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農林水産省から


野菜の加工・業務用への対応と今後の意向に関する JAアンケート調査結果について

関東農政局 生産経営流通部 園芸特産課
課長補佐(野菜) 加藤 誠


1.はじめに(調査の背景)
 野菜の輸入は、食の外部化の進展により野菜需要の過半を占めるまでに至った加工・業務用をターゲットに増加する傾向が顕著となっています。このような輸入の増加と、生産者の高齢化・担い手の不足や価格低迷なども相まって、管内の野菜産地においても生産の減少や経営の収益性が低下するなどの影響が出ています。

 今後、産地の振興と国産野菜の需要拡大を図るには、加工・業務用への安定供給を拡大していくことが不可欠で、市場価格の低迷が続く中、経営の安定や所得確保の視点から産地共通の課題として、地域の生産事情や特徴に応じた形で加工・業務用への販売チャネルを確立・強化していくことが極めて重要です。

 このため、関東農政局と管内都県では、加工・業務用への対応推進に係る取組を積極的に進めていく考えから、今後の推進方策等の検討に資することを目的として、管内JAを対象に加工・業務用への対応状況と今後の取引の意向に関するアンケート調査を実施しました。調査は平成17年に管内全200単協へ個別に調査票を配付(送付)し回収する方法で行いました。

 ここに、その調査結果の概要の一部を紹介します。


2.調査結果の概要
(1) 調査票の回収
 調査票は、管内10都県の全200単協に対して都県を通じて配付(送付)し、このうち回収は148農協となっています(回収率74%)。

(2) 取引の実態
 調査票が回収された148農協のうち、既に加工・業務用の実需者と取引を行っていると回答があったのは90農協で、約6割の産地に留まっています。これは産地が加工・業務用の取引は代金決済を含めリスクが大きく契約内容も厳しいとの考えから敬遠していること、依然として京浜市場等への委託出荷志向が強いこと、また、関東は大消費地圏を抱えているため量販店や生協への出荷又は直売所での販売を重視している産地も多いことなどが考えられます。

(3) 加工・業務用向け出荷量
 取引を行っている90農協に対して、主要品目別の総出荷量とそのうち加工・業務用向け出荷量を聞きました。集計の結果、加工・業務用向け出荷量が多い上位10品目は表1のとおりで、はくさい、キャベツ、レタスなどの指定野菜が上位を占めています。なお、上位10品目合計の総出荷量に占める加工・業務用向け出荷割合は13%に留まっています。これは産地の市場への委託出荷志向が強いこと、加工・業務用の取引は契約数量を確実に納品することを強く求められるため不作時を考慮し契約数量は作付面積の一定割合に抑えられていること、実需者によってはオーダーが少ないこと又は取引産地を分散していることなどの要因が考えられます。

表1〔総出荷量及び加工・業務用向け出荷量〕

(4) 加工・業務用への対応状況
 1)現状の産地体制
  取引を行っている90農協に対して、現在の加工・業務用への対応状況について聞きました。
  はじめに、現状の産地(生産出荷)体制について聞いたところ、最も多かったのは「市場出荷向けの一部を出荷」で、次いで「毎年その都度希望者を募り対応」、「実需者毎に生産者をグループ化」の順で、いわゆるスソ物等で対応と答えたのは9農協に留まっています(図1)。これは現在、加工・業務用は歩留まり又は食の安全の関係から規格、品質や栽培方法などが重視され、取引を行うには実需者ニーズを前提とした生産出荷体制が不可欠となっているためです。



 2)取引に係るリスク軽減対策
  次に、取引に係るリスク軽減対策について聞いたところ、最も多かったのは「代金決済確保のための市場を含めた第三者契約」で、次いで「代金決済確保のための正当な書面契約の締結」、「不作時に契約数量の見直しの条項がある」の順となっています(図2)。この中で従来、産地及び実需双方とも不測の事態を考慮し消極的と思われていた書面契約について、今回の調査結果を見ると産地によっては積極的に書面契約を求めている実態が見られます。産地と実需が信頼関係のもと取引内容に責任を持って野菜のビジネスを進めていく場合には、産地サイドも書面契約を一般的なものとして扱っていることが見てとれます。



 3)産地の目的
  また、加工・業務用への供給を行う目的(ねらい)について聞いたところ、最も多かったのは「生産者の経営の安定(所得の確保)」で、次いで「販路の拡大」となっています(図3)。これは近年、長期的な市場価格の低迷が続く中、産地が市場への委託出荷だけでは野菜経営の安定と生産者の所得確保を図っていくことはできないとの認識から、多くの産地が野菜需要の過半を占め今後も増加傾向が続くと見られる加工・業務用を新たな販売チャネルとして位置付けてきていることを示しています。



 4)JAの組織体制
  さらに、JAの組織体制の現状について聞いたところ、「特別な体制はとっていない」(56農協)が最も多く、専門の係(10農協)や専門の課(4農協)を設置していると答えた産地は少ない実態にあります。今後は加工・業務用への販売チャネルの確立や量販店等への対応を含めたマーケティングの強化を図っていく上で、産地体制とともにJA組織の改革は産地共通の課題と言えます。

(5) 加工・業務用への対応推進上の課題
 調査票が回収された148農協に、加工・業務用への対応推進上の課題について聞いたところ、最も多かったのは「生産者の意識改革」と「取引価格の向上(農家手取り価格の確保)」となっています(図4)。言うまでもなく実需者との取引を進めていく上で、産地サイドの大きな課題は『生産者の意識改革』であることは多くの関係者が指摘しているところです。産地・生産者は、例えば取引の相手方である実需者が365日(周年)営業を行っていることを強く認識し、誠意を持って契約内容を履行していくことで実需者との間で長期の信頼関係を構築し、そのことが結果として産地が求める取引価格の向上に結び付いていくものと思います。

(6) 加工・業務用の実需者との取引の意向
 1)現在取引を行っている農協
  調査票が回収された148農協について、今後、加工・業務用の実需者と取引を拡大する又は新たに取り組む意向について聞きました。
  はじめに、取引を行っている90農協に対して、今後、取引を拡大する考えについて聞いたところ、「はい(拡大する)」と答えたのは54農協で60%を占めています。さらにその理由を尋ねたところ、「経営の安定」が29農協で最も多く、次いで「販路の拡大」となっています(図5、図6)。
  この調査結果は、加工・業務用の実需者との取引は産地にとって厳しいと言われていますが、一方で産地サイドにおいても計画出荷や規格の簡素化による経営の安定や所得確保のメリットが確実に存在することを示しています。






 2)現在取引を行っていない農協
  次に、取引を行っていない58農協に対して、今後、新たに取引を行う考えについて聞いたところ、「いいえ(今後も取引しない)」と答えたのは33農協と57%を占めています。さらにその理由を尋ねたところ、「生産量が少ない」が15農協で最も多くなっています(図7、図8)。しかし、実需者によってはオーダーが小さい場合もあるほか、少量生産でも特徴のあるブランド野菜づくりを勧め、地元レストランなどとの連携による「地産地消」として推進する方法や実需者との取引を契機に新たな担い手の育成を図るなど、小規模産地においても加工・業務用へチャレンジすることは十分可能ではないかと考えます。




(7) 取引を拡大又は新たに取引したい品目及び業種
  参考までに、加工・業務用の実需者との取引を拡大又は新たに取引したい品目及びその実需者の業種について聞いたところ、品目で多かったのはキャベツ、はくさい、レタスなどの指定野菜の順となっています。また、業種では全体を通して加工食品メーカーが最も多く、次いで外食の順となっています(図9)。

(8) 加工・業務用対応のための産地とJA組織の改革の方向
  最後に、加工・業務用の実需者との取引を推進する上で、産地とJA組織の改革の方向について聞いたところ、産地の生産体制で最も多かったのは「生産部会の見直し」(15農協)で、次いで「生産者のグループ化」(8農協)、「生産者の意識改革」(6農協)の順となっています。

  また、JAの組織体制で最も多かったのは「専任職員の配置」と「専門部署の設置」でともに12農協となっています。


3.おわりに(今後の推進方向)
 今回実施したアンケートの調査結果を見ると、全体として産地における加工・業務用への対応推進に関する意識は高いとは言えず、また、その取組も十分とは思われないことから、引き続き産地サイドの広い関係者を対象に加工・業務用への対応推進の必要性や重要性を呼びかけ、意識の改革を促すための『啓発・普及活動』を継続的に行っていくことが重要です。一方で実需者との取引を志向する産地も少なくないことから、取引の意向を共有する産地と実需を対象に取引を側面から支援するための具体的なテーマを持った『野菜ビジネスのための産地と実需の情報交換・交流活動』も積極的に展開していくことが求められています。

 今後、関係者においては、このような二つの取組を同時並行で進めていくことで、産地の「意識改革」から実需者との「取引」へと推進し、国産野菜の需要の拡大を図っていく必要があります。



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