平成18年度食料・農業・農村白書の概要

                   ~野菜をめぐる情勢を中心として~

 

                                                              農林水産省大臣官房情報課

                                                                 情報分析室   金子宜正

 

○はじめに

「平成18年度食料・農業・農村の動向」(食料・農業・農村白書)は、平成19
5月
25
日に閣議決定され、国会に提出、公表されました。

18年度白書は、「攻め」の姿勢の観点に立って、農業・農村が持つ潜在能力を
最大限 に 発揮させ、農業を
21
世紀にふさわしい戦略産業とするため、食料自給
率の向上や 食料供給力(自給力)の強化に焦点を当てるとともに、国内農業の
体質強化に向けた 取組、バイオマスの利用の加速化や農産物の輸出促進の
動向等の農業・農村の新境地の 開拓、農村地域の活性化にかかわる主要施策
を明らかにすることに力点をおき、国民的 な関心と理解が一層深まることを
ねらいとして作成しています。

ここでは、白書の中から、特に野菜をめぐる情勢を中心に説明していきます。

 

1.食の安全確保の取組

(消費者は「安全」を志向)

安全な食品を消費者に供給するためには、生産段階から消費段階にわたって
安全確保 の取組を行うことが必要です。

 消費者が食品購入時に必要と考える情報としては、例えば野菜の場合では
8割以上が 産地名、出荷日に加え、安全性に関する認証についての情報が必要
と回答しており、 消費者は食品に対し「安全」を志向していると考えられます
(図-1)。

                    図 -1 
消費者が野菜購入時に必要と考える情報

  また、消費者への調査によると「同じ品質の商品であれば、トレーサビリティに
よって得られる安心感や情報内容と値段の違いを考慮して購入する」ことに8割
の 消費者が同意しています。食品の安全を確保することは食品関連業者の責務
ですが、 このような消費者ニーズに対応することも生産者の重要な取組です。

 

(生産現場での農薬の適正使用の取組が重要)

 これまでの食品衛生法の規制では、残留基準が設定されていない農薬等が
食品から 検出されても、原則としてその食品の販売等を禁止することができま
せんでした。
このため、
18年5月29日より食品中に残留する農薬に関するポジティブリスト
制度が 施行され、残留基準が定められていない農薬等が一律基準(
0.01ppm

を超えて残留 する食品の販売等を禁止することとされました。

 制度施行前に既に基準が設定された農薬は、従来の基準が維持されたため、
生産者 は従来どおり、適用される作物ごとに適正に農薬を使用することが重要
です。

一方、 適用されない農作物では、一律基準が適用されることがあるため、
農薬を散布する ときは隣接する他作物に飛散しないよう注意することが必要
です。

 具体的には、風のないときを選んだ散布、散布の位置と方向への注意、
飛散しにく いノズルや農薬の使用、散布後のタンクやホースの洗浄等が考え
られ、引き続き、 農薬の飛散提言の取組を推進するなど、農薬の適正使用
に向けた、きめ細かい指導の 徹底に取り組むことが重要です。

 

GAP(ギャップ)のさらなる普及・推進が必要)

 我が国における食品の安全や環境保全等を確保するためには、農業生産
工程全体を 適切に管理していくGAPに取り組むことが重要です。GAPは食品
安全のみならず、 品質や環境、労働全体等にも配慮した生産工程の管理手法
であり、生産活動の基礎 となる取組です(図-2)。
 

                図-2 GAPの枠組み

       

これを産地・農業者が取り入れ、自らの営農・生産条件や実力に応じて
取り組む ことが、安全な農産物の安定供給、環境保全、農業経営の改善
・効率化の実現に つながるとともに、生産された農産物の安全性や品質に
対する消費者・食品産業事業者
信頼を得るうえでも有効です。

 

 

<事例:GAPを導入したトマト生産>

 埼玉県北川辺(きたかわべ)町のトマト農家が設立した研究会では、産地として安全な農産物を生産するため、14年からGAPの取組を開始した。水質や土壌中の重金属を検査し、産地のリスクを把握したうえで、作業員の衛生管理や生産履歴の記帳を中心に取組内容をチェックリストにまとめ、構成員がお互いに実施状況を確認している。

 安全面だけでなく、品質面からも高水準のトマトとして自信をもって出荷しており、取組が取引先より評価され産地としての信頼向上が図られている。

 

 

     写真1 作業員の衛生の徹底         写真2 選果場の使用後の清掃

 
 

2.食料供給コスト縮減に向けた取組

 

(国内農業の体質強化の観点から生産コストの縮減が必要)

近年の農業総産出額の動向をみると、平成9年以降は10兆円を下回って
推移し、
17年(概算)は8兆4,887億円と前年に比べて2.6
%減少しました。
このうち、 主要品目では、米、野菜、果実が減少し、肉用牛や鶏卵の増加に
より、畜産が 増加しました。

また、18年(概算)の農産物価格指数(総合)をみると、日照不足や大雨の
影響を受けて野菜の価格が上昇したこと等により、前年に比べて
2.6%の上昇と
なる一方、
18年(概算)の農業生産資材価格指数(総合)は、飼料、肥料、光熱
動力費等の上昇により、前年に比べて
2.1%の上昇となっています。なかでも、
光熱動力費は原油価格の影響を受けて上昇を続け、9月以降低下する傾向に
ある ものの、年平均では前年に比べて
12.9
%の上昇となっており、施設利用型
農業経営 に対する影響が懸念されています(図-3)。

 

           図-3 光熱動力費の推移 (12年=100) 

  

このため、 国内農業の体質強化に向け、食料供給コストの縮減の一環として、
さらなる 低価格資材の供給や効率利用等による生産コストの縮減を図っていく
ことが 課題となっています。

 

(5年で2割のコスト縮減を目指し、取りまとめられたアクションプラン)

 政府は、18年4月の「21世紀新農政2006」のなかで、食料供給コストを5年
で2割縮減する目標を掲げました。これを受けて、同年9月には「食料供給
コスト縮減アクションプラン」(アクションプラン)が取りまとめられ、
加工用原料を含む生鮮品の生産・流通段階を対象に重点的な取組項目を提示
されました。また、
19
年4月にはアクションプランの見直しを行い、加工食品
と水産物のコスト縮減の取組、コスト縮減の検証方法等を加える改定を行い
ました。 

 

(生産コストの構成は、生産資材費が2~3割で、労働費は3~5割)

農業の生産コスト構成をみると、水稲やキャベツ等の露地野菜の場合、
肥料、農薬、農機具といった生産資材費が全体の2~3割で、労働費が3~
5割を占めています(図-4)。

 

     図 -4  農業の生産コスト構成


     

このうち、生産資材費の縮減については、資材の製造・流通団体等が「農業
生産資材費低減のための行動計画」を策定し(8年度策定、
13年度改定)、
その実行が進められてきました。最近の価格動向は、農薬と農機具は年々低下
していますが、肥料はむしろ上昇しており、原油等の原燃料や海上運賃の高騰を
反映して
17
年には特に高まっています。

 

(アクションプランにおける生産コスト縮減の取組)

アクションプランでは、品目ごとのコスト構成に応じた多様な取組を推進
しています。生産資材費の縮減では、製造段階では低価格資材の供給を拡大
することとしています。流通段階では広域をカバーする配送拠点の整備や、
工場から産地への直送体系の構築等の合理化を図り、利用段階では、土壌
診断に基づく適正施肥、防除暦の見直しによる農薬使用の合理化、担い手
への作業集積による農業機械の稼働面積の拡大といった各種の取組を図る
こととしています。

また、生産コストの縮減には、これらの取組と合わせて、経営規模の拡大や
省力化技術の開発を進めることが必要です。

 

(小売価格のうち米で3割、キャベツで5割を占める流通コストの縮減が重要)

 生鮮品小売価格の内訳をみると、集出荷経費、卸売経費、小売経費等の流通
コストは、米の場合で3割、青果物(キャベツ)の場合で5割を占めています
(図-5)。

 

   図-5 生鮮品の小売価格構成

 

 こうした流通コストは、個々の小売では十分 果たすことのできない機能で
ある、 多品種の生鮮品の集分荷に要するコストを含むものです。今後、
国内の 生産者や流通業者の体質強化を図っていくためには、青果・水産物
流通の 6~7割を扱っている卸売市場流通をはじめ、物流全般にわたって
より一層 のコスト縮減が重要となってきています。

 

(一層効率的な卸売市場流通の実現)

 アクションプランでは、改正卸売市場法及び同法に基づく第8次卸売市場
整備基本方針に即し、卸売市場の再編・合理化、産地から小売業者への
ダイレクト物流(商物分離電子商取引)導入市場の拡大、卸売市場管理運営
への民間活力の導入等を推進し、一層効率的な卸売市場流通の実現を図る
こととしています。

 

(物流全般の効率化等の取組を推進)

 アクションプランにおいては、民間分野の努力だけでは進めにくい物流
効率化の取組や、集出荷段階の取組等、流通コストの縮減に総合的に取り組む
こととしています。

 物流全般では、通い容器の普及、電子タグ(荷札)をはじめとする情報技術
IT)の活用、インターチェンジ近隣等への物流拠点の再編、配送の
共同化等を推進し、燃料費の縮減を含む一層の効率化が必要です。また、
集出荷段階では、段ボール箱を安価な茶色箱のまま流通させること、
実需者ニーズに応じた規格での野菜の調製・出荷、産地の出荷規模の拡大と
いった様々な取組を推進することとしています。

 

(全農の改善計画による抜本的な経済事業改革)

 経済事業の全国組織である全国農業協同組合連合会(全農)は、農林水産省
の業務改善命令に基づき、
1712月に改善計画を策定しました。全農は改善
計画を新生プランと位置付け、生産資材手数料の引下げや米の流通コスト
削減等、抜本的な経済事業改革に取り組んでいます。改善計画の進捗状況は
四半期ごとに報告されることになっており、農林水産省ではアクションプラン
の一環としても継続的に監視、指導を行っているところです。
1812
月末現在
の進捗状況の報告では、コスト縮減に関する取組として、生産資材手数料や
米の流通コストの削減等の到達点が示されていました。

 このように、一部については改革が進んでいる取組がみられるものの、
全体としては改革の成果が農業者、特に担い手に実感されるには至っていない
のが現状です。今後、農協等の現場段階と一体となって、改善計画の実行を
徹底していくことが課題となっています。

 

 

3.野菜の生産・消費に関する動向

 

(野菜の自給率は、輸入の増加に伴い低下傾向)

 野菜の産出額は、約2兆円(17年)と米や畜産に匹敵する規模です。近年、
生産量は減少しており、
17年産は天候不順だった前年に比べ1.1%増の1,248
万トンとなったものの、5年前に比べて
8.9%減となるなど、減少傾向に
あります。需要量も
1,583万トンと前年に比べ2.2%増となりましたが、5年前
に比べると
6.0%減となりました。17年の輸入は、過去最高の252万トンであり、
野菜の自給率は
79
%まで低下しました(図- 6)。

 

     図-6  野菜の輸入量と自給率の推移

  

 また、18年夏には、日照不足等により価格が高騰しましたが、秋以降の好天
により露地野菜の価格が下落し、冬キャベツの産地廃棄等、緊急需給調整が
実施されました
。こうした産地廃棄は「もったいない」との批判が寄せられた
ことに対応し、有識者による委員会で検討が行われました。今後、その提言
*[1]
に基づき過剰時の野菜の有効利用等に取り組むこととされています。

 

(担い手を中心とした産地の体質強化に向けた新たな野菜対策)

 野菜の国内生産は、主に主業農家が担っているが、高齢化に伴う離農等
により、作付面積や生産量が減少しています。また、加工・業務用野菜を中心に
輸入が増加するなか、野菜を安定的に供給できる産地づくりと加工・業務用
野菜の国産シェア拡大が重要な課題となっています。

 このため、19年度からの新たな野菜対策として、担い手の所得を安定的に
確保するなどの観点から、契約取引、需給調整の的確な実施を一層推進する
とともに、価格安定制度にも担い手の育成・確保への取組を奨励する仕組みを
導入することとされています(図-7)。
 

             図-7  新たな野菜対策の概要



 今後、新たな対策に加え、高性能機械のリレー利用等によるコストの低減、
低コスト植物工場技術の確立等が重要です。

(野菜・果実のいずれも摂取目標量に達していない状況)

 野菜、果実について、「健康日本21*[2]」や「毎日くだもの200グラム運動
指針」による摂取目標量と実際の摂取量を比べると、食の外部化の進展等を
背景に、すべての年齢層で目標値を下回り、特に若年層での不足が顕著と
なっています(図-8)。

 

         図-8 野菜類と果実類の年齢階級別1人1日当たり摂取量(16年)

 

 

 このため、食育活動の一環として、「野菜1日5皿分(350g)以上」、
「毎日くだもの
200
グラム運動」といった取組が官民一体となって行わ
れています。今後、「食事バランスガイド」等を通して健全な食生活を実践
するなかで、野菜や果実の摂取増大を推進することが必要です。

 

 

○平成18年度白書の構成

 

 以上、野菜をめぐる情勢を中心に18年度白書について紹介しましたが、
白書全体の構成は、以下のようになっています。なお、その他詳細は、
白書本体をご参照ください。

 

トピックス

 「食料自給率向上の意義と効果」、「担い手への施策の集中化・重点化」、
「農業・農村の新境地の開拓」及び「農村地域の活性化」といった本年度の
白書において力点をおいて記述した内容について整理。

 

第Ⅰ章 食料自給率の向上と食料の安定供給

 世界の食料需給や我が国の食料消費・生産の動向を踏まえて食料自給率向上・
食料供給力強化に取り組む意義と課題、WTO交渉やEPA/FTA交渉に
ついて記述。また、食の安全確保、「日本型食生活」の実現について食育や}
地産地消の推進、食品産業の活性化に向けた取組の重要性等について記述。

 

第Ⅱ章 農業の体質強化と新境地の開拓

 新たな経営安定対策の導入等、農業の担い手の育成・確保や担い手の
農地利用集積に向けた取組等について記述。また、農業の新境地の開拓に向け、
イノベーションの力の活用や国産バイオ燃料の生産拡大、農産物輸出促進に
向けた取組等について記述。

 

第Ⅲ章 農村地域の活性化と共生・対流の促進

 農業集落や中山間地域を中心とした鳥獣害の現状等農村の動向や農村資源
の保全・活用の取組等について記述。また、「美しい国」の原風景である
農村地域の活性化に向けて都市と農村の共生・対流を促進するための取組
として、都市に集積した人材、知見等を活かす重要性等について記述。


 

*[1] 「野菜の緊急需給調整手法に関する検討委員会」報告書(19年3月公表)

*[2] 健康寿命の延伸等を実現するため、2010年度を目途とした具体的な目標等を提示した
  「
21世紀における国民健康づくり運動」のこと。