大臣官房統計部 生産流通消費統計課
消費統計室計画係 久芳 秀樹
農林水産省統計部では、「食育基本法」(平成17年法律第63号)に基づき策定された「食育推進基本計画」(平成18年3月食育推進会議決定)に盛り込まれた「教育ファーム(注)の取り組みがなされている市区町村の割合の増加」目標設定に際し、現状値把握等を目的として「農林漁業体験学習の取組み(教育ファーム)実態調査」を調査・とりまとめ、平成18年2月28日に公表した。
以下、本調査結果の概要について紹介する。
注:「教育ファーム」とは、自然の恩恵や「食」に関わる人々の様々な活動への理解を深めること等を目的として、農林漁業者などが一連の農作業等の体験の機会を提供する取り組みをいう。
なお、「一連の農作業等の体験」については農林漁業者など実際に業を営んでいる者による指導を受けて、同一人物が同一作物について2つ以上の作業を年間2日以上の期間をかけて行うものとした。
調査結果の概要
本調査は、平成17年度中における「教育ファーム」の取り組み等について、全国の2,042市区町村(平成18年2月6日現在)を対象に実施し、回収した2,040市区町村について集計した結果である。
なお、教育機関等又は農林漁業者等で実施している「教育ファーム」の取り組みに関する各事項は、当該市区町村において把握しているデータを調査・取りまとめた結果である。
1 市区町村における「教育ファーム」の取組状況
(1) 自ら実施している市区町村数
「教育ファーム」の取り組みを「自ら実施している」は582市区町村(28.5%)、「実施していない」は1,458市区町村(71.5%)であった。
(2) 「教育ファーム」を支援している市区町村数
「教育ファーム」の取り組みを「支援している」は872市区町村(42.7%)、「支援していない」は1,168市区町村(57.3%)であった。
(3) 自ら実施か支援のどちらか一方又は両方取り組んでいる市区町村数
「自ら実施又は支援している」は1,172市区町村(57.5%)、「実施も支援もしていない」は868(42.5%)市区町村であった。
なお、「教育ファーム」の取り組みを自ら実施するとともに支援もしている市区町村は、282(13.8%)であった。
(4) 市区町村が自ら実施又は支援している「教育ファーム」の取組状況
ア 「教育ファーム」の取組形態(複数回答)
「教育ファーム」の取り組みを自ら実施又は支援している1,172市区町村における「教育ファーム」の取組形態は、「教育機関等」が830市区町村(70.8%)、「市民農園」が309市区町村(26.4%)などであった(図2)。
イ 「教育ファーム」で扱っている作物等(複数回答)
「教育ファーム」の取り組みを自ら実施又は支援している1,172市区町村における「教育ファーム」で扱っている作物等は、「米」が883市区町村(75.3%)、「野菜」が793市区町村(67.7%)となっており、これら2作目が大宗を占めている(図3)。
ウ 「教育ファーム」への参加者(複数回答)
「教育ファーム」の取り組みを自ら実施又は支援している1,172市区町村における「教育ファーム」への参加者は、「市区町村内の中学生以下」が1,021市区町村(87.1%)で最も多く、次いで「市区町村内のその他」が407市区町村(34.7%)、「市区町村外のその他」が308市区町村(26.3%)、「市区町村外の中学生以下」が196市区町村(16.7%)の順であった(表1)。
2 平成19年度までの間における市区町 村の「教育ファーム」の取組意向
(1) 自ら実施する「教育ファーム」についての取組意向
ア 自ら実施している市区町村
(ア)取組意向(複数回答)
「教育ファーム」の取り組みを自ら実施している582市区町村における今後の取組意向は、「現状維持」が374市区町村(64.3%)で最も多く、次いで市民農園、漁業体験民宿などの「取組形態の拡充」が122市区町村(21.0%)、米、野菜などの「取扱作物等の拡充」が88市区町村(15.1%)などであった(表2)。
(イ)拡充したい取組形態(複数回答)
「取組形態の拡充」意向を持つ122市区町村が拡充したい取組形態は、「市民農園」が69市区町村(56.6%)で最も多く、次いで「農林漁業体験民宿」が39市区町村(32.0%)、「観光農園」が30市区町村(24.6%)などであった。
(ウ)拡充したい作物等(複数回答)
「取扱作物等の拡充」意向を持つ88市区町村が拡充したい作物等は、「野菜」が66市区町村(75.0%)で最も多く、次いで「米」、「果実」がそれぞれ31市区町村(35.2%)などであった(図4)。
イ 自ら実施していない市区町村
(ア)取組意向について
「教育ファーム」の取り組みを自ら実施していない1,458市区町村における今後の取組意向は、「予定はない」が804市区町村(55.1%)で最も多く、次いで「わからない」が447市区町村(30.7%)、「新たに始めたい」が170市区町村(11.7%)などであった(表3)。
(イ)新たに始めたい取組形態について(複数回答)
「新たに始めたい」意向を持つ170市区町村における新たに始めたい取組形態は、「市民農園」が67市区町村(39.4%)で最も多く、次いで「教育機関等」が42市区町村(24.7%)、「農林漁業体験民宿」が41市区町村(24.1%)などであった。
(ウ)新たに始めたい作物等について(複数回答)
「新たに始めたい」意向を持つ170市区町村における新たに始めたい作物等は、「野菜」が112市区町村(65.9%)で最も多く、次いで「米」が61市区町村(35.9%)、「果実」が44市区町村(25.9%)などであった(図5)。
(2)支援している「教育ファーム」についての取組意向
ア 支援している市区町村
(ア)取組意向について(複数回答)
「教育ファーム」の取り組みを支援している872市区町村における今後の取り組み意向は、「現状維持」が561市区町村(64.3%)で最も多く、次いで「取組形態の拡充」が176市区町村(20.2%)、米、野菜などの「取扱作物等の拡充」が138市区町村(15.8%)などであった(表4)。
(イ)拡充したい取組形態(複数回答)
「取組形態の拡充」意向を持つ176市区町村における拡充したい取組形態は、「市民農園」が82市区町村(46.6%)で最も多く、次いで「農林漁業体験民宿」が77市区町村(43.8%)、「観光農園」が55市区町村(31.3%)などであった。
(ウ)拡充したい作物等(複数回答)
「取扱作物等の拡充」意向を持つ138市区町村における拡充したい作物等は、「野菜」が98市区町村(71.0%)で最も多く、次いで「米」が66市区町村(47.8%)、「果実」が60市区町村(43.5%)などであった。
(図6)
イ 「教育ファーム」を支援していない市区町村
(ア)取組意向について
「教育ファーム」の取り組みを支援をしていない1,168市区町村における今後の取組意向は、「わからない」が490市区町村(42.0%)で最も多く、次いで「予定はない」が471市区町村(40.3%)、「新たに始めたい」が155市区町村(13.3%)などであった(表5)。
(イ)新たに始めたい取組形態(複数回答)
「新たに始めたい」意向を持つ155市区町村における新たに始めたい取組形態は、「市民農園」が57市区町村(36.8%)で最も多く、次いで「農林漁業体験民宿」が47市区町村(30.3%)、「教育機関等」が46市区町村(29.7%)などであった。
(ウ)新たに始めたい作物等(複数回答)
「新たに始めたい」意向を持つ155市区町村における新たに始めたい作物等は、「野菜」が105市区町村(67.7%)で最も多く、次いで「米」が65市区町村(41.9%)、「果実」が42市区町村(27.1%)などであった(図7)。
3 市区町村内の教育機関等で実施している「教育ファーム」の取組状況
(1) 教育機関等における「教育ファーム」
「教育ファーム」を実施している教育機関等(小・中学校、幼稚園、保育園)が存在する市区町村は1,426(69.9%)で、実施している教育機関等の数は8,736校(園)であった。また、同教育機関等が存在しない市区町村は432(21.2%)、同教育機関等について把握していない市区町村は182(8.9%)であった(表6)。
(2) 「教育ファーム」で扱っている作物等(複数回答)
「教育ファーム」を実施している教育機関等が存在する1,426市区町村のうち、当該の教育機関等における「教育ファーム」で扱っている作物等は、「米」が1,226市区町村(86.0%)、「野菜」が944市区町村(66.2%)となっており、これらが大宗を占めている(図8)。
4 市区町村内で農林漁業者等が実施している「教育ファーム」の取組状況
(1) 農林漁業者等が実施している「教育ファーム」
「教育ファーム」を実施している農林漁業者等(農林漁業者のほか農林漁業関係団体、NPO等市民団体等)が存在する市区町村は791(38.8%)で、農林漁業者等の数は2,593(個人、団体の計)であった。また、同農林漁業者等が存在しない市区町村は815(40.0%)、同農林漁業者等について把握していない市区町村は434(21.3%)であった(表7)。
(2) 「教育ファーム」で扱っている作物等作物等(複数回答)
「教育ファーム」を実施している農林漁業者等が存在する791市区町村のうち、当該農林漁業者等が実施している「教育ファーム」で扱っている作物等は、「野菜」が472市区町村(59.7%)、「米」が442市区町村(55.9%)となっており、これらが大宗を占めている(図9)。
5 複数の主体が「教育ファーム」に取り組んでいる市区町村
「教育ファーム」の取組がある市区町村のうち、実施主体である市区町村、教育機関等及び農林漁業者等の複数の主体(2主体以上)が「教育ファーム」に取り組んでいる市区町村は857で全国の42.0%を占めている。
おわりに
「食育推進基本計画」では、食に関する関心や理解の増進を図るためには、農林水産物の生産に関する体験活動の機会を提供することが重要であるとしており、自然の恩恵や食に関わる人々の様々な活動の理解を深めること等を目的として「教育ファーム」の取組みが計画的になされている市町村の割合増加を目標としている。具体的には、本調査によって明らかにされた平成17年度に42%となっている割合(市町村、学校、農林漁業者等様々な主体が取り組んでいる市町村)を平成22年度までに60%以上とすることを目指すとしている。
このため農林水産省では、関係府省等とも連携し、生産から消費に至る各段階で食育を推進する方策の一環として、地域における「教育ファーム推進計画」の策定についての基準を定め、その促進を図ることとしている。
最後に、本調査の実施にあたりご協力いただいた関係者の方々に感謝申し上げるとともに、本統計調査結果が広く活用されることを期待する。
また、この統計調査結果は、農林水産省ホームページの中の農林水産統計データに掲載している。【http://www.maff.go.jp/j/tokei/index.html】分野別分類は「食品産業・消費」、品目別分類は「全般」に分類している。