ホーム > 野菜 > 野菜の情報 > 熊本県 JA鹿本 ~高度な栽培管理と光センサーによる厳しい選果体制で高品質なすいかを食卓へ~
鹿本農業協同組合(以下「JAかもと」という)は、熊本県の北部に位置し、山鹿市と熊本市北区植木町を管内としている。東西20キロメートル、南北35キロメートル、総面積は365ヘクタールで、気象条件は平均気温16.9度、年平均降水量が約2000ミリ(熊本市)と比較的温暖な気候である。
生産地域は南部の平坦地域と北部の中山間地域に区分され、平坦地域ではすいか、メロンに代表される、日本有数の施設園芸地帯を形成している。併せていちごやアスパラガス、なすなどの野菜や、米、麦、畜産、果樹、花きなど幅広く産地化されている(図1)。すいかの産地は主に内陸部の台地に形成され、土質は黒ボク土で耕土が深く、排水が良好ですいか栽培に適している。
一方、北部地域は、米、麦、畜産、果樹、筍、茶、花きなどの営農が中心で一部にいちご、アスパラガスなどが導入されている。
すいか栽培の歴史は長く、昭和29年から植木町の組合で共同出荷が始まり、接ぎ木栽培の導入や30年代からの急速なトンネル・ハウス栽培の普及により一大産地が形成された。
その後は、耐候性ハウスや連棟ハウスの導入など施設の高度化が進み、平成元年には、農協合併による「JAかもと」の誕生に伴い、統一ネーミングである「夢大地かもと」を制定し、ブランド確立による有利販売に努めてきた(図2)。
栽培面積は合併時をピークに生産者の高齢化などで減少傾向にあるが、春夏すいかの主産地として高品質なすいかを安定的に出荷するため、平成30年産から新たな取り組みを展開している(図3)。一つ目は、栽培面積の拡大に伴う出荷量の増加分に奨励金を支払う「出荷量維持拡大奨励対策」である。二つ目は、出荷期後半の選果機利用率の向上を図るために6月出荷分に奨励金を支払うものであり、単収向上や生産者数の確保に一定の効果を見せている(10アール当たりの出荷玉数は、平成29年の475玉から令和2年511玉に増加、平成30年~令和2年は新規出荷者34人を確保し、生産者数の減少割合を取り組み開始前に比べ半分に圧縮した)。
さらに、平成30年7月に「地域担い手育成センター」を開所し、研修施設で新規就農者の育成を開始した。これまでに2期8人が営農を開始している。
現在515人の園芸部会員のうち、すいか専門部421人が、耐候性ハウスや連棟ハウス、単棟ハウス、大型トンネルを複数組み合わせ、施設装備や品種ごとに決められた栽培スケジュールで作付けを行っている(写真1)。
主となる栽培体系は連棟ハウスで4月に収穫し、その収穫直前に植え替え用の苗を定植、5月~6月に収穫を行う方法である。併せて労力に応じて単棟ハウスを組み合わせるのが一般的である。夏から秋にかけてはすいか、メロン、キュウリなどが栽培されウリ類を中心とした周年栽培が行われている(図4)。
品種は出荷時期毎に選定しており、3月は「スーパーエース」、4月~5月の出荷ピークには「春のだんらん」や「祭ばやし」を出荷している。品種は園芸部会で毎年試験栽培や現地検討会を行い、糖度や品質、栽培のしやすさなど十分検討を重ねて採用している。
また、本地域は同一ほ場でウリ類を年2~3作栽培する体系が主流であり、しかも長年の栽培により連作障害による生育不良などが課題となっていた。このため、太陽熱と薬剤による土壌消毒や緑肥栽培、深耕による排水対策、良質堆肥の投入、土壌分析に基づいた適正施肥などの土づくりにより、毎年肥大がよく、良食味のすいか生産が可能となっている。
栽培面では、すいかは1株ずつ人の手やミツバチで交配(雌花に雄花の花粉を付け受粉すること)して実をならせるため、生育を揃え一斉に着果させることが労力面や大玉生産において重要であり高度な技術を要する。このため、天候を考慮しながら交配までの温湿度管理や、「つる引き」と呼ばれるつる先をそろえる作業、腋芽摘みに細心の注意を払っている。
JAかもとでは交配後、すいかの大きさが直径7センチメートルになったときに形の良い果実を1株1果残し、他は摘果する。その際、着果棒という6色の着果標識を使い3日に1回、1果ずつ決められた色の棒を立て、収穫前になると出荷査定会で糖度や熟度を確認し、着果棒の色ごとに収穫日を決定している(写真2~4)。このように1玉ずつ最もおいしい状態で収穫することで安定した品質を確保している。
さらに、栽培時期や品種を限定し、1日おきの交配日標示を行うなど厳しい栽培基準で作られた、糖度が12度以上のすいかを「よかよか西瓜」として、付加価値を高め販売している
収穫したすいかは、平成26年に再編整備された「JA鹿本植木瓜類選果場」と「広域瓜類選果場」で選果・梱包し、東京、大阪、名古屋など全国の市場へ出荷している(写真5)。
選果ラインでは、外観や重量を測定した後、内部品質センサーで糖度や熟度を1玉ずつ計測し、さらに空洞検査装置で空洞の程度を検査し等階級を決定している(写真6)。検査をしたすいかには生産者名の入ったラベルを貼り付け、各自責任をもって出荷している。
JAかもとでは生産者から提出される作付計画と着果棒の集計結果、栽培状況をもとに市場と情報交換を行い、量販店等の売り場確保に努めている。
令和2年産は天候にも恵まれ申し分のない出来栄えだったが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、業務需要の低迷などこれまでに経験したことのないような環境下での販売となった。これまでは女性部による消費地での試食宣伝会で販売に弾みをつけていたが自粛せざるを得ず、売り場の確保・拡大が今後の課題である。
そのような中、令和2年産から出荷後半の6月の品質向上対策として「黒皮スイカ」の本格的な導入試験を4ヘクタールで開始した(写真7)。令和3年産は15ヘクタールに拡大して栽培試験を行い、技術の定着を図っている。