中国では現在、かんしょの飼料向け比率が縮小し、生食向けと加工向けの割合が増加しており、中でも加工向けはでん粉用途が主体となっている。「第十三次五カ年計画」期間中(2016年から20年まで)で見ると、中国のかんしょ消費の割合は、加工向けが40~45%、飼料向けが30~35%、生食食向けが20~30%、輸出が5%、種いも向けが8~10%であった
[1、2]。
(1)かんしょの主な用途
ア 生食用
生食用のかんしょは、生かんしょおよび葉茎部を指し、かんしょの外形や色に対する需要者の要求が比較的強く、価格は比較的高い。生かんしょと葉茎部は独特の風味があり、栄養や健康の機能があることから、現在、多くの消費者に好まれており、将来性は明るい。
イ 加工食品
加工食品は、主に発酵類と非発酵類の2種類に分けられる(表1)。発酵類には醸造酒、調味品、フルーツビール飲料などが含まれ、非発酵類にはかんしょでん粉、かんしょの砂糖漬け、かんしょのフライドポテトなどの軽食品類が含まれる。こうした加工企業からはかんしょの外形に対する要求が高くはなく、価格も比較的低い。このうち、「粉麺」「春雨」「幅広麺」が加工食品の80%以上を占める。
ウ アルコールなど向け
中国のかんしょ加工に関し、より複雑な加工は発展途上段階にあり、主にでん粉発酵、加水分解、変性を行う。主な製品はアルコール、グルタミン酸ナトリウム、クエン酸、乳酸、酪酸、アミノ酸、酵素製剤、グルコース、フルクトース、マルトース、変性でん粉などである。また、天然色素の抽出といった非常に複雑な加工製品の生産もある程度の進展がみられるが、大規模生産が可能なのはアルコールのみである
(注1)。
エ 飼料加工向け
かんしょの茎葉や加工後の副産物のかんしょかすなどは、栄養やカロリーが豊富であり、また、繊維質を豊富に含んでいることから、これを飼料とすることでかんしょの利用率を高めることができる
[4]。
注1:2007年に国家発展改革委員会が公布した「再生可能エネルギー中長期発展計画」では、かんしょは近い将来において重点的に発展させる燃料エタノールの原料作物とされた。
(2)生産から消費までの流れ(商的流通)
ア 生産者/庭先作業場→消費者
生産者が定期市、直売所、ネットショップなどを通じて、生かんしょを直接、消費者に販売する伝統的な商的流通である。庭先作業場で簡単な加工を行った上で、定期市で販売することも可能となる。
イ 生産者→小売業者→消費者
生産者がかんしょを小売業者(量販店、飲食店、食料品市場)に販売し、小売業者がかんしょを選別、包装、加工した上で消費者に販売する。最も典型的なのは「生産者から量販店」「生産者から飲食店」などの商的流通である。
ウ 生産者→加工企業→卸売業者/小売業者→消費者
一部の大規模加工企業(かんしょでん粉や嗜好食品類の加工企業など)は、原料需要量が大きく、自社農場のみで需要を満たすことができないため、これらの企業は生産者から直接かんしょを買い取り、かんしょを加工して製品にした上で小売業者を通じて消費者に販売する。
エ 生産者→仲買人→加工企業→小売業者→消費者
生産者は仲買人を通して加工企業に販売し、加工企業が加工を行う。この商的流通は、主産地の中でも加工企業が多い地域でよく見られる。
(3)かんしょでん粉加工業
かんしょは、でん粉の含有量が豊富であり、乾燥重量の約50~80%をでん粉が占める。生かんしょのでん粉含有量は通常18~25%で、最も高いものは30%に達することもあるため、かんしょはでん粉生産の最適な原料となる。また、かんしょでん粉は穀類(小麦、とうもろこし)のでん粉と比べて独特の特性がある。第一に、アミロペクチンの含有量が多い(80%以上)ことから粘度が高く、「春雨」「幅広麺」に使用すると弾力性が高くなる。第二に、重合度が高く、膜が形成されやすい。第三に、味がまろやかである
[5]。このため、かんしょでん粉やその製品は、中国はもちろん、各国の消費者に人気があり、国内、国際市場で広く需要が高い。
ア かんしょでん粉の生産
「中国軽工業年鑑」の統計によると、この数年、中国のかんしょでん粉生産量は25万トン前後を維持している。一方で、新しい環境保護法の公布および施行に伴い、食品加工企業に対する環境保護の圧力は高まり、でん粉加工企業の汚水処理コストは上昇している。このため、2019年には、でん粉加工工場の稼働率が低下し、かんしょでん粉生産もやや減少したが、20年には再び平均的な水準に回復した。国内で生産されるでん粉のうち、とうもろこし由来のものは直近の6年間が95%前後で推移しているのに対し、かんしょ由来のものは1%以下である(表2)。かんしょ由来のでん粉は17年をピークに低下傾向であったが、20年には、とうもろこし由来、ばれいしょ由来などの価格が上昇したことから、代替品としてかんしょ由来の割合がやや増加した。
かんしょでん粉は、加工企業の規模が小さく、企業間の製造能力の差が大きく、製品構造が単一なことから、でん粉市場での競争力は弱い。
イ かんしょでん粉の消費
かんしょでん粉は、主に「春雨」「幅広麺」といった食品以外に、食品包装紙などの工業製品、錠剤などの医薬品原料に用いられている。20年には、前述の代替品需要から、かんしょでん粉の消費量が増加したことで、同年の中国の精製かんしょでん粉の消費量は約28万トン(前年比7.7%増)となった
(注2)。
ウ かんしょでん粉の輸出入
かんしょでん粉の輸出入の状況を見ると、輸入量は比較的少なく、直近5年間の輸入量は3万トン以下である(図)。輸出量は、中韓自由貿易協定の調印後の韓国向けを始め、タイや日本などのかんしょでん粉需要を背景に、同4万トン以上で推移している。中国税関の統計によると、20年の中国のかんしょでん粉関連製品の主な輸出先は韓国、タイ、日本、インドネシア、マレーシア、米国などであり、輸出量は4万712トンとなった。一方、同年の主な輸入先はインドネシア、フランス、ベトナムであり、輸入量は2万7322トンとなった。
注2:資料:でん粉業界協会
エ かんしょでん粉の価格
ばれいしょでん粉とかんしょでん粉は、とうもろこしでん粉やキャッサバでん粉と比べて価格が高い。ここ数年、かんしょでん粉価格は、1トン当たり7500元(16万4475円)強で推移している。安価なとうもろこしでん粉やキャッサバでん粉などが、価格優位性の高さからかんしょでん粉の市場を侵食している。ただし、かんしょでん粉の消費は鈍化したが、ここ数年、生産量は25万トン前後で安定し、末端需要の変動は少なく、価格は基本的に安定している。19年には生産量がやや減少し、原料コストの上昇や環境保護への対応が求められていることなどから、価格は小幅に上昇している。19年のかんしょでん粉の国内価格は1トン当たり7650元(16万7765円)と、前年比1.6%上昇した。20年の同価格は7600元(16万6668円)とわずかに下落したが、平均輸出単価は同1017米ドル(16万584円)と、前年比で6%上昇し、平均輸入単価は同490米ドル(7万7371円)と、前年比で14%下落した(表3)。
オ 加工企業の分布状況
近年、中国では環境保護関連法が強化されたことで、排水処理設備などを持たない多くの小規模かんしょでん粉加工企業は閉鎖を余儀なくされ、設備投資が可能な主力企業に生産が集約されてきた。かんしょでん粉加工企業は、主に北方および長江中・下流のかんしょ生産地域に分布しており、中でも
山東省および
河南省はかんしょでん粉の生産量が多く、この2省で国内総生産量の8割前後を占めている。19年には、山東省の生産量が14万トン、河南省の生産量が4万トンとなり、山東省が国内総生産量の6割、河南省が同2割を占めた
(注3)。
安徽省の
泗県、
河北省の
盧龍、
福建省の
連城、山東省の
泗水が中国の主なかんしょ加工地域となっている。
注3:資料:でん粉業界協会
カ 今後の予測
今後も、環境保護政策の厳格化が進む中で、環境保護に対して設備基準を満たせない零細企業は次々と市場から姿を消し、業界の集積度はさらに高まると予測される。この結果、主力企業の大規模工場が増えることで、かんしょでん粉生産地域の大規模化は今後もさらに進むとみられる。
ここ数年の原料かんしょやでん粉の価格の傾向を見ると、でん粉価格の利益の上昇率は、加工コストの低下により原料かんしょ価格の上昇率を上回っており、かんしょでん粉加工企業の利益率は高まっている。今後、さらに加工技術が高まれば、より低コスト化が図られ、今以上に利益率が高まる可能性がある。さらに複雑な加工を施せば、商品の価値は2~3倍と、より利益率は高まる。このため、今後は生産地域におけるでん粉加工は大きな投資の対象となると予測される。
国内市場は、依然としてかんしょでん粉の主な供給先である。かんしょでん粉の国内需要は「春雨」などのでん粉製品向けが中心となる。また、これらは輸出もされており、輸出先としては韓国、タイなどのアジア諸国向けが中心となる。かんしょでん粉は汎用性が高く、食品工業では、加工原料はもちろん、増粘剤、安定剤、組織増強剤など、食品の保水性を高め、水分流動の制御、食品の貯蔵の質の保持などを目的とした食品添加物の原料にもなる。今後、中国のかんしょでん粉加工技術はさらに進歩し、品質特性が改善されることで、とうもろこしでん粉やばれいしょでん粉への需要流出が抑えられ、かんしょでん粉の全体的な需要量の増加が見込まれる。