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今月の野菜

長野県 JA信州諏訪
~諏訪地域の冷涼な気候を生かしたセルリー(セロリ)栽培~

信州諏訪農業協同組合 営農部 営農企画課 主任 三浦 一英


1 諏訪地域の概要

信州諏訪農業協同組合(以下「JA信州諏訪」という)は、2004(平成16)年に八ヶ岳西麓地域の「諏訪みどり農業協同組合」と諏訪湖周辺の「諏訪湖農業協同組合」の二つのJAが合併し広域な地域を管内としている。

諏訪地域と呼ばれる管内は、長野県の中部に位置し、岡谷市、諏訪市、茅野市、下諏訪町、富士見町、原村の3市2町1村を管内としている(図1)。

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管内は、日の昼夜の温度較差が大きく、年間の平均気温は11度前後と夏は涼しく冬は厳しい寒さになり、また年間降水量は1250ミリ前後と少なく典型的な内陸性気候である。澄んだ空気と美しい豊かな自然に囲まれた地域であり、耕地面積は6566ヘクタールで、標高700メートル台の諏訪湖周辺から標高1200メートルの八ヶ岳の裾野までの冷涼な気候のもとで、標高ごとに多品目にわたる農作物を生産している(写真1)

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また、諏訪地域は本州のほぼ中央に位置しており、東西の消費地(京浜、中京、京阪神)への交通状況にも恵まれている。

2 産地概要

管内は地域により特色がかなり異なっている。一つは八ヶ岳西麓地帯で、高原野菜を主体とする夏秋キャベツなどの指定産地となっており、専業農家が多く、セルリー(セロリ)(以下「セルリー」という)・パセリ・ブロッコリー・キャベツなど約30品目の野菜と、きく・カーネーション・トルコギキョウ・スターチスなど約50品目の花きが栽培されている。

もう一つは、管内でも比較的都市部の諏訪湖周辺を中心とする地域で、直売部会が中心であり、兼業農家・自給農家で構成されている。

平成30年度のJA信州諏訪の販売高は92億984万円、その内訳として野菜42億7366万円(全体の46.4%)、花き19億7929万円(同21.4%)、米・雑穀15億1600万円(同16.4%)、畜産7億2192万円(同7.8%)、直売所他6億3998万円(同6.9%)、きのこ7248万円(同0.7%)、果樹他646万円(同0.1%)、となっている。

その中で野菜の販売額を見ると、セルリーが21億4900万円で50.3%を占め、次にブロッコリー、パセリ、キャベツなどが続き、セルリーはJA信州諏訪の主力品目となっている(表1)。

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また、セルリーの収穫量を見ると、長野県は全国シェア位(45.7%夏場は約を占め、全国有数のセルリーの産地といえる(図2)。

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3 栽培の経緯

セルリーは、冷涼な気候を好むことから、夏涼しい管内は最適な生産地帯になっている。管内でのセルリー栽培は、1922(大正11)年の茅野市玉川の栽培が始まりである。導入当初は、病害の発生により全滅するなど幾多の失敗を重ね、1926(昭和元)年に東京と名古屋へ初めての出荷となった。また、原村では1933()年に試作栽培が行われ、1940(15)年から本格的な栽培が開始された。

太平洋戦争では栽培が禁止され、栽培が途絶えることとなったが、終戦後、高度経済成長高速道路の整備に伴い、八ヶ岳山麓地帯の高冷地でも都市近郊農業に近づいたことや、長野県でもいち早く本格予冷施設が導入され有利販売の基礎を確立したことなどが、セルリー栽培の産地形成・成長を遂げた大きな要因となった。

1967(42)年「諏訪洋菜専門委員会」としてセルリー、パセリ、キャベツ、レタスなどの洋菜系の生産部会が完全統一され、1975(50)年に郡下生産者全員による共同計算が実施され、ブランド名も「諏訪洋菜」として統一された。現在洋菜系の生産者部会は、「信州諏訪野菜専門委員会」となり、その傘下にセルリーの生産者部会「セルリー専門部会」を構成している。現在(2019平成31年)のセルリー専門部会の生産者数は58戸、作付面積は135ヘクタールとなっている。

4 栽培概要

(1)栽培暦

管内では、施設栽培(ハウス栽培)と露地栽培を駆使することにより、夏場の長期間の出荷を実現させている(図3、写真2、3)。12月上旬~6月上旬まで播種を行い、1~8月まで育苗、3~8月まで順次定植を行い、収穫は5月上旬11月中旬まで行っている。

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このように播種から収穫まで23週(6カ月程度、1618旬)を要し、他の野菜に比べて格段に栽培日数が長く収穫までに労力がかかっているが、播種、育苗初期の苗の管理は、JAが主に行うことで、生産者の労力軽減を図っている。

(2)セルリー専門部会の活動

セルリー専門部会では、高品質のセルリーの出荷数量を確保するために高度な栽培技術の習得や、安定的な販売に取り組むため市場担当者を招いて出荷規格の確認に取り組むなど、さまざまな活動を行っている。

ア 生産面

連作障害対策など安定生産に関わる事項への取り組みや生産の維持と作期拡大(施設化による前進出荷、安定生産)に関する技術の習得、また現在のJA独自補助事業(がんばる農家応援事業)で支援を受け、施設化に取り組んでいる。

イ 販売面

市場への安定供給や安定した販売のために市場担当者を招いて出荷規格の確認や、他産地と共同で消費拡大に向けたパンフレットを作成するなど、販売促進の取り組みを実施している。

ウ 採種事業

当地のセルリーは、栽培当初より採種者の自家採種により、産地に適正な優良品種を選定してきたことが大きい。採種者が多大な努力と試行錯誤を繰り返すなかで、夏場の高温期の品質低下という問題から育種されたのが、現在の「諏訪号」であり、生産者の共同の力による産地確立の大きな要因となっている。

諏訪号は、1990(平成年)度より本格導入され、圃場などの条件にもよるが従来品種より1カ月栽培期間が短縮可能となり栽培面積および作期の拡大につながった。また、夏場の高温期の品質低下が抑制され市場での高評価の原動力となっている。

5 出荷の工夫

セルリーは暑さに非常に弱い野菜である。高温下では品質の低下が著しく、本来のおいしさが損なわれてしまうので、産地ではセルリーの鮮度維持のためさまざまな工夫をしている。

(1) 収穫時のこだわり

生産者は、収穫作業を日が昇る前までに終わらせるために、深夜より圃場での収穫作業を開始する(写真4)。その後切り取ったセルリーの株を段ボール(10キログラム)に詰め、気温が上がる前に集荷施設へ搬入する。

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(2) 集荷施設での対応

集荷施設に搬入されたセルリーは直ぐに真空予冷装置で冷やし、その後トラックの積み込みまで、保冷庫にてさらに低温にて保管する(写真)。

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(3) 輸送時

JA信州諏訪では全便トラックの冷凍車にて輸送し、輸送中の品温上昇をおさえている。

このように収穫から市場への搬入に至るまで産地側でコールドチェーンにて出荷をし、鮮度を維持している。

(4) 安全安心の確保

JA信州諏訪では、セルリーの安全確保するために、定期的に残留農薬検査を実施している。

また誰セルリーが、どこへ(市場などへ)、何ケース出荷されているかなど、出荷履歴の確認ができるように体制整備を行い、苦情処理や回収などにも即座に対応出来るようにしている。

その他に、栽培履歴の記帳と出荷前の農薬の使用の確認を義務づけ、安全が確認されてから出荷をする仕組みとしている。

6 今後の課題

前述したが、セルリーは、播種から出荷までにおおよそ半年と非常に栽培期間が長い。その間に病虫害防除や肥培管理、芽かき、収穫など多くの作業があり、高度な栽培技術が求められる。

さらにここ数年は、高温、干ばつ、台風、凍霜害など異常気象や栽培環境の悪化による収穫量の減少などが問題となっている。この高度な技術のもとに生産されるセルリーの生産量の維持が、重要な課題となっている。

一言アピール

JA信州諏訪のセルリーは全国有数の産地で 夏場の全国シェア90%以上となっています。冷涼な気候のもとで栽培し、収穫から出荷まで鮮度維持に努めた当地のセルリーは、みずみずしくさわやかで、シャキシャキとした歯ごたえが楽しめます。
 当地のセルリーを見かけたら、是非一度ご賞味ください。

お問い合わせ先

 担当部署:信州諏訪農業協同組合 営農部 営農企画課
 住  所:〒391-0005 長野県茅野市仲町24番4号
 電話番号:0266-71-2700 FAX:0266-72-0103
 
ホームページ:http://www.ja-suwa.iijan.or.jp/


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