あきた北農業協同組合 営農生活部施設運営課長
佐藤憲明
1.産地の概要
JAあきた北は、秋田県北部の内陸に位置し、昨年、旧比内町、旧田代町が大館市と合併した新「大館市」を管内としています。3つの国道が交わる交通の要所で、秋田杉の産地、忠犬ハチ公のふる里としても知られています。
農業は、米代川流域の肥沃な土壌での稲作が主体で、盆地特有の気候条件を生かした野菜や花きの栽培も盛んです。また、今回取り上げるやまのいもも含めて比内地鶏やとんぶり、北限の梨など特徴的な産品が多い地域であります。
一般には、つくねいもと呼ばれていますが、当管内では「やまのいも」と呼んでいます。主な生産地は、丹波地方を始めとする関西・近畿地域なのですが、当地も全国トップクラスの産地で、やまのいもは、稲との作業競合が少なく、転作作目に適していること、また当地の土地とあっていること、機械収穫に適していることなどから、当管内での栽培が伸びてきました。
当JAでは、農家所得の向上を最優先課題としていることもあり、野菜生産拡大の対象品目として、アスパラガス、きゅうりと共にやまのいもの作付け拡大をすすめ、特にやまのいものでは日本一の産地を目指しています。
2.産地の歴史
当管内でやまのいもの栽培が行われるようになったのは、今から28年前、昭和53年に青森県三戸から種芋を導入したのが始まりです。当初は6人の作付けでしたが、昭和55年には88名による部会が結成されました。
もともと暖地の作目なので、課題も多く、生産を伸ばすための様々な努力をしてきました。技術を習得するため、視察や市場研修、講習会や目ぞろい会、実証試験を精力的に行ってきました。部会員を始め各関係機関が一丸となった努力の甲斐あって、昭和63年には出荷量がピークとなり、部会員396戸、486tを出荷するまでになりました。しかし、一方では、この年は、価格が暴落した年でもあり、10kg単価が前年の半分以下となり、生産者は大きな衝撃を受けました。
次年度には価格は回復したのですが、この年を境に拡大傾向が止まり、しばらくは面積・栽培者数共に、増減を繰り返しつつの漸減少する傾向となり、最近では、高齢化から作付け者数も減少しています。しかし、JAの合併によって栽培地域が広がったことや若年層、中核農家が意欲的に栽培に取り組み始めたことで栽培面積は拡大傾向にあります。また、最近は、1戸当たりの作付面積が1~2haを超える農家が増加してきていることもあり、18年の栽培面積は49ha、部会員132戸で、平均作付面積は37aとなり、平成11年に比べると10a増加しています(表1)。
なお、ここ数年の出荷量と販売金額は、表2のとおりで、年によって価格の変動が大きく、低迷した時期もありましたが、安定的な数量を確保することで市場からは信頼を得、比較的安定した価格を維持しています。平成17年実績は、出荷量351t、販売金額9,612万円となっていて、全国的に豊作だったこともあり、残念ながら販売金額は落ちこみました。
最近は、作目変更による新規栽培者が増えていることから、これらの者へは、熟練者が綿密な栽培技術の指導をすることで、高品質なものを安定して出荷しています。また、栽培技術を見直し、より安定した作型を求めて、部会での活発な検討や、活動が行われています。
3 栽培の概要
当管内のやまのいもは、4月から6月上旬にかけて、種いもから芽をださせる催芽と定植を行います。
種いもは前年に収穫したいもの中から、比較的品質がよい350~400gのものを使用し、8等分に切断してトンネルにした苗床に埋めて催芽させます。約20日間で発芽するので、芽が7cm程度まで成長したらマルチを行ったほ場に定植します。その後、支柱立てを行い、ネットを張りめぐらせ、つるがネットに届いたら、早めにネットに絡ませます。
7月から8月の高温時期には、ほ場の水分管理に気を遣います。7月下旬の開花期までは、乾燥気味に管理し、開花後から9月中旬の芋の肥大期には水分が必要なので、滞水しない程度に夜間に潅水を行います。
10月下旬から11月上旬にかけて収穫します。収穫後は、土落としヒゲ根の処理などの収穫調製作業を行い、芋の重さを一つずつ量り重さで3L、12L、L、M、Sの5段階に分かれている規格にあわせて選果します。生産者は、規格ごとにコンテナに入れたいもを選果場に運びます。選果場には、5人の専門の検査員がいて、統一した目で秀、優、良の3等級に分け、出荷しています。
9割が大阪中央卸売市場への出荷で、輸送は、JRのコンテナを利用しています。出荷の最盛期は、10月下旬から11月下旬の約1カ月で、多いときは、1日4コンテナ(1コンテナ500ケース)を3日間かけて出荷しています。特に冬場は水分がぬけておいしさが増すので、関西地区では重宝がられています。
また、関西以外へは、直売所や地元加工業者へ出荷するほか、ホームページやFAXを利用した通信販売を行っています。
4.販売戦略
「やまのいも」は、ながいも等に比べ、非常に強い粘りが特徴です。その粘りを生かして各種食品の加工原料や高級和菓子・和食の食材として、関西を中心に広く扱われております。
一方では、地元を含めた消費の拡大が課題となっています。加工にも力を入れており、やまのいもを団子状にして具に使う「大文字鍋」を考案し商標登録しました。市内の飲食店でお客様に提供したり、大館の「アメッコ市」等各種イベントに参加し試食販売を行っており好評を得ており、将来は「きりたんぽ」に並ぶ地域の名物料理に育てたいと力を入れています。
また、従来の10kg箱に加えて、贈答品としても活用できるよう2kg箱も作成し、販売用途の拡大を目指しております。
5.今後の課題
やまのいも栽培は手作業が多く、作付けの拡大を進める上で、省力化が大きな課題となっています。
中でも最も労力が掛かるのが、定植ですが、今年は定植機の試作機が完成し試運転が行われました。まだ改善すべき点はありますが、実用化に向けて大きく前進しています。
また、支柱立てや収穫時の調製作業の土落とし、ヒゲ根の処理や選果も重労働で、これも機械化が望まれており今後の課題と言えます。重量を分ける選果機に関しては、近いうちに実用化される見込みになっています。
機械化の他にも、やまのいもの生育特性をよく把握し、より高品質で安定した生産・出荷が行えるような体制を整えるとともに、新しく取り組む農家も失敗しない技術の確立・平準化が求められています。