(1) 「しみず有機」による地域循環型農業の実践
当町は、酪農や肉牛の他に養鶏も盛んであることから、土作りに欠かせない堆肥などの有機物資源に恵まれている。この恵まれた条件を生かし、平成20年より、JAの家畜排泄物堆肥化施設にて、牛糞と鶏糞による堆肥ペレット肥料「しみず有機」を製造。地域循環型農業の実践を推奨するとともに、26年からは「しみず有機」を施用した作物(にんにく、小豆、アスパラガスなど)を「とれたんと
(注2)」というJAの取り組みブランドとして位置付け、販売事業を展開している。
また、にんにく栽培を始めた当初から「十勝清水にんにく」のネーミングで販売を展開してきたが、さらなる知名度向上によるブランド力強化を図るため、令和3年に「十勝清水にんにく」のロゴを新たに作成するとともに、商標登録を申請している(図3)。
(注2) 「とれたんと」は「とれたて」と、「たんと(たくさんの意)」を組み合わせたJA十勝清水町の登録商標。
(2) 規格外品の高付加価値化
生産者の所得確保のためには、単収向上とともに青果向けの販売価格をいかに高く設定できるかということが鍵になるが、販売価格については、圧倒的な物量およびブランドが確立されている青森産と肩を並べることは難しい。そこで、平成24年より、収穫量の3~4割程度発生する規格外を加工用として販売するのではなく、JAが黒にんにくに加工することで、規格外品の活用による付加価値向上を図ることとした(写真2)。その後、にんにくの生産量が順調に伸びてきたため、27年に、農産物加工処理施設を整備し、現在では、黒にんにく以外のにんにく加工品にも着手、年間およそ25トンの加工を行っている。
(3) 優良種子の確保
にんにく栽培では、最初に種子を導入し、その後、2~3年は収穫物のりん片を植えて自家増殖を行うが、 これは、種子の増殖率が4倍程度と極めて低いことと、種子の導入コストが高価であるからである。
一方、種子の導入コストを低減しようと自家増殖年数を伸ばすと、モザイク病などのウイルス感染が進み生産性が低下する。このため、にんにくの安定生産のためには、毎年安定的に、ウイルス感染が少ない生産性の高い優良種子をどのようにして確保するかが重要になる。
しかしながら、当JAが栽培を開始した当初は、ウイルスフリー種子の導入が困難であったため、優良種子の確保を最優先課題と位置付け、平成23年に外部の関係機関とプロジェクトチーム(JA十勝清水町、株式会社植物育種研究所、株式会社リープス、赤平オーキッド株式会社)を立ち上げ、海外の企業と提携し、ウイルスフリー苗の大量生産に取り組むことになった。なお、培養方法、ウイルスフリー苗の栽培方法などについては、情報が少なく、手探り状態の中で試行錯誤を繰り返し、一連の技術を確立するまでに3年程度を要した。
現在は、海外で培養させたウイルスフリー苗を定期的に輸入し、ハウス10棟(110坪ビニールハウス4棟、190坪ビニールハウス6棟)で2年間増殖させ、採種
圃を経て、生産者へ供給する体制を構築している(写真3)。
(4) 地域独自の栽培技術対策
「十勝清水にんにく」の栽培基準は、「しみず有機」を10アール当たり100キログラム施用することとしており、その基準を満たしたもののみ、「十勝清水にんにく」として出荷している。
また、当地域では、冬期間にマイナス20度を下回ることが珍しくない。例年、12月中旬頃に根雪となり、にんにくは、雪の下で厳寒期を凌ぐが、直近の3年間は年明けの厳寒期に積雪がないという年が続き、凍害により生産量が落ち込んでいる(図4)。
厳寒期ににんにくが強風にさらされると、地上部の茎葉のみならず、根が損傷を受け枯死してしまうため、防風ネットを設置し、冬期間の防風対策を導入している生産者も少なくない(写真4)。
(5) 省力化対策
当初は、主力の畑作物(小麦、てん菜、豆類)と作業が競合しないというメリットで作付者が増えたが、マルチ栽培では手間がかかるため、ある程度の栽培面積を超えると労働力不足により作付面積を伸ばせない。そこで、海外で主流になっている平畝の露地栽培に着目した。今後、にんにく栽培を継続していくためには省力化が最も重要との考えのもと、海外視察を経て、令和2年度に海外製の
播種機、収穫機、粗選別設備、種子分割設備を導入している。
現在、生産者の省力化および規模拡大のサポートを図るため、JAが植付・収穫作業を行っている。従来のマルチ栽培に比べ、播種作業および収穫作業に要する時間当たりの作業量は6~7倍で、省力化に大きく貢献できている。
また、平畝栽培は高畝マルチ栽培に比べ、厳寒期の強風にさらされる部分が少なく、凍結害は軽微という結果になっている。
(6) イベントを通した「十勝清水にんにく」のPR
「十勝清水にんにく」を消費者に選んでもらえるようにするためには、効果的なPR活動も重要になることから、令和元年度に、町、にんにく部会(JA十勝清水町)、商工会、観光協会とともに、「十勝清水にんにく肉まつり」を開催し(写真5、6、図5)、町内外の消費者に対するPR活動を展開した。次年度以降は、新型コロナウイルスのまん延により中止しているが、地域活性化への貢献と十勝清水にんにくのPRを図るため、町内の飲食店に対し、「十勝清水にんにく」や当JAのブランド牛「十勝若牛」を提供し、飲食店側はこれらの食材を利用した料理を一般消費者に提供するという期間限定の飲食店フェアを開催している。