(1)原料えだまめ契約制度の創設
台湾のえだまめ生産は、冷凍加工品の日本向け輸出により規模を拡大してきた。良質で定量的な冷凍えだまめ原料の生産と実需者による調達を促すため、1982年に経済部が「輸出用冷凍えだまめ原料の受託生産および販売に関する実施弁法」を施行し、翌83年には、農業部が同弁法に関連した「輸出用冷凍えだまめの面積および数量の審査要件」の策定に参画した。
その後、93年にえだまめの契約関連規定が経済部から農業部に移管され、農業部が同弁法を基に「冷凍えだまめ原料の製造、販売契約履行の要点」(以下「履行の要点」という)を策定し、現在に至っている(表2)。
履行の要点では、冷凍公会が、主に生産、出荷、輸出の各段階における加盟企業と農業部との間の連絡調整などを担うとされるなど、重要な役割を果たしている。また、原料えだまめの生産、冷凍えだまめの輸出などに農業部の関与が明記されていることなどからも、行政主導で高い国際競争力を維持した冷凍えだまめ輸出に取り組んでいることがうかがえる。
(2)冷凍加工向け原料えだまめ生産の事例
冷凍加工向け原料えだまめの生産状況を調査するため、屏東県にある冷凍加工企業である
宏偉冷凍食品股分有限公司(以下「宏偉冷食」という)を訪問した(写真2)。同社は2002年に設立され、えだまめ、ほうれんそうのほか、マンゴーなど果物の冷凍食品を年間平均5000~6000トン製造し、販売している。冷凍えだまめの輸出先は日本向けが7割を占め、その他に米国、豪州、東南アジアなどにも輸出している。
同社が取り扱う品目の栽培工程は図10の通りであり、特に手作業の多いほうれんそうの収穫期などには、増員して業務に当たる。
2025年春作のえだまめ作付状況は図11の通りである。同社は、日本などの輸出先顧客の販売計画数量に基づき作付面積を決めており、栽培管理者である契約生産者との間で、原料えだまめの生産品種、作付面積、出荷量などについて協議し、書面で契約を締結する。春作型の栽培状況などにより、年間で販売計画数量を満たせない見込みとなった場合などには、秋作型で作付面積を増やして契約するなどして、数量確保に努めている。えだまめ生産に必要な種子は、必要に応じて農業改良場から同社を通じて契約生産者に提供する。主要品種である「高雄9号」については、自社で採種して契約生産者に提供している。
同社では、冷凍えだまめの製造だけではなく、圃場を含めたえだまめ生産全体を管理している。特に、残留農薬が検出された場合は出荷ができなくなるため、輸出先顧客から得た最新の農薬使用基準に基づき、契約生産者への登録農薬の供給と防除指導など、厳格な管理を行っている。また、栽培期間中は、同社のフィールドマン(営農指導担当者)が圃場を巡回指導するとともに、収穫前の残留農薬検査を実施し、同検査に合格した圃場にのみ出荷の許可を与えている(写真3)。
えだまめの生産は、施肥から収穫までの機械化一貫体系を構築している。収穫にはフランス製のハーベスタを使用しており、収穫適期に24時間体制で一気に収穫する(写真4)。12~13トンを積載できるトラック1台にえだまめを満載するための収穫時間は2時間程度である。
ハーベスタでは、えだまめのさや部分だけを選別してハーベスタ後部の荷台に回収し、茎や葉は圃場廃棄され、後日、すき込まれる(写真5)。
えだまめは鮮度劣化が早いことから、南部では、収穫から工場での冷凍加工まで4時間以内に完了することを目安に作業に当たる。一方、中部では、圃場から工場まで距離があることからその移動で南部より3~4時間も多く要するという。なお、収穫期には工場も24時間稼働している。
工場に搬入した原料えだまめは、機械による洗浄と人手による異物(茎、葉など)や規格外品(傷物、さやの割れ、変色、種子の欠損など)の除去作業を数回繰り返し、選別する(写真6)。
原料えだまめの洗浄、選別後、速やかに98度プラスマイナス2度の塩水で2分30秒ゆで上げ、さやが開かないように水温40度、35度、25度、15度の冷却水で段階的に冷却する。その後、再度人手による不良品の除去などを行った上で冷凍し、半製品として大型の保管容器に入れ、冷凍保管する(写真7)。これらの工程で発生した異物や不良品は、牛の飼料などに利用されている。
同社では、製品検査として、半製品と最終製品に対して残留農薬検査と微生物検査を行っている。半製品は外部の検査機関に検査を依頼し、検査に合格すれば輸出先顧客の販売計画数量に沿って包装を行うことができる。大型の保管容器に入った半製品をベルトコンベアに流し、色彩選別機を通して色や形などから規格外品を精密に除去した上で包装し、異物や金属片の混入検査を行った上で梱包後、冷凍保管する(写真8)。最終製品の自主検査合格後、出荷される。色彩選別機で除去された規格外品は冷凍保管し、繁忙期ではない3月や7~8月頃にむきまめ原料として利用される。
同社では、トレースバックシステム(TBS)を導入し、えだまめ原料~冷凍半製品~製品まで同一のTBSコードによるトレーサビリティを確立している。TBSコードは、「生産日+月+入車番号+商品番号+圃場番号」で構成され、製品に使用したえだまめ原料の生産圃場まで追跡できる。また、工場で保管している種子・農薬・肥料の使用状況に関する管理表、生産管理、品質管理記録などもTBSコードで管理され、栽培管理から加工まで追跡できる。