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海外情報 野菜情報 2022年11月号

中国産野菜の生産と消費および輸出の動向 (第9回:ごぼう)

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調査情報部

【要約】

 近年、中国産ごぼうは国内での認知度の向上を背景に増産傾向にあるものの、栽培および調製コストはともに上昇傾向にある。中国産ごぼうは、日本の総輸入量の9割以上を占めるが、2021年の同国産ごぼうの輸出量は、日本や韓国など従来の主要輸出先への安定的な輸出実績に加え、台湾やベトナムといった新興輸出先での需要拡大を背景に全体的に増加しており、22年上期においても、日本向けが前年同期比で減少する中、同様の傾向が続いている。今後、同国内での需要の高まりと併せ、輸出先の多様化が進む中国産ごぼうは、増産傾向の持続が、輸出量の安定のカギを握るものと考えられる。

1 はじめに

 中国は、日本の生鮮野菜輸入量の64%(2021年、数量ベース)を占める最大の輸入先であり、同国の生産動向は、わが国の野菜需給に大きな影響を及ぼしている。
本誌では2020年9月号から21年9月号までの間、日本の生産者から流通関係企業、消費者まで広く関心が高い品目を対象に、6回にわたり中国の野菜生産と消費および輸出について最新の動向を報告した。22年度は新たに6品目を追加し報告する。
 前回報告に続く第9回目となる本稿では、「たたきごぼう」としておせち料理にも供され日本の食文化に関わりが深いほか、弁当の総菜などの加工・業務用食材としても多く利用され、食物繊維やポリフェノールが豊富な「ごぼう」を取り上げる。
 ごぼうは、生鮮および塩蔵品輸入量のほぼ全量を中国産が占めており、冷凍品に関しては全量中国産である(図1)。

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 本稿では、ごぼうの主産地である中国・山東省および江蘇省での聞き取りを中心とした調査結果について、統計データと併せて報告する。
 なお、本稿中の為替レートは、1中国元=20.67円(三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月央平均為替相場」の22年9月末日TTS相場)を使用した。

2 日本における中国産ごぼうの位置付け

 日本におけるごぼう生産は、作付面積および収穫量ともに減少傾向にあり、作付面積は8000ヘクタールを、収穫量では15万トンを割る状態が続いている。なお、2021年産(4月~翌3月)は、作付面積が7410ヘクタール(前年比1.2%増)、収穫量は13万2800トン(同4.6%増)と、20年産が春先の低温や夏季の長雨・日照不足などの影響を受けて例年以上に減少した反動から増加した(図2)。

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 一方で、生鮮ごぼうの輸入量は、20年を除きおおむね5万トン弱の状態が続いている。19年は、日本国内のごぼうが安値で推移したことなどを背景に、4万4575トン(同9.2%減)と前年をかなりの程度下回った。また20年も、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による外食産業などの需要減を受けて加工・業務用需要が大きく減少したことから、4万504トン(同9.1%減)とさらに減少した(図3)。なお21年は、加工・業務用需要が回復に向かう中で、中国での20年産秋作の作柄が良好だったことなどを受け4万7019トン(同16.1%増)と大幅に増加した。輸入先別に見ると、台湾産およびベトナム産がごくわずかにあるものの、ほとんどが中国産となっている。

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 過去5カ年の生鮮ごぼうの月別輸入量を見ると、年によって異なるものの、年間を通じて一定量が輸入されており、特におせち料理をはじめとした年末年始の需要期前の10~12月に増加する傾向がみられる(図4)。

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 東京都中央卸売市場の中国産ごぼう平均取引単価は、国内産が安値で推移した19年などを除き、国内産平均取引単価の5~6割の水準である。15年以降は、おおむね1キログラム当たり200円前後と国内産と比較して安定して推移しているが、この10年間で見ると3割強の上昇となっている(図5)。

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3 生産動向

(1)中国の主産地と生産概況
 中国のごぼう主産地として、山東省、江蘇(こうそ)省、(せん)西(せい)省、河南(かなん)省、湖北(こほく)省、安徽(あんき)省、(せっ)(こう)省などが知られている(図6)。各地域の収穫最盛期は、春()きで同年の年末前、秋播きで翌年の初夏が大体の目安となる(表1)。

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 このうち、山東省と江蘇省は作付面積上位1、2位を占め、特に山東省の(らん)(りょう)県や江蘇省の徐州(じょしゅう)市((ほう)県、(はい)県)は、ごぼう生産の歴史が長いといわれている。近年の両省の作付面積などを見ると、ごぼうの栄養価が中国国内の消費者に浸透したことで、国内の需要が増加傾向にあり、両省のごぼうの作付面積と収穫量は年々増加し、単収もおおむね1ヘクタール当たり41トン強で推移し、日本産の単収(17.9トン:21年産)を大きく上回る状況にある(表2、3)。

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(2)主産地の栽培暦および栽培品種
 ごぼうの作型は春播きと秋播きの2種類があり、春播きは11月頃に収穫され、秋播きは6月頃に収穫される(表4、写真1)。なお、秋播きはコガネムシの幼虫からの被害を避けるために、圃場(ほじょう)におけるコガネムシの発生状況を注視するとともに、速やかな収穫(遅くとも6月末に収穫を終えること)が推奨されている。
 また、江蘇省農業農村局のホームページでは、2019年の生産者への聞き取り情報として、連作障害を防ぐために、ごぼう収穫後にほうれんそうを作付けし、ほうれんそうを収穫して数カ月後に再びごぼうを作付けし、その収穫後にトウモロコシを作付けるといった輪作を行っていることが紹介されている。
 山東省や江蘇省で栽培される品種は、日本の種苗メーカーによるものが多く普及している(表5、写真2)。

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 山東省や江蘇省で栽培される品種は日本の種苗メーカーによるものが多く普及している(表5、写真2)。
 また、中国では知的財産権の保護や、特色ある農産物の地域ブランドを形成し、有力な地域産業の育成に寄与するための地理的表示登録制度が運用されている。
山東省、江蘇省のごぼうは、それぞれ地理的表示の登録が認められているものがある。参考に示す特徴のほか、生産、貯蔵方法などについても各種規格に準じた上で、生産記録などを保存する必要がある。

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(3)栽培コスト
 山東省で生産されるごぼうの栽培コスト(10アール当たり)を見ると、2017年産および20年産ともに人件費が3割を占めており、次いで農業機械・器具類、借地料が続く(表6)。17年産から20年産の3年間では、全ての項目でコストが増加している。コスト全体に占める割合が高い人件費では150元(3101円、17年比10.0%高)、農業機械・器具類では75元(1550円、同8.3%高)とそれぞれ上昇している。
 江蘇省の栽培コストも人件費が3割を占め、次いで農業機械・器具類、借地料と続き、17年産から20年産の3年間で全ての項目でコストが上昇するなど、山東省と同様の傾向がみられる(表7)。
 また、両省では農業機械・器具類にかかる費用がごぼうの栽培コストの約2割を占めている。途中で分岐などせず真っすぐなごぼうを生産するには1メートルほどの深耕作業が必要であり、従来、播種や収穫と併せ、多大な作業時間と労力がかかっていたが、機械化が進んだことで作業効率が向上し、さらに収量も増加したといわれている(写真3)。
 近年のごぼう生産を取り巻く状況として、他の品目と同様に人件費および借地料の上昇による栽培コストの上昇が課題となっている。特に、地中深く伸びるごぼうは石や粘土の少ない深い作土を必要とし、栽培できる圃場が限られるため、借地料上昇の影響が大きい。また、上述のように、ごぼう栽培は作業時間が比較的多くかかるが、若手を中心とした都市部への出稼ぎ労働者(農民工)の増加傾向は依然として継続しており、労働力の確保も課題とされている。

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(4)調製コスト
 山東省のごぼう加工業者は、「蒼山ごぼう」ブランドを有する蘭陵県に集中している。ごぼうの1トン当たり調製コストを見ると、その大部分を占めるのは人件費、梱包資材費、輸送費であり、この3つで8割以上を占めている(表8)。また、2017年産から20年産の3年間で、人件費が405元(8372円、17年産比32.5%高)と大幅に上昇しているが、これは、17年の賃金が1日当たり平均130元(2687円)程度だったのに対し、20年には同180元(3721円)に上昇したことが要因となっている。ごぼうは冷蔵コンテナで温度管理して輸送することで欠損率を3%程度に抑えているが、輸送費も3年間で50元(1034円、同16.7%高)と大幅に上昇し、調製コスト全体で520元(1万748円、同19.5%高)上昇した。
 また、江蘇省のごぼう加工業者は、「豊県ごぼう」ブランドを形成している徐州市の豊県や、隣接する沛県に集中している。ごぼうの1トン当たり調製コストを見ると、同じく人件費、梱包資材費、輸送費であり、同様に8割以上を占めている(表9)。特に人件費の変動による調製コスト全体への影響は大きく、17年産から20年産の3年間で43.8%上昇し、対17年産比で見ても人件費が調製コストの上昇に大きな影響を及ぼしていることが分かる。
 栽培コスト同様、山東省および江蘇省のどちらも人件費の上昇が調製コストに大きな影響を及ぼしており、今後の課題の一つであるといえる(写真4、5)。

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【コラム】中国のごぼう加工製品について

 中国では、近年の消費者の健康志向の高まりを受け、ごぼうの栄養価に対する理解や認知が深まり、食物繊維が豊富な生鮮野菜としての評価から消費が伸びている。しかし、日本のように野菜として消費する習慣がなかったことから、以前は生鮮食品としての需要よりも、薬用としての消費が主流であった。現在でも同国では、ごぼう茶やごぼう酒などの加工製品が多く流通している(コラムー写真1)。

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 中国農業農村部のホームページによると、江蘇省豊県では、ごぼう茶やごぼう酒のほか、ごぼうソースといった食料品にとどまらず、ごぼうを原料としたせっけんなど、多岐にわたる製品が加工・生産されている。これは、同地にごぼうの加工・販売企業が集中しており、それぞれの企業が高品質で市場のニーズに応える製品の生産に向け、研究開発に勤しむ土壌があることが背景にある。例えば、ごぼう茶(コラム-写真2)の生産では、1メートルほどあるごぼうの上部と下部を除去した中間部50センチメートルのみを利用することで高い品質を謳うたうなど、日本酒の精米歩合のように製品の差別化を図る企業も多く存在する。さらに、ごぼうを均等にスライスする作業も技術が必要で、作業を全自動化することで品質の安定化を図っている。なお、豊県では、ごぼうの栽培実証区、研究センター、加工施設および物流拠点を集約した産業団地を計画・建設中であり、今後、同県産ごぼう加工品のさらなる進展が期待されている。

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4 国内販売の動向

 山東省農業農村庁の統計によると、中国で出荷量の最も多い山東省で収穫されたごぼうは、その59%が中国国内の市場に仕向けられ、残りが輸出用として出荷されている(図7)。一方、出荷量第2位の江蘇省を見ると、江蘇省農業農村庁の統計から収穫量の45%が国内向けであることが分かった(図8)。国内向けと輸出向けの割合は山東省と逆転しているが、どちらも国内仕向割合が近年上昇している。この動きは、現地関係者によると、近年は中国国内でも加工製品の消費が増える状況にある中、日本において中国産ごぼうの農薬に関する監視強化が一定期間実施された(注)ことも影響したものと考えられるということであった。

(注) 「平成31年度輸入食品等モニタリング計画」の実施について(中国産赤とうがらしのトリアゾホス及びクロルプロファム並びにごぼうのクロルピリホス並びにマレーシア産その他のゆり科野菜のクロルピリホス)https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/000580507.pdf

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 なお、近年の中国国内のごぼう卸売価格を見ると、山東省産も江蘇省産も緩やかに下落傾向で推移している(図9、10)。これは、ごぼうの栄養価を評価する消費者の増加に伴う需要の高まりを受け、生産量および出荷量が増加基調となり供給が潤沢となったことで、価格が下がったものと考えられる。
 また年間の価格動向を見ると、例年、両省産ともに2月の春節(旧正月)に向けた需要の高まりを受けて年初に最も高くなり、その後、収穫時期に合わせて出荷量が増加するのに伴い価格が低下し、年末に最も低くなる。なお、特徴的な動きとして、COVID-19の影響を受けて価格が上昇した品目が数多くある一方で、ごぼうは感染が拡大した2020年以降も例年と同様の傾向で推移する中、近年、価格差がなかった山東省産と江蘇省産については、21年の8月から年末にかけて、山東省産のみ1キログラム当たり3元(62円)台まで下落した一方で、江蘇省産は比較的安定して4元(83円)台を推移した点が挙げられる。

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5 輸出状況

 従来、日本および韓国向けが中国産生鮮ごぼう総輸出量の9割以上を占めていたが、2021年は日本および韓国向け以外への輸出量が増加している。特に、台湾とベトナム向けは2万6060トン(前年比9倍)、2万4883トン(同186倍)とそれぞれ急増したことで輸出総量も16万トン(同94.4%増)と大幅に増加した(図11)。この背景について、直接的な理由は判明しないものの、上述の日本における中国産ごぼうの農薬に関する監視が一定期間強化されたことが、同国の輸出企業における輸出先の多様化を助長したことも想定される。
 その他(2万8503トン、同5.0倍)として、タイ(7495トン、同3.2倍)、マレーシア(6786トン、同43.8倍)、ロシア(4738トン、63.2%増)向けなどとなっている。 22年についても、1~7月までの輸出量が8万8152トンと20年の輸出量を突破するなど21年と同様の傾向で推移している。一方で、日本向け輸出量は2万3957トン(前年同期比12.8%減)と減少している。
 また、平均単価については、図11のとおり19年以降下落傾向にあったが、22年に入り上昇傾向で推移している。
中国税関総署によると、蘭陵県を管轄する臨沂税関では、同県内のごぼう輸出企業23者が登録されており、21年は3万トン以上の生鮮ごぼうが輸出され、前年から49.3%増加したとのことである。また、蘭陵県の輸出業者によると、22年のごぼう輸出契約は前年から約20%増加し、注文数に応じた播種が完了しているという。

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6 おわりに

 中国産ごぼうは、国内需要の増加に応える形で近年増産傾向にあり、かつては同国内では比較的珍しい野菜であったが、国内流通量の増加に伴い、平均卸売価格は下落基調にある。このような中、生産および調製コストは人件費を中心に上昇基調にあり、労働力や圃場の確保といった課題も存在する。
 また、21年には輸出量が急増し、22年もその傾向が続いているとみられるが、22年上半期の日本への輸出量は減少傾向を示している。中国産は日本の輸入総量の9割以上を占めるとともに、日本における生鮮ごぼう供給量の約2割を占めているが、近年では台湾やベトナムといった新興輸出先への輸出量の増加が顕著であり、日本向けと同程度の規模まで成長している。
 日本におけるごぼう生産量が減少傾向で推移する中、国内での安定供給の確保に向けて、引き続き、日本の需要動向およびそれに伴う輸入量、そして他国の輸入や消費動向について幅広く注視していくことが必要であると考える。