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産地紹介 野菜情報 2024年1月号

徳島県 JA大津松茂 ~きめの細かい土壌から一本一本丁寧に手掘りされるJA大津松茂の「れんこん」~

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大津松茂農業協同組合 本所管理部総務課 猪井 琴巳
れんこん

1 地域の概要

 大津松茂農業協同組合(以下「JA大津松茂」という)は、徳島県鳴門市大津町を管轄するJA大津と、板野郡松茂町を管轄するJA松茂が平成27年に合併して新設された(図1)。令和4年度の正組合員数は、1140人(888戸)である。
 鳴門市は明石海峡大橋の開通に伴い本州と高速道路で結ばれ、松茂町には空港やバスターミナルが整備されており、一帯は“四国の玄関口”として関西圏への交通における要所となっている。また阿讃山脈東端に位置し、吉野川下流域の水利に恵まれた肥沃な土地では農業が盛んに行われており、かんしょ(「なると金時」)、梨、れんこん、だいこんの4品目が主要特産物である(図2、写真1)。

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2 徳島県のれんこん栽培の歴史

 れんこんは、白亜紀(約1億4500万年前~約6600万年前)にはすでに存在していた古い歴史を持つ植物である。そもそもはその可憐な花を()でるための植物であったとされるが、食用として栽培され始めたのは鎌倉時代といわれる。
 徳島県で食用としてれんこん栽培が広がるきっかけとなったのは、塩害に悩み水稲に代わる作物を探していた松茂町の農家ら3人が、大正7年(1918年)に岡山県から種れんこんを持ち帰ったことであるといわれている。この3人の中に大津町の者も含まれていたことが、大津町におけるれんこん栽培の始まりであり、吉野川下流域でのれんこん栽培のきっかけとなった。
 食用としてれんこんが持ち込まれて以降、れんこんの栽培面積は戦争の影響もあり増加と減少を繰り返したが、元来大部分が湿地であった吉野川下流域の土壌や温暖な気候がれんこん栽培に適していたことから、昭和35~44年(1960年代)には行政や農協の補助や奨励などに加え、水稲からの転作の後押しにより、急激に産地形成が進んだ。
 その後、大阪府などのれんこん産地が都市化により衰退したこともあり、もともと京阪神市場との流通が盛んであった徳島県産れんこんの需要が高まり、現在に至っている。

3 JA大津松茂管内のれんこん栽培

 現在、徳島県全体のれんこんの作付面積は約500ヘクタールである。このうち40%以上を占める約220ヘクタールがJA大津松茂の管内であり、生産者数は118人である。
 JA管内では、中国種の一つである晩生品種の「備中(びっちゅう)」を多く栽培している。近年は、同じく中国種の一つである早生品種「ロータス」も多く生産されるようになってきたが、「備中」は節間が長く色白できめ細かな肉質をしており、古くから関西市場での評価が高いことから管内での主要品種となっている。また作付体系は主にトンネル栽培と露地栽培であるが、近年はハウス栽培に取り組む生産者も増加傾向にある。
 さらに収穫方法もさまざまで、すべてのれんこんを掘り取る「総掘り法」、すじ状にれんこんの一部を残して掘り取り、翌年の種として使用する「すじ掘り法」、作付け年には収穫せず(たん)(すい)したまま越冬する「二年掘り法」などがあり、これらの作型と収穫方法を組み合わせることで周年出荷を可能にしている(表1)。

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 管内におけるれんこん栽培の最大の特徴は、その土壌にある。他産地の多くの圃場は水をたっぷり含んだ比較的軟らかい泥だが、管内のれんこん圃場はすべて硬い粘土で形成されている。それゆえに収穫方法も特別だ。れんこんの収穫方法には、水を張った状態の圃場でポンプを用いて水圧により掘り出す方法と、水を完全に抜いた状態の圃場で掘り出す方法の主に2種類であるが、土壌が粘土質であるため、水圧により掘り出すことは困難で、後者の方法を用いて一本一本丁寧に手掘りしなければならない。れんこん掘り機でれんこんを傷付けない範囲で大まかに表土(30~40センチ)を取り除いた後(写真2)は、熊手を使った手作業で10センチ程度慎重に掘り取る(写真3、4)。芽の方向かられんこんが伸びている方向を見極め、折れたり傷が付かないように、付け根から掘り出すのは熟練の技術が必要で、重労働である。
 また、定期的に土壌診断を行い、過去の生育反応を考慮して堆肥を施用した土作りをするとともに、肥効調整型肥料(注1)を使用することで、化学肥料の低減を実現している。化学農薬の使用を低減するための工夫としては、性フェロモン剤を利用したトラップ(フェロモントラップ)を設置し(写真5)、葉を食害するハスモンヨトウの幼虫の防除を行うことで、産地全体での被害発生密度を低下させている。
 土作りにこだわり、安全で安心な、消費者に信頼されるれんこん作りを心掛けて日々取り組んでいる。こうした生産者などによる多大な努力のもと収穫され、市場に送られる当JA管内のれんこんは、すらりと色白で艶がある美しい見た目と、多様な食感が高い評価を受けている。
 
注1:肥料効果を持続させるために、肥料が溶ける量や溶ける時期を調節した化学肥料。肥料成分の流出を防ぐことにより減肥が可能になるとともに、環境への負荷が小さいとされている。




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4 出荷体制

 徳島県のれんこん出荷量は、茨城県、佐賀県に次いで全国第3位である。主な出荷先である京阪神市場での産地別シェアは全国第1位である。
 例年、7月から新物れんこんの出荷が始まり、翌年6月までの周年出荷でLサイズを中心に約2000トンを出荷している(表2、写真6、7)。特に晩秋から冬にかけて、中でも年末年始の時期に最も需要が高まる。

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 より新鮮な状態で消費者に届けられるよう、掘り取ったれんこんは翌朝には市場に運び込む。
 土作りから始まって出荷するまでの安全・安心への取り組みを客観的に証明するべく、徳島県が進めている「とくしま安2あんあん農産物」認証制度の利用も積極的に行っている。
 「とくしま安2農産物」認証制度とは、安全で安心な農産物を出荷するための生産管理および品質管理が行われていること、栽培から出荷、消費者のクレーム対応までの体制整備が行われていることを第三者機関が審査し、徳島県知事が認証する制度である。認証を得た生産者の出荷物には認証マークを付すことができ、消費者の選択行動を手助けする一つとなっている。

5 販売戦略

 丁寧に心を込めて栽培されたJA大津松茂管内のれんこんは、見た目の美しさについては先に述べたとおりであるが、味も他産地産とは違った魅力がある。口当りが柔らかだが、食べればシャキシャキと歯切れが良い。切り方や調理法によってはホクホク、モチモチとなめらかな舌触りが楽しめ、和食のほか、どのような料理にもよくなじむ。
 このJA大津松茂産れんこんならではの良さは、一つのブランドとして確立しており、これを強くアピールするためにフェアやキャンペーンを定期的に実施している。中心となるのは、JA大津松茂が運営する農産物直売所「えがお」でのPRイベントである(写真8)。11月8日の「徳島県れんこんの日」(118=いいはす)に合わせてれんこんの売り場を拡大し、JA大津松茂女性部による手作りのれんこん料理の試食会をするなど、れんこん生産地ならではの消費宣伝を展開している。

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 煮物などの定番料理以外の食べ方を提案することで、地元、徳島県内でのさらなる消費拡大も目指している。また、主消費地である京阪神では、量販店の協力の下、れんこん売り場を強化している。さらに、電車内にステッカーを貼付したり、テレビ番組やラジオ番組で視聴者プレゼントを実施するなど、マスメディアを利用した宣伝活動も行っている。 
 直売所では、さまざまなれんこん加工品も販売している。生産者手作りのれんこんチップスや、見た目にもかわいいピクルスなどのほか、薬膳粥やれんこんの葉でつくったお茶など多様な商品を扱っている。れんこんには種や葉なども漢方として利用されてきた歴史があるが、多種多様な商品を並べることで消費者にれんこんへの興味を深めてもらいたいと考えている。

6 課題と今後の取り組み

 れんこんの一大産地として、課題は作付面積および収量の減少である。少子高齢化に伴う後継者の減少や「総掘り法」から収穫の一部を翌年に残す「すじ掘り法」への作型の変化、そして腐敗病が主な原因であると考えられる。特に喫緊の問題となっているのが腐敗病である。
 腐敗病は菌が原因の土壌病害で、発病すると地下にあるれんこんが褐色または黒色に変色し腐敗するため、収量の大幅な低下を招く。また有効な農薬がないことから、一度発生すると抜本的な防除法がない病気である。
 腐敗病対策として取り組んでいるのは、夏場に石灰窒素を混入し圃場全面をポリフィルムで被覆する「太陽熱消毒」である。しかし、太陽熱消毒は処理を行うために一作休まなければならず、費用や手間もかかる上に効果の持続期間が限られていることから、腐敗病の発生面積を減少させるには至っておらず、効果的かつ簡易な防除技術の確立が求められている。
 このような中で、近年、他県で開発された新しい土壌還元消毒(注2)の技術が、休作せずに腐敗病防除ができるのではないかと考え、実証実験に着手した。このように、さまざまな方法で腐敗病対策に取り組んでおり、現在も試行錯誤を続けている。
 JAとして、消費拡大に向けたフェアの実施や腐敗病対策としての防除技術の確立などに努め、生産者の所得向上とれんこん産地の維持に向けて取り組んでいきたい。
 
注2:土壌還元消毒とは、土壌に有機物を投入して土壌中の微生物を活性化させ、酸欠状態にすることで、病原菌を窒息させる消毒方法。

◆一言アピール◆

 れんこんは、昔から風邪予防や咳止めのほか、血液の浄化と造血作用が期待できるといわれる。ビタミンCや鉄分、カリウム、タンニンなどを含み、疲労回復効果や高血圧予防などにつながるとされている。れんこんに含まれる栄養素の効能は、テレビ番組でも幾度となく取り上げられるほどで、特にタンニンがアレルギー症状の原因物質を減少させる効果があることから大きな注目を集めている。
 穴が開いていて「先が見通せる」ことから縁起が良いとされており、栄養満点でどんな料理でも活躍できるれんこん。ぜひJA大津松茂のれんこんを、家庭料理のレギュラー食材として取り入れていただきたい。

◆お問い合わせ先◆

担当部署:大津松茂農業協同組合 本所管理部総務課
住所:徳島県鳴門市大津町備前島字横丁ノ越297番地1
TEL:088-686-1106
FAX:088-686-5940
ホームページ:http://ja-om.or.jp/