農林水産省 消費・安全局 表示・規格課
課長補佐 金山 武史
2.原料原産地表示の本格的導入の経緯
(1) 生鮮食品、加工食品
我が国では、食料自給率40%という状況の中、食品流通のグローバル化に伴い、あらゆる国からさまざまな食品が輸入されてきます。また、国内であっても、消費者の嗜好の多様化に伴い、「どこでとれたか」という情報は大きな選択手段となります。
このため、平成12年7月から、すべての生鮮食品に名称と原産地の表示が義務付けられました。これに伴い、量販店などの店頭では、トレイに乗せられて冷蔵ケースで販売される肉や魚に関して、値段やバーコードとともに産地が表示されたラベル(プライスラベル、図1)が添付され、消費者は産地を見比べながら買い物をすることができるようになりました。
一方、同じ冷蔵ケースには、例えば生の鮭の切り身と並んで塩鮭の切り身が販売され、生の牛ロース肉と並んでタレ漬けした牛ロース肉が売られていますが、これまで、「塩鮭」や「タレ漬けした牛ロース肉」については、産地名を表示する必要はありませんでした。生鮮食品には産地を書かなければいけませんが、同様に販売され、消費者にとってはほとんど違いが認識されていない加工食品には産地を書かなくてもよいという状況だったのです。
(2) 原産地表示、製品の原産国表示、原料原産地表示
JAS法では、食品を加工食品と生鮮食品の2つに大別しています。生鮮食品とは、野菜や果物、肉、魚といった、いわゆる生の食品であり、これ以外の食品は加工食品となります。
生鮮食品に原産地表示がなされているのに対し、加工食品は、生鮮食品を原料として時として複雑な工程を経て製品化されるため、一般にその商品を製造した場所が原産地とされています。例えば、アフリカで栽培されたカカオ豆を原料として、ベルギーで作られたチョコレートの原産国はベルギーとなります。平成13年4月から、容器に入れまたは包装された加工食品については賞味期限、原材料名などの表示が義務付けられており、製品で輸入した商品には、製造国の表示を製品の「原産国名」として表示することが義務付けられています(表1)。これは、加工食品においても、製品の「原産国名」、すなわち日本国内で製造されたか、外国で製造されたか(輸入製品であるか)という情報が重要と認識されてきたためです。このため、輸入原料を使用して国内で製造した食品については、原料の原産地表示は義務付けられていませんでした。
ところが、工業製品にパソコン、自動車、衣料などさまざまな形態のものがあるように、加工食品といっても、非常に多段階の複雑な製造工程を経たものから、前述の塩鮭やタレ付き牛肉のように、明らかに生鮮食品同様に認識されるものまでさまざまなものがあり、前者は国内製造者が製造したことが重要な情報であるのに対し、後者はむしろ生鮮食品同様に原料の産地が重要であるなど、それぞれに求められる表示は異なります。どのような加工食品に原料原産地表示が必要なのか、義務付けという厳しい規制を課す以上、十分に精査する必要があります。
(3) 産地名を誤認させるような表示の存在
今回、原料原産地表示の必要性を、加工食品全体について品目横断的に検討して新しい制度が始まったわけですが、これまでも一部の品目では原料原産地表示が既に導入されていました(農産物漬物など8品目)。
もともと、原料の原産地表示が必要とされる認識が高まったのは、輸入原料を使用しながら、あたかも国産原料を使用したかのような表示がなされた食品の存在によるものです。例えば、「沼津産あじの開き」「紀州産梅干し」という表示がなされていると、消費者は「沼津で水揚げされたあじ」「和歌山で収穫された梅」を原料に使用していると思うのではないかと考えられます。このように、商品の加工地を強調して表示することによって、その産地があたかも原料の原産地のことであるような誤認を与える表示実態が一部の食品に見られたことも、原料原産地表示導入のきっかけでした。
さらに、最近ではBSEをはじめ、さまざまな問題により食への不安が高まっており、こうした面からも、原料の原産国が表示されていれば、消費者の商品選択の助けにもなります。
しかしながら、加工食品の原料は多種多様であり、一般に高度な加工が施された食品も多くあります。菓子に使われている水飴の原料となるとうもろこしの原産地についての情報が果たして必要なのか。多種多様な原料の原産地を全て表示することは不可能でしょう。
こうしたことを背景に、平成15年2月から、「食品の表示に関する共同会議(以下「共同会議」という。)」において、加工食品の原料原産地表示の本格的検討が開始されました。
(4) 共同会議における検討
共同会議は、食品の表示基準を審議する厚生労働省の薬事・食品衛生審議会(食品衛生法関連)、農林水産省のJAS調査会(JAS法関連)が共同で設置した小委員会で、食品の表示基準全般について両省が共同で審議する仕組みです。これによって、2つの法に基づく表示基準が整合性を図りながら見直しが行われることとなります(図2)。
共同会議が平成14年12月に設置されて以来、賞味期限と品質保持期限の統一をはじめ、多くの事項を審議してきました。加工食品の原料原産地表示については、平成15年2月の第3回会議で検討が開始され、平成15年8月には表示義務対象品目の要件などを規定した報告書がとりまとめられました。
報告書では、(1) 産地を強調した表示に関する誤認防止のルールを検討するとともに、(2) 一定の要件を満たす品目について、その主な原料の原産地表示を義務付けるべきである、との内容が提言されました。
このうち、(2) の「一定の要件」としては、
(1)原産地に由来する原料の品質の差異が、加工食品としての品質に大きく反映されると一般に認識されている品目のうち、
(2)製品の原材料のうち、単一の農畜水産物の重量の割合が50%以上である商品
という要件が報告書に示されました。
これを受けて、共同会議事務局である農林水産省が検討を進め、「要件を満たす品目」について、平成15年11月に「乾燥野菜や魚の干物など乾燥した農畜水産物」、「塩さけ等塩蔵した農畜水産物」などを内容とする品目群リスト案が農林水産省から公表されました。この案に対し、全国8ヶ所での公開ヒアリングやパブリックコメントを通じていただいた多くの意見をふまえ、再度共同会議で検討がなされ、平成16年4月の第15回共同会議で20食品群に原料原産地表示を義務付けることなどを内容とする加工食品品質表示基準の改正案が了承されました。その後、更にパブリックコメント、WTO通報、JAS調査会などの手続きを経て、平成16年9月14日に加工食品品質表示基準が改正、施行されました。
3.原料原産地表示制度の概要
(1) 産地名の意味を誤認させる表示の禁止(加工食品全般を対象)
2(3) で紹介したように、あたかも原料の原産地であるかのように加工地を表示するような、消費者に誤認を与える強調表示については、すべての加工食品共通のルールとして禁止されました。
例えば、「沼津産」と強調表示がされたあじの開きがあった場合、「沼津」が加工地なのか原料原産地なのか不明確であり、消費者は強調表示を見て「沼津」が原料原産地であると誤認する可能性があります。このような強調表示が「産地名の意味を誤認させるような表示」に該当します。このような場合に、もし原料原産地がA国であるならば、加工地:沼津、原料原産地:A国と区別して明記することなどにより、それぞれの産地名の意味が明確に分かるように表示を行うことが必要です(図3)。
(2) 義務表示対象品目の拡大(20食品群+既存4品目)
今回の加工食品品質表示基準の改正で、従来から義務付けられてきた8品目に加え、20の食品群に新たに表示が義務付けられました。
20食品群と、該当する主な食品の例を表2に示します。
義務表示対象品目である20食品群は、主な原材料である農畜水産物と、主な加工工程に着目して分類されています。基本的には、主な原材料が単品であり、かつ加工度が低い(乾燥、塩蔵など主な加工工程が1工程程度のもの)食品を中心に、生鮮食品と同様に販売される加工食品を網羅的に対象としています。野菜加工品関係では、乾燥野菜、乾燥きのこ、塩蔵きのこや山菜、山菜やたけのこの水煮製品、カット野菜ミックスなどが含まれます。
なお、個別の商品が対象品目に該当するか否かについては、HPに掲載されている「加工食品品質表示基準改正(原料原産地表示等)に関するQ&A」(以下「Q&A」という。)をご覧下さい。
従来個別の品質表示基準で規定されてきた8品目のうち、「塩干魚類(あじ、さばの干物)」、「塩蔵魚類(塩さば)」、「乾燥わかめ」、「塩蔵わかめ」の4品目は、今回の20食品群に統合されました。残る4品目(農産物漬物、野菜冷凍食品、かつお削りぶし、うなぎ蒲焼き)については、これまでどおり個別の品質表示基準による表示が必要です。
(3) 表示方法
原料原産地表示が必要な原材料は、当該商品の原材料に占める割合が50%以上の原材料です。
表示方法は大きく分けて2通りあり、
(1)原材料名欄にかっこ書きで記載する方法(図4例1)
(2)原料原産地名欄を設けて記載する方法(図4例2)
のいずれかとなります。
いずれの方法でも、表示する産地は、原料の農畜水産物が採れた産地を、国名で記載するのが原則です。
このほか、一括表示外への表示、複数の原産地のものを混合した場合の表示の方法などがQ&Aで示されています。
(4) 猶予期間
表示改正に伴い、制度の啓蒙を進める必要があること、包材を変更する必要があることなどから、改正に伴う猶予期間を2年程度設けています。具体的には、平成18年10月1日までに製造、加工または製品輸入される食品については、これまでの表示で構わないこととなっています。