(1)投下コスト
2012年から21年の野菜の1ムー(6.67アール)当たり投下コスト(資材費、人件費、地代)を見ると、21年は12年比2.4%減とわずかに減少した(図9)。この10年間の推移を見ると、12年から18年は投下コストが増加傾向にあり、18年には同6.0%増と10年間で最も高いコストになった。19年には同14.1%減と10年間で最も低いコストに転じたものの、その後は再び増加傾向となった。
費用ごとに見ると、資材費が減少傾向となったことに対し、人件費は増加傾向となった。資材費の減少要因は、生産規模拡大の効果による化学肥料、農薬などのコストの低減とともに、環境保全型農業の進展による化学肥料、農薬などの投入量の減少が挙げられる。人件費の増加要因は、農外就労による農業労働力の減少を防ぐため、雇用賃金の水準が上昇していることが挙げられる。人件費は、露地野菜に比べて日々の管理作業や収穫作業で継続的な人手が必要となる施設野菜が高く、品目別では、機械収穫が可能で加工用が主体のトマトに比べ、連続着果で収穫頻度が高く手収穫のきゅうりが高くなっている。
(2)収益
2012年から21年の野菜生産の収益の推移を見ると、「S字型」(減少-増加—減少)に変動している。
まず、野菜生産の純利益の変化であるが、図9を見ると15年は12年比31.7%減となり、16年以降は増加傾向に転じ、20年には同2.5%増と過去10年間で最も高くなった。その後、21年は同13.5%減と再び減少に転じた。
野菜の収益率も、純利益と同様の形で推移している(図10)。15年は12年比25.4%減となり、その後は上昇に転じて20年には同8.7%増と過去10年で最も高くなり、21年には同9.0%減と再び低下した。
21年に純利益が減少し、収益率が低下した要因としては、化学肥料、農薬などの資材費が、COVID-19の流行によるサプライチェーンの混乱の影響で上昇し、雇用賃金が経済発展に合わせて上昇したことに対し、野菜の物流や販売が停滞したために販売価格が下がったことが挙げられる。
施設栽培は、露地栽培では難しい低温期の生育などを目的として、温室やビニールハウス内で行うため、露地栽培に比べて有利な販売が可能となるものの、資材費や燃料費などの投下コストが多くなる。このため、販売価格次第では施設栽培の方が露地栽培よりも収益率が低くなる。
(3)栽培技術の進歩による生産性向上
中国では2012年から21年の間、野菜生産のための土地や労働の生産性、化学肥料や農薬の使用効率は、栽培技術水準の向上に伴い上がっている(図11)。
土地生産性(単収)は、21年は12年比9.7%上昇した。労働生産性も、同25.0%上昇した。また、施設栽培で使用される農業用ビニールの使用効率についても、労働生産性の向上により同18.0%上昇した。
環境保全型農業が進展する中、これまで行ってきた化学肥料などの大量投入に頼る栽培方法には制約が出てきたことから、限られた投下資材をより効果的に活用して生産性を向上することが求められており、それらの使用効率は徐々に向上し、化学肥料使用効率は同14.9%上昇した。
栽培技術の向上は、生産性や資材の使用効率が向上することはもちろん、投下労働力を抑えられるため、野菜生産で課題となっている生産者の高齢化や労働力不足の打開策にもつながる。
中国の野菜生産のうち、施設栽培における土地生産性(単収)は15年から17年に低下したものの、その後は再び上昇したことで、21年は12年比1.1%減と大きな変化がなかった(図12)。一方、露地栽培は、同26.4%増と大幅に上昇した。これは農業用ビニールの使用効率の上昇によるところが大きい。施設栽培での農業用ビニール使用は既存のハウス展張であることに対し、露地栽培では地温確保のためのマルチ被覆などが生産性を高めるために使用されてきた。これによりマルチ被覆なしと比べて長期取りが可能となり、土地生産性(単収)が上昇した。

品目別に見ると、トマトの生産性および資材などの使用効率はきゅうりに比べて高い(図13)。中国は世界有数のトマト生産国であり、その多くがジュース向けなどの加工用トマト(赤トマト)である。栽培管理や機械収穫などの栽培技術水準が向上してきたことから、21年のトマトの土地生産性は12年比13.4%増と上昇した。これに対して、栽培管理技術は向上したものの、機械収穫ができず手収穫のきゅうりは、同6.2%増とその上昇率はトマトを下回った。