(1)収穫後の流れ
米国内での流通は、冷蔵トラック(リーファートラック)による輸送がほとんどである。生産地から全国の流通センターに届けられ、その後、各小売店へ出荷される。生産者から小売店までの流通に要する時間は各地域や交通アクセスによって異なるが、通常1週間以内に納入される。日本に輸入されるまでに要する日数は収穫~海上輸送~通関までが13日間、その翌日か翌々日には日本の加工業者に届けられるため、計13~15日間程度を要する。しかしながら、これはコロナ禍以前の日数であり、関係者によると2020年春以降は港湾の混雑などからそれ以上かかるようになった時期もあったとのことである。
トラックは、48~53フィート(約15~16メートル)冷蔵トレーラーが一般的である。米国内輸送では移動距離は極めて長い。地図上で見ると、サリナスからニューヨークあるいはマイアミまでは、ノンストップの場合では約3000マイル(4828キロメートル)で45時間、ボストンまでは約3200マイル(5150キロメートル)で50時間要する。輸出に向けたロサンゼルス港までの輸送の場合、最速ルートでサリナスから約330マイル(531キロメートル)で5時間、ユマからは約280マイル(451キロメートル)で4時間の移動となる。しかしながら、通常の交通状態やドライバーの休息などを含めると輸送時間はそれよりも長いと考えられる。
(2)販売形態
小売店で販売されているレタスは、包装されず個別で販売されているもの、プラスチック袋に入れて個別またはパック販売になっているもの、パックサラダとして販売されているものがある。写真2、3は自然食品などを扱うナチュラル系食品スーパーマーケットで販売されているレタスであり、有機でも無包装で販売されている。有機野菜セクションと非有機野菜セクションが分けられており、「オーガニック」と書かれた大きな表示が天井から吊るされ、消費者が一目で有機野菜セクションと分かるようになっている。有機野菜をまとめた専用セクションで販売することで、無包装でも交差汚染が起こらないよう配慮されている。
(3)消費者の購入
米国業界紙The Packerによる2019年の購入習慣調査では、回答者の73%が従来型のスーパーマーケットで青果物を購入し、27%は‘Trader Joe’sや‘Whole Foods Market’などの自然食品を扱うスーパーマーケットで青果物を購入すると答えている。また、29%の消費者は日常的に有機農産物を購入すると答えている。米国では高齢者や富裕層の青果物および有機農産物の購入が多く、また、人種や民族別に見るとアジア系の生鮮食品購入が特に多く、最も少ないのはアフリカ系とされる。同調査は、20年にも同じ回答者に追跡調査を行っており、19年に回答した消費者の54%が20年のパンデミックの際は「パッケージされた青果物を買った」と答えており、前年の50%をやや上回った。これは、小売店で直接多くの人の手に触れる状態にある青果物に抵抗を感じたものと推察される。実際、レタスにおいてもカット加工されたパックサラダや小分け野菜パックのみならず、レタス1玉がビニールのパッケージに包装され、販売されているものなどもある。
また、コロナ禍ではインターネットでの青果物購入増加を後押しする傾向もある。同調査では20年には回答者の36%がインターネットで食料品や青果物を購入し、そのうち42%が今後もインターネット購入を続けるとしている。一方で、69%は直接食品を見て判断してから購入したいと考えるため、青果物のインターネット購入をためらうと回答しているが、最終的に全回答者の55%が青果物のインターネット購入を検討していると答えている。
米国では、農家から直接農産物を購入できる機会も多くある。USDAによれば、特定地域の生産者が集まり、生鮮野菜などの農産物を直接消費者に販売するファーマーズマーケットの数は15年時点で8476に上る。カリフォルニア州には20年時点で700ほどのファーマーズマーケットが存在する。都市近郊の小規模生産者が都市部で開催されるファーマーズマーケットで販売する傾向が多いが、販売価格はスーパーマーケットや小売店よりも高いものとなっていることが多い。ファーマーズマーケットの増加は地元や地域の食品に対する需要の増加を反映していると考えられ、消費者が食品の鮮度や品質、地域経済への支援、環境に良い(輸送距離短縮によるCO2排出量の削減など)、生産者の顔が見えることで安心を買えるという点から利用している。また、有機野菜の取り扱いもファーマーズマーケットでは多い。
(4)有機栽培と通常栽培の仕分け
米国では、有機農産物の販売に至るまでに、生産者が認証を得て栽培する他にも、バリューチェーンに携わる関係業者が、輸送と保管に関するFDAの規制を遵守する必要がある。冷蔵設備およびモニターが搭載されたトラックで、有機と非有機野菜は分けられて倉庫に運ばれる。有機野菜の多くは汚染リスクを回避するために他の商品と一緒に保管することができないため、企業はFDA規則に基づいた取扱ガイドラインを設けている。
カリフォルニアの物流会社であるWeber Logistics社は、有機野菜の倉庫に関するガイドラインを下記のように設けている。
・有機野菜の保管に適した資材を使用し、箱には内容物と原産地のトレーサビリティを明記したラベルを貼付。
・有機野菜の在庫は倉庫内の他の商品とは別に保管。
・有機野菜・食品以外の製品に使用された設備は交差汚染の可能性があるため、有機の取り扱いの際に使用しない。
・保管温度のモニターを含む効率的な倉庫管理システム(WMS)はデータ記録を保管する。
また、加工場向け情報提供サイトでは、コンテナを積み重ねるときは、有機野菜を一番上に積み重ねるようにし、非有機野菜の汁や水滴などが有機野菜に滴り落ちないようにするなどの注意を行うよう促している。
(5)流通段階の課題
米国トラック協会(ATA)によれば、トラック業界の運転手不足は2003年頃から懸念されてきた問題である。08年のリーマンショックなどの景気後退で貨物量が減少していたが、11年以降に輸送量が回復して以降、運転手不足が再び問題となっている。高齢化や新規就業者の減少が要因とされるが、低賃金や厳しい労働条件、乏しい福利厚生なども新規就業者の減少を招いていると指摘されている。
また、コロナ禍によって引退を決めた運転手や仕事に復帰せずに失業手当を受け取る運転手が増えたこと、さらに巣ごもり需要による宅配便が増加したことも、運転手不足を加速させている。また、米国では、21年に営業用運転免許保持者にはCOVIDワクチン接種(もしくは検査)が義務付けられており、これもワクチン接種を望まないドライバーの離職を招いていた。業界からの要請により、22年1月に従業員100名以上の企業に対する従業員のワクチン接種義務化については撤廃されたが、現在はカナダやメキシコなど国外からの輸送トラック運転手にワクチン接種が義務付けられており、国境を越えた輸送を行う運転手に対する規制緩和を求める声が業界から上がっている。
運転手不足による賃金の上昇は、トラックの運賃に転嫁され、物流コストを押し上げている。コストの増加で利潤を圧迫される企業は商品価格の上昇に踏み切るが、大手小売業などは生産者価格を抑えたり、自社輸送機能によって大幅な小売価格の上昇を抑えたりしていると考えられる。表5はカリフォルニア州サリナス発のコロナ発生前後での積荷当たりの輸送費を比較したものであり、レタスの輸送費もこれに含まれており、コロナ発生後では輸送費の大幅な上昇がみられることが分かる。
また、21年はコロナ禍の影響で港湾の大混雑が発生し、コンテナ輸送の遅れなどによる米国西海岸の港湾での大量のコンテナ滞留など、物流の混乱が深刻化した。バイデン政権は21年夏、短期的なサプライチェーンの混乱に対処するため、「サプライチェーンの混乱に対するタスクフォース(Supply Chain Disruptions Task Force)を立ち上げ、同年10月、ロサンゼルス港およびロングビーチ港が週7日24時間体制に業務を拡大することを発表した。夜間と週末の業務が新たに加わることで貨物の移動に利用できる時間を倍増させる狙いである。そのほか、バイデン政権は1兆米ドル(149兆2600億円)をかけたインフラ投資法($1 Trillion Infrastructure Bill)を成立させ、州をまたいだ運転が可能なトラック運転手の年齢を、これまでの21歳から18歳にまで引き下げ、より若い労働力が人手不足を補うなどの対策を講じた。
現在のところ、サプライチェーンの混乱については、緩和されつつある状況となってきている。しかし、これまでに講じられた対策も根本的・長期的な流通の問題解決にはなっていないという指摘も多くある。現地では、トラック運転手の雇用が安定的に継続されるよう、運転訓練および実習プログラムを経て、公的な技能職業として政府から認証を受けるべきであるという意見も聞かれる。