(1)中国の主産地と生産概況
中国のごぼう主産地として、山東省、
江蘇省、
陝西省、
河南省、
湖北省、
安徽省、
浙江省などが知られている(図6)。各地域の収穫最盛期は、春
播きで同年の年末前、秋播きで翌年の初夏が大体の目安となる(表1)。
このうち、山東省と江蘇省は作付面積上位1、2位を占め、特に山東省の
蘭陵県や江蘇省の
徐州市(
豊県、
沛県)は、ごぼう生産の歴史が長いといわれている。近年の両省の作付面積などを見ると、ごぼうの栄養価が中国国内の消費者に浸透したことで、国内の需要が増加傾向にあり、両省のごぼうの作付面積と収穫量は年々増加し、単収もおおむね1ヘクタール当たり41トン強で推移し、日本産の単収(17.9トン:21年産)を大きく上回る状況にある(表2、3)。
(2)主産地の栽培暦および栽培品種
ごぼうの作型は春播きと秋播きの2種類があり、春播きは11月頃に収穫され、秋播きは6月頃に収穫される(表4、写真1)。なお、秋播きはコガネムシの幼虫からの被害を避けるために、
圃場におけるコガネムシの発生状況を注視するとともに、速やかな収穫(遅くとも6月末に収穫を終えること)が推奨されている。
また、江蘇省農業農村局のホームページでは、2019年の生産者への聞き取り情報として、連作障害を防ぐために、ごぼう収穫後にほうれんそうを作付けし、ほうれんそうを収穫して数カ月後に再びごぼうを作付けし、その収穫後にトウモロコシを作付けるといった輪作を行っていることが紹介されている。
山東省や江蘇省で栽培される品種は、日本の種苗メーカーによるものが多く普及している(表5、写真2)。
山東省や江蘇省で栽培される品種は日本の種苗メーカーによるものが多く普及している(表5、写真2)。
また、中国では知的財産権の保護や、特色ある農産物の地域ブランドを形成し、有力な地域産業の育成に寄与するための地理的表示登録制度が運用されている。
山東省、江蘇省のごぼうは、それぞれ地理的表示の登録が認められているものがある。参考に示す特徴のほか、生産、貯蔵方法などについても各種規格に準じた上で、生産記録などを保存する必要がある。
(3)栽培コスト
山東省で生産されるごぼうの栽培コスト(10アール当たり)を見ると、2017年産および20年産ともに人件費が3割を占めており、次いで農業機械・器具類、借地料が続く(表6)。17年産から20年産の3年間では、全ての項目でコストが増加している。コスト全体に占める割合が高い人件費では150元(3101円、17年比10.0%高)、農業機械・器具類では75元(1550円、同8.3%高)とそれぞれ上昇している。
江蘇省の栽培コストも人件費が3割を占め、次いで農業機械・器具類、借地料と続き、17年産から20年産の3年間で全ての項目でコストが上昇するなど、山東省と同様の傾向がみられる(表7)。
また、両省では農業機械・器具類にかかる費用がごぼうの栽培コストの約2割を占めている。途中で分岐などせず真っすぐなごぼうを生産するには1メートルほどの深耕作業が必要であり、従来、播種や収穫と併せ、多大な作業時間と労力がかかっていたが、機械化が進んだことで作業効率が向上し、さらに収量も増加したといわれている(写真3)。
近年のごぼう生産を取り巻く状況として、他の品目と同様に人件費および借地料の上昇による栽培コストの上昇が課題となっている。特に、地中深く伸びるごぼうは石や粘土の少ない深い作土を必要とし、栽培できる圃場が限られるため、借地料上昇の影響が大きい。また、上述のように、ごぼう栽培は作業時間が比較的多くかかるが、若手を中心とした都市部への出稼ぎ労働者(農民工)の増加傾向は依然として継続しており、労働力の確保も課題とされている。
(4)調製コスト
山東省のごぼう加工業者は、「蒼山ごぼう」ブランドを有する蘭陵県に集中している。ごぼうの1トン当たり調製コストを見ると、その大部分を占めるのは人件費、梱包資材費、輸送費であり、この3つで8割以上を占めている(表8)。また、2017年産から20年産の3年間で、人件費が405元(8372円、17年産比32.5%高)と大幅に上昇しているが、これは、17年の賃金が1日当たり平均130元(2687円)程度だったのに対し、20年には同180元(3721円)に上昇したことが要因となっている。ごぼうは冷蔵コンテナで温度管理して輸送することで欠損率を3%程度に抑えているが、輸送費も3年間で50元(1034円、同16.7%高)と大幅に上昇し、調製コスト全体で520元(1万748円、同19.5%高)上昇した。
また、江蘇省のごぼう加工業者は、「豊県ごぼう」ブランドを形成している徐州市の豊県や、隣接する沛県に集中している。ごぼうの1トン当たり調製コストを見ると、同じく人件費、梱包資材費、輸送費であり、同様に8割以上を占めている(表9)。特に人件費の変動による調製コスト全体への影響は大きく、17年産から20年産の3年間で43.8%上昇し、対17年産比で見ても人件費が調製コストの上昇に大きな影響を及ぼしていることが分かる。
栽培コスト同様、山東省および江蘇省のどちらも人件費の上昇が調製コストに大きな影響を及ぼしており、今後の課題の一つであるといえる(写真4、5)。