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学校給食における地産地消の推進に向けての
優良事例調査結果について(1)  

企画調整部 広報消費者課


 近年、地域で生産されたものをその地域で消費することを基本とする「地産地消」の推進と、健全な食生活を実践することができる人間を育てることを目的とする「食育」の推進が全国的な運動として展開されています。

 また、このような情勢を反映する形で、平成17年3月に閣議決定された「食料・農業・農村基本計画」においては、地産地消の推進が重要政策課題の1つとして位置付けられるとともに、平成17年6月に制定された「食育基本法」においては、食育の推進方策の1つとして学校給食における地産地消の促進が掲げられているところです。

 当機構では、従来から、学校栄養職員の方々等を対象とした食育ブックの作成と配布、食育をテーマとしたフォーラム等の開催、ホームページを通じた食育関連情報の提供、学校給食における地産地消に関するアンケート調査の実施等に取り組んできたところですが、今般、社団法人全国学校栄養士協議会にご協力いただき、特に地場農産物を供給する生産者サイドと地場農産物を受け入れる学校給食関係者との連携の実態に着目しつつ、学校給食への地場農産物の供給が円滑に行われている優良事例の現地調査を行いました。

 調査は、群馬県高崎市(高崎市教育委員会、JAたかさき)、千葉県千葉市(千葉市教育委員会、千葉県学校給食会、JA千葉みらい)、愛知県常滑市(常滑市北学校給食共同調理場、JAあいち知多)、愛知県豊田市(豊田市教育委員会、JAあいち豊田)の4ヶ所で地場農産物の利用状況の調査を行いました。

 今月号から2回に分けて調査結果の紹介を行うこととします。



Ⅰ 群馬県高崎市の事例

○調査対象
:高崎市教育委員会(健康教育課)、高崎市農業協同組合(JAたかさき)
○調査日
:平成18年12月20日
○概要
:群馬県高崎市における学校給食への地場農産物の提供活動についての調査を行った。地場農産物は、高崎市内53の小中学校、幼稚園及び養護学 校に対し、高崎市農業協同組合(JAたかさき)傘下の3つの直売所(グ ル米四季菜館筑縄店、中居店、八幡駅前店)を通じて提供されている。 小中学校等の取りまとめを担うのは高崎市教育委員会(高崎市健康教育課)である。

1 地域の概要について
・ 高崎市は、榛名山を背景に望む、広大な関東平野の北端に位置する、群馬県を代表する都市である。

・ 高崎市は、平成18年1月23日に倉渕村、箕郷町、群馬町、新町と合併(人口約31万人)、同年10月1日には榛名町と合併(人口約34万人)したが、本調査においては、平成17年度までの取組状況を把握していることから、調査対象地域は旧高崎市としている。なお、合併後の高崎市内には、JAたかさきの他、JAはぐくみ(旧倉渕村等)、JAたのふじ(旧新町)がある。

・ 旧高崎市の農業産出額(平成17年)は37億円であり、米は11億円(29.0%)、野菜は9億円(23.1%)、畜産は8億円(22.5%)を占めている。また、総農家数に占める専業農家数の割合(平成17年)は11.7%であり、基幹的農業従事者(自営農業に主として従事した世帯員のうち、普段の主な状態が農業である者)に占める65歳未満の割合(平成17年)は30.4%である。


図1 高崎市(群馬県)位置図

2 学校給食における地産地消について
《1》 取り組みの目的

【高崎市教育委員会】
(1)  児童・生徒に生産者の顔が見える安全・安心・新鮮かつ旬の食材を提供する。
(2)  地場農産物の生産者や流通業者を知ることを通じ、食べ物の大切さやそれを育む自然の素晴らしさを学ぶ。

【JAたかさき】
(1)  地場農産物の良さ(新鮮、安価、安全・安心)を児童・生徒に理解してもらう。
(2)  (1)のような利点を有する地場農産物を用いて給食が作られていることや生産者の苦労等を知ることを通じ、地域や生産者に対する感謝の心を育む。

《2》 取り組みの経緯
  平成8年度に高崎市立西小学校とJAたかさきの直売所(四季菜館筑縄店)との間で契約が締結され、地場農産物の学校給食への食材提供が開始された。平成8年度の地場農産物の供給実績は、約1トン(きゅうり、たまねぎ、はくさい、だいこん、ほうれんそう)であった。

 その後、地場農産物を提供する学校や食材数も年々増加し、平成17年度においては、提供先は53の小中学校、幼稚園及び養護学校、食材数も20品目を超え、供給実績は、約77トンまで増加している。これらの食材の中には、平成14年度から年1月(11月)に行われる米飯給食への食材として、高崎市特別栽培農産物(減農薬・減化学肥料栽培農産物)として生産された群馬県推奨米である「ゴロピカリ」が含まれている。また、平成14年度において高崎市学校栄養士会、高崎市農林課、JAたかさきの共同事業により開発された「高崎しょうゆ(高崎市産大豆・小麦を使用)」、平成16年度の「高崎特栽ソース(高崎市産特別栽培玉葱・特別栽培トマトを使用)」、また、平成15年度にJAたかさきが開発した「高崎うどん(高崎市産小麦を使用)」が含まれている。さらに、量的には大きくないが、JAたかさきの女性会が中心となって地場産大豆・小麦を用いて作成した味噌も含まれる。

 高崎市教育委員会における推進活動の経緯については、地場農産物の生産地マップや地場農産物の月別・品目別提供カレンダーの作成(平成11年度~)、県単事業(群馬県米飯学校給食推進地域作物活用事業)を活用した米を含む地場農産物を使用した料理教室の開催(平成15年度)、地場農産物を使用した学校給食の献立メニュー集やその他の学校給食における地産地消の取組に関する各種情報の広報誌を通じた発信等に取り組んできている。

表1 高崎市の農業概要


資料 農林水産省「生産農業所得統計(平成17年)」 「2000年農業センサス」
(注)高崎市は旧高崎市のデータ。


《3》 取り組みの概要
  学校給食への地場農産物の供給は、JAたかさき傘下の3つの直売所(四季菜館筑縄店、四季菜館中居店、四季菜館八幡駅前店)をセンター基地として行われている。地場農産物の提供を希望する個々の学校の栄養士は、前月末までに学校給食の食材として必要な地場農産物の品目・数量等を各直売所に受注し、それを受けた各直売所の店長は、個々の生産者の対応状況を見極めながら、直売所への搬入品目と搬入量等を発注・集荷し、学校への搬入前日の夕方から当日の朝までに出荷された農産物の納品仕分け作業を行った上で、当日の午前8時から9時までの間に各学校に配送するという仕組みが構築されている。その際、個々の地場農産物の学校への調達価格は、青果物市場、市内のスーパー等の一般店舗、直売所における販売価格等を総合的に勘案して直売所の店長が決定している。

 また、直売所による地場農産物の提供を補完する形で、JAたかさき傘下の組合員である生産者が個別に複数校と契約し、各校間の連絡網を整備する形で対応しているケースもある。

 このような仕組みにおいて、利害関係者の調整や需給のミスマッチを解消するためのコーディネーター(調整役)は、直売所の場合はその店長、個別の生産者の場合は当該生産者が担っている。

 なお、直売所やそれを補完する個別生産者から調達される地場農産物だけでは、学校給食で使用する全ての食材を満たすことはできないため、各学校は、地元の八百屋(青果業者)と提携し、不足する食材(地場農産物が基本)の調達を行っている。

《4》取り組みの効果
  地場農産物の提供を受けている個々の学校は、契約生産者の協力を得て、生徒・児童の圃場における体験学習(播種、収穫等)や生産者を学校に招いての交流給食等を行っており、学校栄養士による学校給食の場における地場農産物の解説と相まって生徒・児童による地域や地場農産物への関心や親近感の向上が図られている。

 また、高崎市とJAたかさきとの連携により行われている「高崎市特別栽培農産物認証システム」の下で、農薬や化学肥料の使用量を制限して生産したことが認証された農産物(現在、チンゲンサイ、たまねぎ、トマト、ブロッコリー、ほうれんそう、ゴロピカリの6品目)を学校給食の食材として提供することにより、安全・安心な学校給食の実現が図られている。

 なお、学校給食から生じた食物残渣については、NTT東日本群馬に委託の上、堆肥化が進められており、製造された堆肥は、学校の菜園や花壇の肥料などとして用いられる。


図2 地場農産物の流通システム概略図(高崎市)

《5》 現在の課題と今後の展開方向
  学校給食の食材として提供される地場農産物は、個々の生産者が出荷した農産物を仕分けする際、規格分類が困難なため、規格表等に基づく規格の統一を図ることができない状況にある。

 また、直売所による各学校への地場農産物の配送は、定時(調理当日)・定量が原則であるが、その際の配送経費は、直売所にとって相当の負担となっている。配送車1台当たり配送可能な学校数は4校程度が限界であり、多い日では3台の配送車が稼動するが、それらに要する人件費を含む配送経費を地場農産物の調達価格に転嫁することもできない実情にある。このような状況に対応する観点から、学校側で地場農産物の保管倉庫を備えるという方法も考えられるが、実現に至っていない。

 高崎市は、平成18年1月23日に倉渕村、箕郷町、群馬町、新町と、同年10月1日には榛名町と合併し、エリアの拡大を踏まえ、学校給食と地場農産物との結びつきの機会が一層増大することが見込まれる。このような中、新鮮で安心な地場農産物の安定的な供給及び地域内での消費を積極的に推進し、総合的な地産地消の拡大と定着を図ることを目指し、高崎市内の消費者団体、商業団体、生産者団体、学校給食関係者、学識経験者等を構成員とする「高崎市地産地消推進委員会」が平成17年4月1日に設置されたところである。同委員会は、現在まで、計3回の検討会を開催しており、平成19年度中に地産地消に関する市長への提言を取りまとめた後、平成20年3月には地産地消の推進方針・振興計画を作成することとしている。学校給食における地産地消についても、同会議の検討を通じて一層の推進が図られることが期待される。

Ⅱ 千葉県千葉市の事例


○調査対象
:千葉市教育委員会、千葉市農政センター、財団法人千葉県学校給食会、千葉みらい農業協同組合(JA千葉みらい)
○調査日
:平成19年1月16日、2月5日
○概要
:千葉県千葉市における学校給食への地場農産物の提供活動についての調査を行った。千葉市内の中学校(56校)については3ヶ所の学校給食センターから、小・養護学校(122校)については個々の調理場から、それぞれ学校給食が提供されているところであるが、地場農産物の一部は、千葉市教育委員会及び千葉市農政センターによる指導・調整の下、JA千葉みらいから千葉市中央卸売市場を通じて供給されている。また、地場農産物を利用した加工品の一部は、JA千葉みらいから調達された地場農産物を原料として県内の加工場において製造されており、千葉県学校給食会が供給している。


1 地域の概要について
・千葉市は、首都機能の一翼を担う大都市として、千葉県のほぼ中央部に位置し、人口約93万人、首都東京まで約40km、幹線道路・JR・私鉄などの交通の要衝の地にある千葉県の県庁所在地であり、全国12番目の政令指定都市である。

・千葉市内の農業協同組合については、JA千葉みらいがある。

・千葉市の農業産出額(平成17年)は112億円であり、米は9億円(8.1%)、野菜は48億円(42.9%)、畜産は34億円(30.2%)を占めている。また、総農家数に占める専業農家数の割合(平成17年)は15.2%であり、基幹的農業従事者(自営農業に主として従事した世帯員のうち、普段の主な状態が農業である者)に占める65歳未満の割合(平成17年)は50.2%である。


図3 千葉市(千葉県)位置図

2 学校給食における地産地消について
《1》 取り組みの目的

【千葉市教育委員会・千葉市農政センター】
(1) 千葉市で採れる豊かで新鮮な農産物等を学校給食の食材料として取り入れることにより、児童・生徒に正しい食材の知識を身につけてもらう。
(2) 児童・生徒が、郷土「千葉」を愛する心を育む良い機会となり、学校給食を通じて千葉市の農業や歴史・文化・風習を学習するという教育的効果を期待している。

【千葉県学校給食会】
(1) 食育に取り組む上で、地産地消は有効な手段である。また、食育推進基本計画に示された学校給食における地場農産物の使用に貢献する。
(2) 千葉県は全国屈指の農産県であり、県が推進する「千産千消」に協力する。
(注)千葉県においては「地産地消」の「地」の部分を同音で千葉を意味する「千」を用いて「千産千消」という県独自の取り組み表現としている。

【JA千葉みらい】
(1) 地域に根ざした食農教育を通じて、それぞれの特徴や特色に応じ、「食」や「農」の大切さを子供たちに再認識してもらう。
(2) 「食べること」を共通語に、学校と家庭が互いに理解し、食文化の発展に資する。

表2 千葉市の農業概要


資料 農林水産省「生産農業所得統計(平成17年)」「2000年農業センサス」

《2》 取り組みの経緯
  JA千葉みらいは、千葉市教育委員会及び千葉市農政センターの協力の下、平成9年度に創設された千葉市単独事業(環境保全型農業推進事業)を活用し、減農薬・減化学肥料栽培農産物の生産に取り組んだところであり、その生産物の一部(にんじん、だいこん、ほうれんそう)を平成10年度から中学校の学校給食への食材として提供することとなった。その後、平成11年度にはばれいしょ、平成16年度にはこまつながそれぞれ対象品目に追加され、現在は5品目が中学校の学校給食への食材として提供されている。

 また、学校給食会による地場農産物を利用した加工品については、食品加工業者「農事組合法人和郷園」の協力の下、平成17年度は、県産農産物を冷凍加工したほうれんそう及びこまつな、さらに平成18年度からブロッコリーの冷凍加工品の供給が開始された。

 さらに、平成17年10月には、千葉市教育委員会、千葉市農政センター、千葉市学校栄養士会が中心となり、JA千葉みらい、千葉県学校給食会等が参加・協議を行い、千葉市産のにんじんのみを利用した「にんじんゼリー(ちはなちゃんゼリー)」を製品化し、千葉市全校に供給された。その後、加工品の開発・供給については、「にんじんペースト」(千葉市産)、「さつまいもプリン」(香取市産)へと順次拡大してきている。これら加工品への取り組みは、学校給食への使用量が事前に確定しやすいため、供給者・需要者側ともにメリットが大きく、地産地消を推進する上で極めて有効な手段の一つとなっている。

 なお、「みらいにつなげ、みんなで食べる千葉市産」(千葉市教育委員会作成)と題するパンフレットを千葉市全校に配布するとともに、一般消費者や家庭への普及啓発活動については、「千葉市のにんじん」などの品目別パンフレット、米やこまつな等のポスターの作成・配布、小中学校等への献立指導、JA千葉みらいによる直売所や各種イベント等における上記加工品等の販売等の取り組みが行われてきている。

《3》 取り組みの概要
  学校給食への地場農産物の基本的な供給ルートは、JA千葉みらい→千葉市中央卸売市場→千葉市内の3ヶ所の学校給食センター(千葉市内全56中学校分)となっている。また、122校の小・養護学校については、年に数回行われる「同一メニュー」時に地場農産物が利用されているが、その際、約2ヶ月に1回、千葉市教育委員会、千葉市農政センター、JA千葉みらいが定期的に会合を行い、千葉市教育委員会及び千葉市農政センターが、青果物市場現場に季節別の供給・需要量を前もって要請するという仕組みが構築されている。
  なお、個々の地場農産物の学校への調達価格は、千葉市中央卸売市場を通すため、実勢格を反映した価格となっている。

 また、地場農産物を利用した加工品の一部については、JA千葉みらいから調達された地場農産物を原料として県内の加工場において製造されており、千葉県学校給食会が供給している。

《4》 取り組みの効果
  地場農産物の提供を受けている学校の中には、生産者を学校に招いての交流給食等を行っている事例もあり、学校栄養士による学校給食の場における地場農産物の解説と相まって生徒・児童による地域や地場農産物への関心や親近感の向上が図られている。

 また、「にんじんゼリー」等を農産物直売所等で市販することにより、一般消費者が学校給食で使用している食材を入手できるようになり、学校給食や食育に対する理解の促進に繋がっている。



図4 地場農産物の学校給食への調達システム概略図(千葉市)


《5》 現在の課題と今後の展開方向
  学校給食の食材として提供される地場農産物は、学校給食センター等の要望によりA等級・L規格が中心となっているが、生産者側としてはB等級・M規格等での対応も希望している。また、時として学校給食サイドから、通常規格以外の品目(例えば葉つきだいこんといった通常市場では出回らない品目)を要求されることもあり、各農家レベルでのきめ細かな対応が必要となっている。

 また、千葉市内には学校・生徒数が多く、今後、学校給食への千葉市産農産物の供給量を拡大するためには、地場農産物の生産・加工・流通体制を一層拡大する必要があるが、季節別の生産数量等の制約や体制強化に伴うコスト増といった解決すべき諸課題を抱えている。

 このような実情を踏まえると、学校給食における地産地消については、量及び規格を確保しやすい加工品はともかく、地場農産物を需要に即した形で学校給食の食材として安定供給していくためには、広く県域までも視野にいれた取り組みが重要となってくると考えられる。

 現在、千葉県では、千葉県産の農林水産物を千葉県民に消費してもらうことを目指し、「千産千消」の取り組みを推進しているところであり、千産千消ネットワーク(産地と情報、流通の体制のネットワーク化による整備)の構築により、学校給食における地産地消の一層の推進が図られることが期待される。




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