(1)春系を中心とした栽培体系
他の産地が市場向けやカットキャベツなど業務用の寒玉系にシフトする中、JAわかやまは差別化により売り場を確保するため、病害虫の管理に手間を要する冬場も含めて柔らかい春系を中心とした栽培体系を構築している(図3)。
JAわかやまでは、紀の川清流と温暖な気候の中で太陽光をしっかり浴びて育つ野菜を「紀州てまり野菜」としてブランド化している。JAわかやまの春系キャベツは肉質が柔らかく、サラダや炒め物など用途も広いため、関西市場からの信頼が厚く、オリジナルブランド「紀州てまり野菜」を支える柱となっている。
(2)品種の選定
品種は、「春のかほりSP」を中心に、近年の気象変動に順応した品種・作型を品種試験によって選定し、11月から翌5月まで切れ目なく供給できるよう安定出荷体系を組んでいる(図4)。
(3)防除・圃場管理の工夫
栽培における重要な点は、上記に挙げた柔らかいキャベツという特性上、寒さなどによる傷みに加え、下葉の軸に近い部分に淡褐色もしくは灰褐色の病斑ができる菌核病などの病気の発生に気を付けて栽培することであり、適期防除を徹底し(図5)、品質の向上につなげている。
また、圃場の畝を20センチメートル以上に盛り上げる高畝栽培を行うことで、排水性や通気性を良くし、キャベツやはくさいなどアブラナ科野菜の連作による根こぶ病などの発生リスク軽減につなげている。
(4)省力化の取り組み
ア 育苗施設の活用
手間のかかる育苗については、中規模・大規模農家がさらなる規模拡大に取り組めるよう、育苗施設(JAわかやまグリーンステーション)を最大限に活用している(写真1)。
具体的には、育苗の分業化を進めるとともに、8、9月の暑い時期に迎える育苗期間の管理をJAわかやまの職員が担い、発芽不良や病害虫の発生を最小限に抑えることで、新規就農者、定年帰農者などの育苗リスク軽減に取り組んでいる。これにより高品質苗を安定的に生産者に供給し、産地の維持拡大につなげている。
イ 野菜移植機の導入
定植作業では多くの農家が野菜移植機を活用しており(写真2)、慣行(手植え)の約5分1の労力で作業を行うことが可能である。機械化は、労力の軽減、作業時間の短縮につながり、管理作業(除草・病害虫防除、かん水作業等)に時間を割り当てることで、品質向上につながっている。
また、農業従事者の高齢化や担い手不足・離農が進む中、JAわかやまでは農業従事者(新規就農者や既存農業者)の設備投資の負担や労力の軽減を目的として2017年度から野菜移植機のレンタル事業を開始し(写真3)、産地の維持・拡大に貢献している。