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奈良県~大和高原地域におけるほうれんそうの周年栽培~

奈良県 東部農林振興事務所 農業普及課 主任主査 神川 諭
(現 奈良県 食と農の振興部 農業水産振興課)


1 産地の概要

奈良県のほうれんそう産地は、県北部の大和平野と標高350~500メートルの大和高原にあり、大都市近郊という地の利を生かして拡大してきた(図1)。大和平野ではトマトやいちごの後作として秋季から春季に、大和高原では1970年代後半から冷涼な気候を生かし、夏季を中心にほうれんそうが栽培され、1990年代半ばには、作付面積は400ヘクタール以上にった(現在の作付面積は、170ヘクタール)。大和高原では、近年、冬の積雪が少なくなったことや単価の安値もあり、冬季の栽培も増え、周年出荷が行われるようになっている。奈良県のほうれんそうの販売額は17億円に上り、野菜の中ではいちごに次ぐ第2位の品目となっている(2018年現在)。本稿では、大和高原におけるほうれんそうの周年栽培について紹介する。

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2 大和高原のほうれんそうの作型と栽培上の特色

ほうれんそう生産者は、2アール前後の雨よけハウスを数棟~数十棟ほど所有し、収穫時期を予測しながら随時しゅしている(写真1)。収穫は春から秋を中心にほぼ同年で行われている(図2)。周年出荷を行うためには、生育が緩慢になる冬期に一定量を定期的に出荷することが可能なハウスの規模を保有する必要がある。一方、夏期(68月)は、生育が早いため収穫が終了したハウスを対象に土壌燻蒸剤処理や太陽熱消毒による萎凋病対策を順次行っている(写真2)。

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ほうれんそう栽培ではそれぞれの気候や季節に合わせた品種選択が重要である。収量性、耐暑性、低温伸張性、立性、作業性(葉柄のしなやかさ)、抽だい性、べと病抵抗性などについて、出荷部会、農協、種苗メーカー、県農林振興事務所および県農業研究開発センターとの情報交換を実施し数多くの品種の中から栽培時期に適した品種の検討を行っている。

3 生産拡大と新規就農者の定着に向けた試み

大和高原南部の地域(旧菟田野町)、むらつえむらにはそれぞれほうれんそう出荷部会があり、大阪市場、奈良市場を中心に出荷している。曽爾村では共販体制のもと1999年に県内では珍しい差圧式予冷庫(写真3)が整備され、品質の保持に取り組み、約15年前から市場ニーズに合わせてみずなやしゅんぎくの生産も行われるようになった。御杖村では1999年に共同調製予冷施設が建設され、共選共販体制がとられ(写真45)、生産者が収穫したほうれんそうは、そのまま施設に集荷され、予冷庫に入れられた後、調製、袋詰めされている。同時に、奈良県農業協同組合が土地付きリースハウスを建設し、生産規模を拡大したい人や新規にほうれんそう経営を始めたい人に賃貸する事業を行った。本事業により水田におけるハウスの団地化が進み、作業性や排水の効率化などが図られた(写真6)。以上の施策により、市場での評価が上がるとともに、栽培と調製の分業化による生産面積の規模拡大、新規就農者の定着、施設における村内の人々の雇用創出につながった。

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4 契約取引による収入安定の現実

複数の市場関係業者や仲介業者などの実需者との直接契約取引を行うことで、収入の安定化に取り組む生産者が増えてきている。これら生産者は1日当たりの出荷数量、単価、出荷期間などを実需者と取り決め、その契約を履行するために天候不順や災害、病害虫の発生などの不測の事態に備え、契約数量よりも多くの作付けを行っている。このため、積極的な面積拡大や施設投資が行われており、一部では収益力の高い産地づくりに必要な生産技術高度化施設の整備等を支援する産地パワーアップ事業を利用し包装機やハウスの導入も図られている。大規模化に伴い法人経営に移行する生産者も現れ、県内の野菜関係生産法人のうちの3分の1が大和高原にある。

5 産地の課題

ほうれんそう出荷部会では、2000年代前半に約130人いた部会員が現在は、高齢化などにより80人にまで減っており、担い手不足が深刻な問題になっている。そのため、御杖村では、部会と連携し3年ほど前から地域起こし協力隊を受け入れ、就農支援を行っている。協力隊員は、部会員のもとで作業を手伝いながら、栽培経営の技術を学び、これまでに1名新規就農し、2020年4月にも1名が新規に就農した。今後は、安定した周年出荷を行うための高い技術の習得や限られた労働力の中での面積拡大による所得向上が課題である。

直接契約取引を行う法人や大規模生産者は、規模拡大に伴う労働力不足や災害リスクの増大に直面している。傾斜地における農地での作業は、平地に比べて作業効率が悪い上、のりめんの面積が大きいことから草刈り作業にかなりの時間を要する。他産業でも労働不足が問題となる中、求人に対する応募が少なくなっていると窮状を訴えている。

また、集中豪雨による作物の冠水、強風によるパイプやフィルムの破損、積雪によるハウスの倒壊被害が後を絶たない。このため、高強度パイプ(パイプ径31.8ミリメートル、肉厚2.0ミリメートル)を用いたハウスの普及や、農業用ハウスの補強や暴風ネット等の設置を支援する農業用ハウス強靭化緊急対策事業を利用したハウスの補強も一部で進んでいる(写真7)。

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加えて、経営面でも経費の削減に向けた量目や包装、出荷ケースの形態、運送方法・ルート等の最適化について模索が続いており、生産者は難しい対応を迫られている。

行政や農協、関係機関が連携を取り、支援事業を通じて産地振興を進めているところであるが、さらにこれらの問題に対する課題を明確にし、解決に向けた取り組みを行う必要がある。

一言アピール

 冬期に出荷される「大和寒熟ほうれん草」(図3は平成21年に大和のこだわり野菜(注)に認定されました。「大和寒熟ほうれん草」は品種、栽培方法、栽培地域、糖度の測定等栽培マニュアルに基づいて生産されており、出荷するためには糖度について一定条件をクリアすることが必要です。大和高原地域の冬期の厳しい寒さにあたることで、生育は遅くなるものの、その分糖度が上がり、甘みが強くなります。是非一度ご賞味ください。
 (注)「大和のこだわり野菜」とは、栽培や収穫出荷に手間をかけて栄養やおいしさを増した奈良県オリジナルの野菜などを奈良県が「大和のこだわり」として認定しています。

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お問い合わせ先

担当部署:奈良県 東部農林振興事務所 農業普及課
 住  所:〒6330227 奈良県宇陀市榛原三宮寺125(大和野菜研究センター内)
 電話番号:(0745)823248
 FAX番号:(0745)821118


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