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農林水産省から


農林水産省の加工・業務用野菜への取り組み ―農林水産省の加工・業務用野菜への取り組みについて―

生産局野菜課流通加工対策室長 鈴木 良典


1 これまでの野菜の生産・流通と消費
 構造の変化
(1) これまでの野菜の生産・流通
 これまで、我が国の野菜産地の多くは、八百屋やスーパーで消費者が野菜を買って、家庭で調理をすることを前提に野菜を生産し、卸売市場に出荷してきました。いわゆる家計消費用野菜が生産の中心だったのです。
 このため、産地では卸売市場で評価が高い野菜、販売単価が高い野菜を供給することを目指して品種の導入や栽培技術の改善を行ってきました。即ち、消費者の直接の購買行動に対応した生産であり、消費者が店頭で選びやすい大きさで、外見がきれいな野菜が我が国の野菜の大宗を占めることとなりました。
 また、産地関係者はブランド化や出荷市場の集約による販売単価の維持・向上には熱心でしたが、自らの産品が卸売市場からどこへいっているのかについてはあまり知りませんでした。

(2) 消費構造の変化
 しかしながら、近年、消費者の行動に変化が見られ、野菜の消費構造にも大きな影響を及ぼすようになりました。
 一つは、家庭で野菜を調理することが減少したことです。総務省の家計調査をみても生鮮野菜の一人当たりの購入量が減少しており、かわりに調理食品であるサラダの購入金額は増加しています。これは、忙しい毎日の中で調理に要する手間を省こうとする動きに対応した商品開発が行われてきためと考えられます。
 二つめは、安いものを多く買って消費する行動から、必要なものを必要な分だけ買うという行動に変わってきました。かつては、安いキャベツを買って、野菜炒めやお好み焼き、浅漬けと様々に利用しましたが、今はメニューを決めて必要な材料を買い、余計なものは買いません。こうした動きに対応して量販店などではカット販売やばら売りなど、販売する量目を多様化しています。
 三つめは、値頃感のあるものを買うようになったことです。消費者は興味や関心のあるものには惜しみなくお金を出しますが、日常生活の必需品は値頃感を重視しています。野菜も値頃感が合わないと消費者は買いません。
 このような消費者の行動の変化は、核家族化、高齢化、価値観の多様化、もったいないということへの社会や意識の変化などが原因と考えられ、こういった変化は、いずれも今後ますます進むのではないかと見込まれます。
 量販店や外食・中食事業者は消費者の変化に敏感に対応して商品開発をしています。外食・中食の中には野菜を売り物にしている企業もありますが、国内産地が加工業務用への対応が十分でなかったことから、この分野では輸入野菜が大きく拡大してきたのが実情です。


2 加工業務用に取り組む意義
(1) 生産者が取り組む意義
 生産者が加工業務用に取り組む意義は何でしょうか。それは当然のことですが需要が伸びるところにはビジネスチャンスがあるということです。需要が縮小する分野は供給が過剰となり価格が下落します。消費者は外食・中食の利用を増やしており、家計消費用野菜の需要は減少しているため、産地が生産を増やさなくても家計消費用は供給過剰となって卸売市場の価格が低迷するわけです。
 また、加工業務用野菜の需要が拡大するにつれて、その需要動向、調達動向が市場価格にも影響するようになっています。例えばキムチを消費者が敬遠すると漬物業者はキムチの製造を抑制し、はくさいの調達量が減少します。すると、はくさいの卸売価格が低迷します。また、レタスの高値が当分続くと予想すると、外食・中食はレタスの使用量を減らすようなメニューを考えます。水菜やだいこんのサラダを定番メニューとし、レタスをなるべくメニューからはずす訳です。そうすると、レタスが供給過剰となり市場価格が低下します。
 昨年の夏の価格低迷は豊作が大きな要因ですが、加工業務用野菜の需要動向も要因のひとつと考えられています。加工業務用に取り組むことは、卸売市場価格の維持にとっても必要です。

(2) 農家のメリット
 加工業務用野菜は販売価格が市場価格より安いことが多く、儲からないといわれます。しかし、栽培方法や調製・出荷方法を工夫することで、販売価格が安くても収量増による売上げ増を追求したり、売上げが増加しなくてもコスト低減による所得の増大を目指すことができます。また、契約により販売価格が決まっている場合には収入の予測が可能となり、特に大規模経営では経営の安定に繋がります。卸売市場出荷の場合、野菜の価格が低下して収入が思うように得られなければ、資材費や雇用賃金の支払いのための資金繰りも必要となってしまいます。価格を決めた契約取引はこの恐れを防ぐことができ、実際に、多くの若い担い手農家から契約取引は経営の安定に資すると高い評価を得ています。

(3) 卸売市場関係者のメリット
 卸売市場関係者にとって、加工業務用に取り組むことはやはり事業の拡大に繋がります。規格や価格の安定性から市場外流通が多くなっている加工業務用に、産地の事情、実需者の事情に通じた卸売市場関係者が本気で取り組めば、これらのメリットを生かした市場流通の活発化につながるものと見込まれます。


3 平成17年度に取り組んできたこと
(1) 生産サイドの意識改革
 平成17年度から農林水産省では国産野菜の加工業務用拡大を目指して、さまざまな取り組みを行ってきました。その一番目は生産サイドの意識改革です。地方農政局段階の情報交換会や全国段階の加工・業務用野菜シンポジウム、野菜フェアセミナーを開催し、加工業務用野菜に取り組む重要性の説明や優良事例の紹介を行うとともに、食品産業界からの参加も得て業界が求める加工業務用野菜に関するパネルディスカッションなどを行いました。
 こうした会議や、後述する「日本全国野菜フェア」に生産サイドの関係者が数多く参加されており、生産サイドの意識改革はある程度成果があったものと考えています。

(2) 生産者と食品産業の相互理解・交流の推進
 加工業務用の取引拡大には、生産者が食品産業の、食品産業が生産者の現状や要請等を理解することが必要です。このため、本年の2月6、7日、東京国際フォーラムで「日本全国野菜フェア」を開催しました。消費拡大も併せたふたつのテーマで実施しましたが、食品産業関係者については2千名を超える参加がありました。また、地方農政局ではカット野菜工場、野菜生産現場の見学やシンポジウム形式の交流会なども行いました。

(3) 加工・業務用需要への取り組みの実態把握
 これまで加工業務用については、どのような事例があるのか、産地がどのように考えているかなどについて必ずしも十分に把握されていませんでした。このため、優良事例調査やJAの意向調査などを行い実態把握に努めました。

(4) 取り組む際に参考となる資料づくり
 産地が実際に加工業務用に取り組もうと考えても、初めてのところでは具体的なイメージがわかず、生産者に説明もできません。そこで、食品産業の要望について調査を行うとともに、加工業務用に取り組む先進的な産地の体制等を分析し、品目別に加工業務用に求められる品質や規格、産地の体制整備の考え方などを整理した「品目別用途別ガイドライン」を、トマト、レタス、ほうれんそうの3品目について作成し、都道府県、全農を通じて各産地に配布しました。


4 平成18年度に取り組むこと
(1) 食品産業サイドと生産サイドの連携の強化
 平成18年度は、加工業務用野菜への対応強化に向けた本格的取り組みの2年目となります。この取り組みをさらに進めるには、なんといっても生産サイドと食品産業サイドの連携を強化する必要があります。農林水産省、地方農政局、都道府県の担当部局はもちろん、関係団体との連携も十分に図って相互理解を進めることとしています。このため、会議や研修等に関しての早い段階からの情報提供、定期的な情報交換を行うこととしています。

(2) 現場段階における取り組みの推進
 今後、国産加工業務用を拡大していくためには、現場での新たな取り組みを育成するとともに、その状況を広く知ってもらうことが有効と考えています。このため、18年度は、地域ごと品目ごとの加工業務用向け品種や栽培技術について、検討・方針取りまとめを実施することとしています。これはいわば、「品目別用途別ガイドライン」の現地版の作成であり、それぞれの現場で実際に生産を行う際に役立つものとしたいと考えています。
 また、(社)日本施設園芸協会を通じて、加工業務用野菜のコストや栽培方法等についての実証を行っていますが、実際に加工業務用に取り組もうと考えている産地に活用してもらえるよう、今年度現地実証地区の公募を行いました。これにより、具体的な生産販売に繋がるものと期待しています。

(3) 生産サイドと食品産業サイドの相互理解・交流の一層の推進
 取引拡大のためには、やはり生産サイドと食品産業サイドがお互いの置かれている状況を理解することが必要です。相互理解の上に立って、よく相談をすることがお互いにメリットのある取引に繋がり、また取引が長く続くことになると考えています。しかしながら、大人数による交流会等を実施しても、なかなか有意義な情報交換ができないという声が参加者から寄せられています。
 このため、18年度は地方農政局単位でお互いに密接な情報交換が可能な人数により、産地でほ場を見ながら、あるいは加工工場の見学をしながら情報交換を行う場を設定することとしました。生産され、利用される野菜は季節により異なることから、同一ブロックでもこうしたイベントを実施時期を変えて何回か行うことで、より多くの品目で相互理解が進むよう計画しています。
 また、現在、加工業務用への供給を拡大したい産地が個々に食品産業と情報交換する会を企画しています。これについては、今後決まり次第、農林水産省や農畜産業振興機構のホームページで情報提供することとしていますので、関心のある方はホームページをチェックして下さるようお願いします。

(4) 参考となる資料づくりの加速化
 前年度の3品目に続き、18年度はさらに多くの産地で加工業務用への取り組みを始めてもらえるよう、だいこん、キャベツ、にんじん、たまねぎ、ねぎの5品目について品目別用途別ガイドラインを作成することとしています。
 また、生産者と流通・実需者がお互いにメリットが得られるような関係を築いてもらえるよう、これら関係者で優良事例を参考にしつつ議論してもらい、取引の考え方を整理することも予定しています。

(5) 終わりに
 今後とも、加工業務用野菜の生産を行う産地が増加し、食品産業における国産野菜の利用が拡大するよう、農林水産省としてもさまざまな取り組みを行っていきたいと考えていますので、関係者の皆様には是非ともふるってご参加いただき、加工業務用への取り組みの拡大に努めて下さるようお願いいたします。



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