(1)中国の主産地と生産概況
中国では、キャベツの産地は全土に広がっているが、主な産地は
山東省および
湖北省であり、隣接する
河北省、
河南省、
江蘇省などを含む地域に集中している(図6)。
山東省の生産状況を見ると、2022年の作付面積は3万8000ヘクタール(前年比8.6%増)と国内作付面積の1割を占めている(表2)。山東省のキャベツ生産の経営形態は家族経営などの小規模経営が多く、企業などによる大規模経営は少ない。播種・定植や収穫作業は機械化が進んでおらず、小規模生産者および大規模経営ともに手作業で行っている状況である。関係機関からの聞き取りによると、小規模生産者の平均的な作付面積は2~5ムー(13~33アール。1ムー=6.67アール)程度とされる。
山東省の作付面積を見ると、19年には一時的に増加したが、過去5カ年では微増程度であり、価格面では全体的に低迷し、生産者の作付け意欲も高くないとされている。単収
(注2)は10アール当たり5トン前後で推移している。
注2:日本産の全国平均単収は同4.30トン(農林水産省「令和4年産野菜生産出荷統計」)。
(2)主産地の栽培暦および栽培品種
山東省の作型は、露地栽培と施設栽培に大別され、露地栽培はさらに春キャベツと夏秋キャベツに分けられる(表3、写真1、写真2)。施設栽培は主に農業用ビニールで被覆したハウスでの栽培であり、一般的な面積は1棟当たり1~2ムー(7~13アール)ほどである。2022年の実績では、作型ごとの作付面積比は露地春キャベツが約10%、露地夏秋キャベツが約50%、施設栽培が約40%となっている。生産者の話によると、施設栽培の出荷時期は露地栽培より早く、販売価格も高いことから、近年、同栽培の作付けは増加傾向にあるという。
山東省で栽培される主な品種は「中甘」「
奥奇娜」の2種類が挙げられる(表4)。
(3)栽培コスト
キャベツ栽培のコストについて、主産地である山東省臨沂市の事例を基に、経営形態ごとに紹介する。
山東省の栽培コスト(10アール当たり)を経営形態ごとに見ると、大規模経営では2019年および22年ともに借地料が4割以上を占め、これに種苗費、肥料費、人件費を加えると、これら経費が全体の8割以上を占めている(表5)。また、19年と22年を比較すると、農業機械・器具費、その他(雑費・水道光熱費など)を除くすべての項目で上昇した。さらに、肥料費、農薬費、諸材料費も原料費高騰により大幅に上昇し、総コストの中で大きな割合を占める借地料も19年比で33.3%上昇した。
山東省農業庁種植業管理処によると、キャベツの栽培コストは年々上昇しており、その主な要因は借地料と人件費の増加とされ、同コストの3分の2を占めている。近年、山東省のキャベツの作付面積に大きな変動はみられないが、借地料の高騰から、一部の生産者は、比較的借地料の安価な隣接する河北省や内モンゴル自治区の農地を借りて作付けを行っている。
人件費については、主に播種・定植作業と収穫作業にかかっており、1日・1人当たりの単価は、19年の140元(3128円)から、22年には同180元(4021円)と、この3年間で40元(894円、19年比28.6%高)の上昇となった。
また、小規模経営で栽培コストに占める割合が最も大きい項目は、19年および22年ともに肥料費であり、次いでその他(雑費・水道光熱費など)となった(表6)。19年比では肥料費や農薬費、諸材料費が大幅に上昇しており、大規模経営と同様の傾向がみられる(大規模経営で栽培コスト全体に占める割合が上位である借地料や人件費に関し、小規模経営の場合は生産者が保有する土地で家族や親戚の協力を得て栽培するため、それらが費用として計上されていない)。また、農業機械・器具費は、
鋤、シャベル、熊手などの手作業工具を用いて行うことが多いため、大規模経営に比べて少額となっている。
また、山東省のキャベツ作付けは家族経営などの小規模経営が中心のため、作付け習慣の変化を恐れ、新品種への切り替えに抵抗感を示している。さらに、ここ数年は市場相場が低迷しているため、生産拡大の意欲が減退しているとみられる。
(4)調製コスト(人件費、梱包資材費など)
山東省のキャベツ1トン当たりの調製コストは、2019年および22年ともに人件費が全体の4割以上を占め、次いで梱包資材費が続き、管理費を含めた3項目で全体の8割以上を占めた(表7)。また、19年から22年でコストが上昇した項目は人件費、梱包資材費、輸送費、管理費の4項目である。最も構成比の高い人件費は、19年の737元(1万6465円)から842元(1万8810円)と3年間で105元(2346円、19年比14.2%増)上昇した。これは、19年の賃金が1日・1人当たり平均140元(3128円)程度であったのに対し、22年には同160元(3574円)に上昇したことが要因となっている。通常、100人の労働者が1日作業し、40フィートの低温コンテナ1個分(19トン)のキャベツを調製している。管理費も19年の1日当たり平均4500元(10万530円)程度であったのに対し、22年には同6000元(13万4040円)までに上昇している。また、輸送費は19年の50元(1117円)から60元(1340円)と同期間で10元(223円)上昇した。これは主に輸送用燃料の高騰の影響であり、聞き取りによると、野菜の輸送単価は19年の1トン・1キロメートル当たり0.5元(11円)から0.6元(13円)と、同期間で2割上昇したとのことである。