(1)中国の主産地と生産概況
中国は世界最大のブロッコリー生産国であり、産地は沿海部や北西部、南西部に分布しており、2024年の作付面積は約11万ヘクタールとされる。主産地は沿海部の江蘇省、浙江省、南西部の
雲南省、北西部の
甘粛省などがあり(図4)、これら4省で中国国内作付面積および同生産量の5割を占めている(表1)。江蘇省および浙江省内の主産地を見ると、江蘇省は
塩城市および
南通市、浙江省は
寧波市および
台州市と、両省とも沿海部に形成されている。
江蘇省の生産状況を見ると、中国国内の内需拡大や、海外からの需要増加や価格上昇を背景に、生産意欲が高まったことから、作付面積は増加傾向にあり、24年の作付面積は全国の15.7%を占める1万7300ヘクタール(前年比3.6%増)となった(表2)。これは同年の日本全体のブロッコリー作付面積と同じ規模で、10アール当たり収量は、夏季の高温の影響があったものの1.91トンと前年よりわずかに増加した。
なかでも亜熱帯湿潤気候の塩城市は、冬季でも比較的温暖で冬作型でも生育が安定していることから、江蘇省で最もブロッコリー栽培が盛んな地域である。特に、同市北部の県
(注2)である
響水県は市内最大のブロッコリー産地であり、同県の24年の作付面積は6700ヘクタール(北海道の約2倍)、収穫量は12万5000トン(同約4倍)で、同省全体の約4割を占めている。また、響水県の南に隣接する
浜海県も同市内ではブロッコリー栽培が盛んであり、24年の作付面積は2000ヘクタールを超えている。
響水県および浜海県の両県政府は22年、ブロッコリー生産振興のため、定植苗に補助金を措置した。これにより生産者の作付け意欲が高まり、両県ではブロッコリー作付面積および生産量が増加した。
浙江省の生産状況を見ると、24年の作付面積は全国の13.9%を占める1万5300ヘクタール(前年同)、10アール当たり収量は、冬季の低温・乾燥によるべと病の発生などがあったものの、前年同の1.83トンで、近年は江蘇省同様、作付面積は増加傾向にある(表3)。
台州市の県級市である臨海市は、1989年に中国で最初にブロッコリー栽培が始まった産地であり、2003年には国から「中国ブロッコリーの郷」の称号が与えられている。臨海市の24年の作付面積は4700ヘクタール、生産量は9万トンと、中国国内で最大規模の秋作型および冬作型産地を形成している。また、台州市の北に隣接する
寧波市もブロッコリー栽培が盛んである。
(注2)中国は省・自治区の下に三区分の行政区域(一級:省級行政区画、二級:県級行政区画、三級:郷級行政区画)があり、省級行政区画である地級市が管轄する県級行政区画には、市轄区、県級市、県、自治県、旗、自治旗、特区および林区がある。
(2)主産地の栽培暦、栽培品種および栽培コスト
ア 栽培暦
中国のブロッコリー栽培は露地栽培と施設(ハウス)栽培があり、このうち露地栽培の面積は全体の約85%以上を占める。また、露地栽培および施設栽培とも、すべての季節で定植しており、2~4月以外はリレー出荷体制を構築している(表4)。産地ごとの作型の分布を見ると、春および夏作型は河北省、甘粛省、雲南省など、秋および冬作型は江蘇省、浙江省、湖北省、山東省などが多い。
イ 栽培品種
中国のブロッコリー品種は、日本や欧米の種苗企業のものが多いものの、主産地の江蘇省や浙江省では、外国産品種から公立研究機関の育成品種へ置き換えが進んでおり、これら産地の主力品種となっている(表5)。
特に、浙江省農業科学院・野菜研究所はブロッコリー育種を意欲的に進めており、早生種である「美青」、中生種の「浙青」は地元浙江省だけでなく、江蘇省の代表的品種に位置付けられている。
耐暑性品種は、国産品種に置き換えが進んでいるものの、耐寒性品種については、依然として「耐寒優秀((株)サカタのタネ)」などの日本の品種が主力となっている。
ウ 栽培コスト
2025年の江蘇省の10アール当たり栽培コストを見ると、最も比率が高いのは人件費、次いで土地代、肥料費、種苗費となっている(表6)。22年と比較して25年のコストは15%上昇しており、コスト比率に大きな変化はないものの、同上昇率は種苗費が21%、人件費が20%、肥料費が13%など、コスト比率の高いものは同上昇率も高くなった。これらのコストが上昇した要因として、1)国産品種の種苗費は、外国産品種から置き換えた際の開発・普及コストが苗価格に上乗せされているため、外国産品種より高値、2)人件費は若年層の農外流出による労働力不足、3)肥料費はエネルギー価格の上昇や世界情勢の変化のほか、有機栽培に対応するための高価な有機肥料の使用、4)土地代は農地流動化を促進してきたことで、借地料を含む土地取引価格が上昇していること-などが挙げられる。
浙江省も江蘇省と同様の傾向となっているが、江蘇省よりも土地代や人件費が高く、栽培コストはやや高くなっている(表7)。
(3)機械化や栽培技術の進展状況
ア 管理作業までの機械化
ブロッコリーは、収穫作業以外の工程を比較的機械化しやすい品目であり、主産地の江蘇省および浙江省では管理作業までの機械化が進んでいる。主なものは日本と同様で、1)セルトレイ育苗対応の自動
播種機、2)自動または半自動定植機、3)中耕培土などのための管理機、4)防除ドローン、5)かん水用スプリンクラー(追肥用の液肥施用対応)―などが挙げられる。
花蕾保護のため日本同様、収穫は手作業だが(写真)、近年はブロッコリー収穫機の開発などさらなる機械化が進められている。
イ 栽培技術の標準化と環境負荷低減栽培
前述の通り、機械化栽培を軸にした定植などの栽培技術の標準化が図られており、定植は作型や地域特性などに考慮しつつ、定植深、株間、畝間などが標準化されることで、栽培技術練度に左右されず、初期生育が安定する。
また、耕種的防除や土壌診断による適正施肥などにも取り組んでおり、施肥・防除コストの削減や環境負荷低減のほか、病害虫の薬剤抵抗性リスクや過剰施肥による軟弱生育の防止など、健全な生育につなげている。
さらに、大規模
圃場などを中心にIoT
(注3)などのスマート農業技術が導入され、土壌水分計(pFメーター)やセンサーなどで土壌中の水分量、養分などを常時モニタリングし、それらのデータを標準的生育モデルと組み合わせることで、適切な栽培管理を行うとしている。
(注3)Internet of Thingsの略。「モノのインターネット」という意味で、機械などさまざまな「モノ」をインターネットに接続する技術。
ウ 有機栽培認証と普及状況
近年、中国でもさまざまな農畜産物で有機栽培認証(以下「有機認証」という)取得の動きが広がっており、ブロッコリーでも主産地を中心に有機認証取得産地が増加している。その事例として臨海市では、同市作付面積全体の約3割に当たる1300ヘクタールで有機認証を取得しており、さらに同7割に当たる3300ヘクタールで緑色食品認証
(注4)(以下「緑色認証」という)を取得している。また、響水県では、同県作付面積の約15%に当たる1000ヘクタールで有機認証を取得し、さらに同30%に当たる2000ヘクタールが緑色認証を取得している。主産地以外でも有機認証の取得推進が積極的に進められており、河北省、雲南省、湖北省などの一部地域でも有機認証または緑色認証を取得した生産者などがいる。
政府は、有機認証取得支援として取得費用補助金を措置しており、生産者の申請コストを軽減している。浙江省では、有機認証取得圃場に対し、1ムー(約6.7アール)当たり200~300元(4834~7251円)の補助金を交付している。
有機認証取得支援のほか、取得後も有機栽培を継続させるため、政府は有機栽培技術サービスチームを組織し、生産者に対して有機栽培技術研修や病害虫防除指導などを実施している。また、有機ブロッコリーの有利販売、市場開拓として農産物展示即売会の開催やEコマース(電子商取引)プラットフォームによるプロモーションなどを実施している。
(注4)政府系の中国緑色食品発展センターが認証。持続可能な生産原則に基づき、同センターが指定する特定の生産方式で生産され、汚染されていない安全、優良な品質の食品が対象。
(4)ブロッコリー栽培における課題
ア 上昇する人件費
これまで中国の野菜生産現場では、内陸部からの出稼ぎ労働者が低賃金で作業を行ってきたが、近年は出稼ぎ労働者が他産業に就業してしまうことなどから、農業企業などで労働力確保が問題となっている。仮に労働力が確保できた場合でも、年々上昇する他産業と同水準の賃金を支給すると、人件費の増大に伴う生産コスト上昇による収益性低下が懸念される。
イ 生産性を低下させる気候変動リスクと連作障害
近年、地球温暖化などにより顕著な高温や豪雨、干ばつなどが発生しており、露地栽培のブロッコリーにとって、気候変動リスク対応が喫緊の課題となっている。このため、地方政府の農業農村局では生産者などに対し、高度な農業気象情報である「精密農業気象サービス」による災害警報システムを構築し、かん水・排水対策の徹底や収穫期の前倒しなど、同リスク低減技術の実現を促している。
また、設備投資余力のある農業企業などに対しては、同リスク低減のために露地栽培から環境制御がしやすい施設栽培への転換を促している。これにより、厳寒期の保温対策も露地栽培より容易になることから、同リスク対策だけでなく、収穫期の長期化に資するとしている。
ブロッコリーは、連作障害のリスクがある作物であり、連作が常態化している農業企業などの大規模圃場では、連作障害が多発している。また、収量増加のために化成肥料の大量施用を行ってきた圃場では、前作の窒素分残留などによる定植後の軟弱徒長と病害発生リスクの増加が問題となっている。このため、定植前土壌診断による施肥設計適正化、健全な根張りのための有機質など土壌改良材施用が行われている。さらに、アブラナ科以外の品目との輪作体系構築による土壌病害リスク低減策も進められている。
長期的に健全な土壌環境を維持するとともに、消費者の安全・安心な農産物需要に対応するため、有機栽培などの環境負荷低減栽培を導入する動きも見られる。同技術の導入に当たっては、耐病性品種の導入や耕種的防除とともに前述の災害警報システムの活用により、IPM
(注5)を実践することが必要である。
(注5)Integrated Pest Management(総合的病害虫管理)。病害虫の発生および増加の抑制と、病害虫発生初期における防除を適時で経済的なものにするために必要な措置を総合的に講じて行うもの。