ホーム > 野菜 > 野菜の情報 > 中国産野菜の生産と消費および輸出の動向(たまねぎ)
コラム注:令和5年財務省告示第321号による外国貨幣換算率。
(3)栽培コスト
山東省のたまねぎ生産は、作付面積の4割が企業経営、6割が家族経営とされ、それぞれの経営に特徴がある(表6)。企業経営の作付規模は334ヘクタール(5000ムー。1ムー=0.0667ヘクタール)程度とされ、家族経営の500~1000倍の大規模生産が行われている。
たまねぎの収穫作業は、企業経営で作付面積の5割前後で機械化が進んでいるとされるが、播種作業は専用機械の導入が遅れているため依然として手作業で行われており、播種期は一定の労働力の確保が必要な状況にある。一方で、家族経営では手作業が中心であり、家族内の人手で十分対応できているとみられる。特に甘粛省では企業経営が少なく、ほとんどが家族経営によるものとされている(写真3)。
山東省の栽培コスト(10アール当たり)を経営形態ごとに見ると、企業経営では2019年産および22年産ともに借地料および種苗費がそれぞれ3割以上を占め、肥料費、人件費と続いた(表7)。また、19年産から22年産の3年間では、種苗費と農業機械・器具費を除くすべての項目で増加しており、栽培コストの上位を占める借地料や肥料費が大幅に増加した。借地料の上昇は、野菜が栽培可能な良質な土地が限られる中で、経済成長とともに沿岸部各省の不動産相場が年々上昇しているためとみられている。また、肥料費の上昇は、ロシアによるウクライナ侵攻の影響で肥料原料価格の高騰によるものである。
また、これらの項目のほかに、人件費もかなりの程度増加しているが、前述のとおり播種作業はすべて手作業で行われ、334ヘクタールの作付規模では総勢200人の雇用(作業期間は15日程度)が必要となる。しかし、若年労働力の都市部への流出により農村での労働力不足は依然として課題となっており、機械化が普及するまで、播種作業での人件費の削減は難しい状況にあるとしている。播種作業に対する1日・1人当たりの単価は、19年の140元(2926円)から、22年には同170元(3553円)に上昇するなど、この3年間で30元(627円、19年比21.4%高)増加した。
また、収穫作業は収穫機8台と労働者64人によって20日程度をかけて行われるとされるが、収穫作業に対する同単価は、19年の同170元(3553円)から、22年には同200元(4180円)と、30元(627円、19年比17.6%高)上昇している。このように近年の栽培コストの上昇を受けて、一部の企業ではより安価な地代と人件費を求めて、内モンゴル自治区や河北省、江蘇省などへの農地の拡張が進んでおり、これらの地域ではたまねぎ生産が急拡大している状況にある。
また、同省の家族経営で栽培コストに占める割合が最も大きい費目は、19年産および22年産ともに肥料費であり、次いで種苗費であった(表8)。19年比では肥料費や諸材料費、農薬費が大幅に上昇しており、企業経営と同様の傾向がみられる。ただし、企業経営で栽培コスト全体に占める割合が上位にある借地料や人件費については、家族経営の場合は生産者が保有する土地で家族や親戚の協力を得て栽培するため、それらが費用として計上されていない。
また、家族経営による栽培が主体となる甘粛省では、栽培コストに占める割合が最も大きい項目は、19年産および22年産ともに種苗費であり、次いで肥料費であった(表9)。種苗費が大幅に上昇している点が山東省と異なっているが、これは両省の栽培品種の違いによるものと考えられる。
(4)調製コスト
甘粛省で収穫された輸出向けのたまねぎの大部分は山東省に輸送され、山東省の工場で外皮が取り除かれることから、本項では山東省のこの調製コストについて取り上げる。
同省のたまねぎ1トン当たりの調製コストは、2019年産および22年産ともに人件費が全体の5割以上を占め、次いで梱包資材費が続き、この2つで全体の8割程度を占めた(写真4、表10)。また、19年産から22年産の3年間で、設備の減価償却費および水道光熱費を除くすべての費目が上昇し、最も構成比の高い人件費は、19年の1273元(2万6606円)から1636元(3万4192円)と3年間で363元(7587円、19年比28.5%増)上昇した。これは、19年の賃金が1日・1人当たり平均140元(2926円)程度であったのに対し、22年には同180元(3762円)に上昇したことが要因となっている。通常、200人の労働者が1日作業し、40フィートの冷蔵コンテナ1個分(22トン)のたまねぎを調製している。関係者への聞き取りによると、毎年10%程度の賃上げを実施しているが、特に夏秋の繁忙期には労働者の確保が難しい状況にあり、圃場のみならず、加工場でも労働力不足が深刻化している。