総括調整役 平 野 昭
総括調整役 戸 谷 亨
当機構は、農林水産大臣から指示された「中期目標」等において、食料・農業・農村基本計画に掲げる望ましい食料消費の姿、食品の健康に果たす役割等についての理解を深めるとともに、基本計画に掲げる農業生産に関する課題の解決、食品安全に係るリスクコミュニケーションの充実等に資するよう、消費者に対する情報収集提供業務を実施することとされています。
消費者への情報提供に当たっては、消費者の視点に立ってその要望に応えたわかりやすい情報とするため、消費者との意見交換会等を通じた双方向、同時的な情報や意見の交換により、消費者の理解の促進を図ることとしており、今回、畜産および野菜の生産等の実情について一層の理解を深めていただくため、畜産および野菜の生産や製造の現場に消費者団体の皆さんをご案内し、関係者と現地で意見交換会を実施しましたので、その概要を報告します。
2 参加消費者団体
参加いただいた消費者団体代表の方々は、下記のとおりです。
大熊 礼子 主婦連合会常任委員
高野 ひろみ 全国消費者団体連絡会事務局
伊東 依久子 消費科学連合会副会長
犬伏 由利子 消費科学連合会副会長
浅子 幸江 全国地域婦人団体連絡協議会事務局
秋元 洋子 東京都地域婦人団体連盟事務局長
阿南 久 日本生活協同組合連合会理事
上田 尚美 コープとうきょう理事
(順不同:敬称略)
3 開催日時・訪問先
(1)日時
平成16年3月30日(火)
(2)訪問先
畜産:トモヱ乳業株式会社総和工場
(茨城県猿島郡総和町上辺見)
野菜:JA岩井市野菜予冷センター
(茨城県岩井市鵠戸)
畜産-トモヱ乳業株式会社
(1)トモヱ乳業株式会社総和工場の概要
トモヱ乳業株式会社(本社は茨城県古河市)は中堅の乳業メーカーであり、平成6年に茨城県猿島郡総和町に新工場を建設しました。中田俊男社長は、「産業の中に文化あり」を同社のモットーに牛乳・乳製品の生産・販売に取り組むとともに、自ら45年の歳月をかけ世界各国から収集した酪農や牛乳に関する資料を工場内に併設した「牛乳博物館」に展示し、一般に紹介しています。
同工場は、茨城県はもとより、北海道、青森県、岩手県、群馬県、埼玉県、栃木県等の酪農家から集乳し、牛乳瓶に換算すると1日に約100万本、年間3億1,000万本の牛乳を、北は宮城県、福島県から茨城県、栃木県、群馬県、長野県、新潟県、そして埼玉県、東京都、神奈川県等広域にわたる消費者に届けています。
なお、平成10年にHACCPの承認工場となり、原料入荷、製造、加工、出荷等一連の工程において高度な品質管理に取り組んでいます。
(注)生産量は年間約10万トン。内訳は牛乳60%、加工乳15%、他に乳飲料、ヨーグルト、果汁、清涼飲料等25%。
工場内設備の説明を熱心に聞く消費者団体代表
(2)意見交換の概要
参加者は、トモヱ乳業株式会社総和工場で、牛乳充填室、検査室等工場内設備、牛乳博物館等を見学しました。引き続き、工場内で、牛乳の製造過程や品質管理等に関して意見交換会を開催しました。
トモヱ乳業株式会社の経営理念について説明する中田社長
意見交換では、最初に中田社長から経営方針等について説明をいただきました。続いて、現場を担当する工場の幹部から総和工場の生産・販売の現状や品質管理の取り組みを中心にビデオ上映と資料による説明があり、以下のような意見交換が行われました。
消費者側から、
・ 最近、産地を特定した牛乳が出回っているが、総和工場の製造ラインではどのように区分けして充填しているのか
・ 毎日、集乳・製造する牛乳について、需給バランスが崩れた場合どのように対処しているのか
・ 酪農家における乳牛の飼育、搾乳等の管理と、工場との関係はどのようになっているのか
・ 賞味期限の日付印字の切り替えとチェックはどのように行っているのか
・ HACCPの承認は受けてあるが、工場の品質管理を実際に行う従業員教育をどのように行っているのか
等の質問が行われました。
これに対して、工場側から、
・ 総和工場では産地指定の牛乳は生産していないが、工場に集められた原料乳は入荷時に納入ロットごとに厳正な品質チェックを行い、検査結果が出るまでは製品化しないようにしている
・ 需給の問題については、集乳した原料乳は工場で残さず使い切るようにしている
・ 産地との関係については、生乳は、現在、関東生乳販売連および全農酪農を経由して取引している
なお、酪農家に対しては県酪連・酪農協、畜産協会等が定期的に乳質等の指導を行っている
・ 工場では遅くとも夜9時には製造を止め、貯乳タンク、充填機等を3時間程度の時間をかけ毎日洗浄・殺菌している。その間、印字日の切り替えを行う。印字の正否は製造ラインのオペレータが行い、更に試験室でのチェックや出荷時の確認を行っている
・ HACCPの承認を受け、微生物検査室、官能検査室等の拡充や検査設備の改善を図るとともに、従業員に対するOJT、個人面談、座学等により品質管理を徹底している
等の説明が行われました。
なお、同席した茨城県農林水産部から、社団法人茨城県畜産協会による酪農家に対する指導について紹介がありました。
工場側の説明に対して熱心質問する消費者団体代表
野菜-JA岩井市
(1)JA岩井市の概要
岩井市は茨城県の南西部に位置し、地形は概ね平坦で、東京から50km圏内にあります。昭和40年代から野菜の生産が増え始め、現在は、レタス、ネギが農業経営の中心品目となり、首都圏および地方都市への重要な供給基地となっています。
(2)意見交換の概要
参加者は、この時期3月採りの春レタスの収穫とネギの栽培が行われていることから、上出島のレタスおよびネギの生産ほ場で栽培状況を見学し、生産農家から説明を受けました。引き続きJA岩井市の予冷センターに移動し、レタスの集荷や業務・加工向けレタスの出荷作業、真空予冷施設および保冷倉庫について、JAから説明を受けました。
生産農家の説明を受ける消費者団体代表
JA岩井市予冷センターの会議室で、JA岩井市から管内のレタスとネギを組み合わせた野菜の生産等の概要、昨年のレタスの状況(価格の低落等)と今年のこれまでの推移、こだわり野菜の取り組み、栽培に使用した生産資材の記帳の実施、フェロモントラップの導入による減農薬栽培の状況、親子によるレタスの栽培体験等の食育の推進、栽培に使用したトンネルビニールやマルチおよびレタスラッピング時に出るフィルムの切れ端の回収とリサイクルへの取り組み等について説明がありました。引き続き、意見交換を行いましたが、消費者側からの意見の概要は次のとおりです。
・ 生産履歴を記帳しても色々な農家のものが出荷の際混ざってしまわないか
・ コストを考えるとノーラップの方が良いのではないか、また、ラップをすると鮮度は良くなるのか
・ トレーサビリティについては、仮に同じ農薬等を農協管内で使っているのなら、農協単位のトレーサビリティでもよく、その方が低コストではないか
・ 農協の有機栽培への支援方策はどんなものがあるか
・ 適期収穫へのこだわりを言われているが、消費者は適期でない時にコストをかけて作った高い野菜を買わされているのではないか
等の質問や意見が出されました。
レタスの販売等について説明するJA岩井市幹部
これに対して、JA側から、
・ 出荷時は生産した農家が判るよう段ボールに名前を明記している
・ レタスは小売店等から陳列の際に、衛生面やレタスの保護などを目的にラッピングしたものを求められるので、コストと労力はかかるが冬場から続くこの時期はラッピングが定着している。業務・カット用はノーラップである
・ 畑の条件や時期によって発生する病気や害虫が異なるため生産者、圃場ごとに栽培の状況を記録している
・ 農薬を使わなければならない場合があるので、有機栽培とはならないが減農薬減化学肥料栽培を行うグループを育成し対応している。しかし、コストや手間がかかるので生産量は増えない状況である
・ 産地では農家の労力を考えながら安定した品質を維持するために出荷期間を長くしており、春は早い時期に出荷するほど資材コストがかかってしまう
等の回答がありました。
JA岩井市の説明を熱心に聞く消費者団体代表
4 まとめ