調査情報部 調査情報第二課
◆JFとの初めての共催に期待高まる
交流会は主催者のあいさつで幕が開けられた。社団法人日本フードサービス協会の米濱和英会長からは、「現在、外食産業は穀物やエネルギー価格の上昇等に伴う食材コストの上昇、中国産等をはじめとした輸入食材等の管理及び対応など、食材調達を巡る様々な課題を抱えている。今まで以上に消費者へ安全・安心な食を供給する取組みが求められており、こうした課題に対処していくためには、外食産業だけでなく関連業界とのパートナーシップが不可欠と考えている。外食産業や外食を支える生産・加工・流通関連企業・団体とのビジネス交流の機会としたい」とのあいさつがあった。
また、当機構木下寛之理事長からは「今回の交流会では、『ここでしか手に入らない野菜』をテーマにして、地域の伝統野菜や新品種の展示などを工夫した。特に中国野菜に対する安全・安心面での消費者の不安があり輸入量が減っているなかで、これからが、加工・業務用野菜を中心として輸入品に押されていた市場を取り戻す絶好のチャンスである。また、最近では、農林水産省と共催で国産野菜の生産・利用拡大の優良事例を表彰する事業を実施することになった。今後もこうした交流会等の取り組みを通じて、野菜の自給率向上に寄与したい」とのあいさつがあった。
最後に農林水産省総合食料局食品産業振興課外食産業室青山豊久室長からは、「日本フードサービス協会と農林水産省とは、生産・加工・流通関連企業や団体を交え、こうしたビジネス協議会を何度か共催で行ってきたが、今回は特に実需者からの要望が強い加工・業務用の野菜出荷団体や生産者を交え、食に関わる人々が一堂に会する取り組みとなっており、非常に意義深い」というあいさつがあった。
◆当日の交流会出展者ブースの紹介
〈加工・業務用野菜交流会には46団体が出展〉
交流会では生産者団体17団体、農業生産法人11社、種苗会社13社、その他市場関係者、試験研究機関、行政機関の計46ブースが設置された。
今回の交流会は「ここでしか手に入らない野菜」をテーマとしていたこともあり、新品種や地域の伝統野菜の展示に力を入れているなど多彩なブースが見られた。
〈新品種や珍しい品種、伝統野菜の紹介〉
今回のブースには多くの新品種や普段スーパーでは手に入らない珍しい品種が展示された。種苗会社のブースでは、新たに開発された糖度・栄養価の高いフルーツ感覚で食べられるトマト、最近、需要が増加している鍋にしても、サラダとして生のままでも食べられるベビーはくさいやミニきゅうりなどのミニ野菜、さらに、葉も炒め物にしておいしい葉付きミニだいこん、糖度が高くホクホク感もあるかぼちゃ、料理の彩りに最適な鮮やかな紫色のカリフラワー、甘酢漬にするとひときわ紅色になる紫のだいこん、サラダに映える彩り豊かなレタスなど用途に応じた多様な品種が紹介された。
生産者団体のブースでは、JA遠州中央の中国から導入・栽培したチンゲンサイやタアサイ、JA秋田のやまのいも、高知県園芸連のなすやししとう、宮崎県経済連の京いもなどそれぞれの産地が今売り出したい代表的な野菜の展示を行っていた。また、全農長野県本部では、業務用需要の多いパプリカの試食も行っていた。
市場関係者のブースでは、東京シティ青果が、練馬だいこんや千住ねぎなどの江戸野菜、おいしくてロスの少ないミニ野菜などをテーマ別に紹介するなどの取り組みを行っていた。
〈加工・業務用向けの新技術や安全・安心な野菜生産の取り組みをPR〉
出展者の中には野菜の展示の他に加工・業務用向けの新技術や安全・安心な野菜生産の取り組みをPRしているブースもあった。
生産者団体からは、IPM(Integrated Pest Management:総合的病害虫管理)技術を取り入れて天敵や防虫ネットを利用した「エコシステム」栽培など地域の特色のある取り組みなどが紹介された。また、新規就農者の育成や、安全・安心な野菜生産の取り組みをPRしていた農業生産法人もあった。
研究機関からは、ソフトスチーム技術を使った野菜の加工技術が紹介された。担当者は、「この技術は1℃単位の正確な温度調整によって野菜の栄養素を逃がさず、素材そのものの美味しさを最大限引き出すことができる。生産者にとって、市場に出荷できない規格外品の取り扱いが問題となっているが、このソフトスチーム技術を活用すれば、業務用ペースト原料として使用できるので産地にとって大きなメリットがあり、一部の地域ではすでに導入している」と、新しい技術の活用による加工・業務用対応の新たな可能性について語っていた。
〈JFフードサービスバイヤーズ商談会〉
また、日本フードサービス協会主催の「JFフードサービスバイヤーズ商談会」では、外食産業や外食を支える生産・加工・流通関連企業や団体が65ブースを出展した。秋田県からは、米粉を使ったこまち麺、ニチレイフーズからは冷凍食品を解凍して常温でそのまま使えるブロッコリー、守山乳業からは、業務用の乳製品やデザートの紹介、また、国内の食肉加工業者や海外の畜産団体からは食肉の試食など、食肉や米、野菜を含めた食材の展示や試食会が行われ多くの人でにぎわっていた。
〈当機構の取り組み〉
当機構のブースにおいては、契約野菜安定供給事業のパンフレットを配布し、来場者の方々に事業の紹介を行った。さらに、インターネットで野菜に関するさまざまな情報を入手できる「ベジ探」の機能説明、各種データの検索方法、及び本誌「今月の野菜」の紹介などを行い、活発に情報交換が行われた。
また、農林水産省からは「品目別・用途別加工・業務用のガイドライン」や「外食・中食など現場で役立つ野菜の素材集」等のパンフレットが配布され、多くの方が手にとり関心を示していた。
◆マッチング促進セミナーと出展者によるショートプレゼンテーション
交流会では、ブースの展示に加えて、マッチング促進セミナー及び出展者のショートプレゼンテーションが行われた。
〈マッチング促進セミナー〉
今回は3つのテーマでセミナーを開催。
最初に、当機構の藤野調査情報第一課長からは、「穀物、食肉等の需給動向と食材仕入れ調達への影響」をテーマとして講演し、「原油価格の高騰の影響によりエタノールを代表とするバイオ燃料の需要が高まり、その原料である穀物類の相場上昇に大きな影響を与えている。穀物の価格上昇は、畜産物の生産コスト増加となって畜産業界に転嫁され、我が国の外食産業における食肉の調達にも影響が出てくる」と今後の食材仕入れ調達に関する展望を述べた。
次に、株式会社モスフードサービスアグリ事業グループの伊東グループリーダーからは、「外食産業が求める青果物とメニュー開発について」をテーマとして、「モスフードサービスは、素材にこだわり産地と協力して野菜を育てることで、おいしくて安全な野菜をお客様に提供する取り組みを行っている。この取り組みのためには、安定供給が可能で、品質・規格面への理解度が高く、担当者とのコミュニケーションと信頼関係を築ける農業者との取引を望んでいる。しかし、まだ意識のギャップが大きく、そのギャップを埋めることが大切である」と産地との取引の課題を述べた。
さらに、農林水産省生産局生産技術課の龍澤課長補佐からは、「GAP手法(農業生産工程管理手法)を巡る情勢について」をテーマとして、「21世紀新農政2007」において、GAPを積極的に導入・推進し、生産から食卓までの食品安全を確保するとともに、平成23年度までにおおむね全ての主要な産地においてGAPの導入を目指すことになったことや、GAP手法を導入した場合の効果や導入状況、各県の取組状況、国内外の動向について紹介された。さらに、農業情報コンサルティング株式会社の田上取締役からは、「GAP導入による青果物流通のリスク管理」というテーマで、顧客から信頼される農場管理のために必要なリスク管理について具体的に説明があった。
〈ショートプレゼンテーション〉
ショートプレゼンテーションは、生産者団体、農業生産法人、種苗会社、試験研究機関の14者により行われた。
農業生産法人の株式会社旦千花からは、種から栽培方法までこだわって研究・開発された“ちばエコ農産物江戸菜”が紹介された。
各種苗株式会社からは、サラダとしても食べられ、鍋料理で丸ごと一個使いきれるサイズのベビーはくさいや半分に切って具をのせるだけでオードブルができるミニきゅうりなどのミニ野菜、香りが高く豆の中まで濃緑色のえだ豆、サラダや漬物に向く緑色や紫色のだいこん、寒玉だが、甘くて美味しいキャベツなどそれぞれの用途に適した特徴のある品種が紹介された。
◆出展者や来場者の意見
〈出展ブースのテーマから、今のニーズが把握できる〉
当日は、開場直後からたくさんの来場者が訪れ、出展者に対して熱心な質問や名刺交換が行われていた。交流会に参加した出展者や来場者からは様々な声が寄せられた。
淡路島でたまねぎを主として生産している出展者は、「究極の目標は“淡路島のたまねぎ”の認知度をもっと高め、淡路島全体を活性化させること。そのためにも、若い生産者を増やさなければならないが、現在では、淡路島におけるたまねぎの作付面積が減っているのが現状で、やはり生産者が継続的に所得を安定させることが不可欠。そのためには安定した取引ができる相手を見つけることが重要である」と産地の現状や課題を語っていた。
種苗会社の担当者は、「需要はあるのに、栽培方法が分からず生産量が伸びないことが多かったが、種の販売後の技術サポートを大切にすれば、生産量も増え、市場が拡大すると思う」、「種苗会社にとって、最終的なターゲットは生産者であるが、この交流会は、外食産業や市場流通関係者など消費者に近い方々が来場するので、消費者のニーズを直接聞くことができる絶好の機会である」、「味がよくても見た目が変わっているものは市場向けの規格に合わないので実需者にPRし続ける必要がある。そのため、前回に引き続き今回も出展した」など交流会に期待を寄せていた。
ある農業生産法人の担当者からは「販売方法はいろいろあるが、インターネットや電話での売り込みは難しい。この交流会の来場者は目的を持って来ているので、商談に結びつく確率が高い」との話があった。また、「この交流会は、テーマが決まっているのでよい。テーマに沿って出展方法を考えている。やはり、ターゲットは外食産業や量販店であり、こうした方面で販路を拡大したい」との声も聞かれた。
また、来場者として交流会に参加した農業生産法人の方からは、「この交流会に出展しているブースを見ると、現在求められているニーズを把握できる。ミニ野菜であったり、種苗会社の新品種など勉強することがたくさんあり、我々の会社で、今後どのような商品作りをしていくべきかというアイデアが浮かぶ」との話があった。
一方、実需者の意見を聞くと、ある加工・卸売業者の方からは、「現在調達している産地とは違う産地があることが分かった。こちらが調達したい時期に出荷できる新しい産地探しをしなくてはならないので、産地の情報を入手できて大変良かった」との話があった。
◆求められる来場者に訴えるブース作り
一方、来場者からは「出展者によって、上手にPRしているところとそうでないところがはっきりしている。ただ野菜を陳列するだけでなく、食べ方の提案があったほうがよい。また、調理した野菜の匂いがあって試食ができるブースには自然と足が止まる」との話があった。確かに、試食コーナーがあるブースには、たくさんの人が足を止め、出展者と会話している姿が多く見かけられた。
ブースによっては、野菜を並べるのみというところが見受けられたが、多くの実需者は野菜の味や売り方に関心が高いので、試食会を行い、美味しさのPRに工夫が求められる。また、味覚とともに重要なのが、販売期間と販売量を明確に示すことで、商談へつなげるためにも実需者に対し具体的な提案をすることが今後望まれる。
◆交流会をきっかけにした成功事例
7月6日に開催した今年度第1回目の交流会の出展者からは、「交流会出展後から問い合わせが殺到し、取引相手の幅が広がった。交流会をきっかけに外食業者との商談が成立した」との報告があった他、「商談が数件成立した。」との報告も受けている。また、ある種苗会社の担当者によれば「『当日出展した野菜を栽培している産地を教えてほしい』などの質問を交流会後に受けることもある」とのことである。
◆さいごに
〈アンケート結果と今後の取り組みについて〉
今回の交流会の来場者の内訳をみると、食品製造業者をはじめ、外食・中食産業、流通業者、行政機関などさまざまな業種の関係者が集い、加工・業務用野菜に対する関心の高さが伺えた。
来場者に今回の交流会に関するアンケート調査を行ったところ、「今後の取引等の手助けになりましたか」との質問に対し、95%の回答者から「役に立った」との回答が寄せられた。また、次回以降に希望するテーマとしては、「有機農産物の取り組み」、「新しい品種や珍しい品種の紹介」、「カット野菜の紹介」、「青果物の流通形態」との回答が多く、出展者に対する要望としては、「資料やサンプルを増やしてほしい」、「PRをもっと積極的にしてほしい」、「調理方法の提案をしてほしい」、「具体的な取引について知りたい」などの回答があった。また、交流会運営に関する要望としては、「今後も実施してほしい」、「全国で開催してほしい」、「各出展者の特色をもう少し分かりやすく表示してほしい」などがあった。
また、今回は3階のJF商談会と5階の交流会とに場所が分かれて開催されたため、3階のJF商談会から5階の交流会への誘導がわかりづらかったなどの反省点を踏まえ、今後の運営に工夫が求められるところである。
アンケート結果では、「今後も交流会を開いて情報収集の場を設けてほしい」といった声も多く、今後も生産者と実需者の情報交換や意見交換の場として定期的に開催を続けていきたい。運営にあたっては、ブース出展の工夫や来場者の増加につながるPRなどに工夫しつつ、実取引に結びつく事例を増やし国産野菜の振興、実需者への安定供給に寄与してまいりたい。
野菜業務第二部契約取引推進課
(櫻井、薄井、吉田)
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