[本文へジャンプ]

文字サイズ
  • 標準
  • 大きく
お問い合わせ

農林水産省から


種苗法の改正について―品種登録制度と指定種苗制度の改正―

生産局 種苗課
企画調査係 山田 智子


1 はじめに
 「植物の新品種が、特許権のような知的財産権として保護されている」――農林水産物資を扱っている業者の方であれば、もう当然のこととしてご存知の方も多いのではないでしょうか。
 植物の新品種は、出願し、審査を受け、品種登録されると、知的財産権である「育成者権」が付与されます。それを定めているのが「種苗法」です。今年の国会では、この種苗法が育成者権の保護の強化を図る目的から改正されました。本稿では、この法律改正の内容を中心に、種苗の表示に関する省令の改正にも触れながら、最近の種苗行政について紹介したいと思います。


2 品種登録制度とは
 まず、品種登録制度について簡単に紹介します。

 植物の新品種の育成者等が国に出願し、新品種だと認められて品種登録されると、育成者権というその新品種を独占的に利用できる権利が与えられます。これを、「品種登録制度(品種保護制度)」と呼びます。
 育成者権を与えられた新品種を「業として」利用するときは、育成者権者の許諾を得る必要があります。(「業として」とは、個人的、あるいは家庭的な利用とはいえない場合を意味し、有償・無償を問わず、また、一回だけの利用であっても含まれます。)
 なお、ここ数年、出願件数は毎年1,000件を超え、平成17年3月時点で登録が有効な品種は合計6,266種となっています。(出願の多くは草花です。)


3 知的財産の保護と種苗法の改正
 今年種苗法が改正された背景には、日本の国家戦略として知的財産立国が打ち出されていること、近年、不法に海外に持ち出された登録品種の種苗が、海外で不正に増殖され、育成者権の及ばない加工品として逆に輸入される恐れが生じていることなどがあります。
 昨年、知的財産基本法に基づく「知的財産推進計画2004」が策定され、その中で法律改正の検討も含めて育成者権の保護強化についても指摘を受けたため、農林水産省では検討会を立ち上げて見直しを行いました。1)
 また、近年、登録品種が海外に不法に持ち出され、農産物が生産されて日本に逆輸入される、という問題が発生するようになりました。(たとえば、育成者権を付与された小豆が、中国に不法に持ち出され、収穫物である小豆が生産されて日本に逆に輸入される、という事態が発生しました。)
 逆輸入の問題に加え、従来の育成者権の存続期間だけでは、長期間と多額の費用を要するにもかかわらず、新品種の育成から得られる利益が十分でないなどの問題があり、今回の種苗法改正においては、存続期間も延長しています。

(1) 加工品への育成者権の効力拡大
 今回の改正では、育成者権の効力が及ぶ範囲を種苗及び収穫物だけでなく、加工品(種苗を用いることにより得られる収穫物から直接に生産される加工品であって、政令で定めるものをいう。以下同じ。)についても拡大し、加工品を利用する行為についても育成者権の効力が及ぶこととしました。併せて、加工品に係る育成者権を侵害した者を罰則の対象に追加しています。
 この改正は、改正法の公布の日(今年6月17日)から起算して6か月を超えない範囲内において、政令で定める日から施行されます。いつから施行されるのか、また、具体的にはどのような加工品が政令で指定されるのか、ということについては、現在検討中ですが、今年中には加工品を指定し、施行する予定です。
 なお、権利行使と水際取締りの実効性の観点や、国際条約との関係等から、政令で指定される加工品は、品種識別技術が確立されているものなど一定の条件を満たすものに限って指定する予定です。

【品種識別技術が確立している加工品】 加工品名
識別可能な研究所等
あん
北海道中央農場試験場等
ござ
九州沖縄農業研究センター
米飯
食品総合研究所
製茶
野菜茶業研究所


【品種識別技術を開発中の加工品例】 小麦粉
近畿中国四国農業研究センター等
こんにゃく精粉
農業生物資源研究所等
なすの漬物
大阪府立食とみどりセンター
いちごジャム
野菜茶業研究所
かんきつジュース
果樹研究所

(2) 育成者権の存続期間の延長
 これまで、育成者権の存続期間は、果樹等の永年生植物については25年、その他の植物については20年としていましたが、存続期間をそれぞれ延長して、果樹等の永年生植物については30年、その他の植物については25年としました。
 この改正は、改正法の公布の日から施行されています。6月17日以降に品種登録された品種に係る育成者権については、延長された存続期間が適用されています。


4 育成者権への侵害対策
 育成者権の保護を強化するための対策としては、種苗法の改正以外にも、品種保護対策官(通称「品種保護Gメン」)の設置や関税定率法の改正による水際取締りの強化等を行っています。

(1) 品種保護Gメンの設置
 育成者権者からの権利侵害に関する相談などに応じる窓口として、今年4月1日、独立行政法人種苗管理センターに、「品種保護Gメン」が設置されました。
 品種保護Gメンの主な活動は、(1)育成者権侵害に関する相談の受付及び助言(2)権利侵害に関する情報の収集及び提供(3)育成者権者等からの依頼に基づいた品種類似性試験2)の実施です。
 農林水産省としても、権利を付与するための審査体制等を整えるだけではなく、取得された権利の保護とその有効な活用についても、品種保護Gメンによる権利侵害の実態の把握や、侵害対策の経験の蓄積等の活動などを通じて、積極的に支援していきたいと考えています。

(2) 関税定率法の改正
 育成者権保護の実効性を高める目的から、水際取締りの強化を図るため、関税定率法も同じく今年改正されました。具体的には、育成者権の侵害が疑われている物品について、税関長が農林水産大臣に対して意見を求めることのできる意見照会制度が新設され、より適切な水際取締りを行うことができるようにされました。農林水産省としては、これまで以上に税関との連携を図りつつ、先に紹介した逆輸入の問題について適切に対処していきたいと考えています。

(3) アジアへの働きかけ
(1)中国及び韓国への審査協力
 近年、日本でも有望な品種が中国及び韓国において、育成者権者に無断で増殖され、かつ販売される事例が多発しているだけでなく、日本に逆に輸入されて問題となる事例があることは、先に紹介したとおりです。
 我が国の育成者権に対する侵害を防ぐためにも、両国において、植物の新品種に関する知的財産権が広く認知され、かつ適切に保護されることが必要不可欠です。そのためには、両国においても全ての植物の新品種が保護されるだけでなく3)、審査・登録をはじめとする品種保護体制の確立が急がれます。
 両国の品種保護体制の整備を推進するためにも、農林水産省では、相互訪問等により日中及び日韓間の審査協力を推進している他、品種保護に関する国際機関(植物新品種保護国際同盟。略称「UPOV(ユポフ)」。)での会合等、機会があるごとに相互理解を深めています。

【新品種が保護対象となっていない作物例】 中  国
小豆、いぐさ、いちご
韓  国
りんご、かんきつ

(2)知的財産保護官民合同訪中団への参加
 審査協力活動に加えて、今年は「第3回知的財産保護官民合同訪中団」にも参加しました。同訪中団は、日本を代表する企業や団体が組織する国際知的財産保護フォーラムが実施するもので、農林水産省や種苗会社が今回はじめて参加しました。
 今後とも機会を捉えて、植物の新品種の保護に対するアジア諸国への働きかけを行って行きたいと考えております。


5 指定種苗制度の改正について
 種苗法では、品種登録制度の他に、指定種苗制度が規定されています。
 指定種苗制度とは、農林水産大臣が指定した特定の植物の種苗を販売する際には、その包装等に一定の事項を表示しなければならない、というものです。

 この制度は、外見からだけでは判断のつきにくい種苗の品質を広く生産者等にお知らせすることによって、より良い種苗を供給し、農林水産業の振興につなげよう、という目的を持っています。今年、指定された植物の種子、苗等を販売する際に表示しなければならない事項に、農薬の使用回数等を追加するとともに、指定する種苗の範囲を大幅に拡大し、食用の農作物は原則的に全て指定することにしました。これは、近年、食の安全・安心を求める消費者の声に応えるため、農薬使用に関する法令改正が行われたことを受け、種苗にも農薬使用回数等を表示する必要が生じたことによります。

 表示しなければならない事項は、表のとおりです。
 具体的にどのような植物が指定されているのか、また、どのように表示しなければならないのか、については農林水産省のホームページをご覧下さい。
http://www.maff.go.jp/j/seisan/tizai/syubyo/index.html



【指定種苗に表示すべき事項】
1 表示をした種苗業者の氏名(法人名)、住所
2 種類、品種
3 生産地
4 種子については、採種の年月(又は有効期間)、発芽率
5 数量
6 その他省令で定める事項
(1)農薬の使用に関する事項
(2)種菌については、製造の年月、トリコデルマの有無

 指定種苗制度では、指定種苗を販売している者は「種苗業者」と呼ばれ、原則として種苗業者の届出が必要になります。届出の必要がないのは、都道府県及び種苗業者以外の一般消費者等に指定種苗を販売する者です。
 具体的には、種苗会社や農協に種苗を販売している農家等は届出をしなければなりませんが、一般消費者に種苗を販売しているホームセンター等は届出の必要がありません。農家であっても農協であっても市場であっても、「自分のものを、一般消費者や農作物を生産する農家以外の者に売っている」のであれば、届出が必要となります。
 以上が指定種苗制度の概要です。
 日々コストダウン等に励んでおられる中、一手間増えてしまうことになりますが、生産者が農薬取締法違反を問われないようにするための重要な情報源となりますので、どうぞご協力をよろしくお願いいたします。


6 おわりに
 以上、今年の法改正等について簡単に紹介してきました。
 農林水産省としては、今年6月に新たに策定された「知的財産推進計画2005」にものっとり、植物の新品種の保護をより適切に行うため、不断の努力を行っていきたいと思います。
 皆様におかれましても、植物の新品種を保護することの意味、今回の種苗法改正の趣旨及び指定種苗の役割等についてご理解いただき、育成者権のより適切な保護及び活用がなされるようにご協力をよろしくお願いいたします。

1)この検討会(植物新品種の保護に関する研究会)の概要等については、こちらのホームページをご覧ください。
 http://www.maff.go.jp/www/counsil/counsil_cont/seisan/sinhinsyu/top.html

2)品種類似性試験とは、種類別の品種登録審査基準に基づいた特性調査(特性比較、比較栽培)、あるいはDNA分析によって、登録品種と権利侵害を疑われている品種とを比較して、それらがどの程度類似しているのかを明らかにする試験です。育成者権者等からの依頼に基づき実施します。

3)植物の新品種の保護は国によって異なります。日本では全ての植物が保護対象にされていますが、中国や韓国のように、政府が指定した植物しか保護されない国もあります。日本はアジア諸国に対して、日本同様全ての植物の新品種を保護することができる制度を整えるように働きかけています。



元のページへ戻る


このページのトップへ