(1)生産・栽培の体制づくりと出荷の工夫
加工・業務用野菜の生産に取り組むメリットとしては、1)鉄コンテナを利用することにより、出荷経費や出荷に要する時間(労力)の削減につながる(写真2~4)、2)販売価格が一定で、収入を先読みすることができ、経営の安定につながる、3)等級は、市場出荷と異なり、実需者が規格を決めるため、「規格品(大・小)」、「規格外」のように規格幅が広く、出荷ロスが少なくて済む、4)初心者でも作りやすいため、新規就農者・兼業・耕作放棄地対策につながる-などが挙げられる。
実需者から評価される産地づくりを目指していくためには、生産面・販売面で課題を認識する必要がある。生産面における課題は、生産者間での品質レベルの差をなくし、高品質な野菜の生産を行うことである。販売面での課題は、綿密な出荷計画に基づいて定時・定量出荷を行うことである。また、販売量と大きく乖離した生産は、生産・販売の両面でロスにつながることから、需要実態に応じた生産体制づくりが必要である。この加工・業務用野菜に求められる定時・定量出荷を目指すために、当JAでは、1)販売状況の見える化と、2)生産状況の見える化-を図った。
(2)定時・定量出荷の工夫
~ジャストインタイムの実現~
まず、生産部会に、必要なものを必要なときに必要なだけ出荷する「ジャストインタイム」の体制づくりを提案した。ここで、参考にしたのが、大野耐一氏の「トヨタ生産方式」である。同方式は「必要なものを必要なときに必要なだけ(生産コストを)できるだけ安く」を念頭に置いた生産方式のことであり、製造業などでよく使われている。受注と生産と納品を連動させ、ムダな在庫を持たずに、販売状況に合わせた生産や出荷を重視しながら、生産性の向上を図るもので、その基本的な考え方に「ジャストインタイム」がある。世界的な競争力を持ったトヨタ式のものづくりのシステムであるジャストインタイムを導入していけば、高品質なはくさいを販売先に届けることができ、他産地とも十分渡り合える基盤ができると考えた。では、このジャストインタイムを実現するために加工用はくさいの産地として、どうしたらよいか。その答えは、従来の考え方であった「前工程が後工程に物を供給する」とは逆に「後工程が前工程に必要なものを必要なだけ引き取りにいく」と考えることであった(図2)。このジャストインタイムの考え方を参考にし、生産部会において、生産者の生産を前工程、販売先への出荷を後工程と考え、生産量や必要量をコントロールする「出荷指示計画書」の作成を提案した(図3)。
(3)販売状況の見える化
ジャストインタイムでは、後工程のゴールから先に考える必要がある。このため、販売先への出荷に当たり、「出荷指示計画書」を作成し、「欠品ゼロ」に向けた出荷協力体制の下、定時定量出荷を目指した。この出荷指示計画書の作成により、販売状況の見える化ができ、生産者は、はくさいを出荷できるタイミングが明確となり、計画的な営農が可能となった(図4)。
また、先々の販売動向が予測できるようになったことで、圃場の在庫量と照らし合わせて販売の追加の有無が見えるようになり、全体を通してスムーズな出荷の流れを構築することができた。加工・業務用向けに欠品が許されない状況の中で、生産者がチームとして動くようになり、部会が一丸となって実需者から選ばれる産地づくりを目指すようになった。天候の影響を受けやすい青果物栽培において、「売れるものを売れるだけ生産する」ことは非常に難しいが、「いくつ作るかではなく、いくつ売れるのか」というニーズを重視し、
播種前の段階から事前に販売先の求める必要数をある程度把握し、そこから予測を立てながら、出荷時において滞留をなくす仕組みづくりを行っている。
このような取り組みを平成30年度から開始し、以来、押し込み型の生産体制から脱却し、必要な時に必要数を出荷することを重視した「滞留をなくす仕組みづくり」に取り組むことで、品質第一の出荷が可能となり、販売先からの信頼や取扱量の増加につながっている。
(4)生産状況の見える化
生産状況の見える化では、全国農業協同組合連合会三重県本部(JA全農みえ)と連携し、全農の営農管理システム「Z-GIS」を活用している。Z-GISとは、圃場と電子地図を関連付け、営農管理を効率化できるシステムである(写真5)。エクセルと連携して情報管理ができる特徴があり、品種や株数、1玉当たりの予測重量を入力することで、出荷の進捗に合わせた圃場の在庫量予測に活用した。出荷期には、生産者がどこの圃場から出荷したかわかるよう、鉄コンテナに圃場番号を記入し、Z-GISで適宜出荷量を管理しながら圃場在庫数を予測し、出荷の進捗に合わせた生産状況の見える化を図った(図5)。
以前までは、出荷時期を予測するために、現地確認や聞き取り調査を繰り返し実施し、多大な労力を費やしていたが、Z-GISを活用することでデータをクラウドで管理でき、スマートフォンからでも圃場在庫量をタイムリーに確認できるため、労力の軽減やスムーズな出荷につながっている。また、Z-GISのナビ機能を活用し、農業改良普及センターと情報を共有することで、効率的な現場確認やタイムリーな営農指導が実現できた。
また、圃場在庫量の把握は、実需者側も原材料の安定調達を実現することができるので、関係者全員にメリットがあり、取引の継続を目指すことで産地の育成につながると考えている。ジャストインタイムの取り組みは、「高品質出荷・安定供給により販売先の信頼を得て販売拡大と単価向上できた」、「鉄コンテナを計画的・効率的に利用することができた」、「長期保管による品質低下・廃棄ロスがなくなった」、「余剰在庫を発生させず、さらに生産拡大することが出来た」などさまざまな効果を生み出した。
また、Z-GISにより圃場別での出荷量が把握できるようになったことで、出荷シーズン終了後にはZ-GISデータを活用し、収量の悪かった圃場や品種についての分析を行い、次作に向けた営農指導の改善ツールとしても利用している。