大臣官房情報課
情報分析室 安田 勝成
○はじめに
「平成17年度食料・農業・農村の動向」(食料・農業・農村白書)が、平成18年6月6日に閣議決定され、国会に提出、公表されました。
17年度白書は、前年3月に策定された新たな「食料・農業・農村基本計画」の初年度に当たる17年度を中心に、主要施策の取組状況や課題について、国民的な関心と理解が一層深まることをねらいとして取りまとめています。
ここでは、白書の中から、特に野菜をめぐる情勢を中心に説明していきます。
1.食の安全確保に向けた取組
(1)食の安全に対する関心の高まり
近年、国内外でのBSEの発生、腸管出血性大腸菌O157やノロウイルスによる食中毒等の食品の安全に関する問題や、高病原性鳥インフルエンザの発生、食品の偽装表示等を契機として国民の食の安全に対する関心が高まっています。
安全な食料を安定供給し、国民の健康を守るためには、有害な微生物や化学物質を含む食品を食べることによる健康被害の確率やその程度を把握して悪影響を未然に防止する「食品の安全」確保のための施策から、家畜・水産動物の衛生対策や植物防疫対策、栄養や食事習慣に関する施策等までを含む「食の安全」を確保するための施策を幅広く講じていくことが重要です(図-1)。
これら食の安全確保の施策とともに、トレーサビリティ・システム(流通経路情報把握システム)の導入や食品表示の適正化、事業者の法令順守など消費者の信頼確保の取組を推進することによって、食に対する消費者の安心につながっていくことになります。
このため、農林水産省では、食品の安全確保、家畜・水産動物の衛生や植物防疫、消費者の信頼確保について様々な施策や取組を推進しています。
(2)生産から消費に至る食品の安全確保の取組の推進
消費者に安全な食品を供給するためには、生産から製造・加工、輸入、消費の段階に至るまで一貫して食品の安全を確保することが重要であり、リスク管理に関する施策を担当する農林水産省等では、これら各段階における取組を推進しています。
生産段階では、農薬や肥飼料、動物用医薬品等の生産資材の製造、販売、利用等についての指導や取締り、18年5月から施行される食品衛生法のポジティブリスト制度についての周知徹底を図り、産地の条件に応じたきめ細かな指導等を行うとともに、飼料中の農薬残留基準や動物用医薬品の使用基準の見直し・設定等を行っています。
さらに、食品の製造・加工段階では、「食品の製造過程の管理の高度化に関する臨時措置法」により、衛生管理手法として有効なHACCPシステムの導入のための環境整備を図るとともに、輸入段階では、食品の輸入時の検査の強化や、輸入野菜の残留農薬調査等に取り組んでいます。
2.野菜をとりまく状況
(1)減少傾向が続く農業総産出額と相次ぐ気象災害
16年の農業生産は、観測史上最多の台風の上陸等により大きな農業被害に見舞われ、豆類、野菜類、果実等の収穫量が減少したものの、米、いも類、工芸農作物は冷害であった前年に比べ増加しました。このため農業生産指数(総合)は前年に比べ1.7%の増加となりました。また、17年12月から18年1月上旬にかけての各地の記録的な大雪は、気象庁により「平成18年豪雪」と命名されるとともに、17年12月は全国的に20年ぶりの低温となりました。「平成18年豪雪」により農業関連施設等への被害がみられるとともに、同年12月下旬から18年1月には、低温、干ばつの影響からレタスやキャベツ等の野菜価格の大幅な上昇がみられました。
(2)原油価格の動向
農業生産資材価格指数(総合)の動向は、14年までは微減傾向でしたが、15年以降は上昇傾向に転じています。また光熱動力費は原油価格の影響を受けやすく、17年(概算)は前年に比べ12.1%の大幅な上昇となり、現在も高い水準で推移しています(図-2)。
農業経営費に占める光熱動力費の割合は、施設野菜、施設花きでは2割となっており、他の作物が1割未満であるのに比べ高く、また、作物ごとにエネルギーの種類別の投入量をみると、施設野菜、花き類では7割以上をA重油等の燃料が占めています。原油価格の高騰に伴い、A重油も12年に比べて5割値上がりしており(18年3月現在)、施設園芸農家への影響がみられます。
この問題に対しては、施設園芸に投入されるエネルギー利用の効率化や石油代替エネルギーへの転換を図るため、生産現場における暖房器具の点検整備の徹底、省エネルギー設備の導入支援等が実施されています。
(3)拡大する我が国の農産物輸出
我が国の農林水産物輸出額は、3,310億円となっており(平成17年)、近年、徐々に拡大しています。その内訳をみると、全体の53.5%が農産物で、そのうちの5割が即席めんや菓子等を含む各種調製食料品であり、残りの5割は植物種子や果実等の少量かつ多数の品目で構成されています。
我が国の農産物輸出は、近年、特にりんご、みかん、もも等の果実で大きく伸びてきており、それ以外にも、しょう油やみそ等の加工食品、緑茶、長いも、花き等の品目が着実に輸出額を伸ばしてきています。
このような我が国の農産物輸出の拡大の背景の一つには、近年、世界一の長寿国である我が国の食文化や日本食に対して注目が集まり、世界の日本食人口は6億人にものぼると推計されているなど、世界的に日本食ブームとなっていることがあげられます。また、高品質であり、かつ安全性に対する信頼が高く、健康に良いなどのイメージをもつ我が国の農産物に対する評価が高まっていること等も考えられます。
(4)環境保全を重視した農業への関心の高まり
近年、地球温暖化、オゾン層の破壊、生物多様性の減少等、地球環境問題等が様々なかたちで顕在化するなかで、国民の意識も高まってきています。農業は、本来、自然界における水や窒素、炭素といった物質の循環を利用した持続的な生産活動です。しかしながら、近年、肥料や農薬の過剰投入や家畜排せつ物の不適切な管理による環境への影響の懸念が高まっています。例えば、過剰な施肥が行われ、余剰の肥料成分が地下に浸透すると、地下水の硝酸性窒素濃度の上昇を招く場合があり、また、水田等農地からの排水中に窒素・りん等の肥料成分が大量に含まれると、湖沼、海域等の富栄養化の一因となる場合があります。このため、農業のもつ自然循環機能の維持増進を図ると同時に、環境負荷の低減を図るため、環境保全を重視した農業への転換が重要となっています。
農業と環境とのかかわりについて、6割の消費者は、「農業は多様な生物の生息域になるなど自然保全に貢献したり、水資源のかん養や大気浄化等の環境保全に貢献している」と評価していますが、その一方で、4割が化学肥料や農薬の散布等により、環境に負荷を与えていると考えています。また、環境に配慮した農産物の生産や購入を望む消費者が多く、さらに、環境に配慮した農産物の生産に取り組む意向をもつ生産者も多いなど、消費者、生産者とも環境保全を重視した農業への関心の高さがうかがわれます。
全国の販売農家の約半数に当たる91万5千戸が、化学肥料や農薬の低減、たい肥による土づくりに取り組んでいます。また、エコファーマーの認定件数も着実に増加しており、特に、平成17年は前年同期に比べ30.6%と大幅に増加し約9万9千件(18年3月末現在)となっていますが、これを取組1位の作物別にみると、最も認定件数が多いのは野菜であり、特に果菜類が認定件数全体の35.6%を占めています。
3.野菜生産に関する動向
(1)需要に即した生産の促進
16年度の野菜の需要量は、1,533万3千トンで、5年前に比べ8.6%減少しています。また、国民1人当たりの年間消費量も16年度には92.9kgとなり、5年前と比べ9.1%の減少となっています。
16年産の野菜の生産量は1,228万6千トン、作付面積は45万4千haとなり、5年前に比べそれぞれ11.4%、9.4%の減少となっています。
一方、輸入量は16年には、238万4千トンとなり、5年前に比べ8.4%増加しています(図-3)。特に、中国からの輸入は5年前に比べ34.9%の大幅な増加となっており、輸入野菜全体に占める割合も16年には59.7%を占めるまでになっています。
輸入野菜の増加等に対応した産地ごとの野菜の構造改革対策として策定された産地改革計画に基づき、消費者等に選好される品質・価格での国産野菜の供給体制確立の取組が13年度から推進されています。各産地は地域の特性等を踏まえ低コスト化、契約取引の推進、高付加価値化の3つのタイプの取組を行っており、減農薬、有機栽培等の高付加価値化型の達成率は高いものの、契約取引推進型は4割の産地が50%以下の達成率にとどまるなど、差が見られます。これは、産地と実需者の間をつなぎ、連携を図ることのできる人材の不足、情報交換ができる場が限られていることも要因の一つとみられています。
また、主要野菜の用途別の輸入需要をみると、家計消費における輸入の割合は平成2年の0.5%から平成12年の2%へ、加工・業務用需要では12%から26%へと大幅に増加しています。これは、多くの国内産地が家計消費向けの生鮮野菜の供給を中心としており、需要が堅調な加工・業務用需要への対応が遅れていることも影響しているとみられます。このため、加工・業務用需要への対応の必要性の啓発、優良事例の紹介等により、生産者の意識改革の取組が進められてきています。
今後は、担い手の育成・確保の方針を明確化した産地の生産・流通対策を重点化することとしています。これに加え、コストを抑制した温室の開発や機械化一貫体系の確立、加工・業務用に適した品質・規格や定時・定量供給を可能とする生産供給体制等の普及・啓発、産地と実需者と流通業者の情報交換等を通じた現場段階の取組の拡大、食味・健康増進効果等の機能性を重視した高付加価値化等に広く取り組むこととしています。さらに、野菜価格安定制度については、契約野菜安定供給制度の契約形態や大規模生産者の直接加入制度の規模要件等について17年度から運用を改善したほか、担い手を中心として競争力の高い生産供給体制の確立を目指す産地への重点的支援等について、19年度からの実施に向けた検討が行われています。
(2)野菜の消費拡大
野菜の消費は、若年層を中心に減少傾向にありますが、野菜にはミネラル、ビタミンや、他の食品からは代替して摂取できない機能性成分が含まれており、国民の健康の維持増進を図るうえで欠かすことのできない食品です。このため、「野菜1日5皿分(350g)以上」等の消費拡大運動が官民一体となって取り組まれています。しかし、野菜と食生活とのかかわりをみると、野菜摂取の重要性についての認識は広まっているものの、実際の消費には十分に結び付いていないことがうかがわれます(図-4)。また、女性に比べ男性の摂取量が少ない傾向にあります。
今後、このような認識と実際の消費との差を埋めつつ、「食事バランスガイド」を活用した外食・中食等における摂取の推進、機能性成分等消費者にとってより具体的でわかりやすい情報の提供、消費形態の変化に応じた販売単位の小口化や加工等の取組を推進し、消費拡大につなげていくことが重要となっています。
○平成17年度白書の構成
以上、野菜をめぐる情勢を中心に17年度白書について紹介しましたが、白書全体の構成は、以下のようになっています。
なお、その他詳細については、白書本体をご参照ください。
トピックス
食料・農業・農村基本計画に基づく主要施策の取組状況、WTO農業交渉の取組、知的財産の活用等と革新的技術の開発・普及、農産物輸出の促進、原油高騰への対応とバイオマス等の利活用、団塊世代に着目した少子高齢化・人口減少局面での食料・農業・農村の動向といった、この1年間の特徴的な出来事を紹介。
第1章 望ましい食生活の実現と食料安定供給システムの確立
・食の安全確保に向けた取組、米国産牛肉への対応、消費者と生産者の顔の見える関係づくり等の取組
・国民運動としての食育の推進、「日本型食生活」の重要性や食料産業の動向、食料自給率目標や向上への取組と課題
・WTO農業交渉やFTA交渉の取組
第2章 地域農業の構造改革と国産の強みを活かした生産の展開
・気象災害の状況、農家経済・農業労働力の動向
・認定農業者、集落営農等や農地の動向、「品目横断的経営安定対策」の紹介、担い手の育成確保の取組と課題、農協の課題と改革の取組
・国産の強みを活かした農業生産の現状と課題について、地域ブランド化、技術の革新・開発・普及、農産物輸出の促進などについて
・環境保全を重視した農業生産の推進等
第3章 農村の地域資源の保全・活用と活力ある農村の創造
・農村集落の最近の構造変化と社会活動や農業生産活動への影響及び課題
・農地や農業用水等の地域資源の維持管理の重要性、農地・水・環境保全向上対策(仮称)の意義と内容、バイオマスの利活用に向けた取組
・都市農業の役割、グリーン・ツーリズム等、都市と農村の共生・対流の取組による魅力ある農村地域の形成促進