ほうれんそうは暑さに弱く、15~20度の冷涼な気候を好み、かつては都市近郊で夏以外の期間に生産される野菜であった。飛騨地域でほうれんそうの栽培が始まったのは、今から約60年前の昭和30年代である。当時、夏が涼しい飛騨地域でも雨が降ると
立枯病を引き起こすことから、ほうれんそうの夏作は難しいといわれていたが、飛騨地域で開発された「雨よけハウス」による栽培技術の導入で本格的な生産を開始した(写真1)。飛騨式雨よけハウスの特徴は、ビニールフィルムのほぼ全面を巻き上げによって換気できる点である(写真2)。日中は冷涼な外気を取り入れつつ、雨よけ効果により収穫量が安定したこともあり、生産農家が増加した。その後、真空予冷施設の導入などにより、夏場の暑さによる品質低下を克服し、高品質な夏ほうれんそうとして高い評価を得るようになった。
高標高地(約300~1200メートル)で栽培される、管内のほうれんそうは、日中に光合成により栄養分を蓄え、気温が下がる晩から朝にかけて糖分をためる。高冷地の気象条件と生産者の高い技術が、葉に厚みがあり甘くて柔らかい「飛騨ほうれんそう」をつくり出している(写真3)。
JAひだでは、ほうれんそうの収穫後、生産者が調製・袋詰め・箱詰め作業(1箱3.6キログラム入り)を行い、管内10カ所の集荷場に持ち込み、直ちに真空予冷装置(写真4)で20~25分かけて5度まで冷却される。予冷されたほうれんそうは、コールドチェーンで鮮度を保持したままの状態で京阪神や関東などの店舗まで輸送される。出荷最盛期は5~10月である。
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