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野菜セミナー~首都圏型農産物のコーディネート~
株式会社野菜ビジネス 代表取締役川島省吾氏の講演概要

野菜需給部 需給業務課



 平成21年11月18日に、株式会社野菜ビジネス 代表取締役の川島省吾氏を当機構の野菜セミナーの講師に招き「首都圏型農産物のコーディネート」について講演いただいたので、その概要を紹介します。

○はじめに

 私の実家は、父親がもともと漬け物屋を営んでいて、野菜を農家や市場から仕入れたりしていました。幼少の頃から商売を含め、野菜に囲まれた生活をしており、小学生くらいになると、店頭に立って野菜を売るのを手伝ったりしていました。小さいながらも「この野菜はこういう風に食べた方がいいよ」などと教えると「ありがとう」と必ず喜ばれたりしました。

(チェーンストア)

 大学に入る頃、父親が他界してしまい、父の後を継ぐことになりました。大学に通いながらチェーンストア理論を学び、将来の青果物流通を模索し、25歳くらいの時に首都圏型の店舗を作ろうと思い立ちました。

 チェーンストア理論では、売り場、売り場面積、店舗数などを重視します。また、マーケットを作るには、店舗を持つ必要があります。そこで、まず店舗を作り、それをチェーン化していこうと思いました。その結果、2000年頃には20億円程度まで販売できる店舗ができ、その後もそれを続けました。

 チェーンストアで事業を行っていると、次第に「効率化」や「安いほうが良い」といった世界に入ってしまいました。決して、チェーンストア理論が悪いわけではないのですが、競争が激しくなるにつれ、生産者の思いを上手く伝えていかなければならないと思うようになりました。

(流通のコーディネート)

 私自身、実際に生産現場回りをしていると「野菜がない」とはあまり感じませんでした。確かに生産力は低下しているのかもしれませんが、どちらかというと野菜は余っていると感じています。生産現場を訪ねた際、生産者の方に市場に出す物以外で畑に残っている作物の処理について聞くと、「廃棄する」との答えでした。収穫した野菜の中には、傷があったり、規格外の物もあり、正品化率は概ね6割程度と思われますが、残りの4割は廃棄や自家消費するとの話をよく聞きます。売り手としては、商品として問題ないと思っても、我々消費者のもとへは流通してきません。


講演する川島氏

 その際、一番強く感じたことが、「流通をコーディネートする人材が足りない」ということでした。マーケティングする人材がいれば、それを首都圏の実需者に伝え、もっと野菜の需要も増大するのではないかと考えました。つまり、農業の根本的な問題は、「人」にあると考えたわけです。コーディネートする人間を増やせば、農業の活性化は必ず達成されると考え、栃木県の「青果物マーケットマッチメーカー養成講座」(栃木県主催の、青果物産地と実需者の契約取引を推進するため、産地と需要を結びつける人材を養成する講座)を3年間運営しながら、私自身も今までの人脈や栃木県の人脈の助けを借りながら、人材育成に力をそそいできました。その中の経験などから、首都圏型農産物マーケティングを考え出したわけです。

○野菜ビジネスの考えるマッチメーキング(コーディネート)

(すき間を狙って)

 私自身は、専門が首都圏型の農産物流通ですから、地方で地方の物を活性化させることについては、私の考えでは話がまとまらないかもしれません。私自身は、東京を中心とした大都市に農産物をどう流通させるかを考えています。どちらかというとニッチ、つまりすき間を狙って流通を考えています。資本力のある大企業に真っ向から向かって仕事をするのではなく、ニッチなマーケットを狙って仕事をしています。

(気づきの大切さ)

 農家と触れ合い思うのは、「買ってくれるなら作るよ」という話をされることがありますが、「売れる物を作るんだ」という考えが必要だと思います。

 色々な人からプロジェクトの話を聞くと、最初に生産から入っていき、生産してから「これをどう売るか」と考える人が非常に多い。このような考え方は、変える必要があると思います。生産段階で、このような間違えを分かってもらうため、「首都圏では、こういう物が売れていますよ」と最初は教えていました。そういう意味で、後述するマルシェ・ジャポンは「気づきの場」としては、最高のロケーションになっていると感じています。買ってくれるか分からないものを作ることは、勇気がいります。例えば、ピーマンを作っている人がいて、なかなか売れない。隣で万願寺とうがらしを売っていて、非常に売れている。作り方に違和感もなく、自分でも作れるかもしれないと考えると、生産に結びついていくかもしれない。「気づき」というものが、今、マルシェの中で起こっています。

○マッチメーキングとビジネスチャンス

(農業活性化のチャンス)

 ビジネスチャンスかどうかは分かりませんが、農業分野に強い追い風を感じています。ファッション雑誌を見ても、農業ブームです。マルシェを開いていると、「ただでも良いから働かせて欲しい」という人が増えています。もしかしたらボランティアのような感覚なのかもしれませんが、農業に触れたいという人が非常に増えています。窓口さえしっかりすれば、優秀な人材が農業や農産物の流通の分野にも入ってきて、農業自体も活性化するチャンスだと思っています。

 そのマッチメーキングやコーディネートをする人材は、川上から川下への流通のどの段階からも出てくると思います。つまり、生産者、中間流通業者、消費者の誰もがコーディネーターになる可能性があり、ただ個人としてではなく、互いに有機的に関係を持ちながらビジネスとして発展していくと思います。

(長期的な視点に立った人的ネットワークの重要性)

 持論の中でどうしても伝えたいことは、やはり「人材のネットワークが重要である」ということです。商品と商品がつながるのではなく、人と人がつながらないとビジネスは発展しないと思っています。今、仕事上で最も懇意にさせてもらっている方々は、知り合ってから5年間はビジネスの接点は全くなく、年賀状などのやりとりをしていたくらいです。短期的にもの事を考えずに、長期的な視点を持って人的なネットワークを築いていくことが重要であることを理解して欲しいと、生産者の方にはお願いしています。

 特に外食向けに流通を考えている人達は、今、売っている農産物のメニュー提案は、「もしかしたら来年のメニューになるかも知れない」ということが多々ある事を理解する必要があります。実際その場で商売が成り立つということは、まず、あり得ません。1年後のメニューの情報の提案として、今作っている旬の農産物を提案するとなると、それを実質的な取引につなげていくとしたら、最低でも6カ月~10カ月位は取引がない状況が続くことになります。現実には、なかなか忍耐力がなく、そういう仕組みは理解されていません。

 自分たちでイベントを行うときには、外食向けにはそのような認識で提案していくようアドバイスしています。

○川上から川下まで

 私は、都市型の農産物を販売する場所である「ファーマーズマーケット ヴェルジェ」を運営しながら、マルシェ・ジャポンで、そこに参加していただく生産者の方々に首都圏型の農産物のマーケティングを伝えています。

 ニッチなマーケットを考えるときに、例えば、農協とか市場の効率化の中で、組織の人材が非常に少なくなっています。農協や市場の限られた中で、マーケットの感覚とか「今何が消費者に受けている」といった情報を得ようとする場合、大抵が大手のチェーンストアや百貨店などに聞くことになります。つまり、もともと大きい意見を聞く仕組みはできていますが、小さい意見を聞く仕組みはできていません。このようなところにビジネスチャンスを感じています。大きいニーズには考え方が合わなくても、小さいニーズは拾っていけると感じています。

○小売業とは

(小売業と製造業の考え方の違い)

 流通業・小売業と製造業(農業)の基本的な考え方の違いは、売上げを考えたときに、製造業(農業)では、「売上=製造量×単価」となります。一方、流通業・小売業では、「売上=客単価×客数」と必ず考えます。この考え方の違いは、流通業・小売業というものは、お客という概念の有無によるものです。客単価は、「PI値(点数/客数)×平均単価」となります。

(客単価を上げるための方策)

 流通業においては、客単価を上げるか、客数を上げれば、売上げは上がります。買ってくれる確率の高い物を商品として置くことが客単価を上げる方策となり、それをPI値として表しています。PI値を高くするということ、つまり、買い上げ率が高いということは、客数を上げていくのと同じ方向となります。PI値を上げるということを常々考えています。

 流通業・小売業の人に響くキャッチフレーズとして、「客数が上がる商品」「客単価が上がる商品」というものがありますが、これらの言葉を聞くと買いたくなります。

 スーパーマーケットには、平均10,000種類の商品がありますが、100人来たら1個売れる商品は、そのうちおよそ200個と言われています。つまり、お客様が1%の確率で買う商品は、10,000種類のうちおよそ200個しかないということです。

 その200種類の中で野菜は、約30~40%を占めています。野菜は、全体の商品群の中で、売上げは相対的に少ないですが、統計上、売上点数としては世界一売れる商品です。このことは、全ての小売業の方が理解しています。野菜が世界一売れる商品群だと言うことをふまえ、企業は、PI値の向上を図るために、「客単価」や「客数」を上げる商品に着目して、野菜を安く売ることを考えます。野菜を安くすれば、売上点数が増え、「PI値が上がる」、もしくは「客数が上がる」と考えます。スーパーマーケットに行くとだいたい野菜は入り口付近に置いてあります。お客さんを掴むのに一番大事な商品だからです。チェーンストアは、野菜を安く売ることで「客数」や「客単価」を上げることができると考えています。以前から、「客数」や「客単価」のアップにつなげるため、採算度外視で野菜を安く売ることが増えるのではないかとは感じていました。これらのことから、野菜は、PI値を上げる商品群としてチェーンストアの方々に認識されているわけです。

(人と人とのコミュニケーションを重視)

 また、チェーンストアは、無駄な経費の削減を進めるため、人的なコミュニケーションは考えていません。「客数」や「客単価」を上げて行くため、全体の商品群の中で、売上げが総体的に少ない野菜を安く売ることを徹底していくことになります。今後も野菜自体を高く売ろうなどとは考えていません。

 昨今、チェーンストアは、ディスカウントの方針を鮮明にしています。その広告媒体を見ても分かるとおり、野菜は徹底的に安くなっています。規格外やちょっと野菜が不作で高騰しているとかいう話になると、「大放出」などと銘打ってディスカウントの情報を出したりしています。

 チェーンストアとしては、野菜は集客などの戦略的な商品となっているので、そこ自体での収益が多少圧迫されようが、安く売るということに対して変わりはありません。

 しかし、私自身は、野菜の安売りではなく、例えば、販売に関わる人間のコミュニケーション能力の向上などにより、野菜で集客につなげ、PI値は上がるのではないかと考えています。

 チェーンストア理論というのは、「人をかけない」という事が大事です。あるチェーンストアでは、1時間当たり1人の人時売上高は20,000円と言われています。チェーンストアでは、1人1時間働いたら20,000円の売上を作らなければいけないなどと指針が決まっています。あるコンビニエンスストアでは、10,000~12,000円と言われています。チェーンストアでは、「人をかけない」という理論ができあがってしまっているので、「人をかけよう」という理論はなく、「人をかけてPI値を上げよう」という考え方もありません。しかし、私達は、PI値は人によって上げることもでき、それにはコーディネート力が必要だと考えています。

 チェーンストア理論がいけないとは思いません。チェーンストアがなければ、これほど裕福な生活は送れていないとも思っています。私達は、チェーンストアが参入できないようなマーケットを狙っていこうとしているのです。経験上、税金を考慮しないで、野菜を100円で売った場合、一般的な野菜の原価は、70円程度となり、最終的な利益は25円くらいとなります。粗利は、業態スーパーで20~25%、スーパーセンター(大型店など)で18~20%、米国では35%との話があります。意外にも日本より米国の方が10%程度高いことになります。米国においては、野菜は利益商品となっています。

 なお、米国でチェーンストアと言う場合、1,000店舗以上の規模ですが、日本では、まだ米国ほどの大規模チェーンストアは台頭しておらず、中小が多く、競争が米国より激しいと思われます。

○マルシェ・ジャポン・プロジェクト

(マルシェ・ジャポンについて)

 廃止という話もありましたが、もともとマルシェ・ジャポン・プロジェクトについては、経済危機対策として立ち上がった事業ですので、短期間で成果を出さなければならないなと考えていました。

 マルシェ・ジャポン・プロジェクトは、全国で12の事業実施団体が運営しており、東京では我々の野菜ビジネス以外に、メディア、不動産、広告関係などの企業が参加しています。野菜ビジネスでは、東京のお台場と浅草で始めています。今後は、ほかの場所での開催も検討しているところです。

 この事業については、補助金が出るということは勿論ですが、もともと首都圏型農産物流通を考えていたときに、マルシェ・ジャポンのような取組みができればと考えていたため、公募に参加しました。個人的にも、この先10年間やっていく仕事として価値を感じました。東京のほかの補助事業参加者とは異なり、不動産などを持っていない分どこでも開催できます。さまざまな会場でマルシェを運営できるということで、認知度を広めていくことができると考えています。

(実感することの大切さ)

 私達としては、首都圏でマルシェを開催する意義として、大資本や大きい声だけではなく、小さな声を拾っていくのに良い場所だと考えています。大手の百貨店や大きな外食チェーンで、商品を取り扱ってもらえるのは一握りの生産者のみです。それがマルシェに参加することによって、直接PRすることができ、実際、取り引きも始まっています。ある生産者が自分の畑で作った干しいもを、マルシェに持ってきたところ、寒くなってきたこともあり、とても人気がありました。それを見たバイヤーが名刺を置いていき、その後、取り引きが始まったという出来事もありました。これを聞いて、「実感する」ということは、とても大事だと思いました。干しいものPRをパンフレット持参で企業を回ったところで、それを受けてくれるバイヤーはどれほどいるでしょうか。目の前で売れている物があって、そこで商売を始めてよいとなった場合、短期間で予想以上の成果が出ることにとても驚いています。マルシェは機能し始めていると感じています。新しい商流が色々と始まっていますので、今後も形態は違ったとしても、取り組んでいきたいと思っています。

(空間作りの大切さ)

 このように、マルシェは、生産者と消費者などの接する場を設けることで、「場」のコーディネート力を培っていこうとしています。

 マルシェを開いている浅草は、現在でも地域のつながりが非常に強いところです。地元には「おかみさん会」という組織があり、大変ご協力をいただいています。地域の人に根付くようなイベントとして、運営していきたいと思っています。

 販売している野菜は、決して安くありません。率直な意見として「高い」という意見もありましたが、「こういう物が好き」「こういう物を待っていた」という声を多くいただきました。

 「消費(食生活)」というイメージの中での購買行動からすると、「高い」ということはマイナスだと思います。しかし、趣味だとか楽しい空間にいると「消費(食生活)」というイメージにはなりません。マルシェは、「空間作り」を非常に大切にしています。

 ところで、東京お台場のマルシェは、3割ぐらいが外国人観光客です。5,000円くらいまとめ買いしたり、3,000円するぶどうをその場で食べてしまったり、とても購買力を感じました。聞くと、日本食ブームらしいのですが、自分が感じていたものよりも強く感じました。輸出促進事業の中に、日本に来ている外国人向けのアプローチももっと考える余地はあるのではないでしょうか。お台場のマルシェは、特にアジア向けの発信の場として良いと思います。

○最後に

 長期的に考えると、経済から農業を活性化していかないと継続しないと思います。直接、地方の人が首都圏でビジネスをする場をつかむということに意味があります。「東京で野菜を売って、売上を作り、売上を持って地方に帰る」という地方へのお金の流れは、小さな流れかもしれませんが、地方や農業の活性化のためのモデル事業になると思います。

 マルシェのような、直接的に地方(農家)へお金が流れる仕組みを活性化させることで、日本全体も活性化されるだろうと考えています。現状の農業ブームも利用していきたいと思います。マルシェから日本を元気に!農業から日本を元気に!


川島 省吾(かわしま しょうご)氏 プロフィール
東京国際大学経済学部卒業、日本リテイリングセンター(ペガサスクラブ)にて、チェーンストア理論を学び、青果物の専門店チェーン化を志す。
平成7年に青果物の専門店チェーンヴェルジェを創業。
平成16年に新たな青果物流通を目指して野菜ビジネスを起業し、現在は同社代表取締役。同社は21年秋より農林水産省マルシェ・ジャポンプロジェクトの東京運営企業となる。


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