総括調整役 山崎 隆信
東京事務所長 三山 良和
平成16年10月26日(火)山形市内で、おいしい山形推進機構(会長:高橋和雄山形県知事)が主催する「おいしい山形・地産地消フォーラム」(山形県、農林水産省東北農政局、独立行政法人農畜産業振興機構の共催)が開催され、300人余の消費者などの参加下、講演やパネルディスカッションが行われた。
以下、特別講演とパネルディスカッションの概要を紹介する。
1.特別講演
「レンズを通した山形の食文化」斎藤耕一(映画監督)
(1)身土不二をテーマに
私は「身土不二」という言葉が好きで、映画「おにぎり」を撮るときに「身土不二」をテーマにした映画を撮ろうと心に決めていました。「身土不二」とは「心と土とは全く同じであり、2つではない。全ての生き物は土から生まれた」という意味であり、全ての生物が生まれた同じ所の食べ物を食べるのが健康に良く、おいしいということです。ともすれば効率優先の現代社会ですが、「身土不二」の心がけこそ日本人の原点ではないかと思います。
(2)おいしい山形を実感
映画は米作りなど経験したことがない都会の若い男女が、しだいに稲や田んぼに思いを寄せていき、農業を好きになっていく話です。赤山地区で田んぼを2反歩、2年間借りてロケをしました。私を含めたスタッフと俳優が2年も頑張れたのは「おいしい山形」のおかげです。撮影のために実際に作ったお米を収穫して皆で分けたのですが、このお米がまたすごくおいしかった。地元の方は、「はなの舞」という米であまり有名ではないと控え目でしたが、聞けば収穫後、機械ではなく天日に干して丹精込めて仕上げたそうです。これも一つの地産地消の形なんですね。地産地消の素晴らしさを実感しました。
(3)地産地消について
ロケの現場を借りた安達さんという農家のおしんこのおいしさは忘れられません。その土地のものはその土地の人にとって一番おいしいのです。映画「おにぎり」の原点は「身土不二」だということを思い出してください。体と土はひとつ、決して別のものではない。その土地から生まれたもの、その土地で育ったものほど大切なものはありません。映画「おにぎり」を通して、農業の大事さ、地産地消の素晴らしさが少しでも浸透してくれることを願っています。
2.パネルディスカッション
「家庭から地産地消を考えよう!」 ~ある日の田中さんちの献立から~
コーディネーター:
大野 勉氏
(有)コンサルティングハウス大野代表
パネラー:
山村達也氏
山形県農業協同組合中央会常務理事
伊東公子氏
山形県食生活改善推進協議会会長
浅倉かおり氏
広告プランナー、山形スローフード協会理事
遠藤善也氏
(株)サンコー食品代表取締役社長
助言者:
斎藤耕一氏 映画監督
(1)はじめに
~ある日の田中さんちの食卓をのぞいてみて感じたこと~
大野:田中さんちの献立を紹介します。昭和40年、平成14年を比較してお米が減って、肉の消費が増えるなど食生活が変化しています。次に日曜の夜の献立を紹介しています。田中家は6人家族です。献立はご飯、芋煮、冷奴、ポテトサラダ、りんごで、料理の食材ごとの地産順位、地消順位を紹介しています。地産順位は県産収穫量の全国順位、地消順位は全国主要都市の中での山形市の購入量の順位です。お米は耕地面積は全国12位ですが生産は5位です。お米の購入量は全国2位です。里芋、こんにゃく、しょう油などの購入量が全国でも高いランクになっています。このような山形市民の田中さんちの食卓をのぞいてみて、パネラーの方々に感じたことを話していただきます。
伊東:自給率は落ちても私達の身の回りの食べ物の豊富さは驚くほどで、豊富な食材の中から何をどう選んで食べていくのかが課題です。山形県食生活改善推進協議会(昭和55年に設立)は、昭和62年に「山形の郷土料理」を発刊し、郷土料理と地産地消を通じて豊かで健康な食生活の実現をめざしています。最近は親子の食育教室を開催し、食について考え、理解を深める活動に取り組んでいます。
浅倉:山形では、平成13年にスローフード協会が誕生。食育活動、地元農産物の勉強会などを行っており、現在3つの理念に基づいて活動しています。((1)消えていくおそれのある伝統的食材を守る、(2)こうした食材を作る小生産者を守る、(3)新しい世代の子供達にこうした食材を伝えていくこと。)最近では「味の箱船」運動として伝統的な野菜をもう一度見直し、守っていく運動に取り組んでいます。
山村:山形県は平成13年に農業基本条例を制定し、その後、食の安全に対する消費者の関心が高まり、生産者側として(1)トレーサビリティ(生産履歴)、(2)出荷前の農薬分析(3)地産地消の取り組みなどを実施しています。また、今までは単品を大量に販売することが主でしたが、これからは多種少量作物販売にも取り組んでいきます。
遠藤:私どもサンコー食品は、消費者の健康志向の向上やおいしさの追求を背景に、平成13年から外国産から県産大豆を使って豆腐(地産地消のぺろりんマークの認証第1号)を生産しています。何と言っても地元で作られた大豆は安全であり、鮮度が良い。鮮度の良さは豆腐の味に大きく影響します。問題は値段ですが、国産大豆の値段が3年前に比べ2.5倍から3倍に高騰し、経営的には厳しいが、利益を少なくしても地産地消を推進する信念でやっています。
(2)地産地消と流通
伊東:農産物直売所が増えたが、店員の接客対応の向上とか、他県産に負けないように良いものを上手にPRする工夫、売る努力も必要です。
農産物は外国からの輸入も多いが、選択するのは消費者です。これから子供を産む方、子育ての方々は、添加物、農薬など食の安全、安心に関心を払うのは当然ですが、今の忙しい時代、何でも手作りでは大変なので、適当に楽して食を楽しむことも必要です。また、一方では「食育」を通して種を蒔き、育て、収穫することの意味を教えることも必要です。
山村:作るだけで販売したことのない生産者が多いのも事実で、接客態度も商売人のようにはいきません。その素朴さを良しとするか、スーパーのように商業化するのが良いのかどうか。直売所は、まだ始めたばかりなので改善点も多いと思います。
調査によれば学校給食への提供でさえ、4つの「定」があります。定質(品質が一定であること)、定時、定量、定価(安定した価格)。工業製品のような要求です。学校側にも調理の事情があるようですが、これでは地元のものを供給するのは難しい。
また、規格についてですが、生産者にも誤解があって中央市場に出荷したほうが高く売れると思い込んでいて、中央市場の求める規格にあわせる傾向があります。田中さんちの献立から低い自給率を感じますが、生産者側も、このフォーラムを共催している農畜産業振興機構の指導、協力をいただいて昭和30年頃から畜産振興に努めているが、食生活の変化の激しさに自給率が追いつかないのが現実ではないでしょうか。
遠藤:当社は年間260トンの県産大豆を使用しています。畑に換算すると約200haは必要になります。地産地消ですから地元で作ったものを地元で消費する。そうすればお金も地元で回るはずですが、実際は集荷、流通などの問題から、県産大豆はいったん県外の東京の卸業者に販売され、そこから私どもが買うことになります。値段も高くなるので、この辺の流通を何とかしてもらえればと思います。
浅倉:流通のことに関して、県産の良い農産物は東京に出て東京市場経由でなければ入手できません。なかには東京で消費され山形で手に入らないものもあります。高い取引価格でもっていかれて、食べ物が工業製品化しています。規格に合わないものは、はねられ、商品にならない現実があります。田中さんちの献立を見て思うのは、山形の代表的な郷土料理の芋煮の食材がほとんど輸入、県外産であることです。私達が食べているもののうち、どれくらいが地元産であるか関心を持つことが大切だと思います。
(3)おわりに
~地産地消と健全な食生活の推進のために~
山村:地産地消には生産者側にも多くの取り組み課題がある。今までの組織、集荷、販売体制の見直しや、先ほど話しが出た流通にもいろいろ問題がありますが、最も重要なことは皆さんが地元のものを選択することです。それを前提に地産地消のネットワークの構築を図っていきたい。
斎藤:私の住んでいる八王子のお祭りでは、3年前から芋煮会を始めましたが、大好評です。山形の里芋など赤湯の方達に協力いただいています。食材も人のつながりもほんものの素晴らしさです。
(斎藤夫人)山形に来ると、野菜やお米がおいしいです。見かけは良くなくても地元で採れたものは、ほんものの味がします。私はこれからも地元の野菜をおいしく料理して、娘や子供達に食べさせていきたいと思います。
大野:平成13年頃の調査によると生産者、流通業者、飲食店も皆、地元のものを提供したい、扱いたい、使いたいという気持ちはあったが、うまく噛み合っていませんでした。しかし、地産地消はこの数年、随分と状況が良くなってきました。これが、もっと大きな輪になるよう知恵を出し合って取り組んでいくことが重要ではないでしょうか。やはり、家族そろっての楽しい食事と会話、これが食生活にはとても大切ではないでしょうか。
※「おいしい山形・地産地消フォーラム」についての詳細は、機構のホームページ(http://alic.lin.go.jp)に掲載している。