いで、茨城県が作付面積738ha(同8.4%)、収穫量27,400トン(9.5%)、愛知県が作付面積586ha(同6.6%)、収穫量24,400トン(同8.4%)となっており、また、上位5県の全国に占めるシェアは、作付面積では56.2%、収穫量では64.9%となっている。

3 冬にんじんの主要産地別収穫・出荷量と構成比(平成15年)



資料:表1に同じ。



 以上のように、3つの作型の中で秋にんじんが最も特定産地(北海道)に栽培が集中しており、次いで春夏にんじんが徳島県、千葉県、青森県を中心に集中化が進んでいる。そして、3つの作型の中で作付面積、収穫量が最も多い冬にんじんは、栽培している産地は広範囲に及んでいることを示している。

 また、千葉県農業総合研究センター川城英夫氏
1)によれば、主要産地で作型別に栽培されている品種は、表4が示すように「春夏にんじん」および「秋にんじん」では向陽2号がそれぞれ65%、66%を占めており、この2つの作型の中心品種である。しかし、「冬にんじん」になると、向陽2号の占める比率が38%にとどまり、他に揚州五寸(18%)、はまべに五寸(13%)、ひとみ五寸(11%)などの広範な品種が栽培されていると報告している。

4 主要産地の作型別の栽培品種



 注:主要産地は北海道、青森、徳島、茨城、長崎、愛知、鹿児島、熊本、岐阜、愛知
出所:川城英夫著「我が国におけるニンジン生産の現状と問題点」『平成16年度課題別研究会資料にんじんの育種と栄養・機能性に関する諸問題』2004年11月、野菜茶業研究所・日本種苗協会




2 にんじんの輸入動向

(1) 生鮮にんじんの輸入量と国内産出荷量との関係

 平成元年以降の国内産にんじんの出荷量と輸入量(関税区分では「にんじん・かぶ」以下同じ。)の動きを見ると(図3参照)国内産の出荷量については、平成元年の584.9千トンが、翌年には560.2千トンに落込んだが、その後の3年間は増加傾向を続け、5年に615.6千トンとなった。

 ところが、6年には天候不順により569.3千トンまで落込んだことから、それまで10千トン以下で推移していた海外産の輸入量が増加し、同年には18.2千トンとなった。

 平成7~9年にかけては、作付面積の拡大などから国内産が610千トンを上回る水準で推移したために輸入量は減少傾向を示した。しかし、10年の天候不順による不作から561.1千トンにまで減少し、その後も作付面積の減少から11年には588.5千トン、12年も593.0千万トンとなったため、輸入量も再び増加傾向を示し、10年には34.0千トン、11年は50.4千トンにまで増加した。この結果、国内産の作柄が良好であった7~8年頃を除くと、平成10年以降国内供給量(国内産出荷量+輸入量)に占める海外産の比率が、恒常的に5%を上回るようになった。

 平成13年になると、国内産が600千トンにまで回復したため、14年の輸入量は37千トンに止まったが、14年に国内産が再び600千トンを割り込んだため、15年の輸入量は54.5千トンと拡大し、国内供給量に占める比率が、8.7%になった。

 さらに、平成16年は相次ぐ台風の上陸による国内ものの不作により、9月以降の輸入量が落込まず、11~12月には10千トン/月を上回る輸入が行われた。その結果、年間輸入量が58.6千トンと過去最高となった。

 このように、国内産にんじんの出荷量が平成7~8年をピークとし、作付面積の減少という構造的な要因からその後減少傾向となり、これを補うように輸入量が増加し始め、11年以降になると40千トンを上回る水準で推移している。

3 国産にんじんの出荷量と輸入量の推移



 注:輸入量は「生鮮にんじん・かぶ」の輸入量を示す。
資料:農林水産省「野菜生産出荷統計」、
   財務省「貿易統計」



 この結果、平成元年からの14年間では、国内産が2.4%減少したが、輸入量が36.7倍に増加したため、国内への供給量は6.7%増加している。さらに、平成10年からの5年間では、国内産が1.8%増加し、輸入量も1.6倍に増加したため、国内への供給量は5.1%増加したことを示している。

2) 生鮮にんじん及びにんじん・野菜ジュースの輸入動向

 生鮮にんじんの輸入については、平成10年頃までの動きをみると、国内産の不作時対応型の輸入となっていたが、平成11年以降になると国内の作付面積が減少する中で、国内需要を満たすための40千トン前後の輸入が常態化し、16年には台風被害による不作から58.6千トンの輸入実績となっている。

 次に注目されるのが、平成6年頃からにんじんの調整品(にんじん・野菜ジュース類)の輸入が増加傾向となっている点である。

 にんじん・野菜ジュース類は、平成5年まではわずか数百トン程度の輸入量であったが、6年の国内産の不作から、原料にんじんの確保が難しくなったジュースメーカーを中心に16.3千トンが輸入された。その後は、国内産が増加したことから10千トン以下の水準にまで減少したが、11年頃から、国内の作付面積の減少傾向と「第二次野菜ジュースブーム」による原料にんじん需要の高まりから、同年には10千トンが輸入され、13年になると21.1千トンにまで増加し、16年も生鮮にんじんと同様に国内産不作のため21千トンの輸入実績となっている。

 にんじんジュースは、6~7倍に濃縮・冷凍しているといわれており、その数が正しいとすれば、単純に生鮮換算すると10~11万トン(にんじん・野菜ジュース込み)相当の生鮮にんじんを輸入していることになる。

4 にんじんおよびにんじん・野菜ジュースの輸入量の推移



資料:財務省「貿易統計」



(3) 月別の輸入動向

 (1) 生鮮にんじん

 平成15年の月別輸入量をみると、国内産冬にんじんの出荷時期である1月~2月は4千トン前後と少なく、春にんじんの出荷が始まる3月頃から増加し、4月8千トン、5月9.7千トンとピークを迎えている。その後は、青森県などの夏にんじんの出荷が始まり、輸入量は6月6.5千トン、7月5.7千トンに減少し、国内最大の産地である北海道秋にんじんの出荷が本格化する9月頃には2千トンを下回る水準にまで減少し、12月までこの水準で推移している。

 このように月別の動きをみると、平年であれば、徳島県に代表される春にんじんの作柄が、その年の輸入量に大きく影響していると考えられる。

 ところが、平成16年の上半期は、国内産の作柄が良好であったことから輸入量もそれほど多くなかったが、9~10月の相次ぐ台風上陸と長雨により各産地が大きな打撃を受けたことから、11月と12月には10千トンを上回る輸入が行われた。

5 生鮮にんじんの月別輸入量と輸入価格



資料:図4に同じ。



 次に、平成15年の輸入(CIF)価格をみると、年初の42円/kgから輸入量の増加とともに上昇し、輸入量が6千トン/月を上回る4~6月には47~51円/kgとなり、輸入量の減少する9~10月には52~53円/kgで推移し、年平均すると45円/kgであった。

 平成16年は、上半期が45~53円/kgで推移したが、7月には37円/kgまで低下し、その後45円/kg以下で12月まで推移した。その結果、年平均では44円/kgとなっている。

 このような海外産にんじんは、国産の端境期にスーパーなどの店頭で販売されることがあるが、多くは給食企業、弁当惣菜企業などの加工原料として利用されることが多い。


 (2) にんじん・野菜ジュース

 にんじん・野菜ジュースについても同様にみていくと、平成15年は、1~2月の1.1千トンから、夏期の需要を踏まえて3~6月には1.4千トン水準に上昇し、7月には1.7千トンの輸入実績となっている。その後8~9月は1.3~1.5千トンを維持し、11月以降は1.0千トンを下回る水準に減少している。

 平成16年は、生鮮にんじんと同様に上期については前年並の水準で推移したが、7月は、2.7千トンと59%近く増加しており、その後も1.7~2.2千トン水準で12月まで水推移している。

 図6 にんじんジュースの月別輸入量と輸入価格



資料:図4に同じ。



 にんじん・野菜ジュースは、生鮮にんじんを6~7倍に濃縮した製品であるため、輸入(CIF)価格は平均すると平成15年で250円/kgと高い。月別の動きでは、年初の250円/kgから3~4月には260円/kgにまで上昇し、7月にかけては輸入量の増加とともに230円/kg水準にまで低下している。そして、8~9月は290円/kgと高値で推移し、その後の3ヶ月間も260円/kg水準となっている。

 平成16年は、1月が324円/kgと前年同期を20%程上回る水準で始まり、その後も15~20%高い水準で6月まで推移している。下期も7月と10月に310円/kg以上となり、結果として年平均が295円/kgに上昇している。

4) 輸入相手国別輸入量の内訳

 生鮮にんじんの輸入は、年間10千トン程度であった平成5年には、台湾が全体の88.4%を占め、残りがニュージーランド(4.8%)、アメリカ(1.5%)であった。その後、国内産が不作となった翌年の7年には、輸入量が55.6千トンに急増し、そのうち40.4%が台湾、27.4%が中国であったが、その後の2年間は10~30千トン水準で推移し、主に台湾とニュージーランド、アメリカからであった。

 平成10年になると、再び30千トンを上回る水準となった。この時台湾が全体の5.9%に止まり、中国が61.6%を占めることとなった。つまり、この時期に相手国が台湾から中国にシフトしている。その後、国内の作柄により輸入量が37~55千トンの間で変動がみられるもの、中国のシェアは、14年72.0%、15年76.5%、16年になると84.8%を占めるまでになっている。

 次に、にんじん・野菜ジュースの輸入をみると、輸入量が10千トン未満であった平成5~6年頃は、オーストラリアが全体の50~60%、次いでアメリカが15~20%のシェアであったが、輸入量が常に10千トンを上回るようになった11年頃になると、アメリカからの輸入シェアが高まり初め、12年には41.8%とオーストラリア(40.9%)を上回るようになった。その後2年間この傾向が続き、平成16年には再びオーストラリアが全体の43.3%、次いでアメリカが39.2%のシェアとなった。

 このように、生鮮にんじんでは、中国からの輸入が圧倒的に多いのに対して、にんじん・野菜ジュースになると、オーストラリアあるいはアメリカからの輸入が大勢を占めている。この2国に集中している背景は、両国のにんじん生産量が大きいことと、大手野菜ジュースメーカーがアメリカとオーストラリアにジュース工場を保有しており、そこで濃縮加工した原料を輸入していることが大きいと思われる。

5)中国からの輸入

 上述のように、平成5年頃までの生鮮にんじんの輸入は主に台湾、オーストラリアからであったが、平成10年の国内産の不作を契機に中国の産地開発が進み、中国からの輸入の占める割合が大きくなり、平成16年には輸入量の84.8%となった。

 そこで、中国から輸入される生鮮にんじんの実態を、輸入商社のヒアリング結果に基づいて以下では整理してみることとする。

 日本に輸出される生鮮にんじんは、7~11月は山東省の北部および内モンゴル(8~11月)のものである。このうち、11月に山東省で収穫されたものが貯蔵され12月~1月にかけて輸出される。また、2月以降になると、産地が南の福建省(廈門周辺)に移り、6月まで輸出されている。ただし、6月になると気温が上昇するために、輸出途中での「カビ」や「トロケ」の発生リスクが高まると言われている。

 ヒアリングを行った輸入商社によれば、かつて日本で最も作付面積が多い「向陽」の栽培を試みたが、山東省、内モンゴルともに定着せず、現在は「黒田五寸」、「新黒田」となっている。また、福建省では、数年前までは中国在来種が栽培されていたが、一昨年に「サカタ7寸」の栽培が始まり、それ以後品質の安定が図られたとのことである。

 輸入した生鮮にんじんは、惣菜メーカーや外食企業向けに乱切りやきんぴら用千切り加工を行う加工メーカーに販売することが多い。そのため、規格は歩留まりの良い200g(2L)以上のサイズを指定する加工メーカーが多く、中国サイドの輸出業者にはLサイズの混入率を30%以内にするように指定している。輸入時の荷姿は、20kg段ボールが標準で、B品のみ20kgネットでの荷姿も扱うとのことである。

 また、輸入については、基本的には販売先である加工メーカーからのオーダーに基づいて行うが、国内産地の作柄状況や市況などをにらみ、市場に品薄感がある場合には、販売先の受注以外に自主判断で上積みを行うこともあり、業務用の顧客を抱える一部の卸売市場に相対指値販売を行うこともある。

 販売先との契約は、ねぎのように年間需要が安定している場合には、年間契約あるいは中国産地の出荷シーズン毎に契約を結ぶことが多いが、生鮮にんじんのように、国内産の作柄に受注が大きく影響される品目は、月単位の契約あるいは受発注に基づく輸入・販売が多いようでる。

販売先からの受注から納入までのリードタイムは、約2週間であり具体的には図7のとおりである。

7 生鮮にんじんの受注から納入までの手順



出所:聞き取り調査より作成



 なお、中国産の生鮮にんじんは、山東省、内モンゴル、福建省をリレーすることで年間供給が可能とのことであるが、通常は、国内産が品薄となり市況が高まる春先から6月頃の輸入が多く、春先に500トン/月(5コンテナ/週×25トン)程度の輸入から始まり、その後300トン/月(3コンテナ/週×25トン)になり、秋口以降は100~200トン/月(1~2コンテナ/週×25トン)前後の輸入を行っている。

 また、輸入に当たっての品質管理上の問題点は、6月にカビやトロケなどの問題が発生することがある以外にクレームはほとんどないが、中国で皮むき加工したものを輸入すると、原因や発生のメカニズムは不明であるが、煮物にした時に仕上がりが黒くなる場合があるようである。

 輸入にんじんの多くは、上述のように惣菜メーカーや社員食堂などを運営する外食企業や、これらの企業に下処理製品を納入する食品加工メーカーに販売されることが多く、これらの部門では、一般のレストラン業と比較し、惣菜や給食メニューを手頃な価格で提供しているため、食材コストも低めに押さえなければならない(にんじんの場合卸売価格50円/kg以下と考えられる)。この条件で国産の利用可能な秋期については、国産を使用することになるが、時期が限定される。

 このため、国産にんじんと同じ品種(黒田五寸など)である場合が多く、一定価格で利用できる期間が長いこと、作業性の良い大きなサイズだけを利用することができ、さらに、加熱調理用の食材として利用する場合には、国産にこだわる必要がないなどの判断も加わり、中国からの輸入にんじんの需要が高まっているものと考えられる。



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