(1)中国の主産地と生産概況
中国は、世界最大のえだまめ生産および消費国であり、栽培面積でも世界首位にある。近年は健康志向の高まりやたんぱく質食品の需要拡大を背景に、えだまめの需要が国内外で増加しており、産地の動向にも注目が集まっている。こうした需要拡大を追い風に、2024年の中国のえだまめ生産量は650万トン(前年比2.4%増)と増加傾向で推移している(図6)。
中国のえだまめ栽培の歴史は古く、全国各地で広く生産されているが、主産地としては黒竜江省、江蘇省、
安徽省、
浙江省などが知られている(図7)。
これらのうち国内作付面積の3割を占める黒竜江省では、24年の作付面積は12万3000ヘクタール(前年比2.5%増)、収穫量は211万トン(同2.9%増)と、いずれもわずかに前年を上回った(表2)。
同省では
肥沃な黒土と冷涼な気候を背景に、中国最大のえだまめ生産基地となっている。24年は、良好な気候条件や、「広畝二条密植技術」
(注3)の普及により収量や品質、作業効率が向上し、収穫量の増加につながった。
国内作付面積の2割弱を占めている江蘇省では、24年の作付面積は6万3000ヘクタール(前年比3.3%増)、収穫量は108万トン(同0.9%増)と、いずれも前年を上回った。同省では、大規模かつ標準化されたえだまめ産地が形成されているほか、行政機関による農薬の精密散布や生物防除などの減農薬技術の普及が進められており、生産性向上と安定生産に寄与している。
また両省のえだまめの単収を見ると、いずれも10アール当たり1.7トン程度と、日本の同0.5トン
(注4)の3倍以上となっている。
えだまめ生産の経営形態は、個人農家、合作社
(注5)、企業であり、これらの形態が協力し合って生産を行っている。黒竜江省では、個人農家による生産が中心で、平均栽培面積は5~10ムー(約0.34~0.67ヘクタール、1ムー=0.067ヘクタール)である。一方、江蘇省では、個人農家が生産を行い、合作社が統一的な種子供給、栽培技術支援、収穫品の集荷・販売を行っている。
(注3)広い畝に2列の植え溝を設けてえだまめを密植し、作業道を確保しながら栽培密度を高められることが特徴の栽培方法である。単収増加が期待できるほか、冷涼で昼夜の温度差が大きい産地では、適度な株間競争による品質向上効果も期待されている。
(注4)農林水産省「令和6年産野菜生産出荷統計」より。
(注5)地域の指導者などを中心に地元の同業農家が共同で法人を設立するもので、法人に関する制度としては日本の農業協同組合に近い。
(2)主産地の栽培品種および栽培暦
中国では、主に露地栽培とハウス栽培でえだまめが生産されている(写真1)。このうち露地栽培は、栽培面積の約75%を占め、その多くは黒竜江省、安徽省で行われている。一方、江蘇省や浙江省など経済発展の進んだ地域では、早期収穫可能なハウス栽培が中心となっている。
また、えだまめは温度や日照条件の影響を受けやすいため、各地域の気候特性や市場需要に応じて栽培時期が異なる(表3)。黒竜江省では春夏作が中心であるのに対し、江蘇省では春作、夏作、秋作と周年に近い形で栽培が行われている。
栽培品種は国産品種が中心で、「
黒農」や「
蘇豆」は輸出向け品種として利用されている(表4)。一方、一部の高級加工用品種では依然として輸入種子への依存が続いているため、同国では国産品種の育成が進められており、その結果、国家大豆産業技術体系の生食用大豆育種の専門家によると、品質や耐病性において日本系品種と同等水準の新品種が育成されるなど、一定の成果を上げているとしている。
(3)栽培コスト
黒竜江省の10アール当たりのえだまめ栽培コスト構成比を見ると、2022年および25年ともに人件費が約30%と最も高く、次いで肥料費が約17%、借地料が約13%を占めた(表5)。また、22年と25年の栽培コスト変動比を見ると、農業機械・器具費を除くほぼ全ての項目で15%前後上昇している。一方、江蘇省では、人件費が約26%と最大の割合を占め、次いで借地料が約19%、肥料費が約10%となった(表6)。22年と25年の栽培コスト変動比を見ると、特に種苗費と農薬費の上昇が目立ち、いずれも約2割増加している。
両省に共通して上昇が見られた人件費は、国が定める最低賃金が上昇する中、農村部からより賃金の高い都市部への人材流出で労働需給が逼迫し、減少した人材を補塡・維持するための賃金改定が必要となったためとみられる。特に、えだまめは他の野菜と比較して収穫適期が短く、生食用のさやが傷みやすいため、穀物用コンバインを利用できず、ひとさやずつ手作業で収穫していることから、労働力確保が深刻な問題となっている。一方、肥料費の増加は、肥料原料価格の上昇に加え、高付加価値生産に向けた有機肥料の導入拡大が影響しているとみられる。さらに種苗費については、病害抵抗性や品質向上を目的とした品種開発費が種子価格に反映されているためとみられる。
近年、同国のえだまめ生産では連作障害への対応が課題となっている。主産地では、2年の連作が一般的であるが、土壌中の有害微生物の蓄積や、養分バランスの悪化が生産性低下の要因となっている。現地関係者によると、黒竜江省では、5年以上連作していた
圃場もあり、根腐病の発生率上昇や収量低下が確認されている。安徽省でも、3年以上の連作圃場で土壌の酸性化や有効ホウ素含量の低下が報告されている。こうした状況を受け、省政府は輪作体系の導入を推進している。黒竜江省では、「えだまめ-とうもろこし-小麦」の3年輪作モデルの普及が進められ、根腐病発生の抑制や土地利用効率の向上に成果を上げている。一方、安徽省では、枯草菌やトリコデルマ菌剤の施用による土壌微生物環境の改善に加え、有機肥料の投入やわら還元によって土壌有機物含量を高める取り組みが進められている。
また、黒竜江省や江蘇省ではえだまめを活用したアグリツーリズム(観光農業)も展開されており、農産物販売以外の収益機会の創出にも取り組んでいる。
(4)加工コスト(人件費、梱包資材費など)
黒竜江省および江蘇省の1トン当たりのえだまめ加工コストについて、2022年と25年を比較すると、すべての項目で増加した(表7、表8)。両省とも加工コストでは人件費の割合が最も高く、22年および25年とも全体の約45%を占めている。これは、栽培コストでの人件費増加と同様に、人材を補塡・維持するために賃金の改定などを行ったことが上昇の要因となっている。また、構成比の約30%を占める梱包資材費は、環境保護政策の影響によりプラスチック包装材料の価格上昇や、生分解資材の導入拡大が増加要因とみられる。さらに、構成比の約10%を占める水道光熱費についても、冷蔵物流や急速冷凍設備での電力使用量の増加に加え、工業用電力料金の上昇や環境配慮型冷房への切り替えがコスト上昇につながっている。
今後の見通しとしては、加工工程の自動化・省人化や環境対応技術の導入が一段と進むとみられる。
(5)有機栽培や認証制度の状況
中国のえだまめ産業では、環境負荷の低減や食品安全に対する関心の高まりを受けて、グリーン化、有機化への取り組みが進んでいる。24年末時点のグリーン認証取得面積は85万ムー(約5万7000ヘクタール)、有機認証取得面積は12万ムー(約8000ヘクタール)となり、いずれも22年から大幅に増加している。特に、浙江省はグリーン認証および有機認証面積が全国最大規模であり、江蘇省でも
塩城市や
南通市を中心に認証基地の整備が進められている。
各地の政府は認証取得費用への補助や地域ブランド化を進めており、認証品は一般品と比べ20~30%程度高い価格で販売されている。グリーン認証品は主に量販店やEC(電子商取引)向け、有機認証品は輸出用や国内高級市場向けに流通している。また、輸出産地ではGAP(適正農業規範)認証の普及も進んでおり、24年の認証面積は28万ムー(約1万9000ヘクタール)に達した。日本や韓国向け輸出基地を中心に導入が進められており、中国産えだまめの品質向上と輸出競争力の強化につながっている。