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農林水産省から

卸売市場法改正の概要

総合食料局流通課
課長補佐 山 口  靖


I 卸売市場法改正の背景

1 卸売市場の役割

 生鮮食料品等の流通では、全国各地で生産される多種大量の農水産物をどのように効率的・継続的に集荷し、数多くの小売業者、加工業者、外食業者等に効率的に分荷するのか、国民生活に不可欠な生鮮食料品等の適正な価格形成をどのように図るのか、生産者に対する迅速な決済をどのように確保するのかが重要な課題です。こうした生鮮食料品等の円滑な供給のために重要な役割を果たしているのが中央卸売市場を中核とする卸売市場です。

  現在でも、青果物の約7割、水産物の約2/3は卸売市場を経由して取引されており、卸売市場は我が国固有の食文化・生活様式に適合した基幹的な流通システムとなっています。

2 卸売市場を巡る現状と課題

 しかしながら、卸売市場流通では、市場経由率の低下(青果物:81%(H3)→69%(H13))、取扱金額の減少(12.6兆円(H3)→9.4兆円(H13))、業者の経営悪化(中央卸売市場の赤字卸売業者割合〈青果〉15%(H5)→26%(H13))等の問題が発生しており、こうした事態の是正が急務になっています。

 また、BSE(平成13年9月)等の発生により、消費者の食の安全・安心に対する関心が高まる中で、生産者、消費者からは、卸売市場における品質管理面での立ち後れが指摘されています。

 さらに輸入野菜が増加する中で(平成10年74万トン→平成13年97万トン)、生産サイドからは流通コストの縮減、安全・安心な農産物の提供による高付加価値化、契約栽培の推進等による多様な販路の確保が求められています。

 こうした事態に対応して、卸売市場の活性化を図るためには、生産サイド・消費サイド両面の期待に応え、卸売市場が「安全・安心」で「効率的」な流通システムへの転換を図ることが重要になっています。

3 卸売市場制度の見直しの検討経緯

  食品流通審議会卸売市場部会(現在の食料・農業・農村政策審議会)は、平成12年8月に、卸売市場の競争力の一層の強化を図るため、平成11年の卸売市場法改正の成果を踏まえつつ、おおむね3年程度を目途として、市場関係者の経営問題、卸売市場に係る諸規制、卸売手数料等の卸売市場のあり方について総合的に検討を行うことが適切である旨のとりまとめを行いました。

 これを受け、平成12年11月、卸売市場総合検討ワーキンググループが設置され、翌13年9月に、論点整理-卸売市場の競争力強化のための総合的な検討項目-の報告が行われました。その後平成13年10月に、この論点整理の項目を検討するため、卸売市場競争力強化総合検討委員会(座長:上原征彦・明治学院大学経済学部教授)が設置され、翌14年5月30日、中間報告が取りまとめられました。

 この中間報告等を踏まえ、食品流通の効率化を図る観点から卸売市場制度を含めた関連施策を検討するため、平成14年6月、食品流通の効率化等に関する研究会(座長:高橋正郎・女子栄養大学大学院客員教授)が設置され、同研究会は15年4月に委託手数料を始めとした卸売市場制度に関する規制の弾力化等をまとめました。

 また、平成13年3月30日には規制改革推進3か年計画が閣議決定されています。同計画では、「卸売市場について、市場外流通とコスト、サービス面で対抗し得るような競争力の強化を図るため、市場関係者の経営問題、市場の有する諸機能の向上策等も含めた総合的な検討を行う中で、卸売手数料の問題について検討を行う。」として、「平成15年度に結論」を出すこととされました。

 このような検討経緯等を踏まえ、農林水産省は平成16年2月に卸売市場法の一部を改正する法律案(閣法第56号)を第159国会に提出しました。同法案は、6月3日に成立し、同月9日に公布・施行されたところです。

II 卸売市場法改正の概要

1 基本的な考え方

 卸売市場は、出荷者の意向を反映する卸売業者と小売業者等の意向を反映する仲卸業者に対して売買に関するサービスの提供を行うことを基本的な役割とする流通機構です。卸売市場の取引では、公正な取引の確保と秩序の維持に関する最小限の規制の中で、関係当事者間の自己責任で活発な取引が行われることが重要です。

  今回の卸売市場法の改正では、この基本に即し、更に卸売市場の活性化を図るため、

 (1)食の安全・安心に対する関心の高まりに対応するため、卸売市場整備基本方針等において品質管理の高度化のための措置を定めること

 (2)流通の効率化・高度化等に資するため、電子商取引を活用して卸売業者が仲卸業者及び売買参加者に卸売を行う場合の商物一致規制の緩和、卸売業者による計画的・機動的な集荷を可能とするための買付集荷の自由化、省令で措置する第三者販売・直荷引きの弾力化等、状況変化に即した規制の緩和を行うとともに、機能・サービスに見合った卸売手数料の徴収を可能とすること

 (3)卸売市場の再編・統合の円滑化に必要な規定の整備、卸・仲卸業者の業務内容の多角化、仲卸業者の経営健全化措置の導入等による市場機能の強化

 等を措置したところです。

2 食の安全・安心に対応した卸売市場における品質管理の徹底

 BSEの発生以降、国民からは、食の安全・安心の確保が食に関わるあらゆる分野で求められています。卸売市場が今後とも生鮮食料品流通で基幹的な役割を果たしていくためには、こうしたニーズに的確に対応することが不可欠です。

 しかしながら、卸売市場では低温卸売場の整備が青果で6.4%、水産で4.7%しか進んでいない(平成14年3月時点)等の品質管理面での対応の立ち遅れがみられ、生産者や実需者から問題点として指摘されています。

 このため、今回の改正では、卸売市場における食の安全・安心を徹底する観点から、卸売市場整備基本方針に「品質管理の高度化に関する基本的な事項」を位置付け、食の安全・安心に対する関心の高まり等に対応した高度な品質管理が可能となる施設のあり方等を記載することとしました。

 また、中央卸売市場の各開設者が定める業務規程においても温度管理の方法や品質管理責任者の設置等の「品質管理の方法」を定めることを通じ、卸売市場における品質管理の徹底を図ることとしました。

 さらに、予算措置としても、卸売市場施設整備事業について、平成16年度新規採択事業より、水産物、食肉市場に係る大規模な施設整備においてHACCP的な管理(低温化、外気遮断等)を行うことを原則として義務付けることとしています。

3 卸売市場における取引規制の弾力化

(1) 商物一致規制の緩和

 卸売市場における適正な価格形成のためには、品質・規格が統一しにくく、貯蔵性のない生鮮食料品等の特性を踏まえ、市場に現物を搬入して、多数の買手がその数量・品質を確認しつつ、公開・集中的に取引を行うことが適切です。このため、現行の卸売市場法では、市場内に現物を搬入して卸売をしなければならないとする商物一致原則が設けられています。

 一方、現在では、ITの発達等により生鮮食料品等の流通でもインターネット等を活用した受発注システムが設けられ、たまねぎ、馬鈴しょ等の規格性のある物品は、現物を見なくても電子情報をやり取りすることにより適切な価格形成が可能となっています。しかしながら、現行の商物一致規制により、インターネット等により受発注を行った商品についても市場内への搬入が義務付けられ、物流コストが増大するケースが生じています。

 このため、今回の改正では、商物一致原則自体は引き続き維持するものの、卸売市場流通の効率化を進める観点から、一定の規格性のある物品について、開設者の承認を受けて適切な価格形成上支障がない形でインターネットを活用した取引を行う場合には、商物一致規制の例外として取り扱うこととしています。

(2) 買付集荷の自由化

 現行の卸売市場法では、卸売業者が買付集荷を自由にできることとした場合、卸売業者が需給調整を行うおそれや、卸売業者の財務に悪影響を及ぼすおそれがあるとの理由で、卸売業者は原則として自己の計算で卸売をしてはならないとする委託集荷原則を設けています。ただし、現行法でもその例外として、貯蔵性の高い物品や市場における需給が安定している物品等は買付集荷ができることとされています。

 買付集荷については、産地・量販店の大型化や輸入の増大に対応した生鮮食料品等の生産・流通を通じた効率化が求められる中で、その割合が青果で26.1%、水産で66.8%に至るとともに、現在でも増加傾向にあります。

 また、流通の効率化の観点からは、卸売業者が生産者の栽培状況や実需者の需要状況に対応して計画的な買付集荷を行い、これを仲卸業者等を通じて実需者に供給することにより、生産者や実需者の効率的な生産活動等を促し、不要な在庫を軽減する等の効果が期待されています。さらに、情報化の進展等により、卸売業者が需給調整を行うことは実態として困難になっています。

 これらを踏まえ、今回の改正では、買付集荷の自由化を図ることとしました。

(3) 第三者販売・直荷引きの禁止規制の運用の弾力化

 卸売市場における適正な価格形成のためには、卸売業者と仲卸業者等が対置して、価格形成を行うことが重要です。このため、今回の改正でも、卸売業者は市場内の仲卸業者、売買参加者に対して卸売を行い、仲卸業者は市場内の卸売業者から買い受けるという卸売市場内での取引の基本原則(第三者販売、直荷引きの禁止原則)は維持することとしています。

 その上で、

 (1)卸売業者や仲卸業者が、農林漁業者等や食品製造業者等とあらかじめ契約を締結して、国内農水産物を活用した新商品の開発等を行う場合や、

 (2)地方の卸売市場の集荷力の向上を図る観点から、複数の市場が共同集荷、共同販売に関する契約を締結した場合

 であって、当該契約内容について開設者が市場における取引に支障を及ぼすものでないと認めた場合に限り、第三者販売や直荷引きについて、省令で定める例外措置の対象として取り扱うこととし、弾力化を図ることとしています。

 この運用の見直しは、市場外流通を市場内に取り込み、市場関係者の活動フィールドを広げるための措置であり、卸売市場の機能強化のために行われるものです。また、これらの例外措置は、契約において品目、数量、実施期間等を定めた上で開設者の許認可にかからしめ、混乱のない運用を確保することとしています。

 なお、当該措置に併せ、複数の市場間の連携した取引を確立するため、市場間連携による最適な物流システム確立のための実証を行う「地方卸売市場連携物流最適化推進事業」(予算措置)及び中核的地方卸売市場が連携して機能高度化を行う場合等の固定資産税の軽減措置(税制特例)等を講じることとしています。

(4) 卸売手数料の弾力化

 卸売業者の卸売手数料については、業務規程等において全国一律的にその水準が定められているため、卸売業者が機能・サービスに見合った卸売手数料を徴収できず、取引サービスに関する市場原理が働いていないことや、卸売手数料以外に手数料を公定している例がないことから、前述のように「規制改革推進3か年計画」(平成13年3月閣議決定)では、「卸売市場について総合的な検討を行う中で、卸売手数料の問題について検討を行い、平成15年度中に結論を得る。」ことが明記されました。これを受け、平成15年4月に取りまとめられた「食品流通の効率化等に関する研究会」報告では「機能・サービスに見合った手数料を弾力的に徴収できるようにする」こととされました。

 こうした経過を経て、今回の改正では卸売手数料の弾力化を行うこととしました。

 ただし、卸売業者が手数料収入に大きく依存している実態にあることから、卸売業者の経営体質の強化を図るための規制緩和を先行して行うとともに、卸売手数料の弾力化を直ちに行うのではなく、商品取引手数料や証券取引手数料の弾力化の際の取扱いも踏まえ、概ね5年程度の準備期間を設け、円滑な移行ができるようにしました。

 さらに、5年後の手数料率については、地域の実態等を考慮して、開設者の裁量により、手数料の上限や率を業務規程で定めることも可能としています。

4 卸売市場の再編

 産地の大型化、量販店の拡大が進み、また、道路網の発達等による流通の広域化が進展する中で、地方の中小市場の集荷力が低下する一方、大規模市場への集中が進み、卸売業者の経営悪化や流通コストの増大などの問題が生じています。

 こうした状況を踏まえ、卸売市場の再編による集荷力の向上、効率的な流通の確保を図るためには、価格形成や流通拠点となる公共インフラとしての卸売市場の役割を踏まえつつ、

 (1)ネットワーク化による機能強化の促進 や統合によるスケールメリットの発揮

 (2)民営化を含むより自由度の高い地方卸売市場への転換

 等、地域の市場の特性を活かした多様な方向で卸売市場の再編を進めることが重要です。

 このため、今回の改正では、卸売市場整備基本方針の策定に当たっては、流通の広域化や情報化の進展を踏まえ、卸売市場の再編に配慮することとしました。

 また、中央卸売市場整備計画に運営の広域化又は地方卸売市場への転換が必要な中央卸売市場の名称を記載できることとし、併せて運営の広域化や地方卸売市場への転換を進める場合に、開設者や卸売業者等の事務負担の軽減を図るための手続の簡素化のための規定を設けました。

 卸売市場は消費者に不可欠な生鮮食料品を日々取引する場であり、その取引が混乱することは、産地や地域流通に重大な影響を与えることとなります。したがって、卸売市場の再編に当たっては、地域の意向を十分踏まえて行う必要があります。

  このため、今後の制度運営に当たっては、卸売市場整備基本方針に地域の特性に配慮した卸売市場の再編の基準を明示するとともに、卸売市場整備基本方針に即して定められる中央卸売市場整備計画についても、関係地方公共団体と協議し、地域の特性・要望を十分配慮し、市場ごとの自主性を基本とした計画とすることとしています。

5 卸・仲卸業者の業務内容の多角化

 現行の卸売市場法では、卸売業者が卸売業務以外の業務又は事業に力を入れるあまり、卸売業者の業務運営及び財務に大きな影響を及ぼし、その健全な運営を阻害しないようするため、中央卸売市場の卸売業者が兼業業務を営もうとするときや他の法人に対する支配関係を持つに至ったときは、当該卸売業者は農林水産大臣に届出をすることとされています。

 この兼業業務等に関する届出規制については、

 (1)卸売業者の経営体質の強化を図るためには、企業経営の安定化のための業務の多角化が必要であることや、

 (2)平成11年の卸売市場法の改正で、卸売業者の財務基準とこれを満たさない場合の経営改善命令措置が制度化され、卸売業者の財務内容に対する是正措置が可能となったこと

 を考慮し、今回の改正で廃止することとしました。

 また、現行の卸売市場法では、卸売業者や仲卸業者に市場内の活動に専念してもらうとともに、市場外で販売行為や買入行為等を行うことで市場内での需給調整をすることのないよう、卸売業者や仲卸業者については、市場における卸売や買入等を除き、開設区域内における販売行為や買入行為等を行うことが禁止されています。

 しかしながら、生鮮食料品等の需給緩和や情報化の進展等により全国的な価格の標準化が進み、卸売業者等による需給調整が困難となった結果、こうした卸売業者や仲卸業者の規制についても必要性が減少しています。

 このため、今回の改正では、卸・仲卸業者の開設区域内における販売行為等の禁止規制を廃止することとしました。

 なお、こうした卸・仲卸の市場外での販売活動については、市場秩序に混乱を来すことのないよう、各市場の実態に即し、市場取引委員会の関与の下、開設者の承認又は届出を必要とする仕組みが設けられるよう指導を行うこととしています。

6 仲卸業者の経営健全化措置の概要

 仲卸業者は、商品についての専門的な評価、効率的な分荷、小売業者に対する信用供与等により、卸売市場の大量集中取引の円滑な遂行に重要な役割を果たしています。しかしながら、卸売市場における取扱金額の低下等により、その約4割以上は赤字経営となっており、平成10年以降経営破綻により廃業するケースが増加しています。

 したがって、仲卸業者の財務面での経営改善を早急に促すことが必要となっていますが、現行の卸売市場法では、仲卸業者の財務についての改善命令の発動基準が定められておらず、十分な監督が行われていない状況にあります。

 このため、今回の改正では、仲卸業者の財務改善措置を積極的に進めるため、業務規程で仲卸業者の財務基準を定め、この基準に該当した者に対し開設者が経営改善計画の策定等の経営指導を行うこととしています。

 なお、卸売業者に対する財務基準については、平成11年改正の卸売市場法の改正で既に措置されているところです。

7 取引情報の公表内容の充実

 平成11年の卸売市場法の改正では、せり原則を廃止し、生鮮食料品等の品目ごとにせり・相対取引の割合を定めることとしたことに併せ、卸売市場の公正な取引を確保するため、卸売業者に卸売予定数量の公表や卸売後の価格・数量の公表を義務付けたところです。

 その後、卸売市場では相対取引が増加していますが、卸売業者の卸売予定数量の公表はせり・相対の合計数量を公表することとされており、せり取引への依存度の高い中小の仲卸業者や売買参加者を中心に、当日の取引量や価格形成過程が明確でなく、適切な販売行動を取ることができないとの指摘が生じています。

 また、今回の卸売市場法の改正により商物一致規制の例外として位置付けられるインターネットを活用した取引を公正に行うためにも、こうした例外的に行われる取引に関する情報開示を進めることが求められております。

 このため、今回の改正では、卸売業者の情報開示内容の充実を図るため、卸売開始前には、せり・相対、商物分離取引、第三者販売を区分して卸売予定数量や主要な産地に関する情報を公表するとともに、卸売終了後に行う卸売数量、価格の公表でも、せり・相対、商物分離取引、第三者販売を区分して行うこととすることとしました。

III おわりに

 卸売市場が、生産サイド、消費サイド両面の期待に応られる「安心・安全」で「効率的」な流通システムとして21世紀においても我が国の生鮮食料品等流通において基幹的な役割を果たすためには、今回の制度改正の内容を早期に定着することが重要であると考えております。

 本稿が皆様方の卸売市場法の改正の理解の促進に少しでも役立ち、今後の皆様方の経営の参考となれば幸いです。




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