(1)生産概況
韓国の施設園芸農家戸数は、2021年に14万5649戸(前年比15.2%増)と前年からかなり大きく増加したものの、13年以降の推移を見ると、日本と同様に、高齢化や担い手不足から緩やかな減少傾向で推移している(図11)。同国の政府系研究機関である韓国農村経済研究院(以下「KREI」という)によると、21年の増加理由について明確な理由は不明としているものの、COVID-19の拡大を受けて、都会を離れて地方に移住する人が大幅に増加し、就農および帰農する人が増えたことが背景にあるものと推測している。
また、施設園芸による栽培面積は0.3~2.0ヘクタール規模が主流となっており、10ヘクタールを超える大規模経営は全体の2%程度しかいない(図12)。
同国では、全国各地でビニールハウスやガラス温室などの施設園芸によりトマトの栽培が行われている。韓国統計庁によると、同国北部の
江原道など一部地域では露地栽培が行われているものの、生産量はごくわずかであるため、10年以降は露地栽培に関するデータは集計されていない。
同国のトマトの施設栽培面積は10年を底に上昇基調にあり、14年には7070ヘクタール(前年比16.8%増)を記録した。しかし、急激な生産量の増加に伴い卸売価格が下落したことなどから、翌年には6976ヘクタール(同1.3%減)と減少に転じている(図13)。その後も卸売価格の下落から栽培面積の減少が続いたものの、18年にはピ-マンや花卉など他品目からの転換が進んだことで増加した。21年には6010ヘクタール(同8.9%増)となり、過去最長の梅雨と台風に見舞われ価格が高騰した前年の影響を受けて、かなりの程度増加した。また、同年の収穫量も36万9000トン(同7.4%増)とかなりの程度増加し、10アール当たりの単収は6146キログラムとなった。KREIが発表した22年の農業展望によると、トマトの栽培面積は消費需要が堅調に推移しているため、多品目からの転換と規模拡大により、中長期的には年平均0.6%増で緩やかに増加し、26年には6330ヘクタール、31年には6403ヘクタールに達すると予想されている。また、生産量は26年には39万7000トン、31年には40万6000トンに達するとされている。
(2)生産地域と作型
韓国のトマトの生産方法は、土耕栽培(促成、半促成、抑制)と養液栽培があり(写真1)、地域ごとに定植時期と出荷時期をずらすことにより、ほぼ1年を通しての出荷が可能となっている(図14)。また、主産地は
忠清南道、江原道、
全羅北道および
全羅南道であり、この4地域で生産量の5割以上を占めている(図15、表1)。
土耕栽培のうち促成栽培は、秋に定植した後、収穫期間が冬から春になるため、栽培期間の多くで加温を必要とする。このため、促成栽培は比較的温暖な全羅北道以南の南部で多く行われている。半促成栽培は、冬に定植した後、収穫期間が春から初夏になるため温度管理が行いやすいことから、韓国のトマト栽培方法の大部分を占めており、南部と忠清地方で多く行われている。抑制栽培は、初夏に定植した後、収穫開始が盛夏期となり、夏の高温・梅雨や乾燥などを避けるため、冷涼な準高冷地や高冷地(江原道、京畿道の一部など)で行われている。また、ミニトマトでは、土を使わずに肥料成分を水に溶かした養液栽培が主流となっている(写真1)。養液栽培には土の代わりに固形物質を培地として用いる固形培地耕と固形物質を用いずに根に直接養液を接触させる水耕栽培があるが、同国ではパーライト耕
(注3)を培地として使用した養液栽培が最も多い。
(注3)火山岩や珪藻土などを原料として、高温で熱処理してできる発泡体。加熱することで、膨張し、多孔質になることから、通気性や土壌の軽量化に優れており、土壌改良資材として使用される。
(3)栽培コスト
2021年の大玉トマト(促成栽培)およびミニトマトの10アール当たり栽培コストのうち、最も大きな割合を占めるのは施設償却費、資材費、水道光熱費、人件費で、この4項目で栽培コストの7割以上を占めている(表2、表3)。また、種苗費は、収量と耐病性を重視するため、割高な海外品種を使わざるを得ず、圧縮が難しい状況にある。さらに、2018年産から21年産の3年間で、修繕費が大幅に上昇しているが、施設の老朽化に加え、頻発する異常気象による施設の損壊などが背景にあると考えられる。
(4)卸売価格と小売価格の推移
2021年の大玉トマトの卸売価格は、1キログラム当たり平均3573ウォン(393円)となった。年間の卸売価格の推移を見ると、忠清地域の収穫が終了する9月や年末年始の需要期は価格が高い時期となり、出荷量が多くなる5~7月ごろに価格が低落している(図16)。20年および22年は夏季の梅雨の影響で作柄不良となったことから8~9月の価格が高騰した。同年の小売価格は、同5822ウォン(640円)とおおむね卸売価格に連動する形で推移している(図17)。
(5)輸出動向
トマトの輸出量は、国内生産量の1%程度と少ないものの、輸出されている生鮮トマトのうち96%以上が日本向けとなっている(図18)。日本への輸出は、物流コストが安価な船舶により輸送されるが、地理的にも近いため輸送時間は1日程度と短い。韓国では輸出先の多角化を目指して台湾、香港、シンガポールなどの新たな市場開拓を行っているが、対日輸出依存度は依然として高い。