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産地紹介 野菜情報 2026年1月号

三重県 JA鈴鹿 加工用はくさいにおける「ジャストインタイム」出荷に向けた取り組み

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鈴鹿農業協同組合 営農部営農指導課 谷口 昌志
野菜写真

1 産地の概要

 鈴鹿農業協同組合(以下「JA鈴鹿」という)は、平成元年に七つの農協が合併して発足した農協で、三重県の中北部に位置する鈴鹿市と亀山市を事業区域としている(図1)。令和6年度末時点で、組合員数2万5780人、職員数436人で、農産物の販売高は約70億円、うち米穀は12億円、青果物は10億円、茶は14億円となっている。
 当JA管内は、東は伊勢湾、西には鈴鹿山脈があり、平野部では水田、西部地域の黒ぼく土地帯を中心に畑地が広がっている。平野部は、工業都市としても発展し、本田技研工業株式会社関連の自動車部品工場などが多く立地している。また、日本有数のレーシングコースである鈴鹿サーキットがあることから、日本のモータースポーツの聖地ともいわれている。主要な農産物については、茶と植木が特産品で、緑茶に関しては、摘み取りの2週間前に黒いネットをかぶせ甘みを出す「かぶせ茶」が全国1位の生産高を誇り、植木についてはサツキやツツジが全国1位の生産高となっている。
 
タイトル: p034b

2 産地の課題と加工・業務用野菜への取り組みの背景

 JA鈴鹿では、特産品である茶および植木の需要の減少や価格の低迷、さらには生産者の高齢化などによる経営規模の縮小・離農などの状況を受け、農地の維持や農業所得の安定的な確保が大きな課題であった。
 そこでJA鈴鹿では、農業経営の安定化を図るため、経営の中に露地野菜の生産を無理なく組み込む「複合経営」を確立することを目指した(表1)。平成25年には、省力出荷が可能な加工用野菜と、小さな面積でも大きな所得が挙げられる白ねぎに着目し、それぞれの部会を発足した。加工・業務用野菜に取り組み始めた背景については、働き方やライフスタイル、時代の変化により中食が普及し、需要が増加傾向にあったことがある。これらを踏まえ、加工用かぼちゃと加工用はくさい(写真1)の契約栽培に取り組み、農業所得の安定的な確保と所得の向上を目指すこととした。
 
タイトル: p035a

3 加工・業務用野菜への取り組み

(1)生産・栽培の体制づくりと出荷の工夫
 加工・業務用野菜の生産に取り組むメリットとしては、1)鉄コンテナを利用することにより、出荷経費や出荷に要する時間(労力)の削減につながる(写真2~4)、2)販売価格が一定で、収入を先読みすることができ、経営の安定につながる、3)等級は、市場出荷と異なり、実需者が規格を決めるため、「規格品(大・小)」、「規格外」のように規格幅が広く、出荷ロスが少なくて済む、4)初心者でも作りやすいため、新規就農者・兼業・耕作放棄地対策につながる-などが挙げられる。
 実需者から評価される産地づくりを目指していくためには、生産面・販売面で課題を認識する必要がある。生産面における課題は、生産者間での品質レベルの差をなくし、高品質な野菜の生産を行うことである。販売面での課題は、綿密な出荷計画に基づいて定時・定量出荷を行うことである。また、販売量と大きく乖離した生産は、生産・販売の両面でロスにつながることから、需要実態に応じた生産体制づくりが必要である。この加工・業務用野菜に求められる定時・定量出荷を目指すために、当JAでは、1)販売状況の見える化と、2)生産状況の見える化-を図った。
 
タイトル: p035b
 
タイトル: p036a
 
(2)定時・定量出荷の工夫
  ~ジャストインタイムの実現~
 まず、生産部会に、必要なものを必要なときに必要なだけ出荷する「ジャストインタイム」の体制づくりを提案した。ここで、参考にしたのが、大野耐一氏の「トヨタ生産方式」である。同方式は「必要なものを必要なときに必要なだけ(生産コストを)できるだけ安く」を念頭に置いた生産方式のことであり、製造業などでよく使われている。受注と生産と納品を連動させ、ムダな在庫を持たずに、販売状況に合わせた生産や出荷を重視しながら、生産性の向上を図るもので、その基本的な考え方に「ジャストインタイム」がある。世界的な競争力を持ったトヨタ式のものづくりのシステムであるジャストインタイムを導入していけば、高品質なはくさいを販売先に届けることができ、他産地とも十分渡り合える基盤ができると考えた。では、このジャストインタイムを実現するために加工用はくさいの産地として、どうしたらよいか。その答えは、従来の考え方であった「前工程が後工程に物を供給する」とは逆に「後工程が前工程に必要なものを必要なだけ引き取りにいく」と考えることであった(図2)。このジャストインタイムの考え方を参考にし、生産部会において、生産者の生産を前工程、販売先への出荷を後工程と考え、生産量や必要量をコントロールする「出荷指示計画書」の作成を提案した(図3)。
 
タイトル: p036b

タイトル: p037a
 
(3)販売状況の見える化
 ジャストインタイムでは、後工程のゴールから先に考える必要がある。このため、販売先への出荷に当たり、「出荷指示計画書」を作成し、「欠品ゼロ」に向けた出荷協力体制の下、定時定量出荷を目指した。この出荷指示計画書の作成により、販売状況の見える化ができ、生産者は、はくさいを出荷できるタイミングが明確となり、計画的な営農が可能となった(図4)。
 
タイトル: p037b
 
 また、先々の販売動向が予測できるようになったことで、圃場の在庫量と照らし合わせて販売の追加の有無が見えるようになり、全体を通してスムーズな出荷の流れを構築することができた。加工・業務用向けに欠品が許されない状況の中で、生産者がチームとして動くようになり、部会が一丸となって実需者から選ばれる産地づくりを目指すようになった。天候の影響を受けやすい青果物栽培において、「売れるものを売れるだけ生産する」ことは非常に難しいが、「いくつ作るかではなく、いくつ売れるのか」というニーズを重視し、()(しゅ)前の段階から事前に販売先の求める必要数をある程度把握し、そこから予測を立てながら、出荷時において滞留をなくす仕組みづくりを行っている。
 このような取り組みを平成30年度から開始し、以来、押し込み型の生産体制から脱却し、必要な時に必要数を出荷することを重視した「滞留をなくす仕組みづくり」に取り組むことで、品質第一の出荷が可能となり、販売先からの信頼や取扱量の増加につながっている。
 
(4)生産状況の見える化
 生産状況の見える化では、全国農業協同組合連合会三重県本部(JA全農みえ)と連携し、全農の営農管理システム「Z-GIS」を活用している。Z-GISとは、圃場と電子地図を関連付け、営農管理を効率化できるシステムである(写真5)。エクセルと連携して情報管理ができる特徴があり、品種や株数、1玉当たりの予測重量を入力することで、出荷の進捗に合わせた圃場の在庫量予測に活用した。出荷期には、生産者がどこの圃場から出荷したかわかるよう、鉄コンテナに圃場番号を記入し、Z-GISで適宜出荷量を管理しながら圃場在庫数を予測し、出荷の進捗に合わせた生産状況の見える化を図った(図5)。
 以前までは、出荷時期を予測するために、現地確認や聞き取り調査を繰り返し実施し、多大な労力を費やしていたが、Z-GISを活用することでデータをクラウドで管理でき、スマートフォンからでも圃場在庫量をタイムリーに確認できるため、労力の軽減やスムーズな出荷につながっている。また、Z-GISのナビ機能を活用し、農業改良普及センターと情報を共有することで、効率的な現場確認やタイムリーな営農指導が実現できた。
 また、圃場在庫量の把握は、実需者側も原材料の安定調達を実現することができるので、関係者全員にメリットがあり、取引の継続を目指すことで産地の育成につながると考えている。ジャストインタイムの取り組みは、「高品質出荷・安定供給により販売先の信頼を得て販売拡大と単価向上できた」、「鉄コンテナを計画的・効率的に利用することができた」、「長期保管による品質低下・廃棄ロスがなくなった」、「余剰在庫を発生させず、さらに生産拡大することが出来た」などさまざまな効果を生み出した。
 また、Z-GISにより圃場別での出荷量が把握できるようになったことで、出荷シーズン終了後にはZ-GISデータを活用し、収量の悪かった圃場や品種についての分析を行い、次作に向けた営農指導の改善ツールとしても利用している。
 
タイトル: p038
 
タイトル: p039a

4 産地としての成長とこれから

 これらの結果、はくさい自体の品質や取り組み姿勢が評価され、コロナ禍で外食需要が不安定化する中であっても、当初通りの契約取引が履行されるなど、契約産地としての信頼度が高まった(図6)。
 産地としての成長はデータにも現れ、作付面積は平成25年の2ヘクタールから令和6年には10ヘクタールと5倍に増加し、出荷量については約150トン(平成25年)から600トン(令和4年)と4倍になったことが挙げられる。
 今後も、生産から販売まで一貫して労力低減の提案をし、改善を追求して、農家の所得を上げ、より生産者の意欲を高める場面をつくり、産地の価値の向上につなげていきたいと考えている。
 
タイトル: p039b

◆一言アピール◆

 部会が目指したのは実需者のニーズに合ったはくさいです。加工野菜部会の出荷するはくさいは身が引き締まったボリューム感のある3~4キログラム玉のはくさいで、販売先が使いやすいように外葉を圃場でむいてムキ玉で出荷しています(写真6)。
 
タイトル: p040

◆お問い合わせ先◆

担当部署:JA鈴鹿 営農部営農指導課
住  所:三重県鈴鹿市地子町1268番地
電話番号:059-384-1126
FAX 番号:059-384-1129
ホームページ:https://ja-suzuka.or.jp