JAあいち海部では、産地における近年の高齢化や担い手不足、出荷量の減少などの課題を洗い出し、現状の把握とあるべき姿を検討し、産地としての維持・向上を目的に改善を図る取り組みを行った。
(1)課題の洗い出し
ア 課題1 部会員数の減少 ~担い手確保が急務~
海部れんこん組合の部会員数は、令和4年の時点で133人となっており、平成20年と比較すると、66人(約3割)減少していた。高齢化や後継者不足による農家数の減少が示唆され、作付面積の減少も見られた。経営の大規模化が進んでいたが、すでに各農家は、機械化など実施できることは導入済みであったため、産地の維持には担い手の確保が急務であると考えられた。また、新規就農者と既存生産者どちらにもアプローチし、担い手の拡大を目指す必要があった。
イ 課題2 収量の低下
担い手が減少する中、単収がほぼ横ばいであり、このままでは産地としての収穫量の段階的な減少が危惧された。このため、慣行栽培の見直しや施肥などについて見直すことが必要と考えた(図4)。
ウ 課題3 販売力向上の必要性
出荷量は年によってばらつきがあるものの、販売単価は平成27年の1キログラム当たり524円をピークに年々下落しており、令和4年には同345円(平成27年比34.2%安)まで低下した。れんこんの需要期に市場が求める要望数を出荷できていないことなどの課題を洗い出し、対策を検討した。
(2)課題への対応
ア 担い手の確保への取り組み
(ア)れんこん道場(新規就農支援事業)の立ち上げ
協議会は、地域農業の持続的な発展に向けて、新たな参入者の育成と定着を重要な課題と位置付けている。特に、担い手不足が深刻化する中で、未経験者や若手農業者が安心して参入できる体制の整備が求められていた。そこで協議会は、令和5年に研修制度「れんこん道場」を創設し、新たな担い手を育成する事業を開始した(図5、6)。
れんこん道場では、れんこん農家の下で2年間の研修を行い、栽培技術の習得の他、収穫・出荷・経営管理に至るまで体系的に研修制度が設計され、実践的な技術の習得が可能となっており、就農後も、JAあいち海部や各関係機関によって技術指導や情報提供が継続的に行われ、新たな参入者の定着を促している。
(イ)既存農家へのより良い提案
個選を主体とする既存農家の抱える課題や問題点について、個々の農家に対し、複数回訪問しヒアリングを行い、その対策について提案を行った。
イ 収量低下への対策
(ア)無人航空機を活用した農薬・肥料散布
れんこんの病害虫防除や施肥は、生育期である夏の高温期に
湛水(水田などに水を張って溜める)状態の水田を移動しながら作業するため、非常に重労働かつ非効率で生産者の負担となっていた(写真7)。
そのため、これらの作業の軽労化・効率化を図るため、協議会は農業サービス事業体と連携して無人航空機(ラジオコントロールヘリコプターやドローン)による防除・施肥技術の導入と普及を推進し、省力的な作業体系を確立した(写真8)。防除および施肥の作業時間は、無人航空機を活用することにより、従来の10分の1まで短縮することが実証され、今後もさらなる普及が見込まれている(図7)。
(イ)優良品種の導入
当産地の収穫作業は、従来「鍬掘り」のみであったが、近年は省力的な「水掘り」が普及している。そこで協議会は、平成31年から当産地に適した水掘り品種の選定と産地への普及を目的に、優良品種の試験栽培を開始した(写真9)。
地域に適した品種を選定するために、協議会で試験圃場を設置し、構成員による栽培・収穫作業や品種の評価を行い、当産地での栽培に適していると判断された優良品種の種を、各生産者へ供給した。これにより水掘りの作付面積は、平成30年には全体の約11%であったが、令和6年には約28%にまで拡大しており、収穫作業の省力化と労働時間の削減が着実に進んでいる。
ウ 販売力向上への対応
(ア)産地として市場の需要量に応える努力
図8の通り、市場分析を通じた当産地の出荷傾向を把握した。市場の求める数量(3.3万ケース)を出荷出来ていない(特に年末の最需要期)ことが課題として考えられたため、市場の要望数量に応えるべく、要望数量および133人の部会員の月別出荷量を見える化(図9)することにより、需要期の出荷量が減少している生産者に対し、本取り組みの目的や趣旨を改めて説明し、出荷の誘導を図った。産地が一体となり取り組んだ結果、令和5年は、海部れんこん組合として7年ぶりに市場の要望数量を超える出荷量を達成することができた。
(イ)新たな販売先の確保
~輸出への取り組み~
不需要期(特に夏場)の販売対策および中長期的な国内マーケットの縮小といった課題に対して、令和5年度より輸出事業を展開している。
事業を進めるに当たり、「輸出事業計画」を策定し、全国で初めてれんこんの輸出事業者として国から認定を取得した。その後、国費事業である「GFPグローバル産地づくり推進事業」を活用して、事業を開始することとした。
令和5年度より事業を開始して、現地(ハワイ、シンガポールおよび香港の3カ国)を訪問してのマーケット調査やバイヤーとの商談(写真10)などを経て、令和6年度から取引を開始している。
令和7年度もさらなる取引の拡大に向けて、PR動画や商談会への出店を計画しており、短期的な目標として令和8年度までに出荷量7.5トンを目指している。
(3)取り組みのまとめ
上記のような課題の洗い出しとそれぞれに対して改善をはかる取り組みの結果、その前後で大きな変化が見られた(図10)。今後も産地が一体となり取り組んでまいりたい。