(1)フランスの基本指標
フランスの人口は日本の約半分ながら、国土は日本の1.5倍、農用地は6倍以上を有する農業大国である(表1)。
国土は北緯42~52度付近にあり、これは日本の青森県から樺太の北部までに相当する。パリは稚内市より北に位置するが、北大西洋海流の影響により、温暖な気候となっている。
(2)フランスの農家概況
農業センサスによれば、2020年の農業経営体(以下「農家」という)は39万戸となり、農家1戸当たりの農地面積は69ヘクタールであった。農家の内訳は、耕種農家が51.7%、畜産農家が37.4%、複合農家が10.4%であった。
同年の日本の農家は108万戸、農家1戸当たりの農地面積は3.1ヘクタールである。すなわち、フランスの農家戸数は日本の3分の1程度と少数である一方、1戸当たりの面積は22倍と大きい。また、日本の畜産農家は農家全戸数の5%であるが、フランスでは4割弱を占めることも特徴である。
今回の調査対象である野菜3品目(きゅうり、にんじん、ほうれんそう。以下「調査対象野菜」という)の品目別農家戸数は公表されていないが、聞き取りによると、きゅうりは1万戸未満、にんじんは2万4000戸程度、ほうれんそうは1万戸程度とされる。
EU統計局によると、20年のフランスの農家の約58%が家族経営
(注1)であり、残りの42%は企業などの非家族経営となっており、他のEU加盟国に比べて家族経営の割合は低い。他国の家族経営の割合はドイツでは83%、ベルギーでは82%、日本では96%を占めている。
注1:農業労働力の5割以上が家族労働である経営のこと。
(3)調査対象野菜の生産概況
ア きゅうり
フランスでは、作付面積の約7割がハウス栽培となり、ハウス栽培では南部のオクシタニー地域が最大の産地である(表2、図1)。また、生産量の3分の1以上がロワール渓谷沿いのペイ・ド・ラ・ロワール地域やサントル・ヴァル・ド・ロワール地域で生産されている。主な収穫期は4~9月である。
イ にんじん
生鮮向けは、南西部のヌーヴェル・アキテーヌ地域、加工向けはベルギーやドイツと隣接した北部のオー・ド・フランス地域やグラン・テスト地域が主要産地である(図1)。
日本と比べて作付面積は若干少ないものの、単収が高く、生産量は日本より多い(表3)。
フランスで生産されるにんじんの種類は表4の通りであり、砂地栽培のような特色のあるにんじんに加え、秋から春にかけて出荷される貯蔵用のにんじんは、冷蔵庫でなく
圃場で貯蔵されている。
ウ ほうれんそう(表5)
ほうれんそうの生産量の4分の3は加工向け(主に冷凍)であり、主要産地は北部のブルターニュ地域やオー・ド・フランス地域などであり、北部の収穫時期は、5~10月頃である(図1)。生鮮向けは、南東部のプロヴァンス・アルプ・コートダジュール地域での生産が多く、11月後半から4月にかけて順次収穫される。
収穫は、株周りの葉を収穫したのち、中心部の若い葉を残して後日再収穫する。単収は日本よりやや高い。
(4)季節労働者の雇用の有無、出身国、ビザの種類
フランスの農家は、多くの季節労働者を国外からの労働力に頼っている。季節労働者の出身国は、東欧諸国(ポーランドやルーマニアなど)や北アフリカ(モロッコやアルジェリアなど)が多い。ポーランドとルーマニアはEU加盟国であるが、EU域外からの労働者は、一般的な短期労働者ビザで農業に従事する者もいるが、季節労働者向けの特別なビザ(季節労働ビザ)も用意されている。フランス外国人局(DGEF)によると、フランスは、EU域外の外国人に対して季節労働ビザを合計2万2000件発行しており、その75%がモロッコ人である。
ただし、季節労働ビザの発行には、農業またはその他の分野で3カ月以上の季節労働契約を結んでいる必要があり、連続する12カ月の期間内に6カ月を超えての労働は認められず、また、本来の居住地はフランス国外である必要がある。
(5)機械化の進展
大規模農家は、にんじんの収穫時に、圃場でパッキングまで行う大型機械を使用している。
きゅうりやほうれんそうでは、家族経営の小規模農家も多く、トラクター、播種機、マルチ張り機および防除・施肥機の使用に留まっている。
2022年6月8日のフランス農業省の記事によれば、機械化の試みとして、園芸作物の中耕と除草の機械化が行われている(写真1、写真2)。
(6)持続可能性および環境への配慮
フランスの温室効果ガス(GHG)排出源の約19%を農業部門が占めており、特に反すう動物からのメタン排出と、作物生産に使用される肥料から発生する一酸化二窒素が大きな原因となっている。これらの排出削減を目的として、2012年からアグロエコロジー・プロジェクトが開始されている。同プロジェクトは、(1)炭素隔離(2)生物多様性保護(3)GHG排出削減-を主な目的とし、20年までにフランスの農家の約4割が参加している。
具体的な取り組み内容は、マメ科植物などの窒素固定能を持つ作物との輪作や混作、クローバーやライムギなどのカバークロップ(緑肥)および害虫対策としてのフェロモントラップの導入などである。
政府は、農家に対する研修プログラム、研究資金援助、生物多様性を高めるための生垣や樹木を保全して行う基盤整備、有機農業への資金援助といった支援を実施している。