(1)中国の主産地と生産概況
中国農業農村部によると、2020年のいんげん豆の作付面積は862ヘクタール(前年比0.8%増)、収穫量は1万10トン(同0.2%増)と前年並みとなった。
いんげん豆は同国内全体で広く生産されているが、主産地としては、
山東省、
河北省、
四川省、
雲南省、
湖北省、
江蘇省、
浙江省などが知られている(図7)。生産される品種、播種や収穫時期は各地で異なるが、作型で見ると春播きと秋播きの2種に大別できる(表1)。
特に生産が盛んな山東省と河北省の作付面積などを見ると、19年を除き増加傾向にある。19年の作付面積は減少したが、20年はCOVID-19の影響下でも作付面積が回復し、生産量も増加している。単収は1ヘクタール当たり10~11トン台で推移し、日本産の単収(7.6トン:21年産)を上回っている(表2、3)。
(2)主産地の栽培暦および栽培品種
いんげん豆の作型を見ると、春播きは5~7月頃に収穫され、秋播きは11月頃に収穫されるのが一般的となっている(表4、写真1)。
山東省や河北省では、春播き秋播きともに生産されており、それぞれの品種の特徴は表5の通りである。
(3)栽培コスト
山東省で生産されるいんげん豆の栽培コスト(10アール当たり)を見ると、2018年産および21年産ともに人件費が4割以上を占めており、次いで借地料、種苗費が続いている(表6)。18年産から21年産の3年間を見ると、その他を除く全ての項目でコストが増加しており、全体では2割程度の大幅な上昇と、河北省の約2倍の上昇率となっている。費目別に見ると、3割以上上昇したのは肥料費、農薬費および諸材料費であり、コスト全体に占める割合が最も高い人件費も3年間で16.7%上昇している。これは、中国経済の全般的傾向といえる人件費の上昇が大きく反映されていると考えられる。
河北省の栽培コストもおおむね同様の傾向にあり、人件費が4割以上を占め、次いで借地料、種苗費と続き、18年産から21年産の3年間で全ての項目でコストが上昇している(表7)。しかし、上昇幅は全体で1割程度にとどまり、山東省と比べるとその幅は小さい状況にある。費目別に見ると、借地料は山東省と比べて高いものの、種苗費や肥料費、農薬費の他、諸材料費など比較的地域差が少ないと考えられる費目については、山東省より安価である。このため、今後、資材費の動向次第ではさらなる価格上昇も想定され、山東省を上回る可能性もある。
また上記の通り、栽培コストのうち人件費の占める割合が最も多い状況にあるが、これは収穫時期を見定める必要があるため機械化が難しい状況にあることが一因とされる。1ムー(0.0667ヘクタール)の収穫には、1日当たり約10人を要するといわれている。このような中で河北省では、農薬散布用にドローンを導入し、少しでも人件費の削減を図るべく新技術の導入に向けた取り組みを行っている。
(4)調製コスト
山東省のいんげん豆の1トン当たりの調製コストを見ると、2021年は約5割を人件費が占め、続く梱包資材費と輸送費の計3費目で9割近くを占めている(表8)。18年産から21年産の3年間で見ると、輸送費と減価償却費(設備)が3割近く上昇している。このほか、人件費は306元(6083円、18年産比27.2%高)と大幅に上昇しているが、これは18年の賃金が1日当たり平均132元(2624円)程度だったのに対し、20年には同177元(3519円)と3割程度上昇したことが要因となっている。また、輸送費も人件費や燃油費などの上昇を反映したものと考えられる。さらに、減価償却費も施設の更新などを受け増加基調にある。
河北省の調製コストを見ると、山東省と同様に人件費、梱包資材費、輸送費で全体の8割以上を占めている(表9)。このうち、18年産から21年産の3年間の増加率が最も大きかったのは人件費であり、1割強の上昇となった。しかし、山東省の同27%強と比べるとその幅は緩やかなものとなっている。また、両省とも水道光熱費を除き全ての項目で上昇したが、その上昇幅は山東省が同22.5%高であったのに対し河北省は同9.7%高と小さく、栽培コストと併せ、山東省でのコスト高の傾向が際立つ状況となっている(年平均増加率:同7.5%)。
※参考:中国の21年の国内総生産(GDP)伸び率:前年比8.4%)