自然条件 ~温暖な気象条件~ 宮崎県は九州の東部に位置し、面積の76%が森林に覆われている一方、農地面積は9%にとどまっています。しかし、自然条件は温暖で平均気温が高く、日照時間や快晴日数は全国のトップクラスにあるなど自然条件に恵まれた県と言えます。
当県の気候は、年間平均気温17.3度と温暖です。降水量は年間で2,457mmと多いのですが、快晴日数は54日、日照時間は2,099時間を数え、それぞれ全国トップ3に数えられています。
県の平成17年度の農業産出額は、全部で3,206億円でしたが、畜産1,823億円(57%)についで野菜626億円(20%)が2番目の産出額となっています。その野菜の中ではきゅうりの産出額は野菜全体の25%に達し、野菜品目別の順位はトップとなっています。野菜ではその他、例えばピーマン(同17%)、秋冬さといも(同4%)についても全国有数の産地となっています。
産地の歴史 宮崎県におけるきゅうりの早出し生産の歴史は古く、昭和28年ごろ宮崎市で傾斜地を利用した栽培が始められました。その後、温暖、多日照の気象条件を生かしたトンネルによる早出し栽培が沿海地域で行われていましたが、昭和35年の大型ビニールハウスの導入により、トンネル栽培からハウス栽培に急速に移行していきました。
近年の宮崎県きゅうりの生産状況は、平成18年産の実績では収穫面積が833ha、収穫量は59,500トン、出荷量は55,600トンを供給する産地であり、収穫量でみると、全国では群馬県に次ぎ2番目の位置を占めています。
作型の動向 昭和39年ごろから鉄骨ハウスが普及しはじめると、作型が分化し、表1に示すように周年生産体制ができる栽培型が普及していきました。
冬春きゅうりのハウス栽培は8月下旬から播種が始まりますが、収穫は10月から7月初めまでの長期間行われています。この期間に収穫する作型には、短期間収穫する作型と長期間収穫する作型があります。
短期間収穫する栽培は、2作を組み合わせることによって、およそ15トン/10a程度を収穫しています。その前作となるハウス抑制栽培は、盛夏期の8月下旬から9月上旬に播種、9月中下旬に定植し、10月初めから12月末まで収穫する栽培であり、本県の代表的な作型となっています。ハウス後作の半促成栽培は、前作の収穫終了直後の12月末に定植し5月末まで収穫しています。
長期間収穫する促成栽培は、9月中下旬に播種を行い、10月中下旬に定植、11月下旬から収穫を始めますが、摘芯栽培では後半品質が低下することから、3月末に収穫を打ち切り、後作としてきゅうりやゴーヤーの早熟栽培を取り入れる作型が最近増加しています。
近年、長期栽培の収量並びに品質向上を狙った「つる下ろし栽培」が各産地で行われるようになってきました。
品種の動向 ハウス栽培に使用されている品種は、白いぼ系で果皮に光沢のあるつや系品種(表2)が採用されています。また、きゅうりは品種によって主枝や側枝の雌花着成の性質が異なっていることから、栽培時期や仕立て方によって、品種を選定しています。
促成栽培は、秋季から冬季に向かう時期(日長が短く低温)の栽培になることから、きゅうりの雌花の着きやすい時期でもあり、雌花の着成より低温時期でも良く生育する、低温伸長性の優れている品種「グリーンラックス」や「プロジェクトX」などが選ばれています。
促成栽培のつる下ろし栽培は、主枝から発生した側枝4本ほどを主つるとして、収穫しながら長期間つるを降ろしていく栽培法ですが、1~2月の低温時期に芯止まり現象を起こさずに、各節に1果が着く品種が望ましいことから、ツヤ系の果実で品種「トップラン、エテルノ、久輝3」などが選定されています。
ハウス抑制栽培は、高温で日長の長い時期からの栽培ですので、高温長日条件で雌花着成の優れている品種「アルファー節成」や「エクセレント節成2号」などが選ばれています。
生産における取り組みおよび栽培のポイント
1)育苗および接木
育苗にはポリポットが使われていますが、育苗センターなどから供給されるようになっているため、軽量化の小型の10.5cmポットでの育苗が行われています。
また、土壌病害の防止や生育の促進のため接木苗が利用されており、台木にはブルームレス台木と呼称される品種「昇竜」、「ゆうゆう(黒)」、「ときわパワーZ」が使われています。
2)摘芯栽培
促成、半促成、ハウス抑制作型など、長期・短期栽培とも側枝発生の良い品種が使われていることから、各作型で摘芯栽培が行われています。
3)つる下ろし栽培
産地間競争の中において、下位等級きゅうり販売が難しいうえに、鮮度の高いものが求められています。そのため、収穫しながら箱詰めを行う「ワンタッチ・平箱詰め」方式が行いやすいつる下ろし栽培が、促成栽培などで普及しています。
(補足)つる下ろし栽培について
慣行的なきゅうりの栽培としては、ネットを張り、きゅうりが一定程度成長した後、芯を止めて側枝をネットに伸ばし、きゅうりを収穫しています。
一方、つる下ろし栽培については、ハウスの中、例えば160cm程度の高さに線を張り、そこにクリップが取り付けられています。
このクリップまできゅうりのつるを枝分かれさせず1本のまま伸ばし、クリップは伸びてきたつるの先端から2~3枚目の節間を固定します。その後つるが30cmほど伸びるごとにクリップで挟みなおすようにします。この結果クリップの近くはいつも花が咲いている状態で、きゅうりはいつも腰の高さ程度(つるの先から10葉程度の位置)に結実していることになります。なお、クリップより先は4本程度つるを伸ばして収穫を行っています。
つる下ろし栽培の利点としては、
4)省力化
ほとんどの温室には自動開閉装置が付けられていて、日中および夜間の温度調節がスムーズに行われることにより、省力化が図られると共に、きゅうりの品質の向上にも役立っています。
5)土壌管理
経済連の中に土壌分析を行うことができる農産物検査センターが設置されており、農家は正確な施肥設計が行えるようになっています。このセンターによる土壌診断や、施肥の講習会を何年も積み重ねることによって、農家別の施肥設計を可能とし、優良圃場を増加させることに成功しています。
また連作障害を回避するため、植え付け前には太陽熱による土壌消毒を行い、接ぎ木による栽培も行っています。
6)原油高の対策
代替エネルギー(木質ペレット暖房、ヒートポンプの)の普及拡大や省エネルギー対策の推進に努めています。
また生産者段階では保温性の高い内張資材被覆、循環扇や廃熱回収装置による温度ムラの改善、多段サーモによる変温管理、施設や器具のメンテナンスをしっかりおこなうことなどによって、重油の2割削減を目指しています。
7)その他(生物農薬の利用など)
うどんこ病やベト病の発生を予防するため、微生物防除剤(納豆菌の仲間であるバチルス ズブチリスを成分とする防除剤)をほとんどの農家が利用するようになっています。これは防除剤を温室やハウスの暖房機のダクトに投入することによって、うどんこ病やベト病の発生を予防するものです。自然界に存在する菌であるため、残留農薬を気にする必要がない利点があります。
もうひとつはコナジラミに対するダニ類の利用でこちらも利用が広がってきています。
さらに、栽培履歴の記帳を行い、トレーサビリティに対応しています。
出荷体制 産地の高低差を生かして、沿岸部温室栽培による冬場の出荷から、夏の高冷地における露地ものの出荷まで周年供給を行うことが可能となっています。
出荷は市場出荷が太宗を占めており、出荷先市場への安定供給について注力しています。出荷先については、出荷が冬春の時期になるきゅうりは関東への出荷が多く、夏秋になるきゅうりは関西への出荷が多くなる傾向があります。一部量販店に対するコンテナ出荷なども試みられるとともに、JA間積合わせ配送の拡大もされています。
販売戦略 冬春きゅうりの生産量全国一の産地として安定供給に努めております。
また、鮮度を重視する取組の一環として、ハウス内で厳選したきゅうりを収穫しながら、平箱に直接詰めて出荷を行うワンタッチきゅうりの出荷を行っています。「シャキシャキ感」と「表面のイボイボ」が保たれ、きゅうりの命ともいえる鮮度感は抜群です。
その他にも、顔の見える関係を構築するため、バイヤ-と定期的に情報交換の場を設けることや、生産者、特に女性に参加してもらって販売促進活動を行うことによって、需要者や消費者の生の声に接する機会を設けています。