(1)中国の主産地と生産概況
中国では、さといもの産地は全土に広がっており、主な産地は
山東省、
広東省、
広西省、
湖南省、
福建省、
浙江省、
江蘇省などとなっている(図7)。
山東省の生産状況を見ると、2022年の作付面積は1万1800ヘクタール(前年比7.8%減)で(表2)中国全土での作付面積の1割を占めている。
山東省のさといも生産は
膠東半島に集中しており、
莱陽市(
煙台市)、
即墨区(
青島市)が同省の作付面積の8~9割を占める代表的な産地となっている。特に煙台市は最も古い産地とされ、山東省最大のさといも産地である(写真1、2)。
山東省のさといも生産の経営形態は、家族経営などの小規模経営と企業などによる大規模経営の二つに区分される。大規模経営では一部で植え付けは機械化されているが、さといもに傷が付き損失が大きいことから導入は進んでいない。また、収穫作業は小規模経営および大規模経営ともに機械化が進んでおらず、手作業で行っている状況にある。収穫の機械化が進まない要因として、同省のさといも栽培に統一基準がないことや、作付けする
圃場も生産者によって規模が異なることが挙げられる。現地関係機関からの聞き取りによると、小規模生産者の平均作付面積は2~5ムー(13~33アール。1ムー=6.67アール)程度とされる。同省の作付面積を見ると、20年以降は、輸出量の減少により日本向け輸出を行ってきた大規模生産企業を中心に減少傾向にある。
中国のさといも品種の特徴として、日本の品種に比べて大きく、単収は10アール当たり約3トンと、日本の同1.37トン
(注2)の2倍以上となっている。
(注2)農林水産省「令和4年産野菜生産出荷統計」より。
(2)主産地の栽培品種および栽培暦
山東省で栽培される主な品種は、「8520」「白廟(バイ・ミョウ)」「科王(カ・ワン)1号」などが挙げられる(表3)。また、日本向け専用品種として「石川早生」や「えび芋」なども作付けされている。
同省の作型は露地栽培のみであり、品種を組み合わせることで栽培期間に幅を持たせている(表4)。省内の各産地とも、種いもの植え付け期が地温の低い3月から4月のため、マルチングによる地温維持を行っている。なお、主産地の青島市は、煙台市に比べて春期の気温上昇が早いため、栽培ステージが1カ月程度早い。
(3)栽培コスト
さといも栽培のコストについて、主産地である山東省莱陽市の事例を基に、経営規模ごとに紹介する。
〈1〉大規模経営
2019年および22年ともに借地料が3割以上を占め、これに人件費を加えると、これら経費が全体の7割を占める(表5)。また、19年と22年を比較すると農業機械・器具費、諸材料費、その他の項目以外は上昇した。さらに、総コストの中で大きな割合を占める借地料は19年比で25%上昇し、肥料費、農薬費も原料費高騰により、それぞれ同20%上昇している。
山東省の主産地の一つである莱陽市は、冷凍野菜の加工輸出企業が集中している地域のため、圃場の引き合いが強く、借地料は同省の他の地域に比べて高くなっている。莱陽市の優良圃場の賃貸料は、23年が1ヘクタール当たり5~6万元(103万5000円~124万2000円)に達するとされ、年間に1ヘクタール当たり3000~4000元(6万2100円~8万2800円)のベースで上昇している。
〈2〉小規模経営
栽培コストに占める割合が最も大きい項目は、19年および22年ともに種苗費であり、次いで肥料費となった(表6)。19年比で見ると種苗費や肥料費、農薬費がそれぞれ上昇しており、大規模経営と同様の傾向がみられる(大規模経営において栽培コスト全体に占める割合が上位となる借地料や人件費は、小規模経営の場合は生産者が保有する圃場で家族や親戚が労働力となっているため、それらは費用として計上されていない)。また、農業機械・器具費は、
鋤、シャベル、熊手などの手作業工具を用いて行うことが多いため、大規模経営に比べて少額となっている(写真3、4)。
前述の通り、さといもの植え付けと収穫は主に手作業で行われているが、山東省の農村部の若手労働力の多くは出稼ぎのため都市部に流出しており、植え付けや収穫の時期には労働者を確保できないことが多々みられる。省政府などは機械化の導入を推進しているが、普及の速度は遅く、労働力不足は山東省の野菜生産全体の問題となっている。
(4)調製コスト(人件費、梱包資材費など)
山東省のさといも1トン当たりの調製コストについて、2019年と22年を比較すると上昇したのは、人件費、管理費および輸送費の3項目である(表7)。最も構成比の高い人件費は、19年および22年とも全体の約6割を占め、19年の2909元(6万216円)から22年には3636元(7万5265円)と、727元(1万5049円)上昇した(19年比25.0%増)。これは、19年の賃金が1日1人当たり平均160元(3312円)程度であったのに対し、22年には同200元(4140円)に上昇したことが要因となっている。通常、100人の労働者が1日作業して調製できる冷凍さといもは、40フィート冷凍コンテナ1個分(22トン)である。1トン当たりの管理費は、19年の1日当たり平均4000元(8万2800円)程度であったのに対し、22年には同5000元(10万3500円)に上昇している。また、同じく輸送費も19年の38元(787円)から22年は45元(932円)に上昇した。これは主に燃料高騰の影響である。聞き取りによると、野菜の輸送単価は19年の1トン1キロメートル当たり0.5元(10円)だったが、22年は同0.6元(12円)と、この期間で2割上昇したとのことである。