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産地紹介 野菜情報 2025年6月号

長崎県 JA壱岐市 良き産地に、良き部会あり。日本一のアスパラガス産地を目指して

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壱岐市農業協同組合 営農部 農産園芸課 松嶋 新
タイトル横写真

1 壱岐島の概況

 壱岐市は、長崎県松浦半島北部に位置し、南北17キロメートル、東西15キロメートルに広がり、面積は138平方キロメートルの玄界灘上の離島である。壱岐市農業協同組合(以下「JA壱岐市という」)は、この壱岐市を管内としている(図1)。
 対馬暖流の影響により温暖な気候であり、農業は繁殖牛、水稲、葉たばこを主幹作目とし、そのほかアスパラガス、いちご、メロンなどの施設園芸や小菊などの花き類で、産地が形成されている。また、県内では2番目に広い深江ふかえ田原たばる平野があり、水田の基盤整備率は66%と高く、県内有数の穀倉地帯である。
 島へのアクセスは、福岡県博多港より高速船で1時間、フェリーで2時間、佐賀県唐津港よりフェリーで1時間。空路に関しては、長崎空港より20分の距離である。
 
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2 産地、栽培の概要

 JA壱岐市アスパラガス部会(以下「部会」という)は、現在6支部計68人で構成されている。2024年の部会の平均単収は2.37トンで、18年連続で単収が県下第1位であり、日本農業大賞や長崎県民表彰の受賞歴もある県下を牽引(けんいん)する部会の一つとなっている。毎年、単収4トンを超える農家も10戸程度あり、部会では、平均単収3トンを目標に活動を行っている(写真1、2)。
 
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 また、部会の全員が、農薬・化学肥料を低減する「環境保全型農業」に取り組み、長崎県知事により「エコファーマー」として認定され、農業の基本である「土づくり」に力を入れている。壱岐市は、アスパラガスに加え、繁殖牛飼養および稲作も盛んな地域であり、「稲作を行う⇒副産物である稲わらが生じる⇒稲わらが繁殖牛の餌となる⇒繁殖牛の排(せつ)物から良質な堆肥が得られる⇒堆肥がアスパラガスの土づくりに活用される」というサイクルが確立され、良質な堆肥による土づくりが高単収の要因の一つとなっている。
 栽培スケジュールについては、収穫期間は2~10月の9カ月間で2~5月を春芽、6~10月を夏芽としている。4~6月には、萌芽を収穫せずに伸ばし、光合成を促進させることで夏芽増収を図る「立茎作業」を行う。秋口は気温低下とともに休眠状態に向かい、葉が黄化することで地下貯蔵根へ養分が蓄積され、翌年の春芽収穫へとつながる(図2、3)。このサイクルを定植から毎年続け、定植後30年以上を経過してもなお高い収量を上げる圃場(ほじょう)も見受けられる。
 
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3 生産、栽培上の特色

(1)IPM(総合的病害虫防除)の取り組み
 部会における特徴的な取り組みの一つに、IPM(総合的病害虫防除)があり、ほぼ全戸の農家で実践している。壱岐市のアスパラガス栽培において問題となる病害虫としては、ヨトウムシ、アザミウマ類が挙げられる。これらの病害虫の被害を最小限に抑えることが、収量の向上へつながるため、表1のようなIPM管理に取り組んでいる。

 
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 まず、ヨトウムシ対策として実施しているのがフェロモントラップと黄色蛍光灯である(写真3、4)。フェロモントラップは、合成した昆虫の性フェロモンを圃場内に揮散させ、雄との交信をかく乱し、雌の交尾率を下げることで産卵を抑制し、次世代幼虫による被害を抑えるものである。また、黄色蛍光灯は、夜間に点灯することで、ヨトウムシの行動を抑制する効果がある。壱岐市の黄色蛍光灯導入率は9割を超え、長崎県下でも非常に高い。島内では春先より収穫終了まで点灯を行い、島内では「あって当たり前のモノ」となっている。
 次にアスパラガス栽培において最も問題となる害虫は、アザミウマ類であるが、現在アスパラガス栽培において一般的となっているアザミウマ類の温床となる雑草を抑える防草シートおよび忌避効果のあるUV(紫外線)カットフィルム導入などの物理的防除を積極的に行い、IPMに取り組むことにより、農薬使用回数の軽減に寄与している。
 
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(2)スマート農業の取り組み
 壱岐市は、内閣府から平成30年度「SDGs未来都市」として離島で唯一選定され、先進的な取り組みを行う「自治体SDGsモデル事業」の実施に向け、JA壱岐市・部会・壱岐市などが連携し、アスパラガスのスマート農業を実践することとなった。
 その取り組みは年々進んでおり、現在は、

 1)高収量農家の潅水(かんすい)を再現するため、人工知能(AI)を取り入れ、農家の潅水の自動化を図る(写真5)。

 
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 2)従来は、しゃがんでの作業が大半を占めるアスパラガス栽培に(たか)(うね)(どこ)を整備することで、労力軽減を図る(写真6)。
 3)夏場の高温対策とビニールハウス導入コスト軽減のため、換気効率が良く、ハウス導入経費が比較的安価なN型足場鋼管ハウスを導入する(写真7)。
 の三つの取り組みにより、アスパラガス栽培の農作業の省力・効率化および生産性の向上を目指し、農家にとってゆとりある経営モデルの実証を行っているところである。
 
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4 集出荷の工夫

 部会員が収穫したアスパラガスは農家で粗選別され、島の中心にあるJA集荷施設へと持ち込まれる(写真8)。部会では自動切揃選別機、計量結束機を導入して100%共同選果体制をとり、規格・品質が統一されることで、高単価・有利販売へとつながっている。農家から持ち込まれたアスパラガスは、選果場で調製後、発泡スチロール箱(5キログラム入り)に詰められ、鮮度維持のため、一晩しっかりと予冷し、翌日取引市場へと出荷される(写真9)。トラックに積まれたアスパラガスは、壱岐島から約30キロメートルの佐賀県唐津港までカーフェリーで輸送され、九州市場、関西市場へ陸送される。関東市場への出荷は、トラック便で福岡空港まで持ち込まれた後、羽田空港へと空輸され同日中に関東市場へと運ばれる。このように陸送と空輸を使い分け、最短日数で市場・消費者の元へと新鮮なアスパラガスを届けている。
 
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5 販売戦略

 販売に関しては、関東・関西・九州の3市場に出荷している。以前は5市場へ出荷販売していたが、現在は取引市場を集約化して大口取引を行うことにより、販売強化および契約販売を増加させている。同時にこのスケールメリットを活かすことで、輸送コスト低減を図り、本土に比べより運賃がかかる離島のハンディキャップを乗り越えている。
 また、壱岐は、麦焼酎発祥の地であり多数の蔵元があることから、焼酎会社とコラボレーションし、アスパラガスを素材としたクラフトジン「壱岐KAGURA」を販売しており、大変好評を得ている(写真10)。また、島の名産品であるウニの餌として、廃棄するアスパラガスの切下(きりした)を利用している(写真11)。SDGsの機運が高まる中、未利用資源の活用など消費者に興味を持ってもらえるような話題作りに取り組むことにより、壱岐のアスパラガスの知名度を向上させ、付加価値を高めた販売が出来るよう力を入れている。
 
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◆一言アピール◆

 農業の基本である「土づくり」に力を入れ、農薬や化学肥料を極力抑えて栽培した壱岐産のアスパラガスは「甘く、エグミがなく、しっかりとした食感」が特徴です。
 シャキシャキとしたみずみずしい歯ごたえと、鮮やかな緑色が食欲をかき立てます。新鮮なので、サラダなど生で食べるのもオススメ!その他、肉巻きや、バターソテー、天ぷら、パスタなど火を通すことでより柔らかな食感が得られ、濃厚なうま味が口の中でジュワっと広がります。この機会に、ぜひ壱岐のアスパラガスをお召し上がりください。

◆お問い合わせ先◆

担当部署:壱岐市農業協同組合 営農部農産園芸課
住  所:長崎県壱岐市芦辺町国分東触679
電話番号:0920-45-3805
FAX番号 :0920-45-3800
ホームページ:https://ja-iki.jp/