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今月の野菜

産地紹介:熊本県 JA熊本市
~光沢が良く甘みがある肥後の長なす~

熊本市農業協同組合 営農部
営農センター 副審査役 野田 智之


1 地域の概要

熊本市は、平成24年4月に政令指定都市に移行した熊本県の県庁所在地である。県の中央部を流れる坪井川、白川、緑川の3水系の下流部に形成された熊本平野に位置する。年平均気温が16.5度、年降水量1992ミリメートル、年日照時間1964時間であり、日照に恵まれた地域である。特に熊本市は冬季の気温が高く、温暖な冬の気候を生かし、秋から春にかけてなすを栽培している。また、熊本市の夏の夕方は「肥後の夕なぎ」と言われ、無風状態となり蒸し暑いのが特徴である。

熊本市を管轄とする熊本市農業協同組合(以下「JA熊本市」という)は、昭和62年4月に1市3町(当時)の7農協が合併し、ゆうほう農業協同組合として発足した(図1)。その後、平成2年10月に北部農業協同組合と合併し、4年4月に現在の名称へと変更した。管内では多品目にわたる農畜産物を生産しており、特に、天明、北野、ともあいなどの地区で生産されるすいかやメロン、あき地区や天明地区のなす、北西部の金峰山麓を中心としたみかんなどは、全国でも有数の産地となっている。

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28年4月には熊本地震が発生し、当JA管内も多くの被害に見舞われたが、組合員が一丸となって復興に取り組んできたところである。

JA熊本市の販売額(26年度)は、米・麦・雑穀9億5473万円、野菜102億7574万円、果樹42億6718万円、畜産6億8384万円などである。なすの28年度の販売額は44億2000万円で、野菜全体の販売額の約4割を占めている。

2 管内のなす栽培

熊本市でなす(熊本長なす)の栽培が始まったのは、大正末期ごろである。かつては露地栽培で夏場を中心に出荷していたが、現在は施設栽培の普及により、10月から翌6月まで出荷される冬春なすが中心である。JA熊本市のなす(ブランド名:でこなす)は、ボリューム感があって光沢が良く、甘みがある長なすである(写真1)。栽培品種は「筑陽」を採用している。

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平成28年における熊本県のなす出荷量は2万8400トンで、全国の約12%を占め、高知県(3万7200トン)に次ぎ全国第2位である。

28年におけるJA熊本市茄子部会(以下「部会」という)の部会員は164戸である。40歳未満の生産者は72人、平均年齢が36歳と、若手が多い部会である。生産面積は76.5ヘクタール、生産量1万1426トンとなっている。1戸当たりの経営面積は46.6アール、10アール当たりの平均収量は約15トンである。

3 施設・設備面での新技術

(1)耐候性ハウス

熊本市は、10月初旬まで台風襲来の危険性がある。従って、従来のビニールハウスでは、9月に露地状態で定植し、ハウスのビニールは、台風害の心配がなくなる10月中旬以降に被覆していた。近年、風速50メートルに耐えうる耐候性ハウスの導入を進め、ビニールを被覆した上で8月に定植することで、9月からの収穫が可能になった(写真2)。部会員の耐候性ハウス導入率は45%程度であり、現在も導入が続いている。

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耐候性ハウスは、10アール当たり1500万円以上と高価である。その投資に耐えられる経営モデルの実現が必要であるため、部会では、生産技術向上のための技術研さんに努めている。

(2)省エネ技術

冬季にも比較的高い温度管理が必要な冬春なす経営にとって、燃料費の削減は大きな問題である。そこで、部会ではさまざまな省エネ技術の導入を試み、経営改善に取り組んでいる。

プチプチシート(気泡緩衝シート)は、保温対策としてハウスの内張りに活用している(写真3)。約6割の部会員が導入しており、重油削減率は約1割である。二層カーテンは、部会員の約1割が導入し、重油削減率は約3割である(写真4)。また、カーテン資材のフィルムも、厚さを0.5ミリメートルから0.75ミリメートルへと厚くし、保温効果を高めている。循環扇は、ハウス内の気温ムラ解消に寄与している。これらの省エネ対策は、技術資料としてとりまとめ、現地検討会での説明や部会員への個別配布を行い、情報の共有化を図っている。

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(3)細霧冷房装置

なすは高温多湿を好む植物であるが、気温が上がりすぎると、ヤケ果などが発生して品質が低下する。また、4月から5月にかけては、過乾燥によるボケ果などの発生が問題となっている。そこで、新たに建設された耐侯性ハウスを中心に、天井からハウス内に水を噴霧して気温を下げる細霧冷房装置が導入されている細霧冷房装置の活用により、高温乾燥時にハウス内気温を下げるとともに、適切な湿度の確保が可能となった。

(4)二酸化炭素添加装置、環境測定装置

また、冬季は保温のためにハウスの換気をほとんど行わないことから、ハウス内は二酸化炭素飢餓状態にある。そこで近年、二酸化炭素添加装置を導入して冬季の増収を図る動きが出てきており、現在は約半数の部会員が導入している(写真)。二酸化炭素添加の効果は、現在のところ生産者によって良否が分かれている状況である。効果的な添加方法となすの管理技術については、今後の検討が必要である。

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併せて、ハウス内の温湿度や二酸化炭素濃度などの環境を測定する装置(プロファインダーなど)を活用する生産者が増え、現在は約3割の部会員が導入している。

4 土づくりとIPMの確立

土づくり対策として、毎年収穫後の夏、ハウス内の湛水と太陽熱土壌消毒を実施することによりセンチュウなどの病害虫防除を行い、連作障害を防いでいる。青枯病や疫病などの土壌病害対策には、米ぬかやふすまなどを活用した還元土壌消毒や、薬剤による土壌消毒を行っている。また、高収量を上げているじょうの土壌断面調査や土壌の残留肥料分析を行い、土づくりを徹底している。

施設なす栽培では、コナジラミ類、アザミウマ類、すすかび病、黒枯病、青枯病が懸念されるが、土づくりや薬剤のローテーション防除による対策を進めている。中でも一番の問題となっているのは、アザミウマ類の防除である。アザミウマ類は食害により、品質や収量の低下をもたらす。部会では、従来の化学農薬だけに頼る害虫の防除だけではなく、アザミウマ類の天敵生物の活用や、ハウスの開口部に防虫ネットを展張するなど、ハウス装備の改善などを組み合わせた、総合的病害虫管理技術(IPM)の確立を目指している。

併せて、毎年、新資材や新技術展示圃を設置し、各地の部会役員を中心に検討会と講習会を同時に開催し、部会内における情報の共有化と技術の高平準化を図っている(写真)。

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5 出荷と販売戦略

生産者が市場ニーズに合った規格を生産するよう、毎月、規格ごとに点数化して精算している。特に、L・Mサイズを中心に出荷するように配慮した点数制を導入した。また、出荷市場を25市場に集約したところ、市場ごとの価格形成が有利に行えるようになり、知名度の向上につながった。なお、都市圏消費地では、冬場はやや大きめ、秋や春はやや小さめのなすが好まれることから、それに合わせた規格による出荷を心掛けている。

平成18年に新選果場を建設し、集荷および選果をカ所に集約した。荷受けをスピーディーに行えるよう、選果場への持ち込み時間は地域ごとに設定して対応している。これにより、距離が遠くなった生産者の出荷時間の短縮につなげた。また、新鮮ななすを出荷するために、当日収穫したものを午前中に出荷するよう徹底している。

現在は、関東・中京・関西地区を中心とした出荷となっていることから、大消費地での販売促進活動を行っている。女性部では、現在2種類のレシピを作成し、消費拡大に取り組んでいる。また、県内での消費拡大のため、「よいなすの日」(4月17日)に熊本市中心部で販売促進活動を行っている(写真)。さらに、なすの主要産地6県(熊本、福岡、佐賀、岡山、高知、徳島)で出荷販売会議を開催し、各県の生産・出荷状況を把握することで計画的な販売に向けた連携を図っている。

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一言アピール

光沢が良く甘みのある「肥後のでこなす」を多くの消費者の方々に食べてもらいたい。そうした気持ちから、高品質でおいしいなすを届けられるように、産地一丸となって頑張っています。

お問い合わせ先

担当部署:熊本市農業協同組合 営農部 営農センター
 住  所:〒861-4121 熊本県熊本市南区会富町988
 電話番号:(096)227-4300 FAX番号:(096)227-4555
 ホームページ:http://www.ja-kumamoto.jp/


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