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農林水産省から


「食」と「農」の連携強化検討会報告の概要について

総合食料局 食品産業企画課
課長補佐 三 野 敏 克


 平成17年6月20日に第1回「「食」と「農」の連携強化検討会」(座長:上原 征彦明治大学大学院教授)を設置し、これまで5回の検討会において活発な御議論を頂き、本年1月13日に報告書が取りまとめられました。今回は本検討会報告の概要をご紹介致します。

○はじめに
 食品産業と農業は、高度化・多様化する消費者の需要に即した食品を消費者が納得する価格で効率的かつ安定的に供給する上で、「車の両輪」とも言うべき重要な役割を果たしています。この「車の両輪」に関わる施策の対象は広範に渡り、また、多くのステークホルダー(利害関係者)を有するため、多くの課題が存在します。
 このため、農業・食品事業関係者及び有識者からなる「「食」と「農」の連携強化検討会」を設置し、「食」と「農」の架け橋機能の強化を図る方向性、関係者の取り組むべき課題や今後の食品産業と農業の連携方策について、「農業・食品産業・消費者の連携」及び「生産から消費に至るフードシステムにおけるコストの削減」を中心に検討を重ねてきました。


第1 「食」と「農」の現状と問題認識
 社会情勢の変化による消費者の「食」に対する簡便化志向の高まりや外部化の進展を反映して、加工食品・外食の消費が増加し、また、食の安全・安心への関心の高まりの中、地産地消の取組が地域の自主的な活動として、食品産業とも連携しながら増加しています。

 一方、国内農産物の供給サイドが食品産業サイドのニーズに十分応え切れていないこともあり、加工・外食仕向けの国産農産物・食品の割合は近年低下し、加工品、半加工品の製品輸入及び海外生産比率が増加傾向で推移し、食品産業界内での競争も激化している状況にあります。

 このような「食」の状況の変化を踏まえ、国民ニーズに対応した食料の安定供給を確保するためには、食品産業と農業がそれぞれの課題を克服し、競争力の強化を図ることが重要となっています。

第2 委員・企業等ヒアリングを踏まえ把握した実態等について
1.検討会座長メモを踏まえた検証作業等について
 第1回(平成17年6月)及び第2回検討会(同7月)における検討会委員から出された意見の中には、検討会のテーマのほか、食品産業政策全般に関わるものや既に方策を講じているにも関わらず、対策を講じるべきとするものもあったところです。

 このため、第3回(同8月)の「座長メモ」に基づき、9月と10月の2ヶ月間、「食品産業や農業のそれぞれの分野における実態や傾向の精査」及び「これまでの施策の検証・点検」を実施し、事務局において特に検討すべき課題の抽出・整理を踏まえ、11月に議論を再開いたしました。

2.食品製造事業者等からの意見聴取の結果
 平成17年8月から10月まで、農業者、農協系統、卸売・仲卸業者、食品製造業者、食品小売業者、外食業者、生協、消費者等を対象に(合計約30事業者等)、農業や食品産業のそれぞれの分野における実態や傾向に関して詳細な意見聴取を実施しました。

 その結果、多くの課題が存在する中で、関係者間で利害関係が相反するものも存在するとともに、本検討会のテーマの他に事業環境の変化、今後の事業展開、経営体質の強化、食育、食の安全、消費者の信頼の確保、環境・リサイクル、人材・労働力、政策体系等について広範かつ多様な意見が存在することが明らかになっています。

3.施策の点検・検証の結果
 これまでの施策の検証・点検として、検討会のテーマである「農業・食品産業・消費者の連携」及び「生産から消費に至るフードシステムにおけるコストの削減」に関し、現在実施している平成17年度の施策について、点検・検証を実施しました。

 この結果、補助事業、卸売市場法をはじめとする制度、農林漁業金融公庫等による金融措置などの施策は、本検討会で設定している「主な検討課題」に概ね対応し、流通コストの低減や食品産業と農業の連携に関する支援も幅広に実施されていることが明らかになっています。

第3 検討の結果明らかになった課題と方向性
1.基本的認識
 単身世帯、女性の社会進出の増加など消費者の生活スタイルの変化により、我が国の食生活は、中食・外食の増加、個(孤)食化・即食化の進展、高付加価値志向と低廉志向への分化など多様化の傾向にあります。

 また、人口減少、少子・高齢化社会の到来により、国内市場が量的飽和、成熟状態にある中で、中国等からの農産物等の輸送時間の短縮や品質・衛生管理の向上を踏まえ、農産物・食品輸入と国内食品製造業者等の海外生産は引き続き増加傾向にあります。

2.今後の対応と方向性
 このような基本的認識の下、本検討会の各テーマに係る今後の対応・方向性は下記のとおりです。

(1)農業・食品産業・消費者の連携の推進
(1)農業・食品産業・異業種も含めた広範な連携のあり方、加工段階
・ 農業・食品産業・関連産業等も含めた連携(食料産業クラスターの形成等)を通じ、地域・品目毎の特性を踏まえつつ、地域食材を広く活かした機能性食品等の高付加価値食品や新技術の開発、需要と供給間の情報網の整備、コーディネーター育成等が必要。
・ 栄養素など食品の機能性に対する消費者の関心の高まりを踏まえ、適切な情報提供を念頭に置いた技術・商品開発が必要。
・ 小売業、外食産業等においては、消費者に直に接する機会を生かし、生産者、食品産業、消費者等の人の交流を通じた消費者の満足度向上や相互理解の促進が重要。
・消費者ニーズに迅速かつ的確に対応するため、消費地に近接した加工地での商品開発が必要。

(2)産地段階
・ 加工・外食需要に対応するため、産地間連携による周年安定供給、高品質かつ合理的な価格での生産、契約取引の安定化等に向けた体制づくりに向けた更なる取組が必要。
・ 特に、原料契約取引については生産者及び実需者の双方にとって長期的なメリットがあることを踏まえ、対話や現地訪問を通じた密接な関係の醸成が必要。
・ 消費者・実需者ニーズを踏まえた国産農産物に係る試験研究の充実が必要。

(3)流通段階
・ 食品小売業者の地域農産物を利用した商品のブランド化、「食育」の観点からの学校給食での活用など、地産地消の取組を一層推進し、「顔が見え、話ができる」関係により、地域の農産物・食品の購入機会を提供していくことが必要。
・ 産地と食品小売業者との連携など多様な流通経路の形成、商品に関する提案力の強化、後継者等の人材育成による魅力のある食品小売業の展開が必要。

(2)生産から消費に至るフードシステムにおけるコストの削減
(1)加工段階
・ リース方式により農地利用を可能とする仕組の一層の活用、農業との関係強化による原料調達の安定化、コストの低下・安定化など通じて食品企業自らの戦略に合った加工食品・外食仕様への対応が必要。
・ 株式会社をはじめとする食品企業の農業への参入においては、原料の自社内活用時におけるコスト分析、自社用以外の農産物等の販売先の確保、農場運営の担当者の経営能力や管理能力の向上等が必要。

(2)産地段階
・ 「農業生産資材費低減のための行動計画」については、重要な取組事項を中心に数値目標を明示しつつ、その改定とこれに基づく取組を全農経済事業改革や都道府県の担い手育成に係るアクションプログラムとも連動させつつ推進することが必要。
・ 具体的には、特許切れ農薬の普及促進等による低廉な資材の供給、大口取引・農家直送による割引条件の拡大等による流通の合理化、肥効調節型肥料等の導入や集落内の共同利用等による農業機械の稼動面積の拡大等による資材の効率的利用が必要。

(3)流通段階
・ 情報技術活用による物流作業体系の効率化、生産から小売に至る情報伝達・処理方法の標準化、通い容器の普及、モーダルシフト推進やクールコンテナの効率的利用等が必要。
・ 卸売市場の再編・合理化、電子商取引導入や商物分離による最適流通の促進、卸売市場における品質管理の高度化、卸・仲卸業者の規制緩和を生かした一層の経営改善が必要。

(4)その他コストのあり方に関連する事項
・ 最適物流システム構築やリサイクル、省エネルギーの推進、CO2削減等による環境負荷低減の一層の推進が必要。
・ トレーサビリティ・システムについては、実態を踏まえた導入目的や技術面・経済面での実行可能性の十分な勘案と、生産者、食品事業者、消費者毎の情報の共有化を図りつつ応分のコスト負担の検討が必要。

第4 今後の取組に当たって
1.今後の取組に当たって
・ 食品産業等の重要課題である原料調達については、多種多様な品目及び業界が存在し、行政も複数の部局において施策を実施していますが、食品産業界からは国産原料に対し強い要望があることも踏まえ、生産者、食品産業、行政等の関係者及び施策の充分な連携と意思疎通が肝要であることは明らかです。
 また、消費者の国産志向は依然として根強いことから、食品産業がマーケットにおいて「食農連携」、「地産地消」を戦略的に活用し、競争力強化の手段とすることが可能であることが明らかになっています。

2.この検討会報告の位置づけ
 食品産業と農業の連携に関わる課題は、極めて広範かつ多岐に渡ります。課題によっては業界内での利害関係が相反するものもあり、行政が一定の見解を示す一方、業界にも独自の見解に基づいた取組を検討していただく必要があります。このため、本報告は課題と方向性を示しつつ、食品産業界や生産者に対し、「課題を投げかけ」るものと位置付けられております。
 また、今後の取組に当たっては、行政は食品産業界等と問題意識を共有しつつ、本報告のうちフィージビリティ(実現可能性)の高いものについては、早急に実行するなどの対応を行うとともに、各業界から示される意見等について改めて検討を深め、施策へ反映させていくことが必要とされています。具体的には、地域食品産業の食品開発に係る技術支援、外食産業と農業の連携支援、生産・流通の各段階における改革モデルの提示(低コスト物流システムの調査・検討等を実施)を進めて行くこととしておりますが、野菜はこれらを進めて行くに際しての中心的作物であり、関係団体・企業の皆様と密接な連携の下に実施して参りたいと考えておりますので、引き続き宜しくお願い致します。

【開催経緯】
第1回(平成17年6月20日(月))
 食料供給(フードシステム)の現状と課題について議論、有識者ヒアリング

第2回(平成17年7月28日(木))
 生産から消費に至るフードシステムにおけるコストの削減について、有識者ヒアリング

第3回(平成17年8月30日(火))
 今後の検討課題の整理等について

第4回(平成17年11月24日(木))
 食品産業等に係る実態・傾向の精査及び施策の検証結果等について

第5回(平成18年1月13日(金))
 報告書取りまとめ
 



(参考)

「食」と「農」の連携強化検討会 委員名簿(敬称略、五十音順)

上原 征彦   明治大学大学院 教授(座長)
牛島 正美   全国町村会 経済農林部長
遠藤 紀江   農業者
大木 美智子  消費科学連合会 会長  
小倉 修悟   日本生活協同組合連合会 会長
加納  晃   株式会社ベジテック 代表取締役社長
川田 一光   財団法人食品流通構造改善促進機構 副会長
佐々木 孝治  日本チェーンストア協会 会長
神出 元一   全国農業協同組合連合会 常務理事(第3回~)
(宮下  弘   全国農業協同組合連合会 常務理事(~第2回))
鈴木  豊   キユーピー株式会社 代表取締役社長 
田沼 千秋   社団法人日本フードサービス協会 副会長 
野村 一正   時事通信社 解説委員(座長代理)
長谷川 朝恵  主婦・消費生活アドバイザー 
藤原  厚   全国水産物商業協同組合連合会 会長 
前澤 正一   全国農業協同組合中央会 常務理事(第3回~)
(中村 祐三   全国農業協同組合中央会 常務理事(~第2回))
宮原 邦之   全国漁業協同組合連合会 代表理事専務 
茂木 友三郎  財団法人食品産業センター 会長 
山下 一公   有限会社ピーチ専科ヤマシタ 代表取締役社長



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