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産地紹介 野菜情報 2025年7月号

福岡県 JA全農ふくれん  「博多なす」愛され続けて半世紀 アクなき向上心でさらなる発展を目指して

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全国農業協同組合連合会福岡県本部 園芸部園芸振興課 杉本 健太
タイトル横写真

1 産地の概要

 福岡県は、温暖な気候・風土に恵まれ、豊沃(ほうよく)な平野地区と山間地区の二つの地形で多様な農業が行われている。筑前海、有明海、豊前海の三つの海に面し、筑後川や遠賀川などの河川が県下各地で流れ、各地域での気候に沿った農業体系が確立されている。
 福岡県では、福岡のお米(「元気つくし」など)、八女茶、いちご(「あまおう」)をはじめ、なす・ねぎなどの博多ブランド野菜や、みかん・かき・いちじく(「とよみつひめ」など)などの福岡ブランド果物が豊富に育っている。また、日本屈指の穀倉地帯で、麦・大豆は全国で上位の生産量となっている。耕作のみでなく畜産も盛んであり、県では、「博多和牛」「はかた地どり」といったブランドを確立している。
 このような気候・地形の特徴、ブランドの確立を背景に、多種多様な農畜産物が生産されている。

2 産地、栽培の概要

 全国農業協同組合連合会福岡県本部(以下「JA全農ふくれん」という)なす部会(以下「なす部会」という)は、現在(令和6年度)、県内6JAに加入する計377戸の生産者で構成されている。福岡県南部の筑後平野に位置するJAみなみ筑後、JA柳川、JAふくおか八女を中心に、JA糸島、JA筑前あさくら、JAたがわの県内地域をまたいで生産を行っている(図1)。福岡県産ブランド「博多なす」は、ハウス施設での促成栽培による冬春ものが中心であるが、一部の地域では、雨よけ栽培や露地栽培による夏秋ものの生産もあり、周年での供給体制の強化に取り組んでいる。
 
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 なす部会の設立は平成12年であるが、福岡県のなす栽培の歴史については、50年以上前までさかのぼる。昭和48年に県内統一品種「黒陽」の栽培をスタートしたことが、現在のブランド「博多なす」の普及への第一歩となった。その後、生産面・販売面において産地が継続して努力し、品種を「筑陽」、単為結果性品種(注1)「PC筑陽」へ更新し、販売は京浜市場、京阪神市場への販路拡大に取り組んできた。
(注1)受粉せずに果実が形成される品種。
 
 「博多なす」は地域団体商標であり、令和5年度産で50周年を迎え、その間、部会・JA・県が一体となってブランド産地育成に向け、努力を重ね、今日では全国で認知されるブランドなすとしての地位を築き上げている。
 令和5年度産(8月~翌7月)におけるなす部会の栽培面積は88ヘクタール、出荷数量は1万1411トン、販売金額は49億円となっている。
 現在は、98%の生産者が「PC筑陽」を栽培している。PC筑陽は漆黒紫色の太長果形で、単為結果性のため単花処理や虫媒による受粉がなくても着果肥大する。また、果実のヘタや茎葉にトゲがなく、栽培管理や収穫、袋詰めでの作業効率の向上につながっている(写真1)。
 本県の冬春作の栽培は、8月下旬から9月上中旬にかけて定植が始まり、9月下旬から翌年7月上旬まで収穫される(図2)。11月下旬頃から4月下旬にかけては暖房機を設置した加温栽培で生産されており、光合成促進装置や環境測定装置を導入し、データに基づいた栽培管理をしている(写真2、3)。
 
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3 生産・栽培上の特色

(1)環境データを駆使した環境制御技術の活用
 なす部会では環境データを活用した栽培が広がりつつある。環境測定装置(写真4)の導入により、ハウス内の温度・湿度・二酸化炭素濃度・土壌水分量などが計測でき、数値化されたデータに基づいた栽培管理が可能となった。また、光合成促進装置(写真5)を導入し、二酸化炭素の供給により、なすの光合成を促し、冬場の収量の安定を図っている。現在、なす部会の6割程度の生産者が光合成促進装置を導入し、先進的な技術の導入試験などを継続的に実施することで、安定的な出荷に取り組んでいる。
 管内JA部会の一部生産者は、関係機関と連携した研究会を立ち上げ、定期的な勉強会の開催やICT(情報通信技術)活用の普及に向けた取り組みを行っている。研究会では新たな栽培制御技術の実証実験も行い、得られた知見は部会内で共有し、部会全体の収量向上に貢献している。また、これらの取り組みは県下に広がり、環境測定・制御装置を導入している生産者は、県内全体では現在2割ほどだが、徐々に増えてきている。今後もデータを活用した栽培管理が普及することにより、さらなる栽培技術の向上が期待される。
 
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(2)天敵利用技術の導入
 なす部会では、栽培期間の害虫被害対策、農薬の使用削減を目的として、天敵(写真6)を利用した防除対策に取り組んでいる。従来は農薬が防除の中心であったが、繰り返し使用するほどに害虫が抵抗性を獲得し、農薬だけで防除することが困難になっているため、導入する生産者が多く見られる。また、土壌消毒や防虫ネットの設置も同時に行い、病害虫対策を徹底している。このところ、さまざまな資材価格をはじめとして生産コストが上昇しているため、なす部会の生産者は、コスト低減や省力化を強く意識しながら栽培している。
 
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4 出荷の工夫

 なす部会での「博多なす」の出荷は、県内統一の出荷規格・品質基準を設け、生産者の徹底した選別と合わせ、各管内選果場で選果員や機械選果による厳しいチェックを行っている。生産者には出荷規格表や選果基準表を配布し、また、出荷前や出荷期間中の目合わせ会も実施し、高品質商品の出荷に取り組んでいる。各産地とも収穫時に生産者によって選別され、各JAの選果場、集出荷施設に持ち込まれ、その後、機械選果によってアイテム(袋・バラ・重量)ごとに商品化されている(写真7、8)。
 博多なすは、京浜地区、福岡地区を中心に、京阪神地区や中国地区にも出荷しており(写真9)、3本袋や2本袋などの袋規格、および4キログラムバラ規格を中心した商品展開を行っている。加工・業務用に適するバラ規格だけでなく、量販店に対応した袋規格を中心とした商品展開を行っている。また、出荷期間中の定期的な農薬使用履歴の提出・チェック、計画的な残留農薬検査の実施による安全確認を実施している。
 
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5 販売戦略

 なす部会で出荷されるなすは「博多なす」というブランドで販売し、関東・関西・九州と幅広く展開をしている。部会発足当時は、福岡を中心に販売していたが、さらなる生産拡大のために京浜・京阪神市場への販路拡大に取り組んだ。当時、関東では長なすになじみがなく、なすの嗜好は短なすがメインであったが、首都圏での消費定着を図るため、卸売会社の協力を得て、長なすの商品知識と調理法を説明したリーフレットを小売店に配布するなどの売り込みを試みた。その結果、現在では首都圏における長なす消費文化のパイオニアとして貢献し、各エリアで「博多なす」の地位を築きあげた。
 なす部会ではブランド化事業として、広告宣伝活動、販売促進活動に取り組んでいる(写真10、11)。広告宣伝活動では、LINEなどのインターネットアプリケーションを含むメディア媒体を活用した情報発信、消費拡大キャンペーンの実施、外食店と連携したコラボメニューの提供を通し、「博多なす」の認知度の向上に取り組んでいる。令和6年度産の「博多なす」については、地元企業である福岡ソフトバンクホークスとの連携により、地場消費の拡大および幅広いターゲット層への宣伝も行っている(写真12)。販売促進活動では、企業と連携したメニュー開発、量販店での試食宣伝即売会や、販促資材を活用した売り場展開を行っている。また、関東エリアでは売り場の定着を目的とした販売コンテストを実施し、産地と販売先との連携強化を図り、継続的な消費喚起対策に取り組むなど、「博多なす」のブランドの認知度向上と実購買への誘導・促進につながる販売を目標とし、様々な取り組みを行っている。
 
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◆一言アピール◆

 「博多なす」は愛され続けて半世紀が経ちました(図3、4)。福岡県を含む冬春なす生産6県では「なすび記念日」を制定しており、毎月、17日は「国産なす消費拡大の日」として、料理提案などを行っています。
 「博多なす」は、皮も果肉も柔らかく、アクが少なく、煮るとじんわりと味がしみしみ、焼くと香りたち、揚げるととろ~り。炒めても、蒸してもよし。おかずの主役にも、脇役にもなれます。安全・安心、かつ「煮・炒・揚・焼・蒸」のどんなの料理にも使える「博多なす」をぜひ、お召し上がりください。
 
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◆お問い合わせ先◆

担当部署:JA全農ふくれん 園芸部園芸振興課
住  所:福岡県福岡市中央区天神4丁目5-23
電話番号:092-762-4744
FAX番号:092-721-2674
ホームページ:https://zennoh-fukuren.jp/