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農林水産省から


トレーサビリティ・システムの導入・実施状況等の実態(概要)

統計部生産流通消費統計課 消費統計室
食品産業動向班 稲次 研士


はじめに
 最近、食にかかわる様々な問題の発生に伴い、食品の安全性の確保が国民から強く望まれています。このため、農林水産省はトレーサビリティ・システムの導入促進、食品表示の適正化、HACCP手法の導入の推進等、食の安全及び消費者の信頼の確保のため食品安全行政を推進しています。

 このうち、トレーサビリティ・システムは、食の安全性や品質等に関して生産者や事業者が有する情報の提供や照会ができる仕組みで、トレーサビリティ・システムの構築は消費者から期待されています。

 農林水産省統計部では、平成15年度、16年度に食品産業及び総合農業協同組合におけるトレーサビリティ・システムの導入・実施の状況について統計調査を実施しましたのでご紹介します。

 まず、食品トレーサビリティ(追跡可能性)及びトレーサビリティ・システムとは以下のとおりです。

(1) 食品トレーサビリティとは、生産、処理・加工、流通・販売のフードチェーンの各段階で、食品とその情報を追跡して遡及できることをいいます。

(2) トレーサビリティ・システムとは、トレーサビリティのための「識別」、「データの作成」、「データの保管」、「データの照合」の実施の一連の仕組みをいいます。(「食品トレーサビリティシステム導入の手引き(食品のトレーサビリティ導入ガイドライン策定委員会)」より)

 本調査においては、トレーサビリティ・システムを「いつ、どこから仕入、(いつどこで製造して)、いつ、どこに出荷(販売)したかを荷姿(ロット等)により特定できること」と定義し、食品製造業、食品卸売業、食品小売業及び総合農協を対象に調査を実施しました。


1 食品産業の調査結果
1 トレーサビリティ・システムの導入状況
 平成17年1月1日現在、トレーサビリティシステムを「すべての食品(製品)に導入している」企業は、食品製造業17.1%、食品卸売業15.3%、食品小売業11.2%となり、前年に比べそれぞれ増加しています。

 また、「一部の食品(製品)に導入している」企業は、食品製造業17.3%、食品卸売業21.1%、食品小売業17.3%となり、前者の項目と同様に前年に比べてそれぞれ増加しています。

 これらの企業に「今後導入する予定である」及び「導入を検討中である」企業を加えたトレーサビリティ・システムの導入に何らかの取組をしている企業は、食品製造業51.6%、食品卸売業46.2%、食品小売業38.7%となっており、食品製造業では5割以上の企業が何らかの取組みをしています(図1参照)。

図1 トレーサビリティ・システムの導入状況



2 トレーサビリティ・システムの導入の 必要性
 トレーサビリティ・システムを「導入する予定はない」及び「導入するかわからない」と回答した企業の割合は、食品製造業48.5%、食品卸売業54.0%、食品小売業61.2%となっています。これらの企業のトレーサビリティ・システムの導入の必要性についての意向は、「必要性を感じている」企業が調査企業全体の内訳で食品製造業22.5%、食品卸売業24.2%、食品小売業26.6%となり、トレーサビリティ・システムを「導入する予定はない」及び「導入するかわからない」と回答した企業のうちの約半数は、その必要性を感じています。

 このことは、現在、トレーサビリティ・システムの取組がされていない企業においても、今後、導入に向けて取組がされることが期待されます(図2-1、2-2、2-3参照)。

図2-1 トレーサビリティ・システムの導入の必要性



図2-2 トレーサビリティ・システムの導入の必要性



図2-3 トレーサビリティ・システムの導入の必要性

注:「①必要性を感じている」と「②必要性を感じていない」は、図1の「導入する予定はない」企業及び「導入するかわからない」企業に対して、トレーサビリティ・システムの導入の必要性について質問した回答である。



3 情報の記録・保管方法
 トレーサビリティ・システムでは、情報の記録・保管が大切です。もしもの時の遡及や追跡は、情報の記録・保管があればこそ可能となり得ます。

 トレーサビリティ・システムによる情報の記録・保管の方法として「パソコンを活用したシステム」と「パソコンを活用したシステムと紙媒体(伝票・帳簿等)の併用」を合わせたパソコンを使っている企業は、食品製造業58.7%、食品卸売業59.7%食品小売業50.3%となり、いずれも5割を超えています(図3参照)。

図3 情報の記録・保管方法




4 システムの連携の範囲
 さらに、これらパソコンを活用している企業における取引先とのシステムの連携範囲をみると、「自社と仕入先及び出荷先」の連携は、食品製造業33.8%、食品卸売業39.1%となっています。また、食品小売業の「自社と仕入先」の連携は、57.9%となっています。

 消費者から生産者(製造者)までの間の遡及・追跡の可能なトレーサビリティ・システムを考えた場合、各段階をつなぐシステムの連携は重要となります。このことからみれば、食品製造業や食品卸売業の30%台は、瞬時に情報を出し入れできるパソコンを活用している点からみると、低い値で、IT機器の機能が十分に生かされていないようです。

 しかしながら、前年(食品製造業14.1%、食品卸売業8.8%)に比べて大きく上昇していることから今後の連携に期待したいところです(図4-1、4-2参照)。

図4-1 システムの連携の範囲(食品製造業、食品卸売業)


図4-2 システムの連携の範囲(食品小売業)





2 農業協同組合の調査結果
1 トレーサビリティ・システムの取組
 トレーサビリティ・システムにおいて食品の最も川上部分に位置する農業協同組合の役割は重要となります。遡及・追跡する情報の大半は、生産者や農業協同組合が源であると言っても過言ではありません。

 本調査は、全国935総合農協のうち140総合農協を対象に実施しました。

 調査対象の農協において集出荷している品目の割合は、野菜類97.0%、米90.9%、豆類79.5%、果実類78.8%、麦類63.6%となっています。

 これらの品目において、何らかの栽培管理情報を記録・保管している割合は、野菜類が最も高く93.7%、次いで米が90.0%、果実類86.5%となっています(図5参照)。

図5 栽培管理情報の記録・保管状況

 出荷している品目において、「何らかの栽培管理情報を提供している」と「生産者名のみを提供している」をあわせて出荷先に情報を提供している農業協同組合は、16年77.1%で15年に比べて16.5ポイント上昇しています(図6参照)。

図6 出荷先への情報の提供



2 出荷品目の追跡の範囲
 栽培管理情報を提供した品目のうち最終出荷先まで追跡可能な農協の割合は、野菜が27.4%と最も高く、次いで米22.4%、果実類19.6%、麦13.0%、豆類11.1%の順となっています。
 また、直接出荷は、米が39.7%と最も高く、次いで果実類30.4%、野菜25.8%、豆類22.2%、麦17.4%の順となっています(図7-1、7-2、7-3、7-4、7-5参照)。

図7-1 出荷品目の遡及可能範囲(野菜類)

注:( )の数値は、15年値。以下、同じ。

図7-2 出荷品目の遡及可能範囲(米)


図7-3 出荷品目の遡及可能範囲(果実類)


図7-4 出荷品目の遡及可能範囲(麦)


図7-5 出荷品目の遡及可能範囲(豆類)



3 情報の開示方法
 農協で記録・保管している情報の一般消費者への開示方法は、「開示はしていないが、照会があった場合は開示する」が最も高く60.3%となり、次いで「インターネット上のホームページで開示している」が17.6%、「紙等のラベルを表示」が12.2%となっています。このことから、情報の開示については、積極的な取組みを行っている農協は少なく、今後、開示に向けた取組みが期待されます(図8参照)。

図8 記録・保管しているデータの開示方法(複数回答)


おわりに
 本文では、調査結果の概要をご紹介しましたが、不明な点やさらに詳しい内容をお知りになりたい場合は、農林水産省統計部消費統計室食品産業動向班にお問い合わせください。



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