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機構から1 (野菜情報 2012年10月号)

野菜シンポジウム
 ~野菜をおいしく食べる~

野菜需給部 需給推進課


 平成24年8月31日(野菜の日)に、東京都千代田区内幸町のイイノカンファレンスセンターにおいて、野菜需給協議会及び農畜産業振興機構の主催で、「野菜シンポジウム ~野菜をおいしく食べる~」が開催されました。
 当日は、まだ厳しい残暑が続く中、200名を超える方々にご参加いただき、健康と野菜の良い関係、野菜の摂取量を増やすための食べ方や食育のあり方等について、「おいしく食べる」をキーワードに、二つの講演とパネルディスカッションが実施されましたので、その概要を紹介します(敬称は省略しました。)。

1. 基調講演1「野菜好きを育てる食育の実践」~学校給食から広がる食の学び~

 (講師:学習院女子大学講師 宮島則子)

 年々、野菜嫌いの子供達が増えていることを実感している。
 食育は、知育、徳育、体育の基礎となる生きる力を養い、子供達の「元気」、「やる気」、「根気」、「勇気」の4つの気を育てることにより、子供の人格を育てていくこと。
 好き嫌いのある母親の食卓には母親の嫌いなものが出てこないので、子供の好き嫌いがある割合が高くなる。よって、小中学校の9年間で野菜が食べられる、バランス良く食べられるように育てる必要がある。
 子供の好き嫌いは、脳によって起こる。子供は味覚の発達が未熟で経験も少ないため偏食が生まれる。そもそも味覚は脳の扁桃体の働きと関係が大きいので、扁桃体が安心すれば、嫌いが好きに変化してくる。つまり、「野菜嫌い」の子供たちを、「野菜好き」に変身させるには、脳が喜ぶこと・幸せだと感じることとセットで記憶させる方法が有効である。
 このため、美味しいと感じたり、美しい盛りつけや気の利いた献立名、適切な言葉がけや、家族のだんらんで、愛されている、心地よいと感じたりすることで幸せを感じ、また、食のプロセスに係わる調理活動、栽培活動、食育授業や総合学習により楽しいと感じるといった子供の脳が喜ぶような体験を重ねることで、嫌いだと思っていた野菜も好きな野菜に変わる。
 給食で幸せな食の体験をさせるための取組みとして、正しい食習慣で生活習慣病予防するため、ごま、豆、昆布や根菜を含んだ給食を毎食食べさせたり、生産者とのつながりや食の大切さを学ぶための農業者との交流を実施したり、コミュニケーション能力を育むためのレシピコンテスト等を実施してきている。
 学校が食育のリーダーとなって、家庭・地域や研究者、生産者、NPO・ボランティア、行政といったたくさんの方々と連携しながら、子供達のこれからの人生のために、できるだけ嫌いな野菜が減らせられれば、よりよい人生を送ることができると考えて活動をしている。

2. 基調講演2「野菜の摂取と発がん予防」

 (講師:国立がん研究センターがん予防・検診研究センター予防研究部長 津金昌一朗)

 毎日の食生活において、より多くの野菜・果物を取り入れることは、口腔、食道、胃等の部位のがんの予防に有効と考えられている。そして、脳卒中、心臓病、高血圧等の循環器疾患に対する予防効果も知られている。
 ただし、野菜・果物のどの成分に効果があるのかは現状ではよくわかっていない。ポリフェノール、カロテノイド、ビタミン、ミネラル、葉酸、食物繊維等が、さまざまな作用により、がんや循環器疾患の予防に役立っていると推測されている。
 また、がんに対しては、これらが不足しないことが重要であり、たくさん摂れば摂るほど予防効果が高くなるという関係ではない。逆に、サプリメント等でβカロチンやビタミンEといった特定成分を摂りすぎると、がんのリスクが上がってしまうことも知られている。
 したがって、いろいろな種類の野菜・果物を食生活に取り入れることが勧められる。その量の目安としては、野菜と果物を合わせて1日に400g以上(野菜を小鉢で5皿、果物1皿)とることが推奨されている。
 わが国では、今年の7月に発表された、21世紀における第二次国民健康づくり運動(健康日本21(第二次))において、野菜摂取量の最近の平均値282gを、平成34年度までに350gになるように目標が定められた。野菜摂取不足の人を減らすことによって、この目標を達成することが、特に重要と考える。

3. パネルディスカッション「野菜をおいしく食べる」

 (コーディネーター:野菜需給協議会座長 中村靖彦

  パネリスト:(株)NECライベックス 栄養主任 有馬まゆ、(株)サカタのタネ 取締役 国内卸売営業本部長 内山理勝、レシピクリエイター 津留崎弘美、越智今治農業協同組合直販開発室室長 西坂文秀)

(1)最近の野菜の摂取量の減少について

・若い人は副菜の摂取が少ない。社員食堂の麺コーナーでそばだけ食べている人や売店でカップラーメンを買っている人達がいることが心配である。(有馬)

・和食では重量野菜も煮物にして摂っていたものが、食の欧米化により、付け合わせやサラダで食べるため、摂取量が少なくなっているのではないか。(津留崎)

・今の人は料理の仕方を知らない。50~60歳の人でも枝豆の塩ゆでの仕方を知らないという例があった。(西坂)

(2)野菜の価格について

・最近の若い人から、野菜が高くて買えないという声を聞く。(津留崎、有馬)

・野菜を再生産するという観点からすれば、決して高くはない。(西坂)

・産地側でパック詰で出荷するなど、昔に比べて手間やコストが増えているが、生産者の手取り価格はむしろ減っている。(内山)

(3)野菜のおいしさについて

・一般的に味が甘いもの、苦みが少ないものが好まれる傾向にあり、そうした品種の育成には種苗会社の育種活動が相当の貢献をしているという自負がある。(内山)

・おいしさも人によっていろいろであり、例えば昔ながらの味、懐かしい味を好む人もいるであろう。(内山、西坂)

・長距離輸送やまとめ買いなどの購買スタイルを考えると、口に入る時点まで野菜の品質が維持されているかどうかという視点も、消費地の生活者にとってのおいしさには重要なファクターである。(内山)

・地産地消や直売所がブームなのは、流通システムが短縮されたことで消費者がおいしいと感じられるものが売られているからではないか。(西坂)

(4)野菜の摂取量増加の取組みについて

・当社が社員食堂で提供しているヘルシーランチは、昼食に必要な栄養素がしっかりとれるよう日本人の食事摂取基準を基に基準栄養価を設定している。ビタミンやミネラルなど微量栄養素までしっかりとれるメニューは品目数を多く、たくさんの野菜を使用する必要がある。ヘルシーランチ一食で品目数は16品目以上、野菜の使用量は150g~350g使用する。多くの種類の食材を一度にとることは家庭では困難であり、給食の強みでもある。昔はヘルシーランチを選択する方は1%程度だったが、健康を意識する人が増え今では10%以上の方に利用して頂いている。(有馬)

・高度経済成長期は甘いものが好まれたが、今は苦みがあるものや機能性に富んだもの等と色々なものが求められてきているのかもしれない。そのようなニーズを早くキャッチできるという意味で、地産地消の発生により消費者の反応が早く返ってくるようになっていることはよいことだと思う。大産地、産直両方とも大切であり、種苗会社としては、両面の視点で品種づくりをして選択してもらえるように努力している。(内山)

・個人的には野菜特有の苦みや香りも好きだが、苦手という人もおり、調理法によって野菜本来の持ち味は生かしながら苦みや香りを少なくすることで野菜の苦手な人を減らせば、消費拡大に繋がるのではないか。また、外食や中食では廃棄してしまう皮や芯や葉の部分にも栄養がたくさんあり、家庭で料理するときは調理法次第でこうした部分も使い切ることができる。(津留崎)

・直売所「さいさいきて屋」は、地産地消を基本としており、農産物だけでなく、ドレッシング等の加工品も地元のもので製造・販売している。食堂も運営しているが、「さいさいきて屋」で販売している地元のものしか材料としていない。学校給食事業も実施しており、今治産のものしか使っていない。(西坂)

(5)食育の取組みについて

・「saisaiKIDS倶楽部」で子供たちに農業体験をさせているが、単なる農業体験だけでなく、田畑の中で、遊ばせ、ご飯も食べさせている。以前、じゃがいもを収穫してその場でポテトサラダを作ったが、翌日、ある参加者の両親が「さいさいきて屋」に来た。小学生の子供が、作り方を習ったポテトサラダを両親にも作って食べさせたいと言うので、同じ材料を売っている「さいさいきて屋」まで買いにきたとのこと。子供の行動に感動したこの両親は、もう夕食を買ってきた惣菜で済ませてはいけないと感じたという。子供の食育が親の食育にもつながっている。(西坂)

・日本種苗協会では、会員の種苗会社とともに、全国の小学校約100か所で、野菜を栽培する食育活動に取り組んでいる。作物を植える時期は種苗会社も忙しいので大変ではあるが、自分達の勉強にもなり、また、地域とのコミュニケーションを図る場ともなっている。ある事例では、収穫された大根のうち1本は家庭科で使用し、1本は学校給食で使用し、最後の1本を家に持って帰って食べるという活動をしたところ、学校給食の食べ残しが激減したとのこと。今は都市部では野菜を栽培しているところを見たり経験したりする機会が非常に少なく、学校や家庭菜園といったところでの取組みが重要。(内山)

(6)今後の野菜の摂取量増加のために

・食べ続けるためには、おいしく作ることが一番。また、共働きが多い現代では家庭で簡単に作れ、片付けも簡単にできる必要がある。(津留崎)

・健康のためにはどう摂取したらいいのかという指針をもっと広く伝えるべきである。(有馬)

・幼稚園給食事業での経験から、子供の好き嫌いは本当に子供だけの好き嫌いなのか疑問。子供達に食べることの大切さを伝え、食育をしっかりしていくことが大きな鍵であると感じている。(西坂)

・消費者の心の奥にある欲求に応えられるような新品種を開発して、野菜消費を増やしたい。また、日本人が欧米人に比べて肥満体型が少ないのは、食卓で子供が親の食べているものを見ていて、自分が大人になったときに自然と親と同じように煮物や漬物といったもの食べるためと聞いたことがある。個人的には、子供に野菜をたくさん食べる姿を見せようと努力している。(内山)

 以上のようなプログラムで所要4時間のシンポジウムは、盛会のうちに終了いたしました。
 なお、今回は、嬬恋村農業協同組合のご協力により、参加いただいた方々に嬬恋産キャベツが配付されました。

・講演者等のプロフィール

 宮島則子(みやじま のりこ)

 学習院女子大学講師。食育アドバイザー。栄養士。東京食育推進ネットワーク会員。NPO青果物健康推進協会顧問。前荒川区立汐入小学校主査栄養士。学校と家庭、地域、社会をつなぐさまざまな食育活動を展開。

 津金昌一郎(つがね しょういちろう)

 独立行政法人国立がん研究センターがん予防・検診研究センター予防研究部長。医学博士。昭和61年より国立がんセンター研究所疫学部研究員。臨床疫学研究部長等を経て、平成15年にがん予防・検診研究センター開設とともに現職に就任。

 中村靖彦(なかむら やすひこ)

 東京農業大学客員教授。農政ジャーナリスト。野菜需給協議会座長。日本食育学会会長。良い食材を伝える会代表理事。元NHK解説委員。元食品安全委員会委員。

 有馬まゆ(ありま まゆ)

 株式会社NECライベックス 栄養主任。管理栄養士。産業栄養指導者。NECグループ社員食堂等での健康・栄養に関するイベントの企画運営を担当。

 内山理勝(うちやま りしょう)

 株式会社サカタのタネ取締役・執行役員、国内卸売営業本部長。NPO青果物健康推進協会理事。昭和59年に入社して以来、主に野菜種子の国内営業を担当。

 津留崎弘美(つるさき ひろみ)

 レシピクリエイター。日本野菜ソムリエ協会講師。料理研究家。料理教室「SAIRA(菜楽)」主宰。野菜ソムリエ、食育実践アドバイザーの他、食に関する様々な資格を持ち、野菜の魅力や食の大切さを伝えるとともに、各地の名物料理等のレシピ開発に多数携わる。

 西坂文秀(にしざか ふみひで)

 越智今治農業協同組合直販開発室室長。さいさいグループ代表。JA越智今治の直売所「さいさいきて屋」は日本最大級の面積を誇る大型直売所で、直売所以外にもレストラン、カフェ及び市民農園を運営。


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