野菜業務第一部調整課
II 輸入野菜流通実態調査
1 輸入レタスの流通動向
(1)レタス輸入量の増減とその要因
輸入レタスの流通状況を明らかにするために、まず最初にレタスの輸入量の増減状況とその増減を引き起こした要因を、既存の統計データから総体的に把握しておくこととする。
ア 輸入量の増減状況
生鮮野菜の輸入量が増加し始めた1980年代後半以降のデータによれば、レタスの場合、80年代にはほとんど輸入は行われていなかった。しかし、90年代に入ると、輸入量が著しく増加した(図1)。すなわち、80年代までの輸入量は88年の104トンが最大であったとみられるが、91年の輸入量は突如として6,000トン弱にまでのぼった。そしてその後、大きく変動はしているものの、年によっては6,000トン前後にのぼり、2001年には8,000トンをも超えた。
しかも、レタスの輸入は当初は結球レタス中心であったが、90年代後半になると非結球レタスの輸入も増え、99年以降は結球レタスと非結球レタスが互いに半分ずつ占めるようになった。
月々のレタス輸入量の変化をみると、10月から3月の間に輸入量が増える傾向が強く、この時期に輸入量が大幅に増加した年は年間輸入量も多いと言う関係がみられる。この月々の輸入量の変化は、当然、結球レタスと非結球レタスの両方によって引き起こされているのであるが、詳細にみると結球レタスの動きがレタス全体の輸入量の変化により強い影響を及ぼしていると言える。
こうしたレタスの輸入先相手国は米国、中国、台湾等であるが、実は米国からの輸入が結球レタス、非結球レタス、およびレタス輸入量全体のいずれにおいても常に90%以上を占めている。
イ 輸入増減の要因
上述のようにレタス輸入量の増減が主に結球レタスの輸入量の増減によるものと判断できることから、レタス輸入量増減の要因を解明するために、結球レタスだけを取り上げ、その月別輸入量と国内卸売単価との関連を分析することにしよう。
月別輸入量と国内の月別平均卸売単価(国産物と輸入物とを合わせた平均単価)とを比較すると(図2)、興味深い点が明らかである。それは卸売価格が高い時に輸入量が急増することである。例えば、98年の10月、11月、あるいは2001年の2月である。しかも、卸売価格が安い時には輸入量が減少する傾向も認められる。すなわち、98年の5~7月、あるいは2000年の5~7月等である。
このことから、輸入量の増減は国内の卸売価格の高低によるものと判断できる。しかし、月々の輸入量と各月の平均卸売単価との相関関係を調べると、確かに正の相関が認められるものの、卸売単価がどの程度の高さになると輸入量が増えるかと言う点は全く不明確である。これは多分、輸入量そのものがまださほど多くないために、ごく少数の需要者の行動が全体の傾向に強い影響を与えるためであろう。
(2)レタスの輸入・販売に関する輸入商社の取組状況
ア A商社の場合
A商社が都内のK卸売市場で青果物を取り扱うM仲卸業者の子会社として設立されたのは1978年であった。その主な業務は海外青果物の輸入販売と、国内外の青果物の加工販売である。最近ではその年間販売額は40~50億円に達している。レタスに限るならば、主な輸入先相手国は米国で、ごく一部を中国から輸入し、台湾からの輸入は2002年から始めたばかりである。
また、同社の輸入青果物の主要な販売先は外食企業である。特にレタスの販売先はテイク・アウト方式を採用しているチェーン店にほぼ限られている。ちなみに、他の商社の場合も輸入レタスは業務用がほとんどで、生食用に向けられるのは台風等によって国産レタスの収量が大幅に減少したときに限られるようである。
1) 輸入レタスの輸送方法と輸入量
レタスを輸入する場合、原体(「ホール」とも言う。)のままで日本に輸送するか、輸出国でカットしてから輸送するかであるが、A商社は他のレタス輸入商社と比較してカットで輸入することが多い。このA商社とは逆に、特に関西の商社はほとんどを原体で輸入するとのことである。
輸送手段は船か飛行機であるが、船の場合は40フィートのリーファー・コンテナ(冷凍冷蔵コンテナ)を使い、1コンテナでの輸送量は原体で約13t(800カートン)、米国からの輸送日数は約2週間である(これだけ日数がかかると、鮮度の点でレタスの店頭販売は通常は困難である。)。旅客機を利用するのは通常はカット品だけであるが、この利用は、発着時刻が定まっているため、日本到着後も待機していたトラックに即座に積み替えて運ぶことができ、鮮度の低下を極力防ぐことができるからである。ただし、輸送費は船便の数倍から10倍ほどの200円/kg弱ほどになる。
このようにコンテナ船と旅客機を利用して行うA商社のレタスの年間輸入量は、日本国内での価格変動の影響を受けるため、年によって大きく異なるようである。ただし、飛行機でのカットレタスの輸入量は比較的安定しており、通常は年間700トン弱程度である。大幅な変動があるのは船便を利用した原体での輸入で、この数量は日本国内の価格変動に応じて少ない年で数百トン程度、多い年には千数百トンあるいは2千トン程度にまで達することがあるとのことである。
2) 輸入取引方法
輸入取引方法は当然、輸入商社ごとによって異なるし、また輸入先相手国や取引先相手(輸出業者)ごとにも異なっている。
A商社の輸入取引方法を主要輸入先相手国である米国を例にみると、カットレタスの取引先はサリナス(カリフォルニア州)の1社だけであり、原体での取引先は同じくサリナスに本社がある別の1社である。カットと原体で取引先が異なるのは、それぞれにノウハウが異なるからである(カット用のレタスは原体のままでは見映えがよいとは言えない)。ただし、両社ともサリナスとユマ(アリゾナ)に自営農場又は契約農場を有し、周年供給が可能である。カット会社の場合は両地に同能力のカット工場(建物内の機械を生産シーズンごとにサリナスとユマの間で移動させる。)も有している。ちなみに、カット工場の生産能力は160トン/日で、このうちの1割までは日本向けに供給することが可能である(この会社と取り引きしている日本企業はA商社だけである。)。
この両社との取引は、必要最少数量に関しては年間契約である(船や飛行機での荷のスペースを確保するためにも、定期的な輸入が必要である。)。ただし、上記の「1割まで」からも推測できるように、日本国内の価格高騰等に応じてスポットでの輸入量の増加も可能である。
カットは国内と同じスペックで注文することから、当然ではあるが原体で輸入する場合も全て買取りである。その際の価格はFOBで決める。したがって、船積み後のリスクは全てA商社が負うことになるが、保険をかけてはいない。と言うのは、薫蒸がかかる可能性が高い農産物については保険会社が契約を嫌うからとのことである。
なお、台湾からの輸入は全てカットレタスである。また、中国からの輸入はハウス栽培レタスに限っている。
3) 輸入レタスの薫蒸問題
レタスに限らないが、上でも触れたように、生鮮野菜の場合は薫蒸の問題がある。この薫蒸を受ける割合は、品目間だけでなく、港・空港間でも違いがあるが、全国平均でみると、レタスの場合、輸入量の20%程度である。A商社も、原体で輸入したレタスについては、薫蒸にかかる比率は低い時で10~20%、通常はこれを上回っているとのことであった(レタスの外葉は日持ちの上で重要だが、外葉があると虫が出る可能性があるため、薫蒸にかかりやすい。)。ただし、カット・レタスの場合はほとんど薫蒸にかかることがない(過去13年間で薫蒸による廃棄は2回だけであったとのこと)。
薫蒸の方法としては、一般に青酸ガス薫蒸と臭化メチル薫蒸があるが、レタスの場合、虫の種類によって両者のいずれかが選ばれる。ただし、レタスは青酸ガス薫蒸を受けた場合は販売可能であるものの、臭化メチル薫蒸の場合は販売不可能で廃棄しなければならないことから輸入レタスのリスクは比較的高いと言える。
なお、このリスクの低下を図るためにレタスの事前検疫制度(日本の検疫官を米国に呼び、輸出前に植物検疫を行う制度)を実施したが、日本の港湾でも同制度にのっていない品目と同様の検査が必要であったため、同制度を利用しなくなったとのことであった。
4) 販売・供給に関する考え方
A商社がレタスの輸入を行うのは、先にも述べたようにテイク・アウトのチェーン・レストランに供給するためであるが、実は同レストランへの供給のために輸入物よりもずっと大量の国産レタスも取り扱っているのである。したがって、輸入レタスを取り扱う目的をより正確に言うと、「国産レタスの品薄時・高騰時にも低価格で安定的に供給するため」となろう。
実際、通常は同レストランへの供給量の4分の3程度を国産レタスでまかない(国産レタスは主に農協からの買取り)、残りを輸入カットレタスで補っているものの、国産の不作時にはカットレタス輸入量の増加だけでなく、原体での輸入も多い。ちなみに、国産レタスをカットする場合、歩留まり率は平均で45~50%、米国産の場合は既に外葉を取り除いていること等があるため、おおよそ50~60%程度である。
いずれにしても、A商社は通常の輸入は緊急輸入をスムーズに行うための保険的なものと考えていると言えよう。普段は輸入を行わずに、国産の不足時だけに輸入を行おうとすると、輸入先相手を見つけることが困難なだけでなく、レタスを運ぶためのスペースを船や飛行機に確保することも容易ではないからである。
イ B商社の場合
B商社は、1982年に、米国に本社がある青果物取扱会社の子会社として設立された。現在、東京の日本本社の他に営業所が札幌、福岡等にも設置されている。
その年間販売額は果実と野菜の合計で約850億円に上る。そのうち果実が700億円で、野菜は150億円である。野菜のうち最大の販売額を有するのはブロッコリーで、レタスは数億円にとどまっている。
1) 輸入レタスの輸送方法と輸入量
B商社は先のA商社とは違って、全量を原体で輸入している(カット品の輸入は薫蒸にかかることはまずないものの、袋の中の一部に傷みがでると、それを取り除く手間がかかるため。)。したがって、通常の輸送手段はコンテナ船である。温度管理の点からみると、船の方が飛行機よりも優れていることに加えて、成田空港での植物検疫が厳しく、薫蒸になることも多いこと等もあって、今後も船中心で輸送することを考えているとのことである。
船の輸送コストは現在、30セント/kgであるが、これにさらに乙仲料(乙仲業務:船から荷下ろし、植物検疫の手伝い、通関手続き、薫蒸、上屋費用等)がかかる。その費用は、薫蒸を除くとレタス1ケース(10kg)で200円ほどである。
輸入量は冬場に多く(夏場は国産レタスが中心)、1週間に1コンテナ(1,000ケース=10トン)の割合で輸入する。これまででレタスの輸入量が最も多かったのは7~8年前であるが、その当時に比べると現在は3分の1程度にすぎないとのことである。
2) レタスの輸入取引方法
B商社のレタスの輸入先相手は、同社の米国本社(正確には同本社の生産部門を担当する子会社)である。同本社はサリナスの会社で、同地区の自営農場や契約農場から仕入れているが、11月下旬~3月上旬はユマの契約農場からも仕入れ、レタスの周年供給・周年販売を実現している。ちなみに、同本社のレタスの供給能力は50万トン/年に上るとのことである。
価格は取引シーズンの初めに交渉して決め、年間を通して同一とすることになっている(米国内でも日本と同様に、年2回の端境期に高価格となる価格変動があるが、この影響を受けることはない。)。しかも、輸入量が少ないこともあって、価格は過去8年間ほど変わっていない。
3) 輸入レタスの薫蒸問題
B商社の場合、輸入レタスのうち薫蒸にかかるのは10%程度であるが(早どりレタスを輸入しているため、薫蒸にかかる比率が低いようである。)、臭化メチル薫蒸を受けたレタスは、薫蒸後に廃棄する。その理由は、それ以前に廃棄するのに比較してコストが1/2~1/3に低下するからである。すなわち、内貨(薫蒸を受けた後の貨物)の廃棄コストは30~50円/kgであるのに対し、外貨(薫蒸を受けず、輸入したことになっていない貨物)の廃棄コストは100円/kgあるいはこれ以上に上る。ちなみに、薫蒸の費用はほぼ50~100円/ケース(10kg)である。
なお、A商社のところでも述べた事前検疫制度(パイロット・プログラム)にB商社の米国本社も参加していたが、この制度に基づいて輸出を行うことはなかった。と言うのは、輸出予定のレタスの全量が日本で薫蒸にかかる可能性があると指摘されたため、米国国内向けに切り替えたからである。
4) 輸入レタスの販売・供給に関する考え方
B商社は輸入したレタスの約3割を自社工場でカットして量販店等に販売しているが、残りの7割はカット加工会社や問屋等への販売で、この大部分は業務用として使用されている。ただし、販売先の業務用使用量のうち輸入物は10分の1程度にすぎない。すなわち、実需者側は輸入レタスをメインに位置づけているのではなく、メインはあくまでも国産レタスなのである(輸入レタスは補完的位置にある。)。では何故輸入レタスを使用するのかと言うと、A商社と同様に保険的な意味合いが強いのである。ちなみに、B商社はレタス輸入量を一時的に3倍ほどに急増させることは比較的容易であるとのことであった。
いずれにしても、B商社はレタスの高値が1か月も2か月も続くことがないことから、輸入によって大きな利益を得ることは難しいと、また、通常時に輸入量を増やしても販売が容易でないと考えているとみられる。
2 外食・加工業者の利用動向
(1)大阪地区の輸入レタスとカット野菜メーカーの動向
ア Cカット野菜メーカー
このカット野菜メーカーは、カット野菜のパイオニアであり、市場外の青果輸入会社とともに神戸中央卸売市場の大手仲卸業者のグループ企業である。カット品目は、レタス、だいこん(さしみのツマ)が中心で、使用原料は国産を基本としており、国内の契約産地の開発にも早くから取り組んできた企業である。
レタス原料は冬季は熊本や沖縄、春秋季は魚津、夏季は長野や群馬を連携させ、毎年平均80~100トンを処理している。
輸入レタスは、国内産が不作となり原料の手当てができないときだけ緊急避難的に扱うだけとのことである。平成15年9月は国内が品薄となり、納入先への欠品を避けるためアメリカ産レタスを扱っている輸入業者に依頼し、スポットで数トン(290円/kg)程度手当てした。
アメリカ産レタスは外葉も除去されており歩留まりも60~70%と高く、カット原料としては優れているが、納入先であるユーザーが国産指定であるかぎり固定的に輸入レタスに移行することはないとのことであった。
イ D野菜流通グループ
同グループは、大阪東部市場の仲卸業者を母体とする企業グループであり、主な販売先は量販店(35社57%)、生協(1社2%)、百貨店(2社4%)、外食産業(60社35%)、地方卸売市場(65社2%)となっている。
グループを構成するのは、経営母体である仲卸業者(K青果)に、カット野菜の製造販売会社(M社。現在の堺基幹工場の日量生産能力はパート80名により20トン(うちレタスが12トン前後)の処理能力)、青果物の輸入販売会社(KI社)を傘下におさめている。また、輸入会社、輸入商社、量販店向けのリパック会社等との協力関係を構築し、広範な事業展開を進めている企業である。
1) カット用原料レタスの扱い
カットレタスの加工事業に本格的に参入したのは平成元年からであり、当初は国産レタスだけを原料として使用していた。その後、原料の安定調達の一環として平成5年よりアメリカ産レタスも使用するようになっている。
現在、原料レタス(年間使用3,600~3,800トン)は国産(50%)とアメリカ産(50%)を併用しており、国産原料レタスは5月中旬から9月末まで長野県・群馬県産、12月~3月は長崎産、3月~9月と10月~12月は茨城産を市場外で調達しているが、毎年季節の変り目(産地の変り目)に品質が不安定になる。
国産とアメリカ産の位置づけは、輸入レタスを計画的・固定的な原料とし、受注による変動量を国産原料の使用量を調整する考え方である。
国産原料レタスは、どの産地からも1,200~1,300円/ケースの範囲で事前に値決めし、サイズ(12~18玉/ケース)指定で調達している。その加工歩留まり(ケース10kg換算で45~48%)からこの価格条件を設定しているとのことである。
アメリカ産レタスは、平成15年の春先まで輸入商社を介していたが、その商社がレタスビジネスから撤退したため、グループの貿易会社を設立し直接扱うようにしている。 仕入れている輸入レタスは、カリフォルニア州サリナスの指定パッカーから24玉16kg入りを定期的に仕入れており、グループの貿易会社を通じ、毎月翌月分を週単位で発注(週40Fコンテナ2~3本:25.6~38.4トン)している。輸入は、主に船便(2週間前後)を使用し、主に神戸港で陸揚げして堺の加工工場に搬入し、基幹工場での必要量の2日分を在庫にするように調整している。
また、神戸港に陸揚げされる輸入レタスの60%が同社向けの原料になるとみており、その製品歩留まりは50~60%前後(ただし、薫蒸を受けたレタスについては歩留まりが30~40%前後に下がる)とのことであった。
なお、輸入原料レタスの消毒にかかる比率は2%(コンテナ単位)で、薫蒸処理にはコンテナ当たり50万円程度の費用を要するとのことである。
2) カットレタス形態の輸入と販売状況
同社では、納入先である外食企業の短期的なイベント(フェア)により工場の処理能力を上回る需要量(通常日量12トンが15トンに拡大)が発生したことを契機に、カット工場の生産能力を超えた発注があった場合への備えとして、3年ほどまえからアメリカでカットされた製品も定期的に空輸で輸入している。輸入は週3回、1回当たり5トン程度を真空パック形態で輸入している(5%程度にピンフォールが発生する。)。
同社のカットレタスは、ファ-ストフ-ドを中心に全量が外食産業向けに販売されており、販売価格は国産原料、輸入原料とも同じ水準で年間値決めとなっている。なお、需要量は、販売先である外食企業の売上動向に大きく左右され、ここ数年間は減少傾向とのことである。また、加工したカットレタス(真空パック形態)は365日、毎日必要量を納入している。
(2)レタス産地立地型のE野菜加工工場の動向
E加工工場は、約23年前にレタスの大型産地となっていた農協の組合長がアメリカでカットレタス工場を視察し、国内でもレタスの規格外品を付加価値を付けて販売することを目指したものがその始まりである。昭和57年に国の補助事業等を利用した加工工場を導入し、県経済連、主要取引先である卸売会社、仲卸業者等と連携しながら販路開拓に努め、現在に至っている。現在、従業員61名(パート41名)により日量21トン(最大16トン)のレタス加工を実施している。
ア 原料レタスの調達方法
原料レタスは年間6,200~6,300トン使用しており、そのうちの89~90%を国産レタス、残りの10~11%を輸入レタスが占めている(ただし国産レタスのうち1,000トン(18%前後)は、他のカット加工メーカーに原料として販売している。)。
国産原料レタスは、毎年7月から11月前半までは地元(長野県)産を利用し、冬季は18年ほど前に産地開発した長崎県産を調達している。冬季レタスの有力産地としては四国等があるが、そこでは一般小売用のラップ出荷が主流であった。ところが九州地区は古くからハダカ流通が主流であり、加工原料として使い勝手が良いことから長崎で産地開発を進めたとのことである。
また、長崎産のレタスは、18年前に産地開発した当時は、地元農協の集荷実績がほとんどなく、集荷実績が高い産地商人を窓口としてした方が安定調達につながった経緯があり、今日でも産地商人を窓口に熊本と鹿児島の市場相場にスライドさせた価格で調達している。
地元産のレタスについては、3つの調達方法を採用している。1つ目は、必要量の20%程度を農家との間で価格・数量を事前決定した契約的な形態で仕入れている。ただ、契約しているからといって計画どおりに原料が入手できるわけではなく、市場相場が高くなると入らなくなり、安くなると契約履行要求が強くなるとのことである。
2つ目は、各農家が農協に出荷したものの中から農家の意志とは無関係に2Lサイズを中心に利用し、農協販売部門に対して日々の市場価格から農協手数料、運賃、市場手数料等を引いた価格(農家手取り価格)で仕切る整理を行っている。ところが各農家は、市場で形成された価格水準(運賃や市場手数料込み)で日々の販売額を確認しているためその差額調整と、農家の意志に関係なく加工原料として利用した場合でも、農家手取額面ではメリットがある清算を行う意味あいから、ケース当たり50円の上乗せも行っている。
カットレタスの販売価格が固定している加工事業では、原料価格も農家との契約により固定化することが望ましいとの考え方があるが、ここでは、天候要因による作柄変動が避けられないレタスを、全量農家との直接的な契約で固定価格で計画的に調達することは上述のように難しく、加工部門の採算性を前提とした場合、固定価格では市場価格が低落した場合のメリットが出しにくいとの認識がある。そのために、3つ目の方法として、個々の農家と個別契約を結ばないが、各農家が加工センターに原料レタスを直接搬入すれば、市場出荷のような集荷受付の時間制限を設けず、いつでも2L指定で受け入れることも行っている。
この農家直接搬入による原料調達では、加工センターに集積した使用済み段ボールを再利用でき、市場出荷では必要となる調整作業(切り口の洗浄、形状のチェック等)が必要ではないことから各農家の収穫・箱詰め作業の作業性が高いメリットがある。また、清算は市場価格の手取りスライドにケース50円を上乗せ清算するだけでなく、農家手取りが見込めないような価格暴落時でも最低価格の補償を行ってる関係から、市場出荷が低落した時には日々の必要量の80%水準を調達できるが、逆に、市場価格が高騰するとほとんど見られなくなるとのことである。
地元で栽培されているレタスの品種が細分化され、作型に応じて様々な品種が栽培されるようになってきたが、一方で、天候による影響も受けやすくなっている。その背景には連作対策として土壌殺菌を行ってきたため地力が低下していることが考えられる。このままの状況が続けば、夏季のレタス産地が北海道に移る可能性もあるのではないかと危惧している。
冬季に調達している長崎産のレタスは、産地商人を介し、熊本と鹿児島の市場相場にスライドさせた価格で調達している。
なお、年間を通し支払可能限度価格は1,200円/ケースとのことであった。
イ 輸入レタスの調達方法
輸入原料レタスはアメリカ産と台湾産を使用しており、アメリカ産は主に空輸によるものを利用している。空輸を利用する理由は、基本的に国産原料をベースにしており、輸入ものは需給調整として利用する考え方となっていることと、船便の方が安くはなるが、発注から入荷までのリードタイムが23日前後を要するため、その時に受注量・販売量を正確に予想できなければリスクを背負うことになることからである。その点、空輸の場合には発注から4日目に入手できるためとのことであった。
アメリカ産レタスは、輸入業者を通じて240~250円/kgで1回当たり9.3トン(40ポンド×580カートン)をスポットで利用している。
台湾産の利用は平成14年の冬季から始まり、現在12月から3月の国内産が品薄となる時期に、コンスタントに海上輸送されたものを1回当たり12.8トン(20ポンド×800カートン)を週2回程度の割合で輸入している。
この他に、加工工場の処理能力を超えた受注への対応として、空輸されたアメリカ産カットレタスを週2回(2トン)定期的に利用している(成田で引き取りそのまま納入)。
また、輸入に伴う薫蒸処理については、アメリカ産では60%が青酸薫蒸を受けるが、メチル薫蒸は過去に1度の経験しかないとのことであった。
なお、原料レタスの製品歩留まりは、アメリカ産が60~70%、台湾産が60%前後とのことであった。
(3)関東地区のFカットレタス加工工場の動向
F社は昭和63年に設立され、本社は京都市にあるが、関東地方については埼玉県春日部市にある事業本部が管轄している。
同社の春日部工場においては、主としてレタスを主要原料とするカット野菜(業務用・生食用のカット野菜)やコンシューマーパック及びカップ詰サラダ(いずれも小売向けカット野菜)を製造している。なかでも、ファーストフードを中心とする外食産業やコンビニエンスストア等へのカット野菜の販売が中心となっている。また、同工場の年間製造額は約30億円である。
ア レタスの使用概要
1) 原料レタスの使用概要
同社が原料として使用するレタスの量は平均すると約16トン/日となっており、そのうち春日部工場での使用量は約10トン/日を占めている。
なお、カットレタスの使用量は時期による差が大きいという特徴がある。春日部工場を例にとると、前述のように平均すれば10トン/日となっているものの、最小時には6トン/日にすぎない。一方で、クリスマス前後の需要集中時やファーストフードのフェア等の際には最大では30トン/日となっているように、そこに約5倍の格差が生じている。このことは、工場の稼働率を効率的に維持するには課題が多いということを物語っている。
原料レタスは後述のように契約栽培によって仕入れていることから、価格は卸売市場価格ほどには変動しないものの、時期による変動は避けられないのが現状である。具体的には、同社の原料レタスの仕入価格は、平均すると1,500円/10kgとなっているが、これを時期別に比較すると春期1,000円/10kg、夏期1,100円/10kg、秋期900円/10kg、また冬期には1,800円/10kgというように変動しており、なかでも冬期の高価格が年間を通じた平均価格を引き上げる要因となっている。
2) 輸入レタスの使用概要
同社が使用する原料レタスは、基本的に国産品となっており、輸入レタスの使用は年平均で使用総量の約5%にすぎなく極めて限定的である。
また、一定量を恒常的に使用するのではなく、国産レタスの調達が難しい時期に不足分を輸入レタスによって補完するという使用形態となっていることから、その使用量・割合は時期により大きく増減しているのが実態である。
3) 製品の出荷量・価格
同社のカットレタスの出荷量は約8トン/日であり、そのうち春日部工場は約5トン/日となっている。
カットレタスの販売価格については、販売先のファーストフード店と通年契約によって固定化されており、販売先やスペック毎に差はあるものの、おおよそ500~600円/kgの間である。このように年間の販売価格が固定化されている一方で、原料レタスの仕入価格は時期によって変動していることから、同社は年間を通じた販売計画のなかで一定の利潤を確保すべく、原料レタスの契約農家からの仕入価格を設定しているものと思われる。
イ 国産レタスの調達方法
同社における国産レタスの調達は、自社の直営農場による生産と農家との契約栽培によって行われており、その対象面積は自社直営農場が約50ha、契約栽培が約300haとなっている。
自社生産や契約栽培の対象となっている品目は、使用量の比較的多いレタス、トマト、キャベツの3品目であり、このうちレタスは約80%を占めている。
レタス農家との契約方法は、基本的に圃場単位で契約し、その圃場で生産された野菜については全量を同社が買い取るというシステムをとっている。
契約農家の平均規模は1戸当たり約2ha強となっているが、関東圏については2回/年の作付けとなっていることから、作付延面積は5haに近い。なお、関東以外の産地についても年2作の生産は可能であるが、現在のところ同社の必要量に合わせて生産を抑制してもらっているのが現状である。
契約栽培品の産地と取引価格との関係については、西南暖地産では施設代と物流経費がかかることから関東の露地栽培品と比較して高く設定されており、同様に北海道産について輸送費が割高となることから高水準となっている。なお、契約栽培品の産地別の価格差は最大で70円/10kg程度である。
また、契約栽培品の買取価格はここ5年の間ではほとんど変動がなく、その変動幅は5~10円/kg程度である。
なお、F社は、自社生産や契約栽培だけでは不足するときに限って、ごく少量を東京都中央卸売市場大田市場や横浜市中央卸売市場本場の卸売業者から買い付けている。これら2社の卸売業者は、同社において自社生産や契約栽培による原料野菜が過剰となった場合には過剰分の販売先となっており、卸売市場が同社の需給調整の場として活用されている。
ウ 輸入レタスの調達方法
1) 輸入レタスの調達概要
同社の原料レタスの使用方針は、原則として国産品優先であるが、現実的には国産品のみで全量を賄うことには無理があり、特に国内産地の生産量が落ち込む7・8月と2月については輸入品を使用することによって不足分を補完せざるを得ないとしている。
輸入レタスの原産国については、その大部分がアメリカのカリフォルニア産(サリナス)となっており、約7年前から実施している。また、ごく一部については中国の山東省産(乳山市)を3年前から(契約面積10ha)使用している。
輸入レタスは、輸入先との安定的な取引関係を維持することを目的として、若干量の購入を恒常的に行っている。そして、本当に必要となる国産品の不足時には、通常購入量をはるかに超えたレタスを輸入することによって、不足分を補完している。
輸入レタスの仕入価格は、船便の場合で1,800~2,100円/10kgであり、空輸については3,800~4,000円/10kg程度となっている。
2) 輸入レタスの使用方法
同社における輸入レタスの使用方法は国産品と同様であるが、工場でのカット加工時には国産品に輸入品が混入してしまわないよう厳密な分別管理が行われている。
なお、輸入レタスをどの業者に販売するかについては同社に決定権があるのではなく、販売先の意向によっている。同社の主要販売先であるファーストフード等外食業者の大多数はレタスの原産国は国産の方が望ましいとしている。しかし、一部の価格遡及に対する要求の高い業者については、安価であるならば輸入品でも問題はないといういう意見もある。
このように、調査結果からは、現在のところ輸入レタスの使用は限定的となっており、また今後、早急に輸入が拡大していくと予想するのは難しいと思われる。
III まとめ
1 国産レタスをめぐる状況-出荷と輸入の状況-
まず、国産レタスの出荷と輸入との関連について概観しておく。
平成2年から平成10年までの出荷量は、不作年の平成5年、10年を除けば、47~49万トンで推移していたが、平成11年以降は、徐々に増加し、平成13年の51.1万トン、14年の51.9万トンと50万トンを超えるに至っている。
また、平成15年産についても、それぞれ春、夏秋、冬の作期別の出荷量の対前年比は、101、97、103となっており、年作合計ではやはり、前年作並みとなっている(ただし、冬作は主産県計の予想量)。
このように、レタスの出荷量はここ数年については、増加基調にあることがわかる。
レタスの輸入量は、この間、多い順に平成12年の7.2千トン、11年の6.9千トン、5年の6.7千トンであり、逆に少ない年では2年で0.6千トン、4年の1.0千トンとなっている。
平成12年以降は毎年5千トンを超える輸入とはなっているが、国内総供給量(国産出荷量+輸入量)に占める輸入の割合は、高い年次でも1%強に過ぎず、輸入はなお微量な数量にとどまっている(輸入割合が最大年次である平成5年で1.5%)。
次に、出荷時期(季節)別にみた出荷量と卸売価格の推移に注目してみると、上でみた出荷量の増加傾向は、特に春及び冬レタスで確認できるが、両者ともこの間の卸売価格は下落傾向にあることがわかる。とりわけ冬レタスの価格下落傾向は顕著である。
以上のように、近年、各作期ともレタス価格が低迷している状況となっているが、その背景としては、やはり国産レタスがやや過剰ぎみな生産となっていることが考えられる。
こうした状況を踏まえた上で、時期(季節)別の輸入レタスの動向をみれば、春レタスが傾向的に増加している。これに対して、夏秋、冬レタスは年次別の振れが大きいものの、平成9年頃までの動きと比べれば、それ以降はいずれもやや安定した輸入量となってきているようである。
また、輸入レタスの価格も、かつて変動が大きかったが、ここ3、4年の動きに注目すれば、いずれの季節も1kg当たり200円前後の水準に安定している。
こうした輸入量や価格の最近の変化については、かつての輸入が国産不作時での手当という性格の対応からは、やや異なった動きを含んだものと考えることもできよう。
また、レタスの需要量は増加しているが、これは家計消費以外の加工・外食等の業務需要が増加したことによるものとなっている。今後もこうした家計外の需要が増加する傾向にあると考えられ、かかる面からはレタスの輸入増加が促進される可能性が高いといえる。
2 レタスの生産対応の方向
レタスは、野菜の中では数少ない成長品目である。かつ輸入量もわずかである。ただし、2つの国内産地の実態調査からわかるように、露地生産であるレタス作は、しばしば天候不順によって作柄が不安定となる場合がある。このため、国産の不安定性回避のために輸入ルートの確保を図ることを目的として、継続的に一定量の輸入が行われる状況となっている。
レタスの輸入相手国は、アメリカがほとんどであるが、アメリカは膨大な国内需要を抱えており、輸出に特化した生産形態とはなっていない。このため、レタスの輸入の動きをトレースすることは容易ではない。わが国のレタス価格が上昇した場合に、輸入が増加するという傾向はあるものの、そればかりでなく、アメリカ自体のレタス作柄の変動による影響も大きいと推測されるからである。ただし、やはり国産レタスのコスト低減は、輸入対抗上で取り組まなければならない課題である。
輸入関連で、今一つ留意しなければならないのは、中国での生産拠点の整備が進められる動きである。中国での生産は明らかに日本市場をターゲットとした取組であり、これまで以上に国産と輸入品との価格差が輸入の増減に連動する傾向が強まると予想される。
ともあれ、今後にわかにレタスの輸入が急増することは考えにくいが、レタスは今後とも業務用の需要が増加する傾向にあると見込まれ、かかる需要に対応した生産の取組が求められている。こうした取組の強化が、輸入対抗上でも重要な戦略となると考えられる。国内の2つの産地の活動も、一部かかる業務用の需要に対応した取組が行われていたことになる。今後の展開が注目される。
こうした取組を念頭に置きつつ、取りまとめに当たって、他の産地を含めた最近のレタス作の動きを改めて示すと、近年、レタス作を拡大している地域として長崎県島原地域が注目される。同地域では、近年、急速な生産拡大が行われ、全国レベルでの平成11~14年のレタス作拡大のかなりの部分がこの地域によるものとなっている(この間の全国の作付面積拡大300haに対して島原地域は213ha、同じく全国の出荷量拡大25.2千トンのうち10.4千トン)。
この島原地域での動きに注目するのは、当地域のレタスの作型が冬レタス中心であるためである。冬レタスは他の作型よりもコストがかかるため、価格が高く、業務用需要を中心にその確保がやや困難であるという状況があり、加えて輸入も主に冬レタスの時期にピークがある傾向となっている。新たな冬レタス産地の形成が求められていたことになる。
島原地域(南串山町等)におけるレタス作の拡大は、主産品のばれいしょ、たまねぎ等の価格低迷によって、これら品目からレタスへの転換がなされていることが背景にあるが、もう1つの要因は、事前値決めによるレタス契約生産の拡大であるとされている。しかも、農協系統以外の取組が先行していることが特筆される。
3 レタスに関する価格安定制度の効果の推計
レタスは、野菜の中でも作柄変動が大きく、このため価格の変動が大きいという特徴を持っている。また、レタスは、指定野菜の中でも交付額が最も多い品目の1つである。ここでは、こうした性格を持っているレタスを対象とし、費用対効果分析の手法を用いて価格安定制度を評価・検証した。
交付金交付の対象となる指定産地と対象とならない非指定産地との対応を比較し、価格安定制度が指定産地においてどの程度、生産安定に貢献しているかを検討することとし、ここでは、価格安定制度が無かった場合に、指定産地も非指定産地と同様の対応を行うと仮定している。すなわち、前年作の価格変動にそって、指定産地も非指定産地と同程度に作付面積を増減するとの仮定を置いている。
通常、価格補填の対象となる指定産地の方が、対象とならない非指定産地よりも安定的な生産が行われることが期待される。すなわち、価格低落の翌年には産地は作付面積を削減する対応をとることが多いが、その場合でも指定産地の方が非指定産地よりも作付面積を削減する程度が少ないことが想定されることになる。
図4は、前年の価格低下を受けて、指定産地も非指定産地と同率で作付面積を減少させた場合の出荷量と価格の変化を示している。この場合、現実には指定産地の方が面積減少率は低いのであるが、指定産地でも非指定産地と同率で面積を減少させているため総体としての出荷量は減少している。このためこれに伴って(仮定)価格は現実の価格と比較して上昇することになる。
ここで、価格安定制度の効果を仮定取引額(仮定出荷量×仮定価格)から現実取引額(現実出荷量×現実価格)を引いたものとし、一方で制度に関わる費用を交付金交付額とした。
以上の仮定に基づく、レタスの価格安定制度の費用対効果は表4のように推計された。
平成2年産から13年産について、累計した費用対効果は、2.6となった(すなわち、費用1に対して効果2.6)。他の野菜品目と比較して、必ずしもこの値は高くはないが、レタスについても同制度は十分その目的を果たしていると考えることができる。