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農林水産省から

農薬取締法の改正とマイナー作物対策の現状

消費・安全局 農産安全管理課 農薬対策室  梅村 武司


はじめに

 平成14年7月以降、無登録農薬が全国的に流通し、使用されている実態が明らかになり大きな問題となったことから、平成14年12月に農薬取締法が改正され、さらに平成15年6月にも再度改正が行われた。

 この農薬取締法の改正により、無登録農薬の製造・輸入・使用の禁止や農薬使用基準の遵守義務化、罰則の強化等が図られたところであるが、この改正を受け、これまでにマイナー作物の適用農薬の拡大や特定防除資材(特定農薬)の指定に係る検討等を進めてきたところである。

 本稿では、農薬取締法改正の概要を改めて簡単に紹介し、その後現在に至る農薬行政等の取組状況を、マイナー作物対策を中心に紹介する。

        

1.14年改正の概要

 平成14年夏に無登録農薬の販売により業者が逮捕されたことを契機に、無登録農薬が全国的に販売・使用されている実態が明らかとなり、消費者の国産農産物への信頼を著しく損ない、無登録農薬が使用された農作物の出荷自粛などの事態を招いた。

 このため、こうした事態を防ぐために、(1)無登録農薬の製造及び輸入の禁止(除外規定として特定農薬制度の創設)、(2)無登録農薬の使用禁止と農薬使用基準の遵守義務化、(3)罰則の強化等を内容とする「農薬取締法の一部を改正する法律案」が第155回国会(臨時国会)に提出され、同年12月11日に公布され、平成15年3月10日に施行された。

2.15年改正の概要

 14年改正案の国会審議において、違法農薬の回収を命ずる規定を設けるべきとの指摘があった。また、14年4月のBSE調査検討委員会報告書においては、農薬の登録と同時の残留農薬基準の設定が必要と指摘された。

 これらを踏まえ、平成15年の第156回国会(通常国会)において農薬取締法の再度の一部改正を行い、(1)販売禁止農薬、無登録農薬を販売した者に対する回収その他の措置命令、(2)農薬の登録及び使用基準の策定と残留農薬基準設定との整合性を図るために必要な規定を内容とする農薬取締法の改正が、「食品の安全性確保のための農林水産省関係法律の整備等に関する法律案」の一部として同年6月11日に公布され、7月1日から施行された。なお、衆議院において、登録のない除草剤について農薬として使用できない旨の表示を義務付ける旨の改正案が提出・可決され、平成16年6月11日から施行された。

3.マイナー作物の適用農薬に関する対策

 農薬は、登録に際して毒性評価を行い、人畜などへの害がないように作物残留などの基準として定め、この基準を超えないように使用方法を設定している。つまり、適正に使用されてこそ安全が確保されることになることから、改正農薬取締法においては、食用及び飼料用作物については、登録された適用作物以外の農作物等に農薬を使用しないことなどが義務化されたところである。

 しかしながら、生産量の少ないマイナー作物等については、採算の面から農薬メーカーにおいて積極的に適用申請がなされない傾向にあり、従来から使用できる農薬は限られていた。

 農林水産省では、これまでも都道府県が実施するマイナー作物の作物残留試験等への助成を行ってきたところであるが、改正法の施行によりマイナー作物の生産に支障をきたすことのないよう、二つの対策を講じたところである。

(1)マイナー作物に対する対策

 ア 作物のグループ化

  一つ目は、形状、利用部位から類似性の高い作物をグループ化し、グループごとに農薬登録ができる仕組みにしたことであり、現在11のグループを設定しているところである。(表1)

(表1)農薬の適用作物のグループ化

(注)「麦類」及び「かんきつ」は、従来からグループが設定されている。

  また、さらなるグループ化について、植物学的特徴、残留の実態等から技術的に可能かを、シソ科ハーブ類及びセリ科ハーブ類を対象に、専門家へ検討を依頼しているところである。さらに、新たにグループ化の設定を望まれる作物について植物学的特徴等に関する情報が提供された場合は、グループ化の検討を進めることとなる。

 イ 農薬使用基準省令の経過措置

  二つ目は、農薬使用基準省令に経過措置を設け、当分の間、適用作物となっていない作物について、安全な使用方法を設定することを前提に都道府県知事から申請された作物に対し、農林水産大臣が承認した場合には農薬が使用できる仕組みを設けたところである。

  この経過措置の期間は2年程度の間としており、この期間に農薬登録の適用拡大に必要な作物残留試験、薬効・薬害試験等のデータを当該農薬を必要とする都道府県等において整備し、このデータに基づく適用拡大申請を農薬製造業者に提出してもらうことにより、適用拡大の手続きを行うこととしているところである。

(2)経過措置承認農薬を巡る状況

 ア 経過措置承認農薬の承認状況

  経過措置の承認については、平成15年12月までに6回行い、承認された作物と農薬の組合せは9,001件に達したところである。また、重複を除いた承認件数は4,971件、承認農薬数は336、承認作物数は447であった。

 イ マイナー作物等農薬登録推進協議会

  多数にのぼる経過措置承認農薬については、経過措置の間に、農薬登録に必要なデータを作成しなければならないが、作物と農薬の組合せの中には、都道府県間での重複等も相当含まれていることから、都道府県、地域ブロック、中央の各段階において、「マイナー作物等農薬登録推進協議会」を設置し、各県が相互に連携して、適用拡大に必要なデータの作成を効率的に行うための調整を図ってきたところである。

 ウ マイナー作物に係る試験について

  農薬の登録申請時に提出すべき試験成績のうち、作物の追加及び病害虫追加のために必要な試験成績は、農林水産省生産局長通知(平成12年11月24日付け12農産第8147号)により規定されている。栽培地域が限定されている作物や発生が限定されている病害虫の登録申請に必要な試験成績については、例数が軽減されており、作物残留試験成績についても公的機関を含む2ヶ所以上の分析機関で分析することとしていたものを、一定の質を備えていれば1ヶ所でよいこととしたところである。

(3)農林水産省における具体的な取組

 ア マイナー作物対策チームの設置

  最終的な経過措置承認件数は延べ9,001件となったところであるが、都道府県における試験実施の許容量と経過措置終了までの期間を考慮すると、これらのすべてについて経過措置終了までの期間に登録を取得することは非常に困難と考えざるを得ない状況である。このことから農林水産省消費・安全局においては、農産安全管理課農薬対策室、植物防疫課及び独立行政法人農薬検査所から構成されるマイナー作物対策チームを設置し、次のような取組を行っている。 

 (1)経過措置承認農薬に係る実態の把握

  平成15年10月に経過措置承認農薬の使用実態、適用拡大に向けた取組状況等について、都道府県に対しアンケート調査を実施した。調査の結果、実際には使用されていない農薬がかなり有り、また、明らかに加害しない害虫に対する農薬が申請されている等、使用実態の把握が十分ではないことが見受けられた。

 (2)都道府県との意見交換

  アのアンケート調査の結果を受け、経過措置承認農薬に関する状況の詳細を把握するため、平成16年1月以降、農林水産省及び地方農政局において都道府県との意見交換を実施した。その結果、各農薬における使用実態の把握、試験課題の絞り込み、データ作成に必要な協力体制の構築等、マイナー作物の農薬登録に対する取り組みの差がかなり見られたところである。

  しかしながら、限られた期間で効率的に農薬登録を行っていくことが急務であることから、試験実施にあたっては、優先順位をつけて課題の設定を行い、進めていくこととしている。

(4)関係機関における取組

 ア 都道府県

  各都道府県において、自県における緊急性・必要性等についての検討を行った。検討の内容については、緊急性・必要性等に応じて、

  A:登録農薬がないこと等により当該農作物の生産に著しい支障が生じる可能性が高いことから緊急性・必要性が非常に高く、1~2年以内に農薬登録の拡大が必要なもの。

  B:登録農薬はあるものの抵抗性発現対策の観点からAの次に緊急性・必要性が高く、数年の間に農薬登録の拡大が必要なもの。

  C:A、B以外のもの。

 という仕分けを行うものである。

  仕分けの結果、登録の緊急性・必要性が高いとされる「A」は千数百となっている。

 イ 生産者・生産者団体

  JAグループにおいては、経過措置承認農薬のうち、効率的に試験課題を設定するために、複数県で承認された組合せを対象として絞込みを行い、アと照らし合わせながら試験を進めることとしている。

 ウ 農薬メーカー

  農薬メーカーにおいては、メーカー独自に約300件の試験データの作成に取り組む一方、これとは別に、都道府県及び生産者団体等からの要請により約600課題の作物残留試験の実施に協力している。

(5)今後の取り組みについて

 ア 登録拡大に向けた今後の方向性

  今後は、マイナー作物の生産に支障をきたさないよう、各都道府県において登録の緊急性・必要性が高く「A」にランク分けされた農薬について試験計画を策定し、生産者・生産者団体とも連携しながら、効率的に登録に必要なデータ作成を行っていかなければならない。

 イ マイナー作物の農薬登録に関する新たな対策

 (1)農薬の初期付着量に基づくマイナー作物に係る残留性判断について

  マイナー作物に関する対策としては、先に述べたとおり、グループ登録を行えるような仕組みを導入しているが、これとは別に、当面の対策として、農薬の初期付着量に着目し、条件に適合することが確認できる場合は、初期付着量指標値の大きな作物を選定して残留データを作成すれば、初期付着量の小さなマイナー作物の残留データとして利用することとして農薬登録申請ができる仕組みの導入の検討を進めている。

  ただし、この方法により登録した場合、原則として、後日必要なデータの補完を行う義務を負うこととなる。

 (2)マイナー作物対策連絡会の構築について

  マイナー作物の農薬登録を支援するため、先に述べたとおり、「マイナー作物等農薬登録推進協議会」を設置しているところであるが、更なる協力体制を構築するため、「マイナー作物対策連絡会」の設置を行うこととしている。

  「マイナー作物対策連絡会」は、作物(作物群)の種類ごとに全国横断の作物生産者(団体)、農協の技術指導員、専門技術員、行政担当者等で構成し、当該作物の病害虫防除に係る技術的検討及び農薬登録に必要な経費負担等について情報交換及び必要な調整を行うものである。

 ウ マイナー作物の農薬登録に関する情報提供

  現在でも、農林水産省ホームページ中の農薬コーナーにおいて、都道府県別の経過措置承認農薬、経過措置承認農薬の登録速報、経過措置承認農薬の登録に係る試験計画等を掲載しているところであるが、今後も、本件に関して幅広く情報提供していきたいと考えているところである。                          

  農薬コーナーのURL

    http://www.maff.go.jp/nouyaku/

4.おわりに

 経過措置については、概ね2年程度としていることから、平成17年3月が一つの目途となる。

 農林水産省では、今後もマイナー作物に対する農薬登録等について支援を行っていくこととしているところであり、都道府県及び生産者団体等が積極的にデータ作成を進められ、マイナー作物等に対する農薬登録が推進されることを期待する。

 最後に、今回一連の作業に際して、ご協力頂いた中央協議会の各団体の方々に深謝し、この稿を終わりにする。



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