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海外情報 野菜情報 2024年8月号

中国産野菜の生産と消費および輸出の動向(キャベツ)

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調査情報部

【要約】

 日本の生鮮キャベツの国内供給量は、99%以上を国内産が占めており、残り1%弱の輸入品のうち9割以上を中国産が占めている。これらは主に、日本の供給量が減少する時期に輸入されるが、加工用途などでは一定の需要が存在する。
中国のキャベツ生産は比較的安定しているものの、借地料や人件費などの上昇を背景に栽培コストは上昇傾向で推移しており、今後、同国の卸売価格の上昇も見込まれている。
 日本での端墳期などの供給不足の輸入量のほとんどを占める中国産キャベツの需給動向を注目する必要がある。

1 はじめに

 中国は、日本の輸入野菜(注1)の55%(2023年、数量ベース)を占める最大の輸入先であり、同国の生産動向は、わが国の野菜需給に大きな影響を及ぼすものとなる。
 本誌では、日本の生産者から流通関係企業、消費者まで幅広く関心が高い品目を対象に、2020年9月号から中国の野菜生産と消費および輸出について最新の動向を報告している。本稿では、21年3月号で取り上げた「キャベツ」について、その後の情勢を報告する。
 22年の日本のキャベツ供給量(国内収穫量+生鮮キャベツの輸入量)は146万8515トンであり、うち輸入量は1万515トンである(供給量に占める輸入の割合は0.7%)。輸入キャベツは、天候不良などにより国内産が品薄になった時や、加工・業務用に仕向けられている。
 
注1:輸入野菜は、生鮮野菜、冷凍野菜、塩蔵等野菜、乾燥野菜、酢調製野菜、トマト加工品、その他調製野菜およびその他の野菜を指す。

 輸入先別に見ると、生鮮キャベツの9割以上が中国産となっている。次は米国産だが、その割合はわずかである(図1)。
 本稿では、代表的な中国のキャベツの生産地である山東(さんとう)省での聞き取りを中心とした調査結果について、統計データと併せて報告する。
 なお、本稿中の為替レートは、1中国元=22.34円(三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月央平均為替相場」の24年6月末日TTS相場)を使用した。

タイトル: p071a

2 日本のキャベツの需給動向

(1)生産状況
 日本のキャベツ生産状況を見ると、2022年産(4月~翌3月)の作付面積は3万3900ヘクタール(前年産比1.2%減)と、生産者の高齢化など労働力事情による作付けの中止や規模縮小があったことからわずかに減少し、収穫量は145万8000トン(同1.8%減)となった(図2)。

タイトル: p071b
 
 国内の主産地は群馬県、愛知県、千葉県、茨城県などであり(図3)、比較的冷涼な生育環境が適していることから、南から北へ、平地から高原へと各産地をつなぐリレー出荷や作型の多様化により、周年供給体制が構築されている(図3、表1)。それぞれの産地で、地域や時期に適した特性を持つ品種が作られており、主に春玉と寒玉に大別される。以前は寒玉が流通の大半を占めていたが、その後、家庭消費用を中心に生のままでも柔らかい春玉が好まれ、需要が拡大した。しかし、最近では、加工・業務用や外食産業向けに巻きが固く歩留まりのよい寒玉の引き合いが増え、生産量も増加傾向にある。

タイトル: p072a
 
タイトル: p072b
 
(2)輸入動向
 生鮮キャベツの輸入量を見ると、2018年に9万2358トンと直近10年間で最も多く、その後は減少傾向で推移している(図4)。18年は前年秋期の台風および天候不順の影響による定植の遅れと生育の停滞で国産価格が高騰したこと、その後は夏期の猛暑と干ばつ、秋期の大雨や台風などの影響により不作傾向になったことが、輸入量の増加につながったとみられる。
 21年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生で中国の生産や港湾作業が停滞したこと、また、COVID-19による国内外食需要の低迷などに加え、国産品は台風などの被害がなかったことで作柄が安定したことから、輸入量は1万4224トン(前年比56.1%減)と前年から大幅に減少した。
 22年は、外食需要が回復してきたものの、日米の金利差による急激な円安や、ロシアによるウクライナ侵攻などに起因するエネルギー価格の高騰など、輸入コストが上昇したことから、輸入量は1万515トン(同26.1%減)と前年に引き続き大幅に減少した。
 このように日本の生鮮キャベツ市場は、海外情勢や国内産の需給状況に応じて輸入量が増減する傾向が顕著となっている。

タイトル: p073
 
(3)平均取引価格
 東京都中央卸売市場におけるキャベツの平均取引価格の推移を見ると、2020年は、国内産が播種(はしゅ)期および定植期の過乾燥、その後の大雨による過湿などの天候不順により作柄不良となったことで、平均価格は1キログラム当たり99円(前年比20.7%高)と前年を大幅に上回った。21年は各産地とも生育が良好で入荷量が増加したことから、同74円(同25.3%安)と大幅に下落し、22年は天候不順による不作傾向で同86円(同16.2%高)と再び大幅に上昇した(図5)。
 中国産に目を向けると、国内産が同74~106円で推移しているのに対し、中国産は同30~53円と国内産の約5割安の水準で推移している。同市場での輸入品の取引数量は年間0~880トン程度であり、中国産は基本的に通年入荷しているが、国産品が不作傾向になった時の代替品としてである。
 加工・業務用キャベツについては、ほとんどが市場を経由しないため、同用途が主体の輸入品についても、同様に市場外流通となっている。

タイトル: p074a

3 中国のキャベツ生産の動向

(1)中国の主産地と生産概況
 中国では、キャベツの産地は全土に広がっているが、主な産地は山東(さんとう)省および()(ほく)省であり、隣接する河北(かほく)省、河南(かなん)省、(こう)()省などを含む地域に集中している(図6)。

タイトル: p074b
 
 山東省の生産状況を見ると、2022年の作付面積は3万8000ヘクタール(前年比8.6%増)と国内作付面積の1割を占めている(表2)。山東省のキャベツ生産の経営形態は家族経営などの小規模経営が多く、企業などによる大規模経営は少ない。播種・定植や収穫作業は機械化が進んでおらず、小規模生産者および大規模経営ともに手作業で行っている状況である。関係機関からの聞き取りによると、小規模生産者の平均的な作付面積は2~5ムー(13~33アール。1ムー=6.67アール)程度とされる。
 山東省の作付面積を見ると、19年には一時的に増加したが、過去5カ年では微増程度であり、価格面では全体的に低迷し、生産者の作付け意欲も高くないとされている。単収(注2)は10アール当たり5トン前後で推移している。
 
注2:日本産の全国平均単収は同4.30トン(農林水産省「令和4年産野菜生産出荷統計」)。

タイトル: p075a
 
(2)主産地の栽培暦および栽培品種
 山東省の作型は、露地栽培と施設栽培に大別され、露地栽培はさらに春キャベツと夏秋キャベツに分けられる(表3、写真1、写真2)。施設栽培は主に農業用ビニールで被覆したハウスでの栽培であり、一般的な面積は1棟当たり1~2ムー(7~13アール)ほどである。2022年の実績では、作型ごとの作付面積比は露地春キャベツが約10%、露地夏秋キャベツが約50%、施設栽培が約40%となっている。生産者の話によると、施設栽培の出荷時期は露地栽培より早く、販売価格も高いことから、近年、同栽培の作付けは増加傾向にあるという。
 山東省で栽培される主な品種は「中甘」「奥奇娜(おきな)」の2種類が挙げられる(表4)。

タイトル: p075b

タイトル: p076a

タイトル: p076b
 
(3)栽培コスト
 キャベツ栽培のコストについて、主産地である山東省臨沂市の事例を基に、経営形態ごとに紹介する。
 山東省の栽培コスト(10アール当たり)を経営形態ごとに見ると、大規模経営では2019年および22年ともに借地料が4割以上を占め、これに種苗費、肥料費、人件費を加えると、これら経費が全体の8割以上を占めている(表5)。また、19年と22年を比較すると、農業機械・器具費、その他(雑費・水道光熱費など)を除くすべての項目で上昇した。さらに、肥料費、農薬費、諸材料費も原料費高騰により大幅に上昇し、総コストの中で大きな割合を占める借地料も19年比で33.3%上昇した。
 山東省農業庁種植業管理処によると、キャベツの栽培コストは年々上昇しており、その主な要因は借地料と人件費の増加とされ、同コストの3分の2を占めている。近年、山東省のキャベツの作付面積に大きな変動はみられないが、借地料の高騰から、一部の生産者は、比較的借地料の安価な隣接する河北省や内モンゴル自治区の農地を借りて作付けを行っている。
 人件費については、主に播種・定植作業と収穫作業にかかっており、1日・1人当たりの単価は、19年の140元(3128円)から、22年には同180元(4021円)と、この3年間で40元(894円、19年比28.6%高)の上昇となった。

タイトル: p077a
 
 また、小規模経営で栽培コストに占める割合が最も大きい項目は、19年および22年ともに肥料費であり、次いでその他(雑費・水道光熱費など)となった(表6)。19年比では肥料費や農薬費、諸材料費が大幅に上昇しており、大規模経営と同様の傾向がみられる(大規模経営で栽培コスト全体に占める割合が上位である借地料や人件費に関し、小規模経営の場合は生産者が保有する土地で家族や親戚の協力を得て栽培するため、それらが費用として計上されていない)。また、農業機械・器具費は、(すき)、シャベル、熊手などの手作業工具を用いて行うことが多いため、大規模経営に比べて少額となっている。
 また、山東省のキャベツ作付けは家族経営などの小規模経営が中心のため、作付け習慣の変化を恐れ、新品種への切り替えに抵抗感を示している。さらに、ここ数年は市場相場が低迷しているため、生産拡大の意欲が減退しているとみられる。

タイトル: p077b
 
(4)調製コスト(人件費、梱包資材費など)
 山東省のキャベツ1トン当たりの調製コストは、2019年および22年ともに人件費が全体の4割以上を占め、次いで梱包資材費が続き、管理費を含めた3項目で全体の8割以上を占めた(表7)。また、19年から22年でコストが上昇した項目は人件費、梱包資材費、輸送費、管理費の4項目である。最も構成比の高い人件費は、19年の737元(1万6465円)から842元(1万8810円)と3年間で105元(2346円、19年比14.2%増)上昇した。これは、19年の賃金が1日・1人当たり平均140元(3128円)程度であったのに対し、22年には同160元(3574円)に上昇したことが要因となっている。通常、100人の労働者が1日作業し、40フィートの低温コンテナ1個分(19トン)のキャベツを調製している。管理費も19年の1日当たり平均4500元(10万530円)程度であったのに対し、22年には同6000元(13万4040円)までに上昇している。また、輸送費は19年の50元(1117円)から60元(1340円)と同期間で10元(223円)上昇した。これは主に輸送用燃料の高騰の影響であり、聞き取りによると、野菜の輸送単価は19年の1トン・1キロメートル当たり0.5元(11円)から0.6元(13円)と、同期間で2割上昇したとのことである。

タイトル: p078a

4 中国国内向け販売の動向

 山東省で収穫されたキャベツの近年の販売先を見ると、国内向けの割合が95%以上で、コロナ禍以前に比べて5ポイント高くなっている(図7)。国内向けは主に山東省内、天津市、南京市、上海市、深圳しんせん市などの地域である。関係機関によると、ここ数年は、COVID-19の世界的感染拡大による輸出先の需要減少や海上輸送の混乱が尾を引いたことなどから、山東省産キャベツの国内販売率が増加し、輸出が減少傾向にあるとされる。

タイトル: p078b
 
 直近5カ年の月別のキャベツ卸売価格の推移を見ると、2021年を除き変動は大きくなく、全体の相場はやや低迷している。山東省では主に施設栽培と露地の夏秋栽培を行っている。このうち、施設栽培は4月に、露地の夏秋栽培は10月に出荷されるため、毎年出荷が集中する4月と10月の価格が下落することが多い(図8)。
 2021年は北京市、りょうねい省、内モンゴル自治区、山東省、河北省などの北部の主要産地が、長雨による極端な降水量の増加により広範囲な水害を受けたことで秋野菜が不作傾向になり、同年9月下旬以降のキャベツを含む各種野菜の卸売価格は高騰した。

タイトル: p079

 キャベツは、中国国内の一般的な大衆野菜として比較的価格は安く、毎年の消費量も安定している。20年以降のCOVID-19の感染拡大期に、人の移動制限による労働力不足がキャベツの栽培、収穫および流通に一定の影響を及ぼした。また、移動規制のあった山東省の一部地域では、運送中のキャベツが目的地にたどり着けずに品質が劣化し、途中で廃棄となった事例もあった。このため、各地では農産物の円滑な流通を保障すべく、「一車一証一路線(適切なルートだけを通行する)」の管理方式を採用するなどの動きが見られた。現在は、COVID-19感染対策の規制が全面的に解除されており、外食産業などの需要回復に従い、キャベツ消費の一層の増加が期待されている。
 一方、借地料、人件費、肥料費などの費用が絶えず上昇しており、栽培コストも上昇していることから、長期的には、キャベツの価格も上昇すると思われる。また、外食産業などで多く使われていることから、今後の引き合い次第では価格はさらに上昇する可能性がある。

5 輸出状況

 中国税関の統計によると、2018~22年の中国産生鮮キャベツの輸出量は42~50万トンで推移し、22年ではベトナムとマレーシア向けが全体の7割を占めている(図9)。その他の地域としては香港やタイなどアジア地域を中心に輸出している(写真3、写真4)。
 山東省の生鮮キャベツの輸出量は、中国国内の価格相場に大きく影響されるため、同国内の価格が低迷すると滞留品が発生することから、キャベツ加工輸出企業はこの時期に仕入れ量を増やし、輸出を積極的に拡大することが多くなる。直近5カ年の輸出量を見ると、20年、21年の輸出量はCOVID-19の影響を受け、物流の混乱や国内工場の操業停止、海外市場の需要減退などにより、やや減少している。
 22年11月の中国国内のCOVID-19感染対策の規制解除により、物流の混乱や国内工場の操業停止が解消されたことで、今後の輸出量は安定すると見られている。

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タイトル: p080b

6 おわりに

 日本の生鮮キャベツ市場は、自給率99%以上(数量ベース)であるものの、主産地の切り替わりによる端境期や天候不順の影響により一部産地が不作傾向となった際に、加工・業務用を中心に輸入量の増加が見込まれる。
 中国産キャベツは、栽培コストの上昇や、中国国内の外食産業などの回復に伴う需要増から、販売価格の上昇が見込まれるものの、日本の輸入量のうち9割以上が中国産であることから、同国の生産状況や価格動向について引き続き把握していく必要があると思われる。