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農林水産省から


国産農林水産物の輸出促進について

大臣官房 国際部 貿易関税課 輸出促進室
課長補佐 大石 一雄


○はじめに
 国産農林水産物の輸出促進については、本年1月の小泉総理施政方針演説において「農林水産物の輸出増加を目指すなど「攻め」の農政へ転換」していくことが明言され、また、3月には食料・農業・農村政策本部において「輸出額を平成21年までに倍増する」とした輸出拡大目標が設定されたところである。
 現在、全国各地において、農林水産物の輸出の取組みが広がりつつあるが、その背景として、まず第一には世界的な日本食ブームがある。
 世界中の主要都市に寿司屋があり、築地からアジアや米国に向けて刺身用の魚が毎日空輸されている。日本食は、「油」や「甘さ」が控えめで健康によい、おいしいというイメージが定着しつつあり、また、日本食は「クール」、すなわち格好良いと言われ、「日本の食」自体が世界においてブランド力を持ってきている。
 第二には、アジア諸国での経済発展に伴う高所得者層の出現がある。
 近年、アジア諸国が経済的に急成長をしており、大きなマーケットが育ちつつあるが、これらの諸国は経済格差が大きく、その中で富裕層は、価格は高いが、おいしく、外見もよく、安全で安心な日本の農林水産物を買ってくれる層として期待ができる。中国などには、日本の盆暮れと同じように贈り物文化があることから、贈答用としてのマーケットも期待できる。また、アジア諸国からの日本への観光客が増加しているが、この観光客が日本食のファンとして帰国することも効果的である。
 第三には、WTOやFTA交渉などにより、相手国の貿易制度が変わることも、輸出拡大の大きなチャンスである。例えば、今、台湾にリンゴが大量に輸出されているが、きっかけは台湾のWTO加盟により、関税が引き下げられたり、輸入数量制限が緩和されたりと、制度的に輸出し易くなったことがある。今、進められているアジアとのFTA交渉でも、相手国に農産物の関税の引下げなどを求めている。

○国内農業・農村にとっての輸出の意義
 国内の農林水産業、あるいは食品産業にとって、日本国内では少子高齢化が進み需要の大きな拡大が望めない中、いかに産業を拡大していくかの選択肢の一つとして輸出が真剣に考えられるようになってきている。その場合、単に第一次産品のみでなく地域の加工食品などを輸出することによって、地場の食品製造業者や酒造業者などが発展すれば、雇用の拡大や地域の活性化などにもつながるものと考えられる。
 また、自分の作ったものを自分達で海外の店頭に並べ、海外の消費者に評価してもらうことは、産地の大きな自信につながるとともに、自らの産品の新しい魅力を発見するきっかけにもなる。その他、様々な業種の人たちが集まって輸出促進のための協議会などを結成し、輸出というひとつの目的に向かって取組むこと自体が、地域・産地の活性化につながっている面もある。さらに、海外へ輸出し、現地で高品質で安全・安心と評価されることが、日本国内での評価の上昇にもつながるものと考えられる。

○輸出の現状
 平成16年の農林水産物の輸出額は、約3,000億円と前年を約200億円上回った。ここ4~5年の輸出額をみても、円高傾向にもかかわらず徐々に拡大しつつある。輸出先国・地域を見ると、米国が在留邦人向けの日本食輸出の長い歴史を背景に1位となっているが、2位以下には、香港、中国、韓国、台湾、タイといったアジア諸国が並ぶ。輸出先の上位10ヵ国の分布を15年前の平成元年と比較すると、アジア諸国の比率が大きく伸びており、特に、中国や韓国が大きな伸びを示している。(別添1参照)
 また、輸出された農林水産物の内訳を見ると、水産物が約4割、加工食品が約3割と大きな割合を占めており、果実や野菜、コメといった農産物が占める割合はまだ非常に小さい。しかしながら、りんごや緑茶、長いもなど着実に輸出実績を伸ばしている品目も出現しており、今後、高品質で安全・安心な日本産農産物の輸出拡大が大いに期待されるところである。(別添2参照)

○輸出促進に向けた総合的な取組の推進
 輸出金額を5年間で倍増するという目標を実現するためには、我が国の高品質な農林水産物・食品の特性を活かした輸出への本格的な取組を推進することが必要であり、本年度、国としても、以下のような総合的な支援策を講じていくこととしている。
〔販路創出・拡大への支援〕
 昨年度に引き続き、北京、上海、ソウル、バンコクで実施する食品見本市等への参加に対し支援していく。また、新たに北京、上海、香港、台湾、タイの高級百貨店などに常設店舗を設置し、半年程度の間継続して日本の農林水産物の販売活動を行うとともに、現地の日本料理店などにおいて日本食の調理方法や食文化のPRなども行う。
〔輸出阻害要因の是正〕
 各国で設定している関税、衛生条件や検疫条件、表示規制など、輸出を行う際に関係する各種制度のデータベース化を行うほか、政府ベースで相手国への改善の要請を行うなど、輸出促進のための環境整備を進めていく。
〔知的財産権・ブランド対策〕
 最近、種苗法の改正で育成者権保護を強化したが、今後は、同様の制度の無い国へ制度の導入を働きかけるとともに、商標登録など輸出にあたって考慮すべきブランド保護対策の調査や対策の啓蒙普及などにも取組んでいく。
〔生産面での支援〕
 輸出にも対応できる産地づくりに向け、新技術・新品種導入のための技術実証等を支援していくとともに、輸出に向けた加工食品の創出や技術開発を支援していく。
〔流通の効率化〕
 ルートの共同化など効率的な流通システム構築のためのモデル事業を実施していく。

○農林水産物等輸出促進全国協議会の設立
 農林水産物・食品の輸出を一層促進するため、関係者が一体となって取組を推進することを目的に、本年4月27日に「農林水産物等輸出促進全国協議会」が設立された。
 協議会には、農林水産関連の団体はもとより、経済界、流通、観光、食文化といった幅広い分野の団体のほか、都道府県や関係省庁も構成員として参加し、名誉会長には島村農林水産大臣、会長には東大名誉教授の木村尚三郎氏が就任した。また、設立総会には小泉総理大臣をはじめ、奥田経団連会長や青森県知事なども出席され激励のご挨拶を頂いた。
 今後、協議会においては、総会で採択された基本戦略に即して、総合的な支援策を講じることにより、輸出に取組みやすい環境づくりに努めていくこととしている。
【小泉総理大臣のご挨拶】
 中国で一個2000円のりんごや一個300円のいちごが売れている。これまで農業関係者は安い輸入品を阻止する考えでやってきたが、農業は輸出もできる発展産業だ。これからは攻めの農業を意欲を持って展開してほしい。
【奥田経団連会長のご挨拶】
 日本経団連はかねて、日本の農産物は味と品質の面で極めて高い競争力があると言ってきた。強い農業を作るために輸出促進の体制を整備したことを歓迎する。農林水産業は日本を代表するセクターであり、工と農が一緒になって日本のために尽くしたい。

○輸出促進に取組むにあたっての課題
 農林水産物・食品の輸出にあたっては、税関手続の遅延や、相手国に事前許可や各種証明書を要求されたりといった、国内の流通では考えられない様々な問題が存在する。
 例えば、中国に農産物を輸出しようとする場合、中国に初めて輸入される植物については、中国の植物検疫規定(2003年2月制定)に基づき、中国専門家による病害虫危険度解析(リスク分析)が実施されている。このため農林水産省では、この規定に該当する産品のうち輸出計画のあるコメや青果物(メロン、かんきつ類、いちご、さくらんぼ、もも、ぶどう、柿、すいか、ながいも、キウイフルーツ)について、昨年中に必要書類の提出を行い、現在、中国の検疫当局において審査が行われている。
 また、EU加盟国に肉や肉製品を輸出するには、EUが輸入を可能とする第3国リストに掲載されることが必要と規則で定められているが、現在、我が国はこのリストに掲載されていないことから、EU委員会あてにリストへの掲載のための申請を行い、現在、必要書類の提出に向けた作業が行われている。
 このほか、相手国において偽物の出回りを防ぐことや、知的財産権・新品種の育成者権の保護などに対応することも重要な課題であると考えるが、こうした問題は、生産者等の民間サイドの努力のみでは十分対応できないものもあることから、関係省庁等との連携の下、政府をあげてこれらの問題に対応したいと考えている。

○終わりに
 農林水産省では、5月中旬に「農林水産物等輸出促進全国協議会」のホームページを立上げ、各国の輸出関連制度等についてのデータベースや各種調査事業の結果等について公表している。これから輸出に取り組むには、国内市場の新規開拓以上に難しい面もあり、輸出の定着化に向けた戦略的・長期的な取組が必要と考える。農林水産省としても、関係機関等と連携しつつ、省をあげて意欲ある農林水産業者や産地などの取組を積極的に支援することとしている。

農林水産物等の輸出の推移



農林水産物等輸出の品目別内訳



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